2024年の介護保険法の改正内容とは?【専門家監修】でわかりやすく解説
目次
2000年4月に施行された介護保険法は、2024年に久しぶりの大改正がおこなわれます。
本記事では、改正のポイントや目的・法整備の背景などについて、過去の改正や老人福祉法との違いなどに触れながら、詳しく解説していきます。
介護保険法とは
介護保険法は、介護や支援が必要な人々に対して、介護や介護予防に要した費用の一部を給付する制度を定めた法律で、1997年12月に国会で成立し、2000年4月から施行されました。
40歳以上のすべての人が被保険者となり、被保険者は、要介護度や要支援度の認定を受け、定められた負担割合で介護や支援サービスを利用することができます。
介護保険法によるサービスは、居宅サービス・施設サービス・地域密着サービスの3種類に分類されます。
- 居宅サービス:自宅での介護を支援するサービス
- 施設サービス:介護施設でのサービス
- 地域密着サービス:地域での生活を支援するためのサービス
介護保険の自己負担額は基本的には1割ですが、所得によって2割と3割の負担が設けられています。[※1]
介護保険法ができた背景・目的
介護保険法が2000年に施行された背景には、高齢化に伴って増加する社会保障費の財政圧迫や、バブル経済崩壊による税収の減少といった課題があります。
また、高齢化が進む中で、増加する要介護状態の人々への適切なケアや支援の必要性が高まったことも背景のひとつです。
介護保険法の目的は、介護や支援が必要な人々が自立した日常生活を送れる環境を整えることです。
加齢に伴って生ずる心身の変化により要介護状態となり、入浴や排せつ・食事などの介護、機能訓練や看護・療養上の管理などの医療を必要とする人々に対して、尊厳を保持したまま適切な支援とサービスを提供します。
この目的を実現するために、市町村や特別区が保健医療サービスや福祉サービスを提供し、介護保険制度を運営しています。
介護保険法の制定により、適切な介護や支援の提供をおこないながら、社会全体で負担を分担し、持続可能な制度を構築する方向が明確になりました。[※1]
介護保険法と老人福祉法との違い
介護保険法と老人福祉法は、どちらも日本の高齢者福祉を担当する法律ですが、それぞれ異なる目的と対象を有しています。
老人福祉法は、高齢者福祉を担当する機関や施設、事業に関するルールについて定めた法律です。
この法律は、都道府県と市区町村に対して老人福祉計画の作成を義務付け、老人福祉施設や老人居宅生活支援事業(在宅福祉事業)などについて規定しています。
老人福祉法は、高齢者福祉の施策やサービスの提供体制を整えることを目的としており、有料老人ホームも対象です。
一方、介護保険法は、介護が必要となった高齢者とその家族を社会全体で支えていくための制度を定めた法律です。
介護保険制度は、要介護状態となった人々に対して介護や支援を提供し、その費用を一部給付する仕組みです。
両者はそれぞれ異なる目的と対象を持ちながら、高齢者福祉の施策やサービスの整備を補完しあっています。
介護保険法に基づく介護保険制度
介護保険法に基づく介護保険制度は、高齢者や介護が必要な人々を社会全体で支えるための制度です。
この制度は、国民が負担する保険料や税金を財源として、介護を必要とする人々に給付され、自立した日常生活を継続できるようにすることを目的とし、介護保険法第1条に記載されております。
介護保険制度では、介護保険法に基づいて給付の負担額や施設運営の基準など、具体的な決まりが施行令や施行規範で細かく定められています。
介護保険法の改正
介護保険法は定期的に改正されており、2000年施行されてから、過去6回改正されています。
各年の改正ポイントに触れながら、2024年の改正内容について解説していきます。
2005年度の改正
介護保険法の施行後、初めての改正が2005年におこなわれました。
2005年介護保険法改正は、高齢社会の課題への対応や介護保険制度の充実を目指したものでした。
具体的な改正内容では、介護予防やリハビリテーションの推進・中重度者への支援の充実・認知症ケアの充実などが改正されています。[※2]
2008年度の改正
2008年の介護保険法改正では、介護保険法の施行令が改正されました。
主な改正内容は、大手介護サービス事業者における介護報酬の不正請求問題を受けて、介護サービス事業者に法令順守や業務管理体制の整備が義務付けられました。
これにより、介護サービスの質の向上と公正な運営を促すための措置が取られました。[※3]
2011年度の改正
2011年介護保険法改正は、「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」としておこなわれました。
この改正の目的は、介護サービスの基盤強化と地域包括ケアシステムの強化による高齢者の生活支援の充実を図ることでした。[※4]
2015年度の改正
2015年におこなわれた介護保険法改正は、2008年に福田内閣が設置した社会保障国民会議の報告に基づき、同年12月に「持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた中期プログラム」が閣議決定されたことに端を発しています。
この改正は、社会保障制度の持続可能性と財源の確保を目指すものでした。[※5]
2018年度の改正
2018年介護保険法改正は、「地域包括ケアシステムの推進」「自立支援、重度化防止に向けた保険者機能の強化」「介護人材の確保、生産性向上」「介護保険制度の安定性・持続可能性の確保」の4つの柱に基づいて実施されました。
この改正による主な変更点は、自己負担の変更や介護保険料の所得に応じた調整などの財源に関わる部分や、認定の有効期間延長や共生型サービスの導入など利用者側の利便性向上を目指した内容でした。[※6]
2021年度の改正
2021年介護保険法改正については、比較的小規模な改革に留まっており、その主な内容は、通いの場の充実とボランティアへのポイント制の導入、社会福祉連携推進法人の創設、重層的支援体制整備事業の創設といったものでした。
介護事業者に直接に影響のある改正は、2024年改正に先送りされました。[※7]
介護保険法が3年で改正される理由
介護保険法は、高齢者介護の現状を踏まえ、社会のニーズに合わせた制度とするために3年ごとに改正されています。
