【社労士監修】年収の壁とは?支援強化パッケージの内容や目的を解説

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働き方改革
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【社労士監修】年収の壁とは?支援強化パッケージの内容や目的を解説

目次

パートやアルバイトで働く人の中には「もっと働きたいけれど、一定の年収を超えると社会保険料の負担が発生する」「扶養からも外れてしまう」といった理由で、働き過ぎないようセーブしている人も多いでしょう。

このように、税金や社会保険料の負担が増えないよう意識する年収のボーダーラインが、「年収の壁」です。

本記事では、さまざまな年収の壁や政府が施策として打ち出している「年収の壁・支援強化パッケージ」の内容を解説します。

年収の壁とは

年収の壁とは、税金や社会保険料の負担が生じる年収のボーダーラインのことです。

年収が一定額を超えると、世帯主の扶養範囲から外れ、社会保険料などの負担が発生するため、手取りが減少する可能性があります。

そのため、パートやアルバイトで働く労働者は、年収の上限を意識して労働時間や勤務日数を調整するケースが見られ、労働力の低下に繋がると問題視されています。

年収の壁には、「税制上の壁」と「社会保険の壁」の2つがあります。

税制上の年収の壁

税制上の壁において主に目安となる上限額は以下の額です。

  • 100万円の壁
  • 103万円の壁
  • 150万円の壁
  • 201万円の壁

税制上の年収の壁について詳しく解説します。

100万円の壁

100万円の壁とは、住民税の課税対象となる金額のことです。

年収が100万円を超えると、超えた年の翌年6月から徴収が開始されます。[※1]

ただし、未成年や障害者、寡婦・ひとり親に該当する場合は、年間204万4千円以上が課税の基準額です。

なお、扶養親族がいる場合は、その人数によって控除額が変動するため、課税される収入も変わります。

103万円の壁

103万円の壁とは、所得税が課税対象となる年収です。[※2]

所得税の計算は、会社員の場合、収入から基礎控除(48万円)と給与所得控除(55万円)が必ず控除されるため、103万円が所得税の基準となっています。

また、税扶養の基準も年収103万円までです。被扶養者が年収103万円を超えると、扶養から外れてしまいます。

なお、配偶者については103万円を超えても201万円までは配偶者特別控除が受けられます。

150万円の壁

150万円の壁とは、配偶者特別控除の控除額が減少する年収のことです。[※2]

配偶者の年収が103 万円を超えても、201万円以下であれば「配偶者特別控除」を受けることができます。

しかし、配偶者特別控除は150万円を超えると控除額が徐々に少なくなるため、「150万円の壁」といわれています。

201万円の壁

201万円の壁とは、配偶者特別控除が受けられる年収のことです。[※2]

配偶者特別控除は150万円を超えると徐々に控除額が減少しますが、201万円を超えると控除額が0円になります。

社会保険上の年収の壁

社会保険料の壁は「106万円の壁」と「130万円の壁」があります。

社会保険の加入義務が発生する場合があります。

それぞれの壁を詳しく解説します。

106万円の壁

106万円の壁とは、一定条件を満たした短時間労働者に社会保険の加入義務が発生する基準額のことです。[※3]

現行では、以下の基準を満たしたパート・アルバイトに社会保険の加入が義務付けられています。

  • 事業所の従業員数(被保険者)が101人以上
  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 賃金が月額8.8万円以上
  • 2ヶ月を超える雇用見込み
  • 学生ではない

月額約8.8万円の12ヶ月分が約106万円であることから、106万円の壁といわれています。

なお、2024年10月から従業員数が51人以上の事業所も対象となります。

130万円の壁

130万円の壁とは、社会保険の加入義務が発生する年収基準のことです。[※3]

