【社労士監修】安全配慮義務とは?違反の罰則や義務の範囲、対策を解説

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働き方改革
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【社労士監修】安全配慮義務とは?違反の罰則や義務の範囲、対策を解説

目次

本記事では、「安全配慮義務」をテーマに、その定義や実際どのような取り組みが求められているのか、また、違反した際の罰則や実際の事例について分かりやすく解説しています。

安全配慮義務とは

労働契約法という法律の第5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定めています。

つまり、会社は従業員が健康かつ安全に働けるように、様々な配慮を行うことを義務付けられています。

この説明だけでは、大雑把なのでいまいちピンと来ない人も多いでしょう。

ここでは、安全配慮義務という考え方が法律に明記されるに至るまでの背景について、解説していきます。

安全配慮義務ができた背景・目的

安全配慮義務という概念が示されたのは、「陸上自衛隊事件」(最高裁昭和50年2月25 日第三小法廷判決)であり、これは自衛隊員が自衛隊内の車両整備工場で車両を整備していたところ、後退してきたトラックにひかれて死亡し、遺族が損害賠償を求めて提訴した事件です。

この事件の判決において、国家公務員法に基づき、国には、公務員が公務を遂行する際は、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮する義務があると示されました。

この事件を皮切りに、国や企業の安全配慮義務を問う判例が積み重ねられ、労働契約法において安全配慮義務に関する規定が定められるに至ったのです。

安全配慮義務の対象者

自社に雇用されている従業員であれば、正社員・契約社員・パート・アルバイト問わず、安全配慮義務の対象となります。

では、会社に直接雇用されていない派遣社員や下請会社の従業員の場合はどうでしょうか?

これに関しては、派遣元や下請会社が安全配慮義務を負うのが原則となっていますが、派遣社員や下請会社の従業員であっても、派遣先会社・元請会社に安全配慮義務があるとした判例もあります。

たとえば、元請会社の用意した就業環境で、下請会社の従業員が働く場合などがイメージしやすいでしょう。

安全配慮義務の範囲とは

安全配慮義務には、大きく分けて、健康配慮義務と職場環境配慮義務という考え方があります。

健康配慮義務

過労やメンタルへの過度な負担により、従業員の心身への健康に悪影響が出ないようにする配慮を指します。

具体的に義務付けられているものとしては、健康診断や労働時間管理、メンタルヘルス対策などがあります。

メンタルヘルス対策の義務化に関しては、歴史も浅く、まだ手探りの域を出ない部分もありますが、健康診断や労働時間管理は、労働基準法などで頻度や基準が定められています。

たとえば、労働時間管理においては、1か月100時間または、平均して80時間を超える残業の結果、過労死等が発生した場合、安全配慮義務違反となる可能性が高くなります。

職場環境配慮義務

従業員に対して、快適な職場環境を提供するよう配慮する義務であり、当初は、物理的な安全(職場の温度や湿度、機器のメンテナンスや機械の取り扱いなど)に対してフォーカスされていました。

しかし近年、職場でのいじめやハラスメントなどにより、うつ病の発症や自殺に至るケースの増加を鑑みて、「いじめやハラスメントのない快適な職場環境」という側面も含まれることとなりました。

安全配慮義務の違反とは

安全配慮義務に基づく対策を怠った結果、労災事故やパワハラ、過労死などが発生した場合、企業側は、民法における不法行為や使用者責任などを根拠として、損害賠償などの民事上の責任を問われることとなります。

安全配慮義務違反の判断基準

安全配慮義務の違反は、損害賠償による経済的な損失だけでなく、企業へのイメージも大きく損ねてしまう一大事となるため、コンプライアンスの観点からも、義務違反の判断基準は押さえておく必要があります。

労働に関するトラブルが発生した場合、安全配慮義務違反かどうか、その判断は、以下の3つがチェックされることとなります。

  1. 義務を果たしているか
  2. 安全配慮義務違反が関係しているか
  3. 予見可能性・回避可能性の有無

(1):義務を果たしているか

当然ながら、先述した健康配慮義務や職場環境配慮義務に基づく対策を怠っていることが分かれば、安全配慮義務に違反している可能性は高くなります。

健康配慮義務や職場環境配慮義務に関する取り組みは、法令以外にも定められており、画一的に判断することが難しい場面もあり、新型コロナウイルスなどの未曽有の感染症への対策に関して大きな混乱があった出来事は、記憶にも新しいはずです。