高齢者の介護や介護サービスの需要は日々変化しており、社会のニーズに柔軟に対応するために定期的な見直しがおこなわれる必要があるからです。
しかし、介護報酬改定と異なり、大規模な改正となる事は希で、微調整の改正となることが殆どです。
その中で、2018年の改正は大改正と言えるものでした。
2024年の介護保険法改正のポイント
2024年介護保険法は2023年5月12日に通常国会で成立し、2018年以来の大規模な改正となりました。
その大きな改正ポイントは以下の3つです。
- 12年ぶりに在宅サービスに新型サービスを創設
- 財務諸表の公表を義務化
- 介護予防ケアプラン許認可を居宅介護支援事業所にも拡大
それぞれ詳しく解説していきます。 [※8]
12年ぶりに在宅サービスに新型サービスを創設
2012年改正で創設された、定期巡回随時対応型訪問介護看護と複合型サービス(現在の看護小規模多機能型居宅介護)以来、12年振りに在宅サービスに新型サービスが創設されます。
これは、訪問介護と通所介護の複合型であると言われています。
複合型としては、すでに小規模多機能型居宅介護と訪問看護の複合である、看護小規模多機能型居宅介護が存在しています。
しかし、訪問介護と通所介護の複合型(未確定)については、今回の審議において、2024年度から新サービスとして創設されるという内容のみが決まっています。
その詳細や指定要件、報酬体系などについては、2023年度において介護給付費分科会におこなわれる、令和6年介護報酬改定審議の中で検討されることとなり、厚生労働省の審議時点での説明から訪問介護と通所介護の複合型である可能性が高いようです。
また、複合型サービスの類型などを設けると記載されていることから、複数の組み合わせが検討される可能性も低くはないと予想されます。
財務諸表の公表を義務化
2024年度から、介護事業においても財務諸表の公表が義務化されます。
従わない場合、提出を求める命令が出され、それに従わない場合は指定の取消、もしくは業務停止が課せられます。
介護事業者は、決算が終了すると、財務諸表等の経営に係る情報を定期的に都道府県知事に届け出ることとなります。
この公表については、介護事業者が提出した個別の事業所情報を公表するのではなく、属性等に応じてグルーピングした分析結果を公表するとされています。
介護予防ケアプラン許認可を居宅介護支援事業所にも拡大
介護予防支援について指定を拡大し、居宅介護支援事業所が、直接予防ケアプランを受注できるようになります。
地域包括支援センターについては、令和3年度からスタートした重層的支援体制整備事業において、8050問題に関する相談窓口としての取り組みなど、総合相談支援機能に特に力を入れるべきとされていました。
一方で、地域包括支援センターの業務の中で大きな負担になっていたのが予防ケアプランへの取り組みでした。予防ケアプランは、地域包括センターでの契約後、地域の居宅介護支援事業所に外部委託しているのが現状であり、この実情については令和3年度改正時にも論点として議論されました。
しかし、地域包括支援センターが一括して管理すべきとの意見が多く、介護報酬改定時に委託連携加算(初回のみ300単位)が創設されるに留まったという過去の経緯がありました。
今回の改定では、前述のとおり居宅介護支援事業所が直接、予防ケアプランを受注できるようになり、地域包括支援センターの業務負担軽減が期待されます。
また、予防ケアマネジメントAについては、利用者の状態が大きな変化がない場合に限って簡素化を可能とするということで負担を軽減するという方向が出されました。
介護保険法改正への準備
介護保険法改正については、法律自体が施行後20数年しか経過していないこともあり、大規模な改正は稀です。
新型サービスの創設や財務諸表の義務化など、新たに対応が求められる場面が、今後増えてくることが予想されます。
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[※1]出典:介護保険制度の概要|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000801559.pdf
[※2]出典:2005年度介護保険法改正|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/gaiyo/k2005.html
[※3]出典:2008年度介護保険法改正|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/gaiyo/k2008.html
[※4]出典:平成23年介護保険法改正について(介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/gaiyo/dl/k2012.pdf
[※5]出典:平成27年度介護報酬改定の骨子|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000081007.pdf
[※6]出典:平成30年度介護報酬改定の主な事項について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000196991.pdf
[※7]出典:令和3年度介護報酬改定の主な事項について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000753776.pdf
[※8]出典:介護保険制度の見直しに関する参考資料|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001119107.pdf
※本記事は、2023年10月時点の情報をもとに作成しています。
記事監修者:小濱道博(こはま みちひろ)
小濱介護経営事務所 代表。日本全国で、介護経営のコンプライアンス指導、BCP、LIFE、実施指導対策などのコンサルティングをおこなう。介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで年間250件以上。全国の介護保険課・各協会・社会福祉協議会・介護労働安定センター等主催の講演会での講師実績も多数。「これならわかる〈スッキリ図解〉介護BCP(業務継続計画)」(翔泳社)「おさえておきたい算定要件シリーズ」(第一法規株式会社)など、著書多数。「日経ヘルスケア」「Visionと戦略」など連載多数。