【社労士監修】事業場外みなし労働時間制とは?適用業務や労働時間の算出方法を解説

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働き方改革
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【社労士監修】事業場外みなし労働時間制とは?適用業務や労働時間の算出方法を解説

目次

「事業場外労働のみなし労働時間制」は、従業員が事業場外の業務で、労働時間が算定困難な業務に従事している場合に適用される制度です。

営業職やコンサルタント、技術職、取材記者、建設現場の監督者などの職種が対象となる場合が多いです。

しかし、近年では携帯電話の普及やIT技術の発展により、労働時間の算定が困難な状況の判断が難しくなっています。

本記事では、事業場外労働のみなし労働時間制の概要から、具体的な事例まで詳しく解説します。

事業場外労働のみなし労働時間制とは

事業場外労働のみなし労働時間制とは、従業員が労働時間の全部または一部を事業場外で業務をおこない、使用者が労働時間を把握することが困難な場合に、あらかじめ定められた一定の時間を労働したものとみなす制度です。[※1]

単に事業場外で業務に従事するだけではなく「労働時間の算定が難しいとき」にあたることが必要です。

たとえば、外回りの営業職やテレワークなどが該当します。

ただし、外回りの営業職やテレワークであっても、実態として労働時間が管理されていれば事業場外労働のみなし労働時間制は適用されない可能性があります。

なお、みなし労働時間が所定労働時間を超える場合は労使協定の締結が必要です。

また、法定労働時間(1日8時間)を超える場合は労働基準監督署に労使協定を届け出する必要があります。

事業場外労働のみなし労働時間制の対象となる業務

事業場外労働のみなし労働時間制の対象となる業務は、事業場外で使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間の算定が困難な業務です。

事業場外の業務に対して必要とされる時間が8時間である場合は、8時間働いたものとみなされます。

ただし、事業場外の仕事という理由で一概に適用されるわけではありません。

たとえば、外回りの営業でも、訪問回数や時間が管理されており、メールやITツールで具体的な指示がある場合は事業場外労働のみなし労働時間制の対象となりません。[※1]

事業場外労働のみなし労働時間制の対象とならない業務

労働時間を把握することが困難な場合に該当しなければ、事業場外労働のみなし労働時間制は適用されません。

たとえ事業場外で業務に従事する場合であっても、以下のように使用者の指揮監督が及んでいる場合は、みなし労働時間制が適用されないので注意しましょう。[※1]

  • 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
  • 携帯電話等によって随時使用者の指示を受けながら事業場外で労働している場合
  • 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後、事業場に戻る場合

これらに該当していれば、使用者の指揮監督が及んでいるとみなされ、事業場外労働のみなし労働時間制は適用されません。

事業場外労働のみなし労働時間制とテレワーク

テレワークでは、以下2点の条件を満たす場合に事業場外労働のみなし労働時間制が適用できます。

  • パソコンやスマートフォンで上司等の指示により常時通信可能な状態にされていないこと
  • 業務中に随時の具体的な指示に基づいて業務をおこなっていないこと

また、会社支給の携帯電話等を所持していても、応答または折り返しのタイミングについて従業員側で判断できる状況である必要があります。[※2]

つまり、テレワークという理由だけで事業場外労働のみなし労働時間制は適用できないということです。

労働時間の算定方法

実務では、1日中事業場外で業務をおこなう場合や内勤の後に外勤に出る場合もあります。

ここでは、以下のケースごとにみなし労働時間制の算定方法を解説します。[※1]

  • 1日の労働時間のすべてが事業場外労働のケース
  • 事業場内労働後、事業場外労働をして退勤するケース
  • 事業場外労働後、事業場内労働をして退勤するケース
  • 事業場内労働と事業場外労働が1日で混在するケース

