【社労士監修】受動喫煙防止法とは?義務化の背景や企業がすべき対策を解説

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働き方改革
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【社労士監修】受動喫煙防止法とは?義務化の背景や企業がすべき対策を解説

目次

健康増進法の改正にともない、2020年4月1日より受動喫煙防止法が義務化され、飲食店をはじめとするさまざまな施設で、禁煙・分煙に関する姿勢が大きく変化しました。

受動喫煙防止法は、実は罰則付きの法律であり、守らないと思わぬペナルティをうけてしまう可能性もあります。

本記事では、そんな受動喫煙防止法について、どのような取り組みが求められているのか、企業事例を交えつつ、わかりやすく解説します。

受動喫煙防止法とは

健康被害をもたらす可能性が高い喫煙には、喫煙者本人のみならず、タバコの先端から立ち昇る副流煙を周囲の人が吸い込むことで二次的な健康被害をもたらす「受動喫煙」という問題があります。

オフィスなどで周囲に喫煙する人がいると、受動喫煙を防ぐことは困難なため、非喫煙者であってもタバコによる健康被害をもたらされることは、かねてより問題視されていました。

この問題を解消するために、2002年に健康増進法が制定され、施設等における分煙や禁煙が規定されました。

しかし、この時点では「努力義務」に留まる程度のものであり、実効性に乏しいというのが実情でした。

こういった事情を鑑みて、健康増進法は2018年に改正され、2020年4月1日から、多くの施設を対象に分煙・禁煙のルール化が強化されました。

具体的には後述しますが、分煙や喫煙対策が従来のような努力義務でなく、これに違反すれば、指導・勧告・命令、企業名の公表や罰金というペナルティを受ける可能性がある、より強制力の強い制度となりました。

つまり、改正された健康増進法が、いわゆる受動喫煙防止法であり、この改正により、これまで「マナー」に過ぎなかった分煙・喫煙対策が、強制力を伴った「ルール」に変わったのです。

受動喫煙防止法義務化の背景

受動喫煙防止法の目的は、「望まない受動喫煙をなくす」ことです。

受動喫煙防止法ができた背景には、WHO(世界保健機関)からの評価があげられます。

WHOは、たばこ規制枠組条約(FCTC)において、一定の基準のもと、各国の政策の評価をおこないましたが、ここで日本は、最低ランクの評価をうけています。

また、2020年に東京オリンピック・パラリンピックを控えていたため、政府としても禁煙・分煙対策を推進せざるを得ない状況にあり、受動喫煙防止法の制定の追い風となりました。

また、こうした事情以外にも、受動喫煙に関する訴訟や、条例によるタバコのポイ捨て禁止化など、喫煙に関するルールは、徐々に強化されており、社会的な風潮的にも嫌煙に偏りつつあります。

このような状況の中で、受動喫煙防止法が義務化されるようになりました。

受動喫煙防止法に関連する法律

受動喫煙防止法が義務化された音で、禁煙・分煙はマナーからルールへと変わり、このルールを守らないと、ペナルティを受けることとなります。

では、法律において禁煙・分煙対策はどのようにルール付けされているのでしょうか。

禁煙・分煙対策に関する法律として、以下の4つがあげられます。

  • 健康増進法
  • 労働安全衛生法
  • 安全配慮義務
  • 職場安定法施行規則

それぞれどのように制定されているのかを確認していきましょう。

健康増進法

健康増進法における分煙・喫煙対策は、改正前は努力義務に留まっていましたが、法改正により、罰則付きのルールに変わりました。

前述した通り、健康増進法は受動喫煙防止法とも呼ばれることがあり、日本の分煙・喫煙対策における要といえる法律です。

健康増進法(受動喫煙防止法)では、原則屋内における喫煙を禁止しており、どのような場合に喫煙できる場所を設けることができるのかなどが細かく定められています。

わかりやすく要約すると、飲食店などの建物を利用する人たちの受動喫煙を避けるために、飲食店などを経営するオーナーたちに禁煙・分煙対策を強制する法律となっています。

労働安全衛生法

労働安全衛生法は、労働者が健康で安全に働くことのできる職場環境の構築を企業に義務付けるための法律です。

労働安全衛生法では、従業員の望まない受動喫煙を避けるべく、2015年に受動喫煙対策に関するルールが追加されました。

労働安全衛生法における分煙・喫煙対策は努力義務であり、健康増進法(受動喫煙防止法)と違って罰則は定められていません。

しかし、施設で従業員を雇用する以上、健康増進法(受動喫煙防止法)の対象となり得るため、労働安全衛生法を無視した結果、受動喫煙による健康被害が発生した場合は、この法律を根拠として、大きな責任を負うリスクもあります。

安全配慮義務

労働安全衛生法とも関連していますが、従業員が安全に働ける環境を整えることは、労働契約法や民法の立ち位置からも、「安全配慮義務」という考え方で、企業が責任を負っているととらえることができるでしょう。

つまり、企業として受動喫煙の防止対策を怠り、受動喫煙による健康被害が生じた場合、民事上の責任(従業員への慰謝料支払い義務等)が発生することとなります。

職場安定法施行規則

企業が求人募集をだす際、給与額や休日、労働日数等の各種条件を明示する義務がありますが、職業安定法施行規則の改正にともない、この明示すべき条件のなかに、喫煙に関する項目が含まれるようになりました。

具体的には、「屋内喫煙」「喫煙可」「屋内原則喫煙(喫煙室あり)」といったルールを記載することが求められるようになりました。

受動喫煙防止法の罰則

受動喫煙防止法に違反した場合のペナルティは、以下の3つに分かれています。

  • 指導・助言
  • 勧告・公表・命令
  • 過料(いわゆる罰金)

対象者や義務の内容に応じて、この3つのどれが対象になるか、金額の上限もあわせて規定されています。

たとえば、ある飲食店の喫煙室が法律の基準に適合していない場合、「指導・助言」「勧告・公表・命令」「過料」の対象となり、過料としては50万円以下と定められています。

企業がすべき受動喫煙防止法に関する取り組みとは

受動喫煙の防止が、企業に義務付けられていますが、自分の会社はなにをどこまで取り組めばいいのかわからないという方もいるのではないでしょうか。

受動喫煙防止法が規定するルールについて、わかりやすく整理したうえで、取り組むべき内容を確認していきましょう。

施設ごとの喫煙室の設置ルール

受動喫煙防止法は、施設の種類ごとに喫煙できるエリアの設置に制限をかけています。

法種別 施設例 喫煙の可否 補足
第一種施設 学校、病院、行政機関の庁舎など 施設内禁煙 屋外で受動喫煙を防止するために必要な措置がとられた場所に、喫煙場所を設置することが可能
第二種施設 ホテル・旅館、鉄道、飲食店など 原則屋内禁煙 喫煙を認める場合は喫煙専用室などの設置が必要
経営規模の小さな飲食店(経過措置) 個人又は中小企業が経営する客席面積100m2以下の飲食店 喫煙可能 喫煙可能な場所である旨を掲示することにより、店内で喫煙可能
喫煙目的施設 喫煙を主目的とするバー・スナック、店内で喫煙可能なたばこ販売店など 施設内で喫煙可能 -

たとえば、第一種に区分される学校や病院などの施設では、屋内は全面喫煙(喫煙室の設置も禁止)であり、屋外で受動喫煙を防止するために必要な措置がとられた場所にのみ、喫煙場所を設置することが可能です。

一方、第二種に区分される、ホテル・旅館や鉄道、一定規模以上の飲食店などの施設では、喫煙ルームを設置していれば、その部屋だけは屋内喫煙が可能となっています。

くわえて、一定の規模以下の飲食店であれば、分煙対策を施すことで、喫煙可能な客席を設けることも可能とされています。

このように、施設の種類ごとに規制の強さが定められているため、施設の種類や規模に応じて取り組むべき対策は異なります。

自社の施設がどの区分に該当するかを確認し、対策に取り組むようにしましょう。[※1]

社内の喫煙状況を把握する

受動喫煙対策に取り組む際は、社内の喫煙者の状況を把握し、喫煙者に対する非喫煙者の意識調査もおこなっておくようにしましょう。

社内の喫煙状況をしっかり把握しておくことで、社内における喫煙ルールの策定において、どれだけ強いルールを作るのかや、どのような設備が適当かを見極めることができます。

たとえば、社内の喫煙者の割合が多いなかで、非喫煙者の意識調査の結果、「喫煙者だけタバコ休憩なるものがあって、休憩が非喫煙者と比較して長いのではないか」という声があがってきた場合、ある程度の広さのある喫煙ルームを設けることにくわえて、喫煙時間に関しても「1日x回、1回につきx分まで」と制限を設けて、非喫煙者の理解を得られる体制にしておくことが望ましいでしょう。

喫煙ルールの内容を適正にするためにも、非喫煙者側の意見も含めて、社内の喫煙状況を把握しておくことが大切です。

社内設備を整備する

社内の状況把握を経て、社内の喫煙ルールを策定し、必要な設備投資をおこないましょう。

社内の状況を把握できていれば、必要な設備や機能も自ずと見えてくるはずです。

たとえば、喫煙可能とするのであれば、職場における空気清浄機の設置など、どの程度まで、非喫煙者に配慮した設備投資が必要なのかも、ある程度の判断が可能となるでしょう。

また、全面禁煙といった施策に踏み切る場合、設備投資とは別に、禁煙を強制される喫煙者のケアにも配慮する必要があります。

たとえば、禁煙セラピーの費用負担や禁煙に成功した場合に別途、なんらかのインセンティブを設けるといった内容です。

もちろん、非喫煙者との間でアンバランスが生じないように、デリケートな判断が必要となりますが、全面禁煙はそれだけ根本的な問題解決をもたらすこととなります。

受動喫煙に関する研修を実施する

喫煙や受動喫煙が健康に及ぼす悪影響は、一般的にはある程度周知されていますが、社内の状況によっては、いま一度、研修を実施し、社内の意識付けをおこなうことで、各種の取り組みを円滑に進めることができるでしょう。

