【社労士監修】業務改善助成金とは?中小企業が賃上げをはかる方法を解説

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働き方改革
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【社労士監修】業務改善助成金とは?中小企業が賃上げをはかる方法を解説

目次

業務改善助成金とは「生産性向上のための設備投資などをおこなう」「事業場内で最も低い賃金を一定額以上引き上げる」の2点を満たした場合に、設備投資などにかかった費用の一部を助成する制度です。

この業務改善助成金は令和5年8月に改正されたこともあり、使い方によっては設備投資における初期費用を大幅に削減できる可能性を持った制度になっています。

本記事では、業務改善助成金の概要や、近年の拡充内容も踏まえて解説していきます。

業務改善助成金とは

業務改善助成金は、会社における最低賃金を底上げし、かつ、生産性向上につながる設備投資等をおこなった企業に対し、その設備投資費用に対する一定額を助成する制度です。

昨今の賃上げを促進する政策に伴い、注目されている助成金であり、最低賃金付近の賃金体系を取っている中小企業に対して、賃上げ及び生産性向上を促すために生まれた制度であるといえます。

対象事業者とは

業務改善助成金を申請できる対象となるには、いくつかポイントがあります。

代表的なものとして以下の4つが挙げられます。

  1. 中小企業・小規模事業者であること
  2. 雇用保険の適用事業所であること
  3. 解雇や労働保険料の滞納などの不交付事由がないこと
  4. 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること

1つ目の「中小企業・小規模事業者であること」は下表のAまたはBの要件を満たす事業者である必要があります。

業種 A 資本金または出資額 B 常時使用する労働者
小売業 小売業、飲食店など 5000万円以下 50人以下
サービス業 物品賃貸業、宿泊業、医療、福祉、複合サービス事業など 5000万円以下 100人以下
卸売業 卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 農業、林業、漁業、建設業、製造業、運輸業、金融業など 3億円以下 300人以下

1〜3は、他の助成金にも共通する内容であり、業務改善助成金において注意が必要なのは4つ目の「事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること」です。

例えば、令和5年10月1日から東京都の最低賃金は1,113円なのですが、東京都の企業で業務改善助成金を申請できるのは、一番低い時給換算で1,163円以内の職場しか対象にならないということです。

したがって、一番低い時給が1200円の職場であれば、東京都では業務改善助成金の対象にならないということになります。

また、勘違いされやすいポイントですが、申請の単位は職場単位なので、一つの法人で複数の支店がある場合は支店ごとでの申請が可能となります。[※1]

特例的な拡充の対象

上記の要件を満たした上で、さらに一定の要件に当てはまる場合は、助成金の上限額や助成率の引き上げ、助成対象経費や申請要件の緩和等、申請企業にとって有利な取り扱いが受けられます。[※1]

業務改善助成金の支給要件

業務改善助成金を申請するにあたっては、前述の対象事業者であることと、以下の要件をクリアする必要があります。

  • 賃金引き上げ計画を策定する
  • 引き上げ後の賃金額を支払う
  • 設備投資等の計画を策定する
  • 解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がない

各要件について、詳しく解説します。

賃金引き上げ計画を策定する

職場における最も低い時給換算額の従業員をピックアップし、職場として底上げする金額、引き上げ時期、対象者を計画書に定める必要があります。

底上げする金額が多く、対象者の人数が多いほど助成金額の上限は引き上がります。

引き上げ後の賃金額を支払う

賃金引き上げ計画に基づいて、賃金の改定をおこない、改定後の賃金が支払われている必要があります。

このあたりは賃金台帳や出勤簿等の帳簿類で確認されます。

設備投資等の計画を策定する

設備投資等に関して計画を策定し、予め承認を受けないと、その設備投資は助成対象になりません。

その設備投資等が本当に生産性向上に資するものかどうか審査されるため、審査前の設備投資はおすすめしません。

解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がない

助成金には、ある程度共通して不交付事由があるため、これに該当していないかどうかは、過去の雇用保険手続きのデータや企業の帳簿類から確認されます。

業務改善助成金以外の助成金申請の際にも、確認されるケースが多いので注意が必要です。

2023年8月の拡充とは

賃上げを推進する政策動向の影響もあり、業務改善助成金は2023年8月に拡充がありました。

拡充内容は以下の3つです。

  • 対象事業所の拡大
  • 賃金引き上げ後の申請
  • 助成率の見直し

それぞれについて詳しくみていきましょう。

対象事業所の拡大

前述にて「事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内の職場でないと対象にならない」と解説しましたが、実は2023年8月の拡充前はこの差額が30円以内だったのです。

