ビジネスチャットのセキュリティ対策完全ガイド|潜むリスクと安全な使い方

目次
ビジネスチャットは、今や多くの企業にとって不可欠なコミュニケーションツールとなっています。
その利便性の高さは業務効率を飛躍的に向上させる一方で、セキュリティリスクへの懸念も高まっています。
機密情報のやり取りも行われるビジネスチャットにおいて、ひとたびセキュリティインシデントが発生すれば、企業は深刻なダメージを被りかねません。
この記事では、ビジネスチャットに潜む具体的なセキュリティリスク、ツール提供側と利用者側それぞれで講じるべき対策、そして安全なツールの選び方からインシデント発生時の対応まで、セキュリティ確保のためのポイントを網羅的に解説します。
ビジネスチャットのセキュリティが重要視される背景
近年、ビジネスチャットツールの導入は急速に進み、企業のコミュニケーションスタイルに大きな変革をもたらしました。
しかし、その普及とともに、セキュリティの確保がこれまで以上に重要な課題として認識されるようになっています。
ビジネスチャットの普及と利便性の裏側
ビジネスチャットは、メールや電話に比べて迅速かつ手軽なコミュニケーションを可能にし、情報共有の効率化、プロジェクト進行の円滑化、テレワークをはじめとする多様な働き方の推進に大きく貢献しています。
ファイル共有やタスク管理、ビデオ会議といった多機能性も、多くの企業で導入が進む理由の一つです。
しかし、この利便性の裏側には、常に情報漏えいや不正アクセスといったセキュリティリスクが潜んでいます。
重要な情報がリアルタイムで飛び交うプラットフォームであるからこそ、適切なセキュリティ対策が施されていなければ、サイバー攻撃の格好の標的となり得るのです。
セキュリティインシデントが企業に与える深刻な影響
ビジネスチャットにおけるセキュリティインシデントは、企業に多岐にわたる深刻な影響を及ぼします。
例えば、顧客情報や技術情報といった機密情報が漏えいした場合、その直接的な被害額だけでなく、企業の社会的信用の失墜、ブランドイメージの低下、顧客離れといった間接的な損害も甚大です。
また、インシデント対応にかかるコスト、法的責任の追及、株価の下落、そして事業継続が困難になるケースも考えられます。
このような事態を避けるためにも、ビジネスチャットのセキュリティ対策は経営上の重要課題として取り組む必要があるのです。
ビジネスチャットに潜む主なセキュリティリスクとは?事例を交えて解説
ビジネスチャットを安全に利用するためには、まずどのようなセキュリティリスクが存在するのかを具体的に理解しておくことが重要です。
ここでは、代表的なリスクとその手口、関連する可能性のある事例について解説します。
リスク1:不正アクセスによるアカウント乗っ取りと機密情報の窃取
不正アクセスは、ビジネスチャットにおける最も一般的なセキュリティリスクの一つです。
攻撃者は、盗まれた認証情報や脆弱性を利用して正規の利用者のアカウントに不正にログインし、チャット内の機密情報を盗み出したり、さらなる攻撃の踏み台として利用したりします。
事例:フィッシング詐欺やパスワードリスト攻撃による被害
攻撃者は、ビジネスチャットのログイン画面を模倣した偽のWebサイト(フィッシングサイト)へユーザーを誘導し、IDとパスワードを入力させて認証情報を窃取します。
また、他のサービスから漏えいしたIDとパスワードの組み合わせをリスト化し、ビジネスチャットのアカウントに対して総当たり的にログインを試みるパスワードリスト攻撃も後を絶ちません。
これらの手口によりアカウントが乗っ取られると、個人情報、顧客データ、開発中の製品情報などが外部に流出する可能性があります。
リスク2:マルウェア感染と情報漏えい
マルウェア(ウイルス、ランサムウェア、スパイウェアなど)に感染すると、チャットを通じてやり取りされる情報が盗まれたり、端末が不正に操作されたりする危険性があります。
ビジネスチャットのファイル共有機能が悪用されるケースも少なくありません。
事例:悪意のあるファイル共有や不正なURLクリック
攻撃者は、マルウェアを仕込んだファイルをビジネスチャットで共有したり、マルウェア配布サイトへのリンクをメッセージで送信したりします。