ケース1:1日の労働時間のすべてが事業場外労働のケース

労働時間のうちの全部が事業場外での労働であった場合、事業場外労働に必要な時間が、所定労働時間を超えるかどうかで1日の労働時間の算定方法が変わってきます。

事業場外労働に必要な時間が所定労働時間を超えない場合は、所定労働時間働いたものとみなします。

一方で、事業場外労働に必要な時間が所定労働時間を超えている場合は、事業場外労働に必要な時間を働いたものとみなします。

ケース2:事業場内労働後、事業場外労働をして退勤するケース

事業場内労働内の労働後、事業場外労働をしてそのまま退勤する場合、事業場外労働に必要な時間と内勤の時間を合計します。

たとえば、内勤を4時間おこなった後、みなし労働時間が3時間の事業場外労働をおこなった場合、合計7時間となります。

このとき所定労働時間以内であれば、所定労働時間労働したものとみなし、所定労働時間を超えた場合は、時間外手当が発生します。

ケース3:事業場外労働後、事業場内労働をして退勤するケース

ケース3もケース2と同様、事業場外労働のみなし労働時間と内勤時間の合計を労働時間とします。

合計が所定労働時間以内であれば、所定労働時間労働したものとみなし、所定労働時間を超えた場合は超えた時間は別途時間外手当の支給がされます。

ケース4:事業場内労働と事業場外労働が1日で混在するケース

事業場内労働と事業場外労働が1日で混在するケースでは、事業場外労働のみなし労働時間の合計と事業場内労働の合計を合算した時間を労働したものとしてみなします。

このケースも合計時間が所定労働時間以内であれば、所定労働時間労働したものとみなし、所定労働時間を超えた場合は超えた時間は別途時間外手当の支給が必要です。

事業場外労働のみなし労働時間制のメリット

事業場外労働のみなし労働時間制は、以下のメリットがあります。

  • 従業員が時間に縛られずに自分のペースで仕事ができる
  • 効率的に仕事を進めれば所定労働時間より早く仕事を終えることができる

事業場外みなし労働は、業務中に細かな指示がないため、従業員が自分のペースで仕事ができます。

また、その日の仕事を終えれば所定労働時間を終業時間より早く退勤ができるため、プライベートの時間が確保しやすいのがメリットです。

なお、実労働時間がみなし労働時間に満たない場合でも、企業側はみなし労働時間分の賃金を支払う義務があります。

事業場外労働のみなし労働時間制のデメリット

事業場外労働のみなし労働時間制は、以下のデメリットがあります。

  • 実労働時間とみなし労働時間が乖離すると従業員が不利益となる
  • 労働に見合った適正な賃金が支払われない場合がある

事業場外での労働時間は実労働時間にかかわらず、みなし労働時間働いたものとみなされます。

そのため、実労働時間がみなし労働時間を超えた場合は、超えた分の賃金が支払われないことになります。

企業は、実労働時間とみなし労働時間に乖離がないかを定期的に確認し、乖離があればみなし時間の見直しなど是正措置を講じる必要があります。

事業場外労働のみなし労働時間制に関する事例

事業場外労働のみなし労働時間制が適用されるためには、単に事業場外で業務に従事しただけでは足りず、「労働時間の算定が困難なとき」である必要があります。

「算定が困難なとき」の基準は実態によって判断されるため、明確な基準はありません。

正しく運用していなければ、従業員から提訴される可能性もあります。

ここでは、事業場外労働のみなし労働時間制の適用を認められた事例と認めなかった事例を紹介します。

適用が認められた例

事業場外労働のみなし労働時間制の適用が認められた「ナック事件」では、外回りの営業担当が、以下の状況で適用が認められました。[※3]

  • 複数の都道府県にまたがる顧客への訪問営業が主要業務であった
  • 訪問回数や時間は営業担当の裁量に任されていた
  • 訪問スケジュールを営業担当が決定していた
  • 訪問スケジュールは管理ソフトで共有されていたが、上司はその詳細を確認することはなかった

このような状況では、外回りの営業を担当の裁量的な判断でおこなわれており、たとえ携帯電話が支給されていたとしても、事業場外労働のみなし労働時間制が適用されます。

適用を認めなかった例

海外旅行の添乗員の労働時間を算定することが困難ではないとして事業場外労働のみなし労働時間制を適用しなかった「阪急トラベルサポート事件」があります。[※4]

裁判所は、以下の点を理由として適用を認めませんでした。

  • ツアーの日程があらかじめ確定されていた
  • ツアー開始前に会社から具体的な業務の指示があり、添乗員がそれに従って業務していた
  • ツアー中は携帯電話を常に電源を入れた状態で所持させ、クレームなどの報告を求められていた
  • ツアー終了後は日報で詳細の報告が義務付けられていた

このような状況であれば、たとえ上司が現地にいなくても労働時間が把握できているため、事業場外労働のみなし労働時間制は適用されないとされました。

企業側は、みなし時間が適用されていた業務の実労働時間を計算したうえで、割増賃金の支払いを命じられました。

事業場外労働のみなし労働時間制を運用するためのポイント

事業場外労働のみなし労働時間制を運用するためのポイントは以下のとおりです。

  • 客観的な出退勤の記録を残す
  • みなし労働時間が所定労働時間を超える場合の残業代を支払う
  • 手待ち時間の義務付けをおこなわない
  • 業務の裁量を労働者に認める
  • 人事評価を適切におこなう