(2):安全配慮義務違反が関係しているか

次に、労災や傷病などのトラブルと、上記の安全配慮義務違反の間に因果関係があるかどうかも重要な焦点となります。

たとえ、安全配慮義務違反があったとしても、労災や傷病と結びつくものでなければ、日本の法律の慣習上、民事上の責任を求めることはできません。

もっとも、民事上の責任は問われなくても、必要な取り組みを怠っている以上、他の法令に抵触していれば、別途ペナルティを受ける可能性は考えられます。

(3):予見可能性・回避可能性の有無

従業員の心身を害することが予測できたか?また、そのような被害を回避できたか?という論点であり、そのトラブルが不可抗力によるもの(たとえば、不測の事故や突発的な体調不良による傷病など)であれば、安全配慮義務違反を問うことは難しくなります。

安全配慮義務違反の実例

ここでは、参考程度に安全配慮義務について違反の判決を受けた実例について、その概要を紹介しましょう。

広告代理店で起こった過労自殺事件

新入社員の従業員が、長時間に渡る時間外労働により、うつ病を発症し自殺し、遺族が損害賠償を請求した事件です。

本件では、自殺した従業員の上司達は健康状態の悪化を把握していたにもかかわらず、負担を軽減させるための措置を怠ったと認められており、最終的には遺族への謝罪と再発防止策の徹底及び、約1億6,800万円を支払うことで和解が成立しました。

職場でのいじめによる自殺事件

とある病院に勤務する従業員に対して、先輩従業員が悪質ないじめを繰り返した結果、自殺に追い込まれた事件で、いじめを行っていた加害者には、慰謝料1,000万円の支払いが命じられました。

また、いじめが職場で行われており、いじめの実態は病院側も把握可能であったにもかかわらず、これを防止する措置を怠ったとして、安全配慮義務の債務不履行が認められ加害者と連帯して慰謝料の支払いを命じる判決が下されました。

安全配慮義務を果たすための取り組み

次に、企業として安全配慮義務に違反しないように、どういった取り組みが必要か、以下のような内容が挙げられます。

  • 労働時間の把握・管理
  • 安全衛生委員会の設置
  • 快適な職場環境の整備
  • ハラスメント対策
  • ストレスチェックの実施
  • 健康診断の実施
  • 産業医面談の実施

それぞれ詳しく解説します。

労働時間の把握・管理

主に、時間外労働に関する規制、つまり過度な残業をさせないように、実態の把握、時間外労働時間のコントロールをする必要があります。

うつ病や労災の場合、このあたりの管理が行われていたかどうかは、出勤簿などの帳簿類から客観的に判断されることとなります。

また、帳簿類も保管義務が労働基準法によって義務化されているので、この部分を怠れば様々なリスクを負うこととなりますので、しっかりと対策しましょう。

安全衛生委員会の設置

安全委員会は、常時従業員が50人以上で一定の業種の職場で設置が義務付けられています。(常時従業員が100名以上の職場では「業種問わず」)

衛生委員会は、業種問わず常時従業員が50名以上の職場は、設置義務の対象です。

これらの委員会では、安全衛生に関する事項について定期的に審議する機会を設ける必要があり、議事録等も3年間保存義務があります。

委員会の設置や審議の運営も、議事録等の客観的証拠の有無やその内容で義務が守られているか判断ができる為、規模的に該当する企業は注意が必要です。

快適な職場環境の整備

前述の2点と異なり、「快適な職場環境」という考え方は、職場の温度や湿度、休憩室や設備といったハード面でのとらえ方と、人間関係のようなソフト面でのとらえ方があり、どこまでの取り組みが必要かは、企業の実態によるところも大きいと言えます。
近年では、後者の人間関係に重きを置いた取り組みを行い「風通しの良い職場づくり」を推進している企業も多く見受けられます。

ハラスメント対策

セクシュアルハラスメント(セクハラ)、パワーハラスメント(パワハラ)の他にも、アルコールハラスメント(アルハラ)やマタニティハラスメント(マタハラ)など、様々なハラスメントが定義づけされており、ハラスメントに端を発する問題も少なくありません。

企業として、ハラスメントは決して許さないという姿勢を示す姿勢と、ハラスメントの早期処理を行う窓口の設置や相談方法の周知を行う対応が、主なハラスメント対策であると言えます。