従業員が不用意にこれらのファイルを開いたり、URLをクリックしたりすることでマルウェアに感染し、端末内の情報が外部に送信されたり、ランサムウェアによってデータが暗号化されて身代金を要求されたりする被害が発生しています。
信頼している同僚からのメッセージであっても、ファイルやURLの取り扱いには注意が必要です。
リスク3:内部不正による意図的な情報持ち出し
外部からの攻撃だけでなく、組織内部の人間による不正行為も大きなリスクです。
機密情報にアクセス権限を持つ従業員や元従業員が、悪意を持って情報を持ち出す、あるいは漏えいさせる可能性があります。
事例:退職者や不満を持つ従業員による犯行
退職時に企業の機密情報を不正に持ち出し、競合他社へ転職する際に利用したり、企業に対する不満から情報を外部に暴露したりするケースが報告されています。
ビジネスチャットには多くの情報が集約されているため、アクセス権限の管理が不適切であったり、退職者のアカウント削除が遅れたりすると、内部不正のリスクが高まります。
リスク4:シャドーITと管理外ツールの利用によるセキュリティホール
シャドーITとは、企業の情報システム部門の許可や管理下にないIT機器やクラウドサービスを、従業員が業務に利用してしまうことです。
セキュリティ対策が不十分な個人向けチャットツールなどが業務で使われると、そこがセキュリティホールとなり得ます。
事例:個人利用チャットツールの業務利用
企業が公式に導入しているビジネスチャットツールとは別に、従業員が個人的に利用している無料のチャットアプリやオンラインストレージを業務連絡やファイル共有に使用してしまうケースがあります。
これらのツールは、企業のセキュリティポリシーが適用されず、情報漏えいやマルウェア感染のリスクが高まります。
利便性を求めるあまり、安易に管理外ツールを利用することは避けるべきです。
リスク5:誤送信や設定ミスによる意図しない情報公開
悪意がなくとも、ヒューマンエラーによって情報漏えいが発生することもあります。
チャットの宛先間違いや、グループチャットの公開範囲設定の誤りなどが代表的です。
事例:宛先間違いや公開範囲設定の誤り
機密情報を含むメッセージを誤って別の相手やグループに送信してしまったり、本来は非公開にすべきチャットルームを誤って公開設定にしてしまったりするミスは、誰にでも起こり得るリスクです。
ビジネスチャットは手軽にコミュニケーションが取れる反面、送信前の確認がおろそかになりがちです。
一度送信された情報を取り消すのが難しい場合もあり、注意が必要です。
リスク6:サービス提供側の脆弱性や障害
利用者側で万全の対策を講じていても、ビジネスチャットサービス自体に脆弱性が存在したり、大規模なシステム障害が発生したりするリスクも考慮しなければなりません。
事例:過去に発生したチャットサービスのセキュリティ問題
過去には、著名なチャットサービスにおいて、脆弱性を悪用されて不正アクセスが発生したり、設定不備により一部のユーザーデータが閲覧可能な状態になってしまったりするインシデントが報告されています。
サービス提供側のセキュリティ体制や、インシデント発生時の対応力も、ツール選定の重要なポイントとなります。
リスク7:公衆無線LAN(フリーWi-Fi)利用時の盗聴リスク
カフェやホテルなどで提供されている公衆無線LAN(フリーWi-Fi)は、通信が暗号化されていない、あるいはセキュリティレベルが低い場合があります。
このようなネットワーク環境でビジネスチャットを利用すると、通信内容が第三者に盗聴されるリスクがあります。
特に、重要な情報を扱う場合は、信頼できるネットワーク環境での利用を心がけるべきです。
ビジネスチャットツール提供側が講じるべきセキュリティ機能
ビジネスチャットを安全に利用するためには、ツール提供側が高度なセキュリティ機能を実装していることが大前提となります。
ここでは、信頼できるビジネスチャットツールが備えているべき主要なセキュリティ機能について解説します。
機能1:通信経路と保存データの暗号化(SSL/TLS、AESなど)
