コーポレートガバナンス(企業統治)とは?意味と目的・問題点を解説

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コーポレートガバナンス(企業統治)とは?意味と目的・問題点を解説

目次

コーポレートガバナンスは、企業経営においてとても重要な仕組みです。

しかし、コーポレートガバナンスという言葉を聞いたