社外取締役とは?求められる役割や就任要件、選び方を解説
目次
企業運営において、コーポレートガバナンス強化の流れを受けて社外取締役の制度が導入され、その役割への注目が高まっています。
この記事では、社外取締役について、社外取締役が求められるようになった背景や設置が必要な企業、役割、任期、就任要件、そして選ぶ際のポイントを解説していきます。
社外取締役とは
社外取締役とは、その名の通り、社外から迎える取締役のことをいいます。
社内取締役は、社内の従業員から昇進して就任したり、雇用したりするのに対し、社外取締役はスカウトや紹介を通じて社外から招かれて就任します。
社外から迎えられた社外取締役の役割は主に、会社の経営に対する客観的な監督や助言を行うことです。
また、経営者らの行動と企業利益が一致しているかについても監督します。
社外取締役と社内取締役の違い
社外取締役は社内取締役と同様に取締役会の議決に参加しますが、その際に「客観的な立場に立っているか」という点が大きく異なります。
社外取締役は社外から採用するため、資本関係や商業取引・近しい親族などのしがらみがありません。
在籍している取締役メンバーや取引先との利害関係がない分、取締役会において忌憚のない意見が述べられます。
一方、社内取締役は基本的に、社内の人間が昇格して就任し、社内に管掌部門をもつことが多いです。
社外取締役の歴史
社外取締役の歴史の背景には、コーポレートガバナンス強化への注目の高まりがあります。
バブルが崩壊する前の日本では、銀行が融資関係を通じて会社経営に大きな影響を与えていました。
しかし、その後の規制緩和や企業の資金調達の手段の多様化が進むなかで、銀行の影響力は低下し、株式会社の経営には株主からの影響が強くなっていきました。
そこで求められるようになったのが、コーポレートガバナンスです。
コーポレートガバナンスとは、企業が健全で効率的な経営をおこなうための仕組みのことです。
不正のない健全さを保ちながらも、株主をはじめとしたステークホルダーの利益が最大化されるような、企業運営体制の構築が求められるようになりました。
コーポレートガバナンス強化を担う制度として設置されたのが、社外取締役です。
法制度上でも社外取締役設置の動きが強まっており、2021年3月より施行された改正会社法では、上場企業には社外取締役の選任が義務化されました。
社外取締役の設置が必要な企業
社外取締役を設置する必要がある企業は、どのような企業でしょうか。
対象となる企業の範囲について解説します。
上場企業
上場企業には、社外取締役の選任が法律で義務化されています。
日本取締役協会による上場企業のコーポレート・ガバナンス調査(2021年8月集計)によると、東証一部企業のうち、独立社外取締役専任企業は99.86%、社外取締役専任企業は0.05%と、ほぼ全ての企業が社外取締役を選任していることがうかがえます。
しかし、会社側が社外取締役の活用に消極的だったり、社外取締役と会社内部の役割認識がずれていたりと、役割をうまく活用できていない企業もあるようです。
社外取締役が形式にとどまらず、コーポレートガバナンスに実効性を発揮できるような取り組みが、今後も求められていくでしょう。[※1]
上場を目指す企業
いずれ株式上場を目指す非上場企業も、社外取締役の設置を考えておく必要があります。
上場審査では、上場企業と同様の機関設計や運営がなされているかをチェックされる可能性があります。
非上場企業であっても、株式上場を見据えた体制づくりの一つとして、準備段階から社外取締役の設置を検討しておくといいでしょう。
社外取締役の役割
社外取締役にはどのような役割が求められるのでしょうか。
取締役会への参加
取締役会に参加することは、社外取締役の役割のひとつです。
取締役会を設置している会社では3カ月に1回は取締役会が実施されますが、社外取締役は、会社の代表取締役や執行役員らとともにこの取締役会に参加します。
取締役会では、社外の視点から経営陣に新鮮な気付きを与えたり、専門的な知識に基づいた助言をしたりといった、社外取締役ならではの意見に期待が寄せられるでしょう。
コーポレートガバナンスの強化
社外取締役は、コーポレートガバナンスの強化のための監督・助言の役割を担います。
会社内部やその利害関係者のみでの企業経営では、経営陣によって社内の論理を優先した判断が行われたり、不正が行われたりするかもしれません。
その結果、株主をはじめとしたステークホルダーの不利益が生じる可能性があります。
たとえば過去には、組織で従業員に課せられるノルマと実際の組織能力がかけ離れていたことにより、ノルマを達成できないことからデータ改ざんなどの違法行為が行われる事件が複数発生しています。
社外取締役が客観的な立場から会社経営を監督し、株主の利益を代弁することで、そうした利益相反が起こらないための予防や、起こった場合の速やかな対処が可能になります。[※2]
経営助言
企業の経営に対する助言をおこなうことも、社外取締役の役割です。
社外取締役は原則的に、会社の業務執行や経営判断の主体とはなりません。
しかし、その経営方針や経営の改善について、経営陣へ自らの知見に基づいた助言をおこなうことは求められます。
市場や産業構造の変化を踏まえ、会社が持続的に成長し、中長期的に企業価値を高めるための経営戦略を策定するにあたって、社外取締役の視点が重要な材料となるのです。
株主と経営陣のつなぎ役
社外取締役は、株主と経営陣をつなぐ役割も担います。
