【社労士監修】同一労働同一賃金とは?改正のポイントや目的を解説

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働き方改革
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【社労士監修】同一労働同一賃金とは?改正のポイントや目的を解説

目次

同一労働同一賃金とは、企業内で働く正社員と非正規社員の間に存在する不合理な待遇差を解消するための制度です。

正社員と非正規社員が同じ仕事をしているにも関わらず、賃金や福利厚生などの待遇が異なる状況を改善することを目的としています。

本記事では、同一労働同一賃金に伴う具体的な改正ポイントや制度内容を詳しく解説します。

同一労働同一賃金の目的とは

同一労働同一賃金とは、企業内で働く正社員と非正規社員との不合理な待遇差(合理的でない待遇差)を解消するために導入された制度です。

労働者がいかなる雇用形態を選択した場合でも、適切な処遇が受けられる環境を整備することを目的に導入されました。[※1]

不合理な待遇差がなくなれば、労働者が自由に働き方を選択できるようになり、多様な働き方を実現できるとして政府が推進しています。

同一労働に含まれる労働とは

「同一労働」に含まれる労働とは以下のように分類されます。[※2]

  • 業務内容
  • 業務に伴う責任の程度
  • 配置変更の範囲
  • その他の事情

それぞれの項目を詳しく解説します。

業務内容

業務内容は「職種」と「中核的業務」で判断します。

職種とは販売職や事務職、製造業など従事する業務のことです。

そして中核的業務とは、業務のうち職種を代表する中核的なもので、不可欠な業務を指します。

つまり、業務内容の判断においては、業務の種類(職種)と従事している業務のうち中核的業務が実質的に同じかどうかで判断されます。

業務に伴う責任の程度

業務に伴う責任の程度とは、権限の範囲や責任の度合いをいいます。

たとえば「単独で決裁できる金額の範囲」「管理する部下の人数」「職場において求められる役割」などのことです。

これらの権限や責任の程度が著しく異ならないかどうかで責任の程度が判断されます。

配置変更の範囲

配置変更の範囲とは、将来の見込みも含め、転勤や昇進など、人事異動や職務内容の変更範囲のことをいいます。

また、配置変更の範囲は、人事制度の運用も含めた実質的な内容から判断されます。

その他の事情

その他の事情とは、不合理な待遇差を判断する際に、考慮すべき職務の内容や配置の変更の範囲以外の事情で個々の状況に合わせてその都度検討される項目です。

その他の事情としては、成果や能力、経験などが想定されています。

同一労働同一賃金は義務なのか

同一労働同一賃金には罰則規定がなく、不合理な格差是正について義務化は明確にされていません。

ただし、不利益な取り扱いや待遇の格差によって従業員から訴訟が起きることもあり、最終的には司法の判断に委ねられます。

なお、非正規社員から正社員との待遇差について説明を求められたときについては、企業側に説明義務が課されています。

パートタイム・有期雇用労働法とは

同一労働同一賃金の考え方は、2020年4月に施行された「パートタイム・有期雇用労働法」に示されています。

具体的には、パートタイム労働者や有期雇用労働者の待遇については、正社員との間で均等・均衡待遇の確保を図るための措置を講ずるよう規定されています。[※3]

では「均等待遇」と「均衡待遇」を確保するための措置とはどういった意味なのでしょうか。

ここでは2つの待遇の意味を詳しく解説します。

均等待遇

パートタイム・有期雇用労働法の9条では、「職務の内容や配置の変更の範囲が正社員と同一の場合は、非正規社員であることを理由として待遇の差別的取扱いをしてはならない」と定められています。

これを「均等待遇」といい、雇用形態に関係なく、業務内容が同じで、かつ配置転換など対応も同じであれば、待遇の差別を禁止しているものです。

均衡待遇

均衡待遇は「職務の内容」と「配置の変更の範囲」が異なる場合に適用されます。

パートタイム・有期雇用労働法の8条では、「それぞれの待遇について正社員と非正規社員の間で、職務の内容や配置の変更の範囲、他の事情のうち、その待遇の性質・目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない」としています。

