未払い賃金の時効が延長!企業がおこなうべき対応を解説
目次
働き方改革によって、各種の労務管理が見直されることが多くなった昨今、労働問題において多く取り沙汰されている未払い賃金。
ニュースで報道されている事案には、何千万円という莫大な金額を請求されるものもあり、企業としては、日々増大するリスクに頭を抱えられている場面も多いことかもしれません。
また、近年の法改正によって、未払い賃金に関する時効についても大幅な変更がありました。
未払い賃金に対するリスク管理を徹底したい企業経営者に向けて、わかりやすく解説していきます。
未払い賃金とは
就業規則や労働契約上、会社が支払うとされている賃金にも関わらず、所定の支払日において、労働者に支払いが完了していない賃金を指します。
未払い賃金をそのままにしていると、企業にとって大きなリスクになるため、早急に対応する必要があります。
なぜ未払い賃金が発生するのか
労働者にとっては、労働の対価によって支払われる賃金は、生活の糧です。
賃金の支払いがなされない、または、滞ることがあっては、生活そのものが脅かされることになります。
なぜ未払い賃金が発生するのか、項目に分けて解説していきましょう。
サービス残業や給与計算の間違い
未払い賃金の発生要因で、最も大きなものが残業代の未払いです。
これには、意図的に残業代を支給しない(サービス残業)パターンと、残業代を支払ってはいるものの、その計算に誤りがあり、未払い分が蓄積されているパターンがあります。
悪質といえるのは、前者のサービス残業であり、会社によっては多額の未払い賃金が発生していることも珍しくありません。
一方、後者の計算間違いに関しては、金額自体は大きくありませんが、放置し続けると、労働者の不信、助成金申請の際の障害になることが予想されます。
経営不振による影響
なんらかの理由により経営不振に陥り、結果として会社内の資金が不足し、賃金支払いがおこなえないという事態が、中小企業を中心に見受けられます。
賃金におけるルールは、支払日から遅れのないように支払うことが一般的なので、賃金支払いがおこなえない状態の企業は、経営的にかなり致命的な状態といえるでしょう。
ワンマン経営による影響
中小企業を中心に、多く見受けられるものとして、経営層の恣意的な判断で、賃金の一部を支払わないという事例があります。
たとえば、欠勤一回に対して、労働基準法や就業規則で定められている以上の金額を、欠勤控除してしまうということがあります。
上記の事例はほんの一例であり、ワンマン経営をおこなう社長のその時々における気分で、賃金の計算結果がブレてしまうことが、小規模の会社では少なからず発生しています。
その結果、支払うべき賃金よりも下回っている場合は、未払い賃金に該当することとなります。
未払い賃金は労働基準法違法の行為
労働基準法第24条において、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定められており、賃金の未払いは第24条に違反することとなります。
また、労働基準法第120条1項において、罰則も定められており、賃金未払いの場合、30万円以下の罰金というペナルティも用意されています。
未払い賃金の時効延長が決定
従来まで、未払い賃金の時効は2年とされていましたが、2020年4月1日より三年に延長されることとなりました。
企業が注意すべき点としては、2020年4月1日以降に支払われる賃金が対象であり、それ以前に支払い義務が発生している未払い賃金に関しては、従来どおり二年の時効のままであるということです。
時効延長の背景には、2020年4月の民法改正があります。
本来、民法において、賃金の支払いに関する時効は、一年と定められていましたが、労働者保護の観点から、労働基準法にて三年間とする特則を置いていました。
ところが、2020年4月の民法改正において、これまで権利の種類ごとに定められていた時効を「権利を行使できると知ったときから五年間、又は権利を行使できるときから十年間」と統一するように改められる運びとなりました。
労働基準法の特則(二年間)の方が短くなったため、賃金未払いの時効も五年間に合わせたうえで、企業側の負担も考慮して、当分の間、時効は三年間と定めたのです。
未払い賃金の時効延長で企業が必要な対応とは
未払い賃金の時効延長によって、企業においては、今後労働者側から請求される可能性のある未払い賃金額は、二年分から三年分になるため、大きなリスクとなる可能性があります。
企業として、時効延長にともなう必要な対応について解説します。
法令や就業規則に則った賃金支払いの徹底
そもそも未払い賃金が存在しなければ、時効が延長されてもとくに懸念することはない為、まずは、未払い賃金をなくすことが一番の近道となります。
そのうえで、法令や就業規則の定め以上に、欠勤控除等で賃金を減らしている企業は、法令の基準以内に修正することが必要です。
労働時間の把握、残業代計算
未払い賃金として厄介なのが、残業代の計算間違いなど、企業も意図していない形で未払い賃金が発生しているパターンです。
このような場合、労働者全員に該当している可能性も高く、規模によっては、会社の存続に影響しかねないほどの未払い賃金額に発展していることも考えられます。
こういった事態を防ぐためにも、労働時間の把握や残業代の割増賃金の計算を見直して、計算間違いによる未払いを防止しましょう。
未払い賃金について正しい理解と対応をおこなおう
近年、インターネットで様々な知識に、一個人が手軽にアクセスできるようになった結果、未払い賃金に関しても個人が正確な金額を計算し、企業に対して請求する事案も多くなっています。
「労働者も知らないから大丈夫だろう」という従来の考え方では、会社のリスクは増大するばかりです。
いま一度、コンプライアンス意識を以って、社内の労務管理体制を見直してみましょう。
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記事監修者:國領卓巳(こくりょうたくみ)
2009年京都産業大学法学部卒業、2010年に社会保険労務士の資格を取得。建設業界、製造業、社会保険労務士兼行政書士事務所での勤務を経て独立開業。行政書士資格も取得。中小企業の社長さん向けに「労務管理代行、アドバイザリー事業」「助成金申請代行事業」「各種補助金(事業再構築補助金、小規模事業者持続化補助金など)」を展開、企業経営をサポートしています。