短時間労働者の社会保険加入義務の適用を受けない従業員は、月額約10.8万円を超えると社会保険の加入義務が発生します。

また、年収106万円の壁には時間外手当や休日出勤手当、通勤手当などは含まれませんが、130万円の壁ではこれらの手当が含まれた額が基準となります。

年収の壁を超えてしまう問題・リスク

年収の壁を超えてしまうと以下の問題やリスクが発生します。

  • 課税されてしまう
  • 社会保険への加入が義務付けられる
  • 世帯主の収入が減少する可能性がある

それぞれどのようなリスクなのでしょうか。

くわしく見ていきましょう。

課税されてしまう

税制上の年収の壁を超えてしまうと、住民税や所得税が課税対象となり、税金を支払う必要があります。

住民税は一律10%ですが、所得税は収入が増えるほど税率が高くなる累進課税制度が適用されているため、収入が増えるほど所得税率が増えていきます。

社会保険への加入が義務付けられる

社会保険の年収の壁を超えてしまうと、社会保険の加入が義務付けられるため、手取り額が減ってしまう可能性があります。

社会保険に加入すると、健康保険料と厚生年金保険料、40歳以上では介護保険料が徴収されます。

とくにパートやアルバイトなど、これまで社会保険に加入していなかった人にとっては、大きな負担となるでしょう。

世帯主の収入が減少する可能性がある

被扶養者が年収の壁を超えると扶養から外れるため、世帯主の納税額が増加します。

そのため、世帯主の収入が変わっていないのにも関わらず、控除額が増えた影響で手取り額が減少する可能性があります。

とくに、税扶養している子どもが大学生(19歳〜22歳)の場合は、1人あたり63万円の扶養控除が適用されています。

子どもがアルバイトで年収103万円を超えてしまうと、世帯主の税負担が大きくなるため、注意しておきましょう。

「年収の壁・支援強化パッケージ」の目的

最低賃金の引き上げや社会保険の適用拡大により、社会保険の適用対象となる短時間労働者が増えています。

しかし、短時間労働者が社会保険の適用によって手取りが減少することを避けて、就業調整が行われているのが現状です。

社会保険の加入を避ける目的で労働時間を抑えられては、企業の人材不足は一層深刻化します。

そこで政府は、従業員が年収の壁を超えて働いたとしても手取りが減少しないよう、企業を支援する目的で「年収の壁・支援強化パッケージ」を打ち出しました。[※4]

「年収の壁・支援強化パッケージ」の具体内容とは

年収の壁によって、手取りを減らさないように就業時間を調整するなど、労働時間を制限する人は少なくありません。

こうした労働時間の制限は、パートやアルバイトで働く人の収入の増加を阻み、かつ企業の人手不足を加速する原因のひとつとなっています。

そのため政府は、「年収の壁・支援強化パッケージ」として年収の壁を意識せず働くことができる環境づくりを後押ししています。

「年収の壁・支援強化パッケージ」の具体的な内容として、以下のものが挙げられます。

  • 「106万円の壁」対策:キャリアアップ助成金で事業主を支援
  • 「130万円の壁」対策:事業主による証明で被扶養者認定の円滑化
  • 事業主向け:「配偶者手当」の見直し

くわしく解説していきます。

「106万円の壁」対策:キャリアアップ助成金で事業主を支援

「106万円の壁」の対策として、短時間労働者を雇用する事業主向けに、キャリアアップ助成金の「社会保険適用時処遇改善コース」が新設されました。

「社会保険適用時処遇改善コース」では、年収106万円を超えて働くなどの措置をした事業主に対して、以下3つのメニューが用意されています。

  • 手当等支給メニュー
  • 労働時間延長メニュー
  • 併用メニュー

それぞれのメニューを詳しく解説します。

手当等支給メニュー

年収が106万円を超えて、社会保険に加入した従業員に手当を支給して収入を増やす取り組みを講じた事業主に対し、従業員1人当たり3年間で最大50万円(大企業の場合は4分の3)の助成金が支給されます。

手当等支給メニューの基準は以下のとおりです。[※4]

                 
要件1人あたりの助成額
1.賃金の15%以上を追加支給(社会保険適用促進手当) 1年目:20万円
2.賃金の15%以上を追加支給(社会保険適用促進手当) 3年目以降は3(下記)の取り組みを行う 2年目:20万円
3.賃金の18%以上を増額 3年目:10万円

また、年収が106万円を超えて社会保険に加入した従業員に対して、手取り額が減らないように給与や賞与とは別に「社会保険適用促進手当」を支給することが認められています。

「社会保険適用促進手当」とは、標準報酬月額が10.4万円以下の従業員に対して支給することを条件に、最大2年間にわたって社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額や標準賞与額から除外できる手当です。

また、事業所内での公平性を考えて、同じ条件(標準報酬月額が10.4万円以下)で働く他の従業員にも特例的に手当を支給する場合にも、最大2年間社会保険料の算定基礎から除外できます。

労働時間延長メニュー

労働時間延長メニューは、労働時間を延長することにより、パートやアルバイトで働く従業員を新たに社会保険に加入させた事業主に対して助成金が支給されるメニューです。

労働時間延長メニューの基準は以下のとおりです。[※4]

週の所定労働時間の延長 賃金の増額 1人あたりの助成額
4時間以上 なし 30万
3時間以上4時間未満 5%以上 30万
2時間以上3時間未満 10%以上 30万
1時間以上2時間未満 15%以上 30万

週の所定労働時間を4時間以上延長するか、賃金を増額しながら週の所定労働時間を1〜4時間未満延長した場合に、従業員1人あたり30万円(大企業は22.5万円)の助成が受けられます。