これを「均衡待遇」といい、業務内容や配置転換などが異なっている場合でも「不合理な格差」を禁止しているものです。

パートタイム・有期雇用労働法では、均等待遇と均衡待遇の基準をもとに、それぞれの待遇について不合理な格差がある場合には格差の是正を求めています。

同一労働同一賃金の対象とは

同一労働同一賃金では、以下4つの待遇について格差の解消を求めています。[※4]

  • 基本給
  • 賞与
  • 各種手当
  • 福利厚生・教育訓練

それぞれの待遇を詳しく解説します。

基本給

基本給は、労働者の能力や成果、勤続年数などに応じて支払うものです。

同一の業務に従事しており、能力などに違いがなければ、雇用形態に関わらず同額の基本給(時給単価)にする必要があります。

ただし、能力や経験などに違いがあれば、違いに応じた支給を行わなければいけません。

たとえば、能力や経験に応じて基本給を支給している企業で、正社員が全く経験をしていない業務に従事した場合は、正社員という理由のみで基本給が非正規社員より高くなるのは問題となる可能性があります。

また、昇給についても基本給と同様、実態として同等であれば非正規社員も昇給する必要があります。

賞与や各種手当

賞与は、業績の貢献に応じて支給するものであれば、雇用形態にかかわらず、貢献に応じて支給しなければいけません。

ただし、業務内容や責任の程度、配置転換の違いなどを踏まえて賞与額を決定する場合は、合理的な差と判断されます。

たとえば、正社員には職務内容や業績への貢献にかかわらず賞与を支給している一方で、非正規社員には支給していない場合は、問題になる可能性があります。

また、役職手当などの各種手当は、職務内容や責任の度合いに応じて金額が決まっていますが、すべての手当がそうではありません。

「通勤手当」や「皆勤手当」のように、職務内容や責任に直接関係がない手当が雇用形態の違いで支給していない場合は不合理な待遇差となるため、待遇差を解消する必要があります。

福利厚生・教育訓練

食堂・休憩室・更衣室といった福利厚生施設の利用や健康診断に伴う勤務免除、病気休職の付与などは、雇用形態にかかわらず同一の利用・付与を行わなければなりません。

また、教育訓練も、同一の職務内容の従業員に対して現在の職務に必要な技能・知識を習得するために実施するものについては、雇用形態にかかわらず実施する必要があります。

退職金

退職金については、厚生労働省のガイドラインで明確に定義されていません。

しかし、職務内容や配置転換の有無といった合理的な理由があれば、非正規社員の退職金に格差があっても不合理ではないという判例が出ています。

正社員にのみ退職金を支給する場合には、退職金の支給目的に加え、職務の内容や配置転換の有無などを明確にし、不合理な格差をなくす必要があります。

同一労働同一賃金のメリット

同一労働同一賃金を導入することによって、企業には以下のメリットがあります。

  • 企業イメージの向上
  • モチベーションの向上

それぞれのメリットを詳しく解説します。

企業イメージの向上

従業員に対して公正な待遇を提供する姿勢は、社会的責任を果たしている企業としての評価を高めます。

その結果、社内外からの信頼を得ることができ、企業イメージの向上につながるでしょう。

また、企業イメージが向上すれば、採用においても有利になります。

公正な待遇を受けられると認知されれば、企業としての魅力が高まり、人材の確保や定着につながるでしょう。

モチベーション向上

不合理な待遇差がなくなることで、従業員が仕事への公正な評価を感じることができ、モチベーションの向上につながります。

従業員は、自身の貢献が適切に評価されていると感じることができ、やりがいを持って業務に取り組むことができるでしょう。

モチベーションの向上は生産性向上にもつながり、結果として企業の業績向上に寄与します。

同一労働同一賃金のデメリット

同一労働同一賃金の導入はメリットだけではありません。以下のデメリットもあります。

  • 人件費が増大する
  • 制度を整備する必要がある

それぞれのデメリットを詳しく解説します。

人件費が増大する

非正規社員の賃金の見直しは、正社員の待遇を引き下げることは望ましい対応とはいえません。[※4]