この差額がネックになって申請できない企業が多かったため、多くの企業にとって大きな意味のある拡充となりました。

賃金引き上げ後の申請

2023年8月の拡充前は、賃金引き上げの計画を先に提出しなければ、支給要件を満たしませんでしたが、拡充後は、2023年4月1日~2023年12月31日までに実施した賃上げであれば賃金引き上げ計画書の提出は不要となりました。

ただし、設備投資等の実施計画については拡充後も実施前に計画を提出し審査の上交付決定を受ける必要があるので、混同しないように注意が必要です。

助成率の見直し

業務改善助成金における、設備投資に対する助成率は、職場における最低賃金額ごとにテーブルが定められており、最低賃金額が低い職場であるほど、手厚くなっています。

このテーブルが拡充後には下図のように変更されました。

                        
拡充前拡充後
事業場内最低賃金額 助成率事業場内最低賃金額 助成率
870円未満 9/10 900円未満 9/10
870円以上920円未満 4/5
(9/10)
900円以上950円未満 4/5
(9/10)
920円以上 3/4
(4/5)
950円以上 3/4
(4/5)
()内は生産性要件を満たした事業場の場合

業務改善助成金の上限額・助成率

業務改善助成金は、底上げする賃金額、対象となる従業員の人数に比例して上限額も増額され、職場における見直し前の最低賃金額に応じて助成率も変化します。

例えば、時給が一律930円で、パートタイマー5名が全従業員である職場において、5名全員を960円に賃上げした場合、上図のテーブルに照らし合わせると助成上限額は100万円、助成率は4/5(80%)ということになります。

この職場において、125万円の設備投資をおこなった場合、その80%である100万円が助成金として受け取ることができます。

助成金の対象となる経費とは

業務改善助成金の対象となる経費については、機器・設備類、コンサルティング費用等、様々なものが列記されています。

さらに、条件を満たせば、車両やパソコン等、通常補助金や助成金の対象にならない汎用品も助成対象となりえます。[※1]

ただし、共通していえることですが、「生産性向上に資する設備投資等」でなければ助成対象となりません。

何をもって「生産性向上に資するのか」という判断軸ですが、主な判断軸の一つとしては、「その投資をおこなうことで、従来と比較して、より多くの成果物を生産できるようになるか」ということです。

例えば、「今まで手作業で1時間に10個しか作れなかった状況で、新しい設備を導入することで1時間に20個作れるようになる」といった設備投資であれば、「生産性向上に資する」と判断される可能性は高くなります。

つまり、リーフレットに掲載されている機械設備であっても、計画書においてビフォーアフターで数値を示し、業務効率化等のメリットが説明できる設備投資でなければ、助成の対象にならないということになります。[※2]

業務改善助成金の申請の流れ

業務改善助成金は、要件に合致していれば自動で受け取れるものではなく、事業主が能動的に申請等の手続きをおこなわなければならない助成金制度です。

申請のおおまかな流れは以下となります。

  • ステップ(1):事業実施計画の策定
  • ステップ(2):助成金交付申請書の提出
  • ステップ(3):申請内容に沿った事業実施
  • ステップ(4):事業実績の報告
  • ステップ(5):助成金の支払いと状況報告

それぞれのステップについて解説していきます。

ステップ(1):事業実施計画の策定

計画書において定めることは、大きく分けて、賃上げに関すること・設備投資等に関することの2つとなります。

賃上げに関しては、職場における各従業員の時給換算額、賃上げの対象となる従業員に対して、いつから、いくら引き上げるのか(引き上げ後の申請についてはどのように実施したか)について策定していくこととなります。

設備投資等に関しても、どのような設備投資をおこない、どのような効果を見込むのか、そのビフォーアフターを数値も含めて見積もりをおこなってください。

これらの計画内容を次のステップにて落とし込むこととなります。

ステップ(2):助成金交付申請書の提出

ステップ(1)にて計画内容が定まった後は、所定のフォーマットにて交付申請書を作成します。

交付申請書の作成においては、厚生労働省の業務改善助成金ページ各種様式コーナーの「申請書等簡易作成ツール」を利用されると作成がスムーズです。[※1]

交付申請書は、管轄の労働局に提出し、交付決定を待つこととなります。

なお、交付申請書を提出した後、交付決定が下りてなくても賃上げは実施しても差し支えありませんが、設備投資等は交付決定後でなければ発注等をおこなえません。

ステップ(3):申請内容に沿った事業実施

交付決定が下りたのち、計画書に記載した通りに、設備投資等の発注、納品、支払い等及び賃上げ等を実施します。

設備投資等の実施を証明する書類として、契約書、発注書、納品書、支払い証明(領収書、振込明細等)を次のステップにてその写しを添付することとなりますので、手元にしっかりと保管しておきましょう。