併用メニュー

併用メニューとは「手当等支給メニュー」と「労働時間延長メニュー」の併用です。[※4]

1年目に賃金の15%以上を従業員に追加支給し、2年目に週所定労働時間を4時間延長させる、もしくは週所定労働時間の延長と賃金の増額を行った場合に助成金が支給されます。

併用メニューを実施すれば、1年目に1人あたり20万円(大企業は15万円)、2年目に1人あたり30万円(大企業は22.5万円)が支給されます。

なお、同一の事業所内で、従業員ごとの事情に応じて異なるメニューで取り組んでも問題ありません。

従業員の働き方や希望を把握し、待遇などについて話し合いながらメニューを決定しましょう。

「キャリアアップ計画書」の提出

いずれのメニューを選択した場合も、キャリアアップ助成金を受けるためには、原則として助成対象コースの取り組みを始める日の前日までに「キャリアアップ計画書」を管轄の労働局に提出しなければなりません。

キャリアアップ計画書には、計画書作成時点で対象となる見込みの従業員が実施する助成コース・助成メニューの内容を記載し、労働局に提出します。

「130万円の壁」対策:事業主による証明で被扶養者認定の円滑化

「130万円の壁」対策は、繁忙期で収入が一時的に上がった結果、年収130万円を超えたとしても、事業主が健保組合などにその旨を証明することで、引き続き扶養に入り続けることができるというものです。

「一時的な事情」として認定を行うことから、事業主が証明できるのは原則として連続2回(毎年1回被扶養者の収入確認がある場合、約2年間)までが上限となります。

事業主向け:「配偶者手当」の見直し

年収の壁が意識されるのは、配偶者手当(家族手当または扶養手当)の支給要件となっていることも原因の一つです。

106万円の壁や130万円の壁を超えて配偶者が働きたいと考えていても、配偶者手当の支給要件として企業が年収要件を設けている場合は、配偶者が労働時間を制限する可能性があります。

そこで政府は、基本給や他の手当への振替などによって配偶者手当が見直しできるよう、見直し手順をフローチャートで示す資料を公表しています。[※5]

「年収の壁・支援強化パッケージ」を利用する方法

「年収の壁・支援強化パッケージ」は、企業が利用するものであり、従業員が個人で利用することはできません。

そのため、企業が「社会保険適用促進手当」として従業員に手当を支給するか、労働時間を延長するなどの対応が想定されています。

ただし、現時点では限定的な措置であるため、永久的に利用できるわけではありません。

企業ができる「年収の壁」対策

企業は、従業員が年収の壁を意識せずに働ける環境を整えていかなければなりません。

助成金を利用しつつ、数年後には賃上げや配偶者手当の見直しを行い、社会保険に加入しても従業員が安心して働けるような職場作りが求められています。

年収の壁対策の実施が難しい場合は、社会保険労務士などの専門家に一度相談してみましょう。

情報共有の活性化に「Chatwork」

「年収の壁」を意識せずに働ける環境づくりは、人材不足を解消する重要な取り組みです。

助成金などを活用し、従業員と事業主でお互いが納得した上で取り組みを進めていきましょう。

また、新しい制度を導入していく際には、細かな情報共有が必要不可欠です。

従業員の要望などを細かくヒアリングし、制度の内容を適切に伝えることにより、認識の齟齬がなくなり、新しい制度を導入しやすくなります。

ビジネスチャット「Chatwork」では、ビデオ通話をしたりファイルを共有したりする情報共有を容易に実現することが可能です。

>Chatworkの通話機能(ビデオ/音声通話機能)に関する記事はこちら

>Chatworkのファイル共有機能に関する記事はこちら

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[※1]出典:中央区「給与収入いくらから、住民税がかかるのでしょうか」
https://www.city.chuo.lg.jp/a0009/faq/kurashi/zeikin/juuminzei/0006.html

[※2]出典:国税庁「家族と税」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/02_2.htm

[※3]出典:政府広報オンライン「「年収の壁」対策がスタート!パートやアルバイトはどうなる?」
https://www.gov-online.go.jp/article/202312/entry-5288.html

[※4]出典:厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_001_00002.html

[※5]出典:厚生労働省「企業の配偶者手当の在り方の検討」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/haigusha.html

※本記事は、2024年3月時点の情報をもとに作成しています。


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Chatworkのお役立ちコラム編集部です。 ワークスタイルの変化にともなう、働き方の変化や組織のあり方をはじめ、ビジネスコミュニケーションの方法や業務効率化の手段について発信していきます。


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記事監修者:北 光太郎(きた こうたろう)

きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。

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