この研修が必要か否かの判断についても、前述した社内の状況把握が肝となります。

受動喫煙対策と健康経営の関係

「健康経営優良法人」という認定制度があることをご存知ですか。

「健康経営優良法人」とは、端的にいえば、従業員の健康に配慮している企業がうけることができる認定です。

企業イメージや生産性の向上のみならず、金融機関の融資面で優遇されるといったメリットがあり、ここ数年で認定企業が急激に増加しています。

この認定をうけるには、各種の基準を満たす必要がありますが、2019年より、受動喫煙対策が、この基準の必須項目に組み込まれています。

つまり、「健康経営優良法人」として、金利面等で各種のメリットを享受するには、もはや受動喫煙対策は避けて通れないものとなっているのです。

 

受動喫煙防止法に関する企業の取り組み事例

受動喫煙防止法の取り組みをはじめる際に参考になる企業事例を2つ紹介します。

自社における取り組みのヒントとして、ぜひ参考にしてみてください。

「社員の健康は財産」を理念に「卒煙環境」を整備した事例

エネルギー・住宅関連など、幅広い商材を取り扱うある商社では、社内の喫煙室をすべて廃止し、社内を全面禁煙にしました。

当初「喫煙室による分煙で十分では」という意見もあったものの、全社的な健康意識の高さもあり、全面禁煙に踏み切りました。

しかし、一方的な禁煙ではなく、禁煙治療の補助にくわえ、禁煙達成者に補助を支給する「卒煙サポート」を実施するなどのフォローもおこない、従業員がいきいきと健康に能力を発揮できる職場環境づくりに成功した事例です。[※2]

130年の歴史をもつ料理店の受動喫煙対策

川魚料理を提供するある老舗料理店は、お客様や従業員からのタバコの臭いで不快な場面があるといった声をうけ、部分的な禁煙からスタートし、現在では店内の全面禁煙に取り組んでいます。

対策以前は、喫煙ルールを守らないお客様がいることによるクレームが発生したり、タバコの火を落として畳が焦げてしまい火災に発展しかけたりといったトラブルがありましたが、全面禁煙に成功した現在では、そういったトラブルも発生せず、すべてのお客様に居心地の良い空間を提供できている事例です。[※3]

受動喫煙の防止で健康経営を目指しましょう

動喫煙防止法におけるルールや取り組み事例について解説してきました。

禁煙・分煙に関しては年々ルールが厳しくなっていますが、それだけ、受動喫煙は非喫煙者にとっては健康リスクを高めるものであり、対策が必要な課題のひとつであると考えることができます。

しかし、企業のなかには、受動喫煙対策について未だに手つかずの企業が多いことも事実です。

今回の記事の内容を参考に、まずは、コンプライアンス上、自社がクリアしなければいけない内容を把握し、社内の状況を調査することからスタートしてみましょう。

そして、自社に最適な受動喫煙対策を模索してみてください。

社内の状況把握のステップにおいては、効率的にコミュニケーションを図ることができるビジネスチャット「Chatwork」の活用がおすすめです。

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また、社内の受動喫煙防止対策の方針の共有や、今後の動きについても随時情報共有を実施することで、全従業員を巻き込んで、喫煙対策を進めることができるでしょう。

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[※1]出典:受動喫煙対策|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000189195.html
[※2]出典:全国の受動喫煙対策事例「鈴与商事」|厚生労働省 受動喫煙対策サイト
https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/example/area5.php
[※3]出典:全国の受動喫煙対策事例「株式会社 魚勝」|厚生労働省 受動喫煙対策サイト
https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/example/area5_4.php
※本記事は、2023年6月時点の情報をもとに作成しています。


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Chatworkのお役立ちコラム編集部です。 ワークスタイルの変化にともなう、働き方の変化や組織のあり方をはじめ、ビジネスコミュニケーションの方法や業務効率化の手段について発信していきます。

記事監修者:國領 卓巳(こくりょう たくみ)

2009年京都産業大学法学部卒業、2010年に社会保険労務士の資格を取得。建設業界、製造業、社会保険労務士兼行政書士事務所での勤務を経て独立開業。行政書士資格も取得。中小企業の社長向けに「労務管理代行、アドバイザリー事業」「助成金申請代行事業」「各種補助金(事業再構築補助金、小規模事業者持続化補助金など)」を展開、企業経営のサポートをおこなう。

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受動喫煙防止法に関するQ&A

「受動喫煙防止法」とは?

非喫煙者のタバコによる健康被害問題を解消するために2002年に制定された「健康増進法」における、実効性の乏しさなどを解消すべく、2020年4月1日から多くの施設を対象に分煙・禁煙をルール化した、より強制力の強い制度です。

改正された健康増進法が、いわゆる「受動喫煙防止法」であり、この改正により、これまで「マナー」に過ぎなかった分煙・喫煙対策が、強制力を伴った「ルール」に変わりました。

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