ストレスチェックの実施

2015年から、従業員が50人以上の職場では、一部の従業員を除き、ストレスチェックを実施することが義務付けられるようになりました。

ストレスチェックの実施は、法令で定められた医師(産業医)、保健師、精神保健福祉士等の資格者に限定されている上、ストレスチェックの結果を労働基準監督署に報告する義務もあるので、従業員規模が近い企業は、制度内容についてしっかりチェックしておきましょう。

健康診断の実施

企業は年に1回、従業員に対して定期的に健康診断を実施する義務があり、診断結果によっては、医師による面接指導、意見聴取を行う必要があります。

中小零細企業を中心に健康診断が疎かになっている企業も見受けられますが、健康リスクの早期発見、早期対処することは、企業、従業員共に大きな意味を持つので、定期的な診断は欠かさず実施するようにしましょう。

産業医面談の実施

産業医と連携しておけば、企業として義務付けられている健康面やメンタルヘルスに対するケアを抜け漏れなく実施できるため、企業として安全配慮義務違反に問われるリスクの軽減にも繋がります。

健康診断やストレスチェックの結果をもとに、リスクが高い従業員に対しても必要な面談を行うことで、健康・安全に配慮した職場づくりを推進しましょう。

海外勤務者に対する安全配慮義務

最近では、グローバル化に伴い海外赴任する従業員も増えています。

海外で勤務する従業員に対する安全配慮義務について、以下のような内容が挙げられます。

  • 赴任前の予防接種
  • 治安や危険性への配慮
  • 健康や安全に関する事前研修
  • メンタルサポート

それぞれ詳しく解説します。

赴任前の予防接種

赴任先で感染した場合、言語が通じない状況から医療機関にかかるまでの期間が空いてしまい、重症化するケースも見受けられます。

たとえ、経済的に発展している赴任先であっても、隣接する途上国や新興国から蚊を媒介した感染症などが流行する可能性もある為、必要に応じて予防接種を受けておくことが無難です。

治安や危険性への配慮

赴任先によっては、従業員が安全に宿泊できるように、企業側が適切な施設を手配・確保する必要があるほか、現地の危険性や緊急連絡先を提供する外務省の「海外安全ホームページ」も活用して必要な情報の収集、赴任者への共有といった対策を求められる場合も想定されます。

健康や安全に関する事前研修

現地における食べ物や想定される疾病や感染症についても、赴任先特有のもので特にリスクが高い事項については、赴任前に事前研修という形で従業員と企業の間で共通認識を形成しておくとよいでしょう。

また、その地域特有のビジネスのやり方やマナー等についても事前に把握させておく必要があります。

メンタルサポート

海外赴任では環境が大きく変わる事から、これに慣れるまでには従業員とその家族に大きなストレスが掛かることが容易に想定できます。

とくに、始めの頃は慣れるまでの個人差もあり、メンタル面で不調を訴える人も少なくありません。

日本国内と違って気軽に相談できる人も少なくなるため、人事労務担当の部門による巡回やテレビ電話等のコミュニケーションの機会を設けるなどの対策も検討するべきでしょう。

快適な職場環境づくりにも「Chatwork」

現在は、働き方や価値観も多様化しており、企業の安全配慮義務は、より複雑で煩雑なものになる状況が予想されます。

とくに、経営リソースの限られる中小零細企業では、こういった安全配慮義務を遵守することが困難な場面もあるかもしれませんが、まずは優先順位を見極めつつ、職場の実態に即した快適な職場づくりを推進していきましょう。

また、企業の安全配慮義務を果たす上では、企業と従業員のコミュニケーションは必須であり、情報の共有がしやすい環境もまた、「快適な職場環境」であると言えます。

「Chatwork」は、感覚的な操作で初見でも操作がしやすく、必要に応じてグループ分けできるチャット機能に加え、掲示物などの添付ファイルも長期間保存されるため、従業員とのコミュニケーションツールとして導入される企業も増えています。

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Chatworkのお役立ちコラム編集部です。 ワークスタイルの変化にともなう、働き方の変化や組織のあり方をはじめ、ビジネスコミュニケーションの方法や業務効率化の手段について発信していきます。

記事監修者:國領卓巳(こくりょうたくみ)

2009年京都産業大学法学部卒業、2010年に社会保険労務士の資格を取得。建設業界、製造業、社会保険労務士兼行政書士事務所での勤務を経て独立開業。行政書士資格も取得。中小企業の社長向けに「労務管理代行、アドバイザリー事業」「助成金申請代行事業」「各種補助金(事業再構築補助金、小規模事業者持続化補助金など)」を展開、企業経営のサポートをおこなう。

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