メッセージやファイルが送受信される際の通信経路は、SSL/TLSといったプロトコルで暗号化されている必要があります。
これにより、第三者による通信の盗聴や改ざんを防ぎます。
また、サーバーに保存されるデータも、AES(Advanced Encryption Standard)などの強力な暗号化アルゴリズムで保護されていることが重要です。
エンドツーエンド暗号化(E2EE)に対応しているツールであれば、サービス提供者でさえも通信内容を復号できないため、より高い機密性を確保できます。
機能2:堅牢な認証システム(二要素認証、SSO連携など)
不正アクセスを防ぐためには、確実な本人認証が不可欠です。
IDとパスワードによる認証に加え、SMSや認証アプリを利用した二要素認証(2FA)または多要素認証(MFA)に対応していることが望ましいです。
また、企業内で利用されている他のシステムと認証情報を連携できるシングルサインオン(SSO)に対応していれば、利便性を損なわずにセキュリティを強化できます。
機能3:アクセス制御と権限管理機能
ユーザーごとにアクセスできる情報や利用できる機能を細かく制御できる権限管理機能は、内部不正対策や情報漏えいリスクの低減に有効です。
例えば、特定のチャットルームへの参加制限、ファイルダウンロードの可否、管理者権限の分離などが設定できるか確認しましょう。
役職や部署に応じて適切な権限を割り当てることで、必要最小限のアクセス権限(最小権限の原則)を徹底できます。
機能4:監査ログの取得と管理機能
いつ、誰が、どのような操作を行ったのかを記録する監査ログ機能は、不正行為の追跡や原因究明、セキュリティインシデント発生時の状況把握に不可欠です。
ログイン履歴、メッセージの送受信履歴、ファイル操作履歴、設定変更履歴などが詳細に記録され、管理者が必要に応じて確認・分析できることが重要です。
ログの保存期間や改ざん防止機能も確認ポイントとなります。
機能5:IPアドレス制限やデバイス制限
特定のIPアドレスからのアクセスのみを許可するIPアドレス制限や、登録されたデバイスからのみ利用を許可するデバイス制限機能は、不正アクセスリスクを軽減するのに役立ちます。
例えば、社内ネットワークからのアクセスのみを許可したり、会社支給の端末以外からの利用を禁止したりすることで、よりセキュアな利用環境を構築できます。
機能6:脆弱性診断と迅速なパッチ提供体制
ソフトウェアには脆弱性がつきものです。
ツール提供側が定期的に第三者機関による脆弱性診断を実施し、発見された脆弱性に対して迅速に修正パッチを提供する体制が整っているかを確認することが重要です。
セキュリティに関する情報を積極的に開示し、ユーザーへの注意喚起を行っているかも信頼性の指標となります。
機能7:データセンターの物理的セキュリティと災害対策
ビジネスチャットでやり取りされるデータが保管されるデータセンターのセキュリティも重要です。
不正侵入を防ぐための物理的なセキュリティ対策(監視カメラ、入退室管理など)や、地震や火災といった自然災害に対する対策(耐震構造、自家発電設備、データのバックアップ体制など)が講じられているかを確認しましょう。
信頼できるデータセンターで運用されていることは、サービスの安定性とデータの安全性を担保する上で不可欠です。
利用者側(企業・従業員)が実施すべきセキュリティ対策
どれほど高機能なセキュリティを備えたビジネスチャットツールであっても、それを利用する企業や従業員のセキュリティ意識が低ければ、その効果は半減してしまいます。
ここでは、利用者側で実施すべき具体的なセキュリティ対策について解説します。
対策1:セキュリティポリシーと利用ガイドラインの策定・周知
企業は、ビジネスチャットの安全な利用に関する明確なセキュリティポリシーと利用ガイドラインを策定し、全従業員に周知徹底する必要があります。
チャット利用ルール、禁止事項、パスワードポリシーなど
ガイドラインには、以下のような項目を盛り込むとよいでしょう。
・機密情報の取り扱いルール(チャットでの共有範囲、ファイル送信時の注意点など)