また、事業計画に記載した内容を変更する場合や、納期の関係で当初の計画よりも完了が遅くなる時は都度変更の手続きが必要な場合がありますので、労働局の関係部署に遅滞なく連絡するようにしたほうが無難です。

ステップ(4):事業実績の報告

賃上げ、設備投資等の実施が完了したあと、1か月を経過するまでに、事業実績報告書を提出する必要があります。

事業実績報告には、先述した書類に加え、設備投資等の実施における効果や設備等の写真(特に型式部分)も詳細に求められるため、事前に労働局の担当部署に問い合わせておくと二度手間になる可能性も少なくなります。

ステップ(5):助成金の支払いと状況報告

事業実績報告書の審査が終わると、助成金振込の通知が届き、数日以内に助成金が振り込まれることとなりますが、これで終わりではなく、最後に「状況報告」を労働局に提出する必要があります。

これは、賃金の支払い状況を主に報告するためのものであり、書類作成そのものはそこまで手間取る事はありませんが、助成金の支払いが終わって気が緩んでいたために提出が遅れるといったケースが見受けられますので要注意です。

業務改善助成金の活用事例

業務改善助成金の申請を検討するにあたり、ここでは、業務改善助成金を活用された実際の事例を紹介しましょう。

建設業用業務ソフトの導入による生産性向上

ある建設業では、見積・注文・支払・請求・売上・入金等の管理業務が一元管理されておらず、データ入力、請求書等の作成に時間を要していました。

建設業用業務ソフトを導入したところ、管理業務が一元管理できるようになり、また、請求書等も自動で作成できるようになったため、事務員のデータ入力時間・請求書等の作成時間を約3分の1に短縮できました。

また、短縮された時間を他の業務(営業の補助、現場監督のフォロー等)に充てることができるようになり、企業全体の生産性向上を実現した事例です。

Web会議システムとチャットの導入による業務効率化

ある社会保険労務士事務所では、本社での会議のために往復で2時間の移動時間がかかっており、また、社員が事務所にいない間の電話対応で困っていました。

そこで業務改善助成金を利用して、Web会議システムとビジネスチャットの導入をおこなったところ、移動時間が削減し、社員不在時の電話対応も改善されました。

さらに社内全体のコミュニケーションが活発化し、就業時間の短縮にもつながりました。

業務改善助成金に関する注意点

業務改善助成金は、設備投資における費用対効果を一気に引き上げることができる有用な制度ではありますが、申請期間に注意する必要があります。

業務改善助成金は年度ごとでの実施のため、例えば令和5年度であれば、事業完了の期限は原則令和6年2月末となっており、申請はできたとしても事業完了が間に合わないケースがあるということです。

年末あたりに交付申請をおこなう企業は事業完了までのスケジュール感を意識して事業実施にあたる必要があります。

また、賃上げする金額が大きいほど助成上限額は増えますが、給与は助成金支払い以降も固定して発生する支出であるため、会社の財務状況も鑑みて賃上げ計画を策定する必要があります。

生産性向上のサポートに「Chatwork」を活用しよう

業務改善助成金は、いまもっとも注目されている助成金の一つであり、賃上げを推進したい国としてもその利用を推奨している制度です。

生産性向上に課題感のある企業は、助成金申請を検討するとよいでしょう。

また、生産性向上のためにコミュニケーションツールを導入する場合も業務課全助成金の助成対象となる可能性があります。

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[※1]出典:厚生労働省「業務改善助成金」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html
[※2]出典:令和5年度業務改善助成金のご案内
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/001140627.pdf

※本記事は、2024年5月時点の情報をもとに作成しています。


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Chatworkのお役立ちコラム編集部です。 ワークスタイルの変化にともなう、働き方の変化や組織のあり方をはじめ、ビジネスコミュニケーションの方法や業務効率化の手段について発信していきます。

記事監修者:國領卓巳(こくりょうたくみ)

2009年京都産業大学法学部卒業、2010年に社会保険労務士の資格を取得。建設業界、製造業、社会保険労務士兼行政書士事務所での勤務を経て独立開業。行政書士資格も取得。中小企業の社長向けに「労務管理代行、アドバイザリー事業」「助成金申請代行事業」「各種補助金(事業再構築補助金、小規模事業者持続化補助金など)」を展開、企業経営のサポートをおこなう。

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