【社労士監修】月額変更届とは?随時改定のタイミングや提出方法を解説
目次
月額変更届とは、基本給や手当など毎月固定で支払われる給与に大幅な変動があった従業員の社会保険料を改定する「随時改定」を行うために届け出るものです。
社会保険料の改定は、従業員の将来受け取る年金額にも影響するため、必ず届出しなければなりません。
本記事では、随時改定のタイミングや提出方法を解説します。
月額変更届とは
月額変更届とは、従業員の基本給や手当など毎月固定で支払われる給与に大幅な変動があった場合に提出する届出です。
月額変更届を日本年金機構や健保組合に提出することで、社会保険料の改定が行われます。
月額変更届は、給与に変動があった月の4ヶ月目に速やかに提出しなければいけません。[※1]
月額変更届の目的
月額変更届の目的は、従業員の毎月固定で支払われる給与に大幅な変動があった場合に、その変動を反映した社会保険料を適正に徴収することです。
月額変更届を提出しないと給与と社会保険料に乖離が生じ、従業員の負担が増える可能性があります。
また、企業に対する行政指導や是正勧告の対象となる可能性もあるため、注意が必要です。
従業員の給与に大幅な変動があり、随時改定に該当する場合は月額変更届を必ず提出するようにしましょう。
標準報酬月額の随時改定とは
標準報酬月額の随時改定とは、定時決定を待たずに標準報酬月額を改定する制度です。
定時決定とは、毎年4月から6月の報酬月額をもとに、9月に改定される制度です。一方、随時改定は給与(固定的賃金)が大幅に変動した月から4ヶ月目の月に改定されます。[※2]
随時改定が必要になる主なケースは、以下のとおりです。
- 昇給や降給
- 通勤手当の変更
- 役付手当や家族手当などの追加または支給額の変更
この随時改定の手続きに必要な届出が「月額変更届」となります。[※1]
随時改定の3つの条件とは
随時改定は以下の3つの条件すべてに該当した場合に対象になります。[※1]
- 固定的賃金の変動
- 標準報酬月額と標準報酬月額との間に2等級以上の差分の発生
- 変動月以降の3カ月において支払基礎日数が17日以上
それぞれの条件を詳しく解説します。
条件(1):固定的賃金の変動
固定的賃金とは、勤務時間や労働成果にかかわらず、一定額が支給される賃金のことです。
たとえば、基本給や役付手当、家族手当などが固定的賃金に該当します。
随時改定は、固定的賃金が変動しなければ対象になりません。
そのため、時間外手当(非固定的賃金)が大幅に増加しても固定的賃金が変動していなければ随時改定は対象外になるということです。
条件(2):標準報酬月額と標準報酬月額との間に2等級以上の差分の発生
固定的賃金の変動があった月以降、3ヶ月間の平均で算出した標準報酬月額が変動前の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた場合に、随時改定が対象になります。
固定的賃金が変動しても2等級以上の差が生じかなった場合は随時改定の対象となりません。
なお、標準報酬月額の上限・下限にわたる等級変更では、1等級の差であっても、実質的に2等級以上の変動が生じた場合は随時改定を行います。[※1]
条件(3):変動月以降の3カ月において支払基礎日数が17日以上
固定的賃金が変動した月以降3ヶ月で、それぞれの月の賃金支払基礎日数が17日以上なければ、炊事改定の対象となりません。
1か月でも17日未満の月があれば対象外となります。
なお、特定適用事業所に勤務する短時間労働者は、賃金支払基礎日数11日以上あれば対象となります。
随時改訂の対象とならない人とは
随時改定の条件を満たしていても以下に該当する場合は対象となりません。[※1]
- 固定的賃金は上がったが、非固定的賃金(時間外手当など)が減ったため、変動後の3ヶ月分平均額の標準報酬月額が従前より下がり、2等級以上の差が生じた場合
- 固定的賃金は下がったが、非固定的賃金(時間外手当など)が増加したため、変動後の3ヶ月分平均額の標準報酬月額が従前より上がり、2等級以上の差が生じた場合
対象となるケースと対象外となるケースを表にまとめると以下のとおりです。
固定的賃金 | 非固定的賃金 | 2等級以上の差 | 随時改定 |
---|---|---|---|
増加 | 増加 | 増加 | 対象 |
増加 | 減少 | 増加 | 対象 |
増加 | 減少 | 減少 | 対象外 |
減少 | 減少 | 減少 | 対象 |
減少 | 増加 | 減少 | 対象 |
減少 | 増加 | 増加 | 対象外 |
このように固定的賃金が変動し、標準報酬月額が2等級以上の差があった場合でも、固定的賃金と等級の増減が異なった場合は、随時改定の対象外になるので注意しましょう。
随時改定のタイミング
随時改定は、変動した固定的賃金が支払われた月から4か月目に適用されます。
そのため、昇給分が翌月に支払われた場合は、注意が必要です。
たとえば、月末締め翌25日支払いの企業で、1月に昇給した分を2月に支払った場合は、2月から4月の平均給与(平均報酬)で随時改定に該当するかどうかを判断します。[※3]
随時改定に該当した場合は、5月になってから速やかに月額変更届を提出しなければなりません。
なお、企業によっては社会保険料を1か月遅れで徴収している場合があります。
1か月遅れで徴収している場合は、5月に月額変更届を届出すると、6月に支給する給与から社会保険料が変更になるため、控除するタイミングを間違えないように注意しましょう。
月額変更届の提出方法
月額変更届は、固定的賃金の変動月から4か月目に提出します。
提出先は所轄の日本年金機構または健康保険組合です。
ただし、加入している健康保険が協会けんぽ(全国健康保険協会)の場合は、日本年金機構のみ提出します。
提出方法は窓口へ直接提出、郵送、電子申請のいずれかになります。
月額変更届に記載する内容
月額変更届は以下の内容を記載しなければなりません。[※4]
被保険者番号 | 資格取得時に取得した被保険者整理番号を記入します。 |
---|---|
生年月日 | 該当する元号の番号と生年月日を記入します。 【元号】 1.明治 3.大正 5.昭和 7.平成 9.令和 【記入例】 昭和63年5月3日の場合「5-630503」と記入 |
標準報酬月額の改定年月 | 標準報酬月額が改定される年月を記入します。 変動後の賃金を支払った月から4ヶ月目となります。 |