・チャットルームの作成・管理ルール(命名規則、公開範囲設定、不要なルームの削除など)
・パスワードの強度要件と定期的な変更義務
・私的利用の禁止、業務外ツールの利用禁止
・不審なメッセージやファイルへの対応方法
・インシデント発生時の報告手順
これらのルールを定めることで、従業員一人ひとりがセキュリティを意識した行動を取るための基準となります。
対策2:従業員へのセキュリティ教育と啓発活動の実施
ルールを策定するだけでなく、従業員のセキュリティリテラシーを向上させるための継続的な教育と啓発活動が不可欠です。
定期的な研修、標的型メール訓練、情報共有
新入社員研修や定期的なセキュリティ研修を通じて、最新の脅威情報や対策方法、社内ルールなどを教育します。
また、フィッシング詐欺メールへの対応能力を高めるための標的型メール訓練を実施したり、セキュリティに関する注意喚起やインシデント事例を社内で共有したりすることも有効です。
従業員の「自分は大丈夫」という油断を防ぎ、常に高いセキュリティ意識を維持させることが重要です。
対策3:強力なパスワード設定と定期的な変更の徹底
ビジネスチャットのアカウントを保護するための基本は、推測されにくい強力なパスワードを設定し、定期的に変更することです。
英大文字・小文字、数字、記号を組み合わせた複雑なパスワードにし、他のサービスとの使い回しは絶対に避けましょう。
パスワード管理ツールを利用することも有効な手段です。
対策4:多要素認証(MFA)の積極的な利用
パスワードだけに頼るのではなく、可能な限り多要素認証(MFA)を有効にしましょう。
MFAは、パスワードに加えて、スマートフォンアプリによる認証コードや生体認証など、複数の認証要素を組み合わせることで、不正ログインのリスクを大幅に低減できます。
多くのビジネスチャットツールがMFAに対応しているので、積極的に活用すべきです。
対策5:不審なファイルやURLを開かない意識の徹底
チャットで送られてくるファイルやURLが、必ずしも安全とは限りません。
送信元が信頼できる相手であっても、アカウントが乗っ取られている可能性も考慮し、不審な点がないか慎重に確認する習慣をつけましょう。
特に、安易に実行ファイル(.exeなど)を開いたり、個人情報の入力を求めるサイトへアクセスしたりしないよう注意が必要です。
対策6:利用端末のセキュリティ対策(OS・ソフトの最新化、ウイルス対策ソフト導入)
ビジネスチャットを利用するPCやスマートフォン、タブレット端末自体のセキュリティ対策も重要です。
OSや利用しているソフトウェア、ブラウザなどを常に最新の状態に保ち、脆弱性を解消しておきましょう。
また、信頼できるウイルス対策ソフトを導入し、定義ファイルを常に最新の状態に更新しておくことも必須です。
対策7:社内ネットワークやVPNの安全な利用
社外からビジネスチャットにアクセスする際は、安全なネットワーク環境を利用することが重要です。
公衆無線LAN(フリーWi-Fi)の利用は極力避け、やむを得ず利用する場合はVPN(仮想プライベートネットワーク)を経由して通信を暗号化するなどの対策を講じましょう。
社内ネットワークにおいても、ファイアウォールや侵入検知システム(IDS/IPS)などを適切に設定・運用することが求められます。
対策8:シャドーITの禁止と承認済みツールの利用徹底
企業として公式に導入・許可しているビジネスチャットツール以外の利用(シャドーIT)は、セキュリティリスクを高めるため、原則として禁止すべきです。
従業員に対して、承認されたツールのみを利用するよう徹底し、必要に応じて業務で利用したいツールがある場合は、情報システム部門に申請し、セキュリティチェックを受けるプロセスを確立しましょう。
対策9:定期的な利用状況のモニタリングと監査
情報システム部門は、ビジネスチャットの利用状況を定期的にモニタリングし、不審なアクティビティやポリシー違反がないかを確認する必要があります。
監査ログを分析し、不正アクセスの兆候や機密情報の不適切な取り扱いなどを早期に発見することが重要です。
これにより、インシデントの未然防止や、発生時の迅速な対応につながります。
