【社労士監修】給与デジタル払いの解禁とは?メリット・デメリットをわかりやすく解説
目次
2023年4月から、給与デジタル払いが解禁されます。
給与を決済アプリや電子マネーで振り込むことが可能になり、国内のデジタル化の促進が期待されています。
今回は、給与デジタル払い解禁にともない、企業に求められる対応や、企業が導入した場合のメリット・デメリットなどをわかりやすく解説します。
給与デジタル払いとは
給与デジタル払いとは、給与をスマートフォンの決済アプリや電子マネーへの振り込みを可能とする制度のことです。
給与の支払い方法は、労働基準法で現金払いが原則とされており、例外により銀行口座や証券口座への支払いが認められていましたが、本改正により「デジタル払い」が、支払い方法に追加されます。
この改正により、キャッシュレス決済を利用する割合が増加し、国内のデジタル化がより促進されることが期待されています。
給与デジタル払いが推進される理由
そもそも、なぜ給与デジタル払いが推進されるのでしょうか。
その理由は以下の3つです。
- 国内のデジタル化促進
- キャッシュレス決済の普及促進・利便性向上
- 外国人労働者の受け入れ拡充
それぞれの理由を詳しく解説していきます。
理由(1):国内のデジタル化促進
一般社団法人キャッシュレス推進協議会の資料によると、キャッシュレス決済比率は、韓国が93.6%、中国が83%であるのに対し、日本は29.8%と低い結果がでています。[※1]
つまり、世界的に見ると日本は、キャッシュレス決済の普及率が低く、デジタル化の促進が遅れているということです。
日本政府はこの結果をうけて、キャッシュレス決済比率を、2027年までに4割程度までとする目標を掲げており、給与デジタル払いは、国内のデジタル化を促進させる施策のひとつとして導入されます。[※2]
理由(2):キャッシュレス決済の普及促進・利便性向上
キャッシュレス決済は、スマートフォンがあれば決済が可能であり、現金やカードを所持していなくても買い物や食事ができるため、非常に利便性が高いサービスです。
また、現金を介した接触機会の削減や店舗のレジ精算の効率化など、店舗ビジネスを生業とする企業にとっても大きなメリットがある決済方法です。
しかし、キャッシュレス決済の多くはチャージ方式を採用しており、現金または銀行口座から決済アプリへチャージをおこなう手間があります。
そのため、給与デジタル払いを普及させることで、チャージをする手間が省け、キャッシュレス決済の普及促進が期待できるのです。
理由(3):外国人労働者の受け入れ拡充
外国人労働者が日本の銀行口座を開設する場合、煩雑な手続きや言語の壁があり、時間と手間がかかります。
しかし、給与デジタル払いが可能になれば、外国人労働者が口座開設をすることなく、即日給与のうけとりが可能になります。
口座開設の手間がなくなれば、外国人労働者が日本で働きやすくなり、うけいれ拡充も期待できるでしょう。
給与デジタル払いの仕組みと現状
給与デジタル払いは、どのような仕組みで運用されるのでしょうか。
ここからは、給与デジタル払いの仕組みと現状について詳しくみていきましょう。
給与デジタル払いの仕組み
給与のデジタル払いは、銀行口座ではなく、資金移動業者のアカウントを通じて給与を振り込む仕組みになっています。
資金移動業者とは、銀行以外で送金サービスができる登録事業者で、「○○ペイ」などのサービスを提供している事業者のことです。
つまり、企業が給与振込をおこなう際は、銀行口座を介さず、従業員の資金移動業者のアカウントに直接振り込む流れになります。[※3]
なお、本改正では給与の全額をデジタル払にすることまでは求めていません。
そのため、従業員の希望にあわせて、銀行口座と資金移動業者アカウント双方に振込手続きをおこなう必要があります。
また、従業員が指定した○○ペイのチャージ額は、すでにある残高を含めて、合計で100万円までという制限が設けられています。
もし給与振込で残高100万円を超えた場合は、資金移動業者が、従業員の銀行口座へ送金する仕組みになっており、従業員はあらかじめ上限を超えた給与をうけとる口座を登録しておく必要があります。
つまり、銀行口座をもっていなければ、○○ペイで給与うけとりができない可能性もあるということです。
また、上限を超えた際は、資金移動業者が振込手数料を負担しているため、その分を企業に請求する仕組みになる可能性もあります。
給与デジタル払いの現状