企業の主体は株主であり、企業経営には株主の意見が適切に反映される必要がありますが、経営陣のみの判断では、株主の利益が無視され、株主の利益が損なわれる可能性もあります。
経営陣と株主との間に利益相反が生じないよう、株主の利益を代弁する役割を担えるのが社外取締役です。
企業経営に対し、ある程度の影響力を持ちながらもその主体にならない社外取締役だからこそ、株主の意見を経営者に伝え、企業経営に反映する形で、株主と経営陣の間をつなげられるでしょう。
社外取締役の任期
社外取締役の任期についてはとくに規定がなく、法律やコーポレートガバナンス・コードにも定められていません。
2020年におこなわれた経済産業省のアンケート調査によると、就任後5年以下の社外取締役が8割を超えていますが、10年以上務める社外取締役もいます。
多様性を推進したい、会社への深い理解を求めたいなど、設定される任期は社外取締役に求める機能によって長短さまざまです。[※3]
社外取締役の就任要件
社外取締役の就任要件は、会社法第2条15号に定められています。
社外取締役は、その会社やグループ会社などと利害関係を持たない人物である必要があります。
会社法第2条15号を参考にまとめると、社外取締役の要件には次のようなものがあります。
- 会社や子会社の業務執行取締役や従業員でなく、かつ、その就任前10年間は会社や子会社の業務執行取締役等であったことがない
- 就任前10年以内に会社や子会社の取締役、会計参与、監査役であった場合、取締役、会計参与、監査役への就任前10年間は会社や子会社の業務執行取締役等でない
- 親会社の取締役や従業員でない
- 親会社の子会社などの業務執行取締役等でない
- 会社の取締役、重要な従業員、会社の経営を支配する者の配偶者や二親等内の親族でない
社外取締役に求められる役割のひとつは、経営陣の不正などがないよう客観的に監視し、株主や従業員などのステークホルダーを守ることです。
会社やグループ会社との利害関係を取り除くことにより、社外取締役に第三者としての客観性を求めることが可能です。[※4]
社外取締役の選び方
社外取締役には、どのような人物が適しているのでしょうか。
会社法2条15号の条件を満たしているか確認する
社外取締役を選ぶ際はまず、会社法2条15号の要件を満たす人物かどうかを確認しましょう。
第三者としての会社への監視・監督機能を果たせる人物と法的に判断される必要があります。
社内取締役に不足したスキルを補える人を選ぶ
社外取締役を選ぶ際には、社内取締役の持つスキルを明確にしたうえで、不足する側面を補えるような人物を検討しましょう。
まずは、社内取締役がどのようなスキルや強みを持っているかを洗い出しましょう。
そのうえで、会社の事業戦略と照らし合わせたときに弱点となる側面がある場合、その部分にスキルや強みを持つ人物は社外取締役に適している可能性があります。
会社の事業戦略と照らして社内に不足するスキルを補う人物を選ぶことで、社内外の取締役がそれぞれ異なる強みを発揮し、全体としてバランスの良い企業運営が期待できるでしょう。
経営や専門分野に関する知識ある人に依頼する
経営や専門分野に関する試験をもつ人物にも、社外取締役としての役割が期待できます。
社外取締役に求められるスキルや経験には、そのほかにも以下のようなものがあります。
- グローバル経営
- 営業
- ブランディング・マーケティング
- ESG経営(環境・社会・ガバナンス)
- 合併・買収
- 多様性(ジェンダーや国籍・民族など)
- リーダーシップ
これらの知識がある人として、元経営者や弁護士・公認会計士・税理士などがあげられます。
会社のニーズに応じた専門性を持つ人を、社外取締役として検討するといいでしょう。
社外取締役の役割をきちんと理解しよう
社外取締役は、株主と経営者らとの利益が相反しないことを監視・監督する役割があります。
社内のしがらみや利害関係に縛られずに経営をチェックするために、企業を含めたグループ会社と関わりのないことが要件として求められます。
社外取締役は株主総会の決議により、任期の延長が可能ですが、あまりに任期が長いと、役割が形骸化しかねません。
社外取締役を有効に機能させるためにも、社外取締役の貢献度をチェックしたり、在任期間を設けるなどして、経営陣に忌憚なく意見がいえるシステムを構築するといいでしょう。
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[※1]出典:日本取締役協会「上場企業のコーポレート・ガバナンス調査」
https://www.jacd.jp/news/opinion/cgreport.pdf
[※2]出典:MITSUBISHI MOTORS JAPAN「当社製車両の燃費問題について」
https://www.mitsubishi-motors.com/important/detailg420_jp/nenpi/index.html
[※3]出典:経済産業省「社外取締役の現状について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/cgs_kenkyukai/pdf/2_017_04_00.pdf
[※4]出典:e-Gov法令検索「会社法」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086
※本記事は、2023年6月時点の情報をもとに作成しています。