対策10:退職者のアカウント即時削除とアクセス権見直し
従業員が退職する際には、速やかにビジネスチャットのアカウントを削除し、関連するアクセス権限を無効化する必要があります。
アカウントが残ったままだと、退職後に不正アクセスされたり、内部情報を持ち出されたりするリスクがあります。
人事異動に伴うアクセス権の見直しも定期的に行い、常に適切な状態を保つことが重要です。
【比較ポイント】安全なビジネスチャットツール選定の秘訣
ビジネスチャットのセキュリティを確保するためには、ツール選定の段階からセキュリティ要件を十分に考慮することが不可欠です。
ここでは、安全なツールを選ぶための比較ポイントを解説します。
選定ポイント1:セキュリティ機能の充実度と第三者認証の有無
前述した「ツール提供側が講じるべきセキュリティ機能」(暗号化、認証、アクセス制御、監査ログなど)がどの程度充実しているかを確認しましょう。
加えて、SOC認証(Service Organization Control reports)、ISO27001(ISMS認証)、ISO27017(クラウドセキュリティ認証)といった国際的な第三者認証を取得しているかは、ツールのセキュリティレベルを客観的に評価する上で重要な指標となります。
これらの認証は、厳しい審査基準をクリアした信頼の証と言えます。
選定ポイント2:データ保管場所と国内外の法令遵守状況
ビジネスチャットでやり取りされるデータが、どこの国のどの地域のデータセンターに保管されるのかを確認することは重要です。
特に、個人情報保護法やGDPR(EU一般データ保護規則)など、国内外のデータ保護関連法規を遵守しているか、また、それらの法規に対応した運用体制が整っているかを確認しましょう。
国内法への準拠を重視する場合は、国内データセンターで運用されている国産ツールが有力な選択肢となります。
選定ポイント3:運用実績と障害・インシデント対応体制
ツールの提供企業が、長年にわたり安定したサービスを提供してきた実績があるか、また、過去に大規模なシステム障害やセキュリティインシデントが発生した際に、どのように対応してきたかを確認しましょう。
障害情報やインシデント対応に関する情報を透明性をもって公開している企業は、信頼性が高いと言えます。
SLA(サービス品質保証制度)の内容も確認しておくとよいでしょう。
選定ポイント4:サポート体制とセキュリティ情報提供の透明性
導入時や運用中にセキュリティに関する問題や疑問が生じた場合に、迅速かつ適切なサポートを受けられる体制が整っているかを確認しましょう。
日本語でのサポートの可否、問い合わせ窓口の充実度、FAQやマニュアルの整備状況などがポイントです。
また、新たな脆弱性情報やセキュリティアップデートに関する情報を、ユーザーに対して迅速かつ分かりやすく提供しているかも重要です。
選定ポイント5:無料版と有料版のセキュリティ機能の違いを理解する
多くのビジネスチャットツールでは、無料版と有料版が提供されていますが、セキュリティ機能において差が設けられている場合があります。
一般的に、有料版の方がより高度なセキュリティ機能(例:監査ログの長期保存、IPアドレス制限の詳細設定、SSO連携など)を利用できる傾向にあります。
自社のセキュリティ要件を満たすためには、どのプランを選択すべきか、機能差を十分に理解した上で判断する必要があります。安易に無料版を選択するのではなく、リスクとコストのバランスを考慮しましょう。
ビジネスチャットのセキュリティインシデント発生時の対応フロー
どれだけ対策を講じていても、セキュリティインシデントが発生する可能性をゼロにすることはできません。
万が一インシデントが発生した場合に、被害を最小限に抑え、迅速かつ適切に対応するためのフローを事前に定めておくことが重要です。
ステップ1:インシデントの検知と初動対応
不審な挙動やシステムアラート、従業員からの報告などによりインシデントを検知したら、速やかにインシデント対応チームに連絡し、状況の確認を開始します。
初動対応として、被害拡大を防ぐための緊急措置(例:該当アカウントの停止、ネットワークからの隔離など)を検討・実施します。