厚生労働省の「賃金移動業者の口座への賃金支払について」によると、「給与デジタル払いを利用したい」と答えた人は、26.9%という結果になっています。
一方で、回答者のうち97.4%が普段からキャッシュレス決済を利用しており、キャッシュレスが普及し始めていることは事実です。[※3]
そのことから、給与デジタル払いに対して、従業員のニーズは今後も高くなることが予想されています。
ただし、給与デジタル払いは、2023年4月から資金移動業者の申請受付を開始し、その後、厚生労働省の審査で認められてから利用ができるようになります。
そのため、2023年4月からすぐに給与のデジタル払いが可能になる訳ではない点を覚えておきましょう。
給与デジタル払いのメリット
給与デジタル払いの主なメリットは以下の3つと考えられています。
- 手数料が削減できる
- 人材確保がしやすくなる 福利厚生になる
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
手数料が削減できる
給与を銀行口座に振り込む場合は、同一銀行の同一支店宛以外は振込手数料がかかります。
とくに、他銀行宛への振込が多い場合は手数料がかさむケースも少なくありません。
そのため、給与をデジタル払いにすることで、振込手数料が削減できる可能性があります。
人材確保がしやすくなる
外国人労働者が日本で銀行口座を開設する際は、在留期間や住所地などの証明が必要になるケースがほとんどです。
そのため、銀行口座の開設がハードルとなり、働きにくさを感じている人も少なくないでしょう。
しかし、給与デジタル払いができるようになれば、銀行口座を開設する必要がなくなり、銀行口座を開設していない外国人労働者を雇い入れやすくなります。
また、季節的な業務など、期間が限定された業務などで、外国人労働者を雇用しやすくなるメリットもあるでしょう。
福利厚生になる
従業員のなかには、すでにキャッシュレス決済が日常になっている人もいるため、アプリや電子マネーで給与振込してほしいという要望がでている企業があるかもしれません。
給与デジタル払いに対応することで、そうした従業員からの支持が得られるため、企業の福利厚生の一環として捉えることもできるでしょう。
また、給与のデジタル払いを希望する求職者のニーズを満たせるため、先進的な取り組みをしている企業として、対外的にアピールすることにもつながります。
給与デジタル払いのデメリット
給与デジタル払いの主なデメリットは以下の3つです。
- 手間が増える可能性がある
- システム運用コストがかかる
- 不正送金などのリスクがある
それぞれの内容を詳しく解説します。
手間が増える可能性がある
今回の改正では、給与の全額をデジタル払いすることは求められていないため、給与の一部をデジタル払いとし、残りを銀行口座に振り込みたいという従業員も発生するでしょう。
そのため、デジタル払い用と銀行口座用の振込データを、二重に出力しなければならない可能性が考えられます。
また、給与システムの改修により、登録する情報が増えたり、設定する項目が増えたりする可能性もあるため、事務担当者の手間は増えることが予想されるでしょう。
システム運用コストがかかる
デジタル払いに対応するために、給与システムの改修や仕様変更など、システムの運用にともなうコストがかかる可能性があります。
また、中小企業などで給与システムを導入していない場合は、システムの導入を検討する必要もでてくるでしょう。
給与デジタル払いは、利便性が向上する一方で、システム運用コストがかかる可能性があります。
不正送金などのリスクがある
給与がデジタルで支払われることにより、ハッキングによって資産が流出するリスクがでてきます。
アカウントを乗っ取り、資産が盗まれる可能性があるため、資金移動業者には高いセキュリティ強化が求められています。
給与デジタル払いの課題
上述したデメリットにもある通り、決済アプリや電子マネーに給与を振り込むには、セキュリティや破綻した際の保障など、さまざまな課題があります。
給与デジタル払いにおける課題をみていきましょう。
不正送金などのセキュリティ対策
決済アプリや電子マネーにチャージする金額が大きくなれば、ハッキングされるリスクも高まります。
そのため、資金移動業者の口座が不正利用された際には、インターネットバンキングにおける全銀協の申し合わせと同様、無過失の場合には全額補償することとしています。[※3]
破綻した場合の保証
銀行が破綻した場合には、一定の範囲で預金を保護する「預り金保証制度」が対象となっていますが、デジタル払いの資金移動業者が破綻した場合は、この保護の対象となりません。