そのため、非正規社員の待遇を引き上げることになり、人件費の増大につながる可能性があります。

企業はこれに対応するため、賃金の見直しや予算の再配分が必要になるでしょう。

制度を整備する必要がある

同一労働同一賃金の導入には、その原則に則った就業規則や賃金規定、人事制度など、さまざまな見直しが必要になる可能性があります。

また、非正規社員から正社員と待遇差について説明を求められたときは、それに応じる義務があるため、説明するための資料も必要になるでしょう。

制度を整備するにあたっては、相応の時間を要するため、計画的に実施する必要があります。

同一労働同一賃金の導入の流れ

同一労働同一賃金の導入には、対応する必要があるか否かを含め、以下の手順で実施しましょう。[※4]

  1. 該当の労働者がいるか確認する
  2. 待遇差が生じているか確認する
  3. 待遇差に合理性があるか確認する
  4. 合理性がない部分を改善する

順を追って解説します。

手順(1):該当の労働者がいるか確認する

まず、該当の労働者がいるかの確認を行います。

社内でパートタイマーや有期雇用労働者を雇用している場合は、同一労働同一賃金の対象企業です。

なお、正社員のみを雇用している場合は非正規社員がいないため、同一労働同一賃金の対象となりません。

手順(2):待遇差が生じているか確認する

対象となる労働者(パートタイマーや有期雇用労働者)ごとに、給与や賞与、福利厚生などの待遇について、正社員と取り扱いの違いがあるかどうか確認します。

それぞれの待遇をひとつひとつ書き出して、待遇差があるか確認しましょう。

手順(3):待遇差に合理性があるか確認する

正社員と非正規社員で、待遇が異なるものを洗い出し、働き方や役割などの違いに見合ったものといえるか確認しましょう。

待遇に違いがある場合は「なぜ待遇の違いを設けているのか」それぞれ明確にする必要があります。

手順(4):合理性がない部分を改善する

正社員と非正規社員で待遇の違いで、合理性がない部分は改善に向けて検討を行いましょう。

改善の必要がある部分は後々トラブルが起きないよう、労働者の意見も聴取し、計画的に取り組むことが大切です。

なお、就業規則等を改定した場合は、労働者に周知しなければいけません。

同一労働同一賃金の注意点

同一労働同一賃金では賃金を上げるだけではなく、正社員の仕事量や責任を増やしたり、非正規社員の仕事量を減らしたりなど、待遇差に合理性を持たす行為は法律上で禁止されていません。

ただし、賃金が変わらない分、従業員のモチベーションが下がる可能性があるため、注意が必要です。

同一労働同一賃金導入の際には、規定や待遇の見直しだけではなく、仕事量や責任の度合いの見直しを含め、さまざまな観点で検討を行いましょう。

同一労働同一賃金の促進に「Chatwork」

同一労働同一賃金とは、企業内で働く正社員と非正規社員の間に存在する不合理な待遇差を解消するための制度です。

基本給や各種手当、賞与、退職金など、ひとつひとつの待遇について不合理な待遇差を解消しなければいけません。

また、企業側は、非正規社員から正社員との待遇差について説明を求められた場合、説明を行う義務があります。

同一労働同一賃金の導入は、従業員の意見も聴取しつつ、計画的に取り組むことが大切です。

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メールや対面でのコミュニケーションよりも意見のくみ取りがしやすくなるため、同一労働同一賃金の導入を効率的に進められるでしょう。

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[※1]出典:政府広報オンライン「2021年4月1日からパートタイム・有期雇用労働法が中小企業も適用に。」
https://gov-online.go.jp/useful/article/202004/2.html#gotoPageTop
[※2]出典:厚生労働省「不合理な待遇差を点検・検討する枠組み、留意点」
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000494538.pdf
[※3]出典:厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法のあらまし」
https://www.mhlw.go.jp/content/001116249.pdf
[※4]出典:厚生労働省「同一労働同一賃金について」
https://jsite.mhlw.go.jp/ibaraki-roudoukyoku/content/contents/000831888.pdf

※本記事は、2023年9月時点の情報をもとに作成しています。


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Chatworkのお役立ちコラム編集部です。 ワークスタイルの変化にともなう、働き方の変化や組織のあり方をはじめ、ビジネスコミュニケーションの方法や業務効率化の手段について発信していきます。


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記事監修者:北 光太郎

きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。

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