ステップ2:影響範囲の特定と封じ込め
インシデントによってどのシステム、どのデータ、どの利用者が影響を受けているのか、その範囲を正確に特定します。
特定した影響範囲に対して、さらなる被害拡大を防ぐための封じ込め措置を講じます。
これには、不正アクセスの経路遮断やマルウェアの駆除などが含まれます。
ステップ3:原因調査と証拠保全
なぜインシデントが発生したのか、その根本原因を徹底的に調査します。
監査ログやシステムログ、関係者へのヒアリングなどを通じて情報を収集・分析し、攻撃の手口や侵入経路、脆弱性などを特定します。
同時に、法的な対応や再発防止策の検討に必要な証拠を保全します。
ステップ4:復旧作業と事業継続計画(BCP)の発動
特定された原因を取り除き、影響を受けたシステムやデータを安全な状態に復旧させます。
事前にバックアップを取得していれば、そこからのリストアも検討します。
業務への影響が大きい場合は、事業継続計画(BCP)を発動し、重要業務の継続を優先します。
ステップ5:関係各所への報告と情報開示
インシデントの内容や影響範囲、対応状況に応じて、経営層、法務部門、関連省庁、警察、顧客、取引先など、関係各所に速やかに報告を行います。
特に個人情報の漏えいなどが発生した場合は、法令に基づいた適切な届出と被害者への通知が必要です。
情報開示においては、透明性と誠実さをもって対応することが、信頼回復の第一歩となります。
ステップ6:再発防止策の策定と実施
インシデントの原因分析結果を踏まえ、同様の事態が再発しないための具体的な対策を策定し、実施します。
これには、セキュリティポリシーの見直し、システム改修、従業員教育の強化などが含まれます。
インシデント対応は、復旧して終わりではなく、そこから得られた教訓を次に活かすことが重要です。
より安全なビジネスチャット環境を構築するために【国産ツールの検討】
グローバルなビジネスチャットツールも多数存在しますが、セキュリティやサポート面を考慮すると、国産ツールの利用も有力な選択肢となります。
国産ツールのメリットとセキュリティ面の安心感
国産のビジネスチャットツールは、日本の法律や商習慣を深く理解した上で開発・運用されているものが多く、国内法規制への対応や、日本語による手厚いサポートが期待できます。
また、データセンターが国内に設置されている場合が多く、データの国外流出リスクを懸念する企業にとっては安心材料となります。
国内のセキュリティ基準や認証に準拠しているツールを選べば、より信頼性の高い運用が可能です。
きめ細やかなサービスや、日本企業特有のニーズに合わせた機能開発も、国産ツールならではのメリットと言えるでしょう。
自社の業種や規模に合わせたセキュリティ要件の整理
どのようなツールを選ぶにしても、まずは自社の業種、事業規模、取り扱う情報の種類、そして許容できるリスクレベルを明確にし、それに基づいたセキュリティ要件を整理することが重要です。
例えば、金融機関や医療機関など、特に機密性の高い情報を取り扱う業種では、より厳格なセキュリティ基準が求められます。
自社のニーズと照らし合わせながら、機能、コスト、そしてセキュリティのバランスが取れた最適なツールを選定しましょう。
まとめ:ビジネスチャットのセキュリティ対策を徹底し、安全なコミュニケーションを実現しよう
ビジネスチャットは、現代のビジネスコミュニケーションにおいて不可欠なツールであり続けるでしょう。
その利便性を最大限に享受しつつ、潜むセキュリティリスクから企業の情報資産を守るためには、ツール提供側の機能だけに頼るのではなく、利用者である企業と従業員一人ひとりが高いセキュリティ意識を持ち、継続的に対策を講じていくことが何よりも重要です。
本記事で解説したセキュリティリスク、具体的な対策、ツールの選定ポイント、そしてインシデント発生時の対応フローを参考に、自社のビジネスチャット環境の安全性を今一度見直し、よりセキュアで円滑なコミュニケーション基盤を構築してください。
セキュリティ対策は一度行えば終わりというものではありません。
新たな脅威の出現や技術の進歩に合わせて、常に見直しと改善を続けていく姿勢が求められます。