属人化の予防・解消に役立つマニュアル作成ガイド|作成手順や運用のコツ、業種別の記載例も紹介
目次
業務の「属人化」に悩む企業は少なくありません。
特定の担当者しか業務の知識・手順などを把握していない状態には、多くのリスクがあります。
この記事では、業務の属人化が引き起こすリスクとともに、属人化の予防・解消に有効な「マニュアル作成」を解説します。
作成の具体的な手順やポイント、作成後の活用方法などを詳しく紹介するため、ぜひ参考にしてください。
「属人化」とは?
「属人化」とは、特定の業務の進め方やノウハウが担当者個人の知識や経験の中に留まり、他の従業員には詳細がわからなくなっている状態を指します。
その担当者がいないと、業務が滞ったり、品質が維持できなくなったりする状況です。
属人化は、意図的に情報が共有されない場合だけでなく、長年にわたって同じ担当者が業務を行う中で、自然にその人独自の手順が定着し、他の人が理解・再現できなくなる、といった形で起こるケースもあります。
特に、専門性が高い業務・手順が複雑な業務・マニュアルが整備されていない業務などで発生しやすい傾向があります。
属人化が引き起こすリスク
業務の属人化を放置すると、企業経営においてさまざまなリスクが生じます。
1. 業務の停滞・遅延
属人化のわかりやすいリスクは、担当者の不在による業務の停滞です。
その担当者が急な病気で休んだり、休暇を取得したりした場合、代わりの人が業務を進めることができず、業務が止まってしまいます。
また、担当者が退職や異動をしてしまった場合、後任者への引き継ぎが不十分となり、業務の進め方がわからなくなってしまうという深刻な事態も起こります。
2. 業務品質の低下・ばらつき
特定の担当者しか正しい手順を知らないため、他の人が代わりに業務を行うと、品質が低下したり、作業に時間がかかったりします。
また、担当者個人の独自のやり方で業務が進められている場合、それが必ずしも最適な方法であるとは限りません。
非効率な手順が温存されたり、コンプライアンス上の問題が見過ごされたりする可能性もあります。
3. 不正行為の温床
業務プロセスがブラックボックス化し、他の従業員や上司が内容をチェックできない状態は、不正行為が発生しやすい環境を生み出します。
経理業務など、お金に関わる業務が属人化している場合は、特に注意が必要です。
業務の透明性が低いことは、内部統制上の大きな問題点となります。
4. 技術・ノウハウの喪失
担当者個人の中に蓄積された知識や経験、長年の勘といった暗黙知は、その人が組織を去ると同時に失われてしまいます。
これは、企業にとって貴重な知的財産の喪失を意味します。
特に、熟練技術者のノウハウが若手に引き継がれないまま失われることは、企業の競争力を著しく低下させる要因となります。
5. 担当者への過度な負担
「自分がいなければ仕事が回らない」という状況は、担当者にとって大きなプレッシャーとなります。
休みを取りにくくなったり、業務量が集中して長時間労働になったりしがちです。
過度な負担は、担当者の心身の健康を損ない、モチベーションの低下や、最悪の場合、燃え尽き症候群による休職・離職につながるリスクがあります。
属人化の予防・解消にマニュアルが役立つ理由
これらの属人化のリスクを予防・解消するために、非常に有効な手段となるのが「マニュアル」の作成と活用です。
マニュアルがなぜ属人化の解消に役立つのか、その理由を解説します。
1. 業務の標準化
マニュアルを作成する過程で、現在の業務の手順やルールを客観的に見直し、最適な方法を検討することになります。
その結果、誰が担当しても同じ手順で、同じ品質の成果を出せる「標準化」された業務プロセスが確立されます。
担当者個人の独自のやり方や、非効率な手順が排除され、業務全体の質と効率が向上します。
2. 知識・ノウハウの形式知化と共有
担当者個人の頭の中にしかなかった知識や経験(暗黙知)を、マニュアルという形で文章や図解に落としこむことで、「形式知」として組織全体で共有・蓄積できるようになります。
特定の担当者がいなくなっても、マニュアルを参照すれば他の人が業務を遂行できるようになり、業務の停滞を防ぎます。
企業の貴重な知的財産を守ることにもつながります。
3. 教育・研修の効率化
新人や異動してきた従業員に対して、OJTで一から十まで口頭で説明するのは、教える側・教わる側双方にとって大きな負担です。
整備されたマニュアルがあれば、新人はまずマニュアルを読んで業務の全体像や基本的な手順を理解することができます。
OJT担当者は、マニュアルでは伝えきれない細かなコツや注意点に絞って指導すればよいため、教育にかかる時間を大幅に短縮できます。
教育の質の均一化にも役立ちます。
4. 業務改善の促進
マニュアルを作成し、業務プロセスを可視化することは、現状の業務に潜む問題点や改善の余地を発見するきっかけとなります。