そのため、万が一、資金移動業者が破綻した場合には、労働者と保証機関の保証契約などに基づき、速やかに労働者に口座残高の全額が弁済される仕組みになっています。[※3]
給与デジタル払いに向けて企業がすべきこと
給与デジタル払いに向けて、企業には以下の対応が求められます。
- 就業規則の改定
- 労使協定の締結
- 従業員への周知
- 従業員の同意
内容を詳しくみていきましょう。
就業規則の改定
就業規則の絶対的必要記載事項には、「賃金の支払い方法」の記載が求められています。
そのため、給与をデジタルで支払う場合には、就業規則(賃金規定)を改訂する必要があります。
導入を検討している場合は、事前に準備を進めるようにしましょう。
労使協定の締結
給与デジタル払いを導入する場合は、以下の内容について、労使協定の締結が必要になります。[※4]
- 対象となる従業員の範囲
- 対象となる賃金の範囲およびその金額
- 取扱資金移動業者の範囲
- 実施開始時期
なお、必ずしも全従業員をデジタル払いの対象とする必要はありません。
たとえば、日雇い労働者を対象外としたり、雇用形態を正社員に限定したりなど、特定の従業員のみを、デジタル払いの対象とすることも可能です。
従業員への周知
就業規則の改定や労使協定の締結を終えたあとは、従業員への制度周知をおこないましょう。
給与デジタル払いの概要や手続きの方法、給与をデジタルでうけとることのリスクなど、メリットやデメリットを整理して、適切に伝えることが大切です。
従業員の同意
給与のデジタル払いをおこなうには、従業員の「同意」が必要です。
従業員から希望があった場合に備えて、同意書の準備をしておきましょう。
また、デジタル払いを希望する従業員には、不正利用のリスクやセキュリティ対策などを十分に説明することが大切です。
同意書には、資金移動業者が破綻した場合の保証や不正に出金された場合の補償などの注意事項を記載するなど、徹底した対応をおこないましょう。
なお、同意書のサンプルは厚生労働省のホームページに公開されていますので、参考にしてください。[※5]
デジタル化の第一歩に「Chatwork」
給与デジタル払いが解禁されることで、国内のデジタル化が促進されるだけではなく、外国人人材の確保など、市場の活性化が期待されています。
一方で、セキュリティ対策や破綻時の保障など、運用面で不安を持つ従業員も多いでしょう。
しかし、デジタル化が進む現代社会では、給与のデジタル払いが必要不可欠な存在となることが予想されます。
そのため、従業員の不安を払拭しながら、段階的に導入するなど、企業側には、計画を立てて導入することが求められています。
ビジネスチャット「Chatwork」は、チャット形式で気軽にコミュニケーションができるビジネスツールです。
1対1のコミュニケーションはもちろん、全社員などの複数人に対してもコミュニケーションをとることが可能なため、給与デジタル払いを導入する際の社内周知や、制度内容の説明などにも効果的に活用することができるでしょう。
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[※1]一般社団法人キャッシュレス推進協議会「キャッシュレス・ロードマップ 2022」
https://paymentsjapan.or.jp/wp-content/uploads/2022/08/roadmap2022.pdf
[※2]経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」
https://www.hkd.meti.go.jp/hokir/cashless/data/cl_vision.pdf
[※3]厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001005118.pdf
[※4]厚生労働省「賃金の口座振込み等について(令和4年11月28日基発1128第4号)」
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T221129K0030.pdf
[※5]厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03_00028.html
記事監修者:北 光太郎
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。