それぞれのポイントを詳しく解説します。

客観的な出退勤の記録を残す

事業場外労働のみなし労働時間制が適用される場合でも、企業は従業員の健康管理を目的として、タイムカードの打刻などの方法によって労働時間の状況を把握する義務があります。

そのため、健康管理を目的として出退勤の記録を残すことは必要です。

なお、労働時間の状況把握をおこなうことのみを理由に、事業場外労働のみなし労働制の適用が否定されるわけではありません。

実際、カードリーダーで出退勤を管理している仕組みが導入されていたとしても、事業場外労働のみなし労働制が適用されている事例もあります。

みなし労働時間が所定労働時間を超える場合の残業代を支払う

事業場外労働のみなし労働時間制は、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定められた一定の時間を労働したものとみなします。

定めた事業場外労働が常に所定労働時間を超えておこなわれる場合は、みなし労働時間分の給与を支払う必要があります。

なお、労使協定で定める事業場外のみなし時間が法定労働時間(1日8時間)を超える場合は、労使協定を労働基準監督署に届け出る必要があります。

ただし、8時間以下の場合は届出は不要です。

手待ち時間の義務付けをおこなわない

手待ち時間とは、具体的指示があった場合に従業員がそれに即応しなければならない状態をいい、指示に備えて手待ち状態で待機している、もしくは待機しつつ実作業をおこなっている状態のことです。

手待ち時間を義務付けると、その間は従業員が指揮監督下にあり、みなし労働時間の前提を満たさなくなります。

そのため、事業場外労働のみなし労働時間制が適用される業務に従事している時間は、従業員に手待ち時間を義務付けず、裁量に任せなければなりません。

業務の裁量を労働者に認める

事業場外労働のみなし労働時間制では、業務を従業員の裁量によっておこなっていなければ適用できません。

その業務が、たとえ事業場外で仕事をしていたとしても、使用者が具体的な指示を出して業務を進めている場合は、労働時間の算定が可能であると判断されます。

たとえば、外回りの営業であれば、営業ルートや訪問先の選択、訪問時間の決定などを従業員自身がおこなっていることが条件となります。

人事評価を適切におこなう

事業場外労働のみなし労働時間制の適用を受ける従業員についても、人事評価を適切におこなう必要があります。

ただし、従業員の実際の労働時間を把握することが困難なため、どのような業務をおこない、どのくらいの成果を出したのかなどを報告させることが必要です。

業務の進捗状況や課題を報告し合い、フィードバックする環境を作りましょう。

社員の人事管理・対応には「Chatwork」がおすすめ

事業場外労働のみなし労働時間制は、従業員の労働時間の適正な把握が困難な業務に従事した場合に、あらかじめ定められた一定の時間を労働したものとみなす制度です。

主に外回りの営業職やテレワークなどに適用されています。

ただし、「外回りの営業だから」「テレワークだから」という理由で一概に適用されるわけではありません。

実態として対象の業務が指揮命令を受けていないことが条件です。

現在、事業場外労働のみなし労働時間制を適用している企業は、改めて制度が適切に運用されているか確認しましょう。

また、事業場外での業務をしている場合でも、コミュニケーションを取りながら適正な人事評価をする必要があります。

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事業場外の業務に従事する従業員が簡単にコミュニケーションでき、成果の報告なども簡単におこなうことができます。

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[※1]出典:東京労働局「事業場外労働に関するみなし労働時間制」の適正な運用のために」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyo-roudoukyoku/jikanka/jigyougairoudou.pdf
[※2]出典:厚生労働省「自宅でテレワークを行う場合、「事業場外労働のみなし労働時間制」を利用できますか」
https://telework.mhlw.go.jp/info/qa/%E8%87%AA%E5%AE%85%E3%81%A7%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%82%92%E8%A1%8C%E3%81%86%E5%A0%B4%E5%90%88%E3%80%81%E3%80%8C%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E5%A0%B4%E5%A4%96%E5%8A%B4%E5%83%8D%E3%81%AE/
[※3]出典:労政時報「ナック(事業場外みなし制の適⽤と労使協定の有効性)事件」
https://www.law-pro.jp/wp-content/uploads/2019/06/news20190615-2.pdf
[※4]出典:厚生労働省「阪急トラベルサポート(概要情報)」
https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei_db/han/h10469.html

※本記事は、2024年8月時点の情報をもとに作成しています。


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Chatworkのお役立ちコラム編集部です。 ワークスタイルの変化にともなう、働き方の変化や組織のあり方をはじめ、ビジネスコミュニケーションの方法や業務効率化の手段について発信していきます。


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記事監修者:北 光太郎

きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。

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