「この手順はもっと簡略化できるのではないか」「この作業はシステム化できるのではないか」といった改善のアイデアが生まれやすくなります。
マニュアルは、一度作ったら終わりではなく、業務改善に合わせて更新していくことで、組織全体の継続的な生産性向上に貢献します。
属人化を防ぐマニュアルの作成手順
質の高いマニュアルを作成するには、計画的な手順で進めることが重要です。
ここでは、属人化を防ぐためのマニュアル作成の基本的な手順を5つのステップでご紹介します。
ステップ1:マニュアル作成の目的と対象読者の明確化
まず、「何のために」「誰のための」マニュアルを作成するのかを明確に定義します。
目的(例:新人教育のため、引き継ぎのため、ミスの防止のため)によって、マニュアルに含めるべき内容や詳細度は変わってきます。
また、対象読者(例:全くの初心者、ある程度の知識がある人)のレベルに合わせて、専門用語の使い方や説明の丁寧さを調整する必要があります。
ステップ2:対象業務の洗い出し・棚卸し
マニュアル化する対象の業務について、その一連の流れをすべて洗い出します。
どのような手順で、どのようなツールを使い、どのような判断基準で行っているのかを、担当者にヒアリングしたり、実際の作業を観察したりしながら、詳細に把握します(業務の棚卸し)。
この段階で、現状の業務プロセスに潜む無駄や問題点が見えてくることもあります。
ステップ3:マニュアルの構成案作成
洗い出した業務内容をもとに、マニュアル全体の構成(目次)を考えます。
業務の流れに沿って章立てを決め、各章に含める具体的な項目をリストアップします。
読者が目的の情報にたどり着きやすいよう、論理的でわかりやすい構成を心がけることが重要です。
構成案の段階で関係者にレビューしてもらい、認識のずれがないかを確認すると手戻りを防げます。
ステップ4:マニュアル本文の執筆・作成
構成案に基づき、マニュアルの本文を執筆していきます。
文章だけでなく、図やスクリーンショット、フローチャートなどを効果的に活用し、視覚的に理解しやすいように工夫します。
専門用語には注釈をつけたり、判断に迷うポイントについては具体的な基準を示したりするなど、対象読者が迷わず作業を進められるように、丁寧な記述を心がけます。
ステップ5:レビューと修正
作成したマニュアルのドラフト(下書き)を、実際にその業務を行う担当者や、業務を知らない第三者など、複数の視点からレビューしてもらいます。
「説明がわかりにくい箇所はないか」「手順に抜け漏れはないか」「情報が古くないか」などをチェックし、フィードバックをもとに修正を重ねて、マニュアルの完成度を高めていきます。
属人化を防ぐマニュアル作成のコツ
誰が読んでも理解でき、確実に業務を遂行できるマニュアルを作成するためには、いくつかのコツがあります。
マニュアル作成のポイント
5W1Hを明確にする:「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」「どのように」行うのかを、具体的に記述します。
特に「なぜ」その作業が必要なのかという目的や背景を説明することで、読者の理解が深まります。
専門用語や社内用語は避ける(または解説を入れる):対象読者が初心者である場合は特に、専門用語や略語、社内でしか通用しない用語の使用は避け、平易な言葉で説明します。
どうしても使用する必要がある場合は、必ず注釈や用語集で解説を加えます。
図や画像、動画を効果的に活用する:文章だけでは伝わりにくい操作手順や、複雑なフローは、スクリーンショットや図解、フローチャートなどを活用すると、格段にわかりやすくなります。
可能であれば、実際の操作画面を録画した動画マニュアルを作成するのも効果的です。
一文を短く、簡潔に書く:一つの文に複数の情報を詰め込まず、短くシンプルな文章で記述することを心がけます。
箇条書きなども効果的に活用しましょう。
フォーマットを統一する:見出しのレベルやフォント、文字サイズ、図の挿入ルールなど、マニュアル全体のフォーマットを統一することで、見た目が整い、読みやすさが向上します。
更新しやすい形式で作成する:業務内容は変化していくため、マニュアルも定期的な更新が必要です。
WordやPowerPoint、あるいは社内Wikiやマニュアル作成ツールなど、後から修正・更新しやすい形式で作成・管理することが重要です。
業種別のポイント(例)
マニュアルで重点的に記述すべき内容は、業種によっても異なります。
製造業:安全に関する注意事項、機械の操作手順、品質基準、異常発生時の対応手順などを、写真や図を多用して具体的に記述することが重要です。
危険予知トレーニング(KYT)の内容を盛り込むことも有効です。
IT・ソフトウェア業:システムの操作手順、プログラミングのコーディング規約、トラブルシューティングの手順、セキュリティポリシーなどを、専門用語の解説と共に正確に記述する必要があります。
スクリーンショットや動画での説明が効果的です。