従前の標準報酬月額 | 現在の標準報酬月額を千円単位で記入します。 |
従前改定年月 | 「従前の標準報酬月額」が適用された年月を記入します。 |
昇給や降給が生じた月の支払月と区分 | 昇給または降給のあった月の支払月を記入し、該当する昇給または降給の区分を選択します。 |
遡及支払額 | 遡及分の支払があった月と支払われた遡及差額分を記入します。 |
固定的賃金の変動が発生した月から3カ月分の給与支払月 | 変動後の賃金を支払った月から3カ月を記入します。 |
給与計算の基礎日数 | 報酬(給与)支払の基礎となった日数を記入します。 基礎日数は給与形態別に以下の日数を記入します。 月給・週給者で欠勤日数分の給与を差し引く場合は、就業規則で定められた日数から欠勤日数を除いて記入します。 |
月額変更届に記載する際の注意点
従業員や企業の規定によって随時改定の判断は異なります。
ここでは、以下の事例をもとに随時改定の判断を解説します。[※5]
- 職によって給与よりも低額の休職給が支払われている場合
- 自動車通勤者に毎月ガソリン単価を変更して通勤手当を支給している場合
- 在宅勤務の導入に伴い通勤手当が支払われなくなった場合
それぞれのケースを見ていきましょう。
休職によって給与よりも低額の休職給が支払われている場合
給与よりも低額の休職給が支払われおり、固定的賃金の増減があった場合は、随時改定の対象になりません。
休職に伴う低額な休職給、固定的賃金の変動を適切に反映しているとはいえないため、復職してから支払われた給与の3か月平均で報酬月額を算定し、随時改定を判断します。
自動車通勤者に毎月ガソリン単価を変更して通勤手当を支給している場合
自動車通勤者に対してガソリン単価を設定して通勤手当を算定している場合は、単価の変動が月ごとに生じる場合でも、固定的賃金の変動として扱うことになります。
ただし実務上は、ガソリン単価の変動するたびに社会保険料が改正される可能性があるため、担当者の事務処理負担などを考慮して運用を検討しましょう。
在宅勤務の導入に伴い通勤手当が支払われなくなった場合
在宅勤務の導入に伴い通勤手当が支払われなくなった場合は、随時改定の対象となる場合があります。
通勤手当が月額から日額単位に変更されるなど、固定的賃金に関する変動があった場合は随時改定に該当するため、在宅勤務者は随時改定に該当するか確認を行いましょう。
月額変更届に書類添付が必要なケースとは
基本的には、月額変更届を提出する際に添付書類は必要ありません。
ただし、業務の性質上、繁忙期などにより例年固定的賃金が増加する企業は、申立によって年間報酬の平均で算定することができます。
年間報酬の平均で算定を申し立てる場合には、以下の添付書類が必要です。[※1]
- 年間報酬の平均で算定することの申立書
- 健康保険厚生年金保険被保険者報酬月額変更届・保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意書
年間平均で算出すると従業員が将来受け取る年金額にも影響があるため、対象となる従業員の同意が求められています。
月額変更の手続きをしなかった場合の罰則とは
月額変更の手続きをしなかった場合は、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科される可能性があります。[※6]
ただし、実務上は月額変更の手続きを忘れていただけで罰則となるわけではありません。
年金事務所の調査で手続き漏れを指摘された場合には、遡って届出を行うのが一般的です。
社内の情報共有に「Chatwork」
月額変更届とは従業員の給与に大幅な変動があった場合に提出する届出です。
届出することで、標準報酬月額が改正され、社会保険料を適正に徴収することができます。
しかし、届出は変動があった月から4か月目におこなうため、誰がいつ大幅に給与が変動したのかを随時管理しなければなりません。
ビジネスチャット「Chatwork」はタスク管理機能やファイル管理機能などが搭載されたチャットツールです。
社内外のコミュニケーションだけではなく、情報の共有や業務効率化にも役立ちます。
月額変更届のスケジュール管理にぜひ「Chatwork」をご活用ください。
Chatwork(チャットワーク)は多くの企業に導入いただいているビジネスチャットです。あらゆる業種・職種で働く方のコミュニケーション円滑化・業務の効率化をご支援しています。
[※1]出典:日本年金機構「随時改定(月額変更届)」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150515-02.html
[※2]出典:日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150515-02.html
[※3]出典:日本年金機構「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集 」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20121017.files/jireisyu.pdf
[※4]出典:日本年金機構「随時改定に該当するとき(報酬額に大幅な変動があったとき)」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/hoshu/20141224.html
[※5]出典:厚生労働省「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集の一部改正について」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc6981&dataType=1&pageNo=1
[※6]出典:e-Gov法令検索「健康保険法第208条」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=211AC0000000070_20230609_505AC0000000048
※本記事は、2023年10月時点の情報をもとに作成しています。
記事監修者:北 光太郎
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。