営業・販売業:顧客へのアプローチ方法、商品説明のトークスクリプト、見積もり作成の手順、クレーム対応の手順などを、具体的な場面を想定して記述します。
ロールプレイング形式の動画なども有効です。
飲食・サービス業:接客マニュアル(言葉遣い、身だしなみ)、調理手順、衛生管理の手順、予約受付の手順などを、写真やイラストを交えてわかりやすく記述します。
マニュアルを作成した後の注意点
時間と労力をかけてマニュアルを作成しても、それが活用されなければ意味がありません。
ここでは、マニュアル作成後に陥りがちな注意点を2つご紹介します。
1. 作成しただけで満足してしまう
マニュアルを作成すること自体が目的化してしまい、完成したことに満足して、その後の活用や更新が疎かになってしまうケースです。
マニュアルは、あくまで業務を正しく効率的に行うための「手段」です。
作成したマニュアルが、実際に業務で使われているか、役に立っているかを継続的に確認する必要があります。
2. 情報が古くなり、形骸化してしまう
業務プロセスや使用するツール、社内ルールなどは、時間と共に変化していきます。
マニュアルの内容を定期的に見直し、最新の情報に更新していかなければ、実態と乖離した「使えないマニュアル」になってしまいます。
情報が古いマニュアルは、かえって混乱を招き、誰も参照しなくなってしまいます。
マニュアルの鮮度を保つための、更新体制を構築することが不可欠です。
マニュアルを有効活用するポイント
作成したマニュアルを形骸化させず、組織の資産として有効に活用するためには、以下のようなポイントを意識することが重要です。
1. マニュアルの周知と閲覧しやすい環境整備
マニュアルが作成・更新されたことを、関係する従業員全員に確実に周知します。
そして、必要な時に誰でも、いつでも、簡単にマニュアルにアクセスできる環境を整備することが重要です。
社内サーバーの共有フォルダや、社内ポータル、情報共有ツールなどに保管し、検索しやすいようにファイル名を工夫したり、カテゴリ分けしたりするなどの工夫をしましょう。
2. 定期的な内容の見直しと責任者の明確化
マニュアルの内容が常に最新の状態に保たれるよう、定期的な見直しと更新のルールを定めます。
例えば、「年に1回、〇月に内容を見直す」「業務フローに変更があった場合は、都度修正する」といったルールを決め、更新責任者を明確にしておくことが重要です。
現場の担当者から、マニュアルの改善点や修正依頼を気軽に上げられる仕組みを作ることも有効です。
3. 研修やOJTでのマニュアル活用
新入社員研修や、異動者向けのOJTにおいて、マニュアルを教材として積極的に活用します。
事前にマニュアルを読んでもらうことで、研修やOJTの時間を、より実践的な内容や質疑応答に充てることができ、教育効果を高めることができます。
「まずはマニュアルを見て」という文化を醸成することも、マニュアル活用を定着させる上で有効です。
4. マニュアルの効果測定と継続的な改善
作成したマニュアルが、実際に業務の効率化や品質向上に役立っているか、その効果を定期的に評価します。
利用者へのアンケートを実施したり、業務ミスの発生状況の変化を追跡したりして、マニュアルの有効性を検証します。
評価結果に基づいて、マニュアルの内容や構成を継続的に改善していくことが、マニュアルの価値を高めることにつながります。
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『Chatwork アシスタント』にマニュアル作成を依頼すると、効率的な属人化解消につながります。
1. マニュアル作成にかかる時間と労力を削減
マニュアル作成は、非常に時間のかかる作業です。
業務の洗い出し、構成案の作成、執筆、図版作成といった一連のプロセスをアシスタントに任せることで、社内の担当者は本来の業務に集中することができます。
特に、複数の業務マニュアルをまとめて作成したい場合などに、大きな効果を発揮します。
2. 客観的な視点による、わかりやすいマニュアル作成
業務に精通している担当者がマニュアルを作成すると、無意識のうちに専門用語を使ってしまったり、暗黙の前提知識を省略してしまったりすることがあります。
第三者の視点を持つアシスタントが作成することで、誰が読んでも理解できる、客観的でわかりやすいマニュアルを作成することができます。
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まとめ
本記事では、業務の属人化が引き起こすリスクや、属人化解消のためのマニュアル作成について解説しました。
マニュアルは単なる手順書ではなく、組織の知識・ノウハウを形式知として蓄積・共有し、従業員の教育や業務改善を促進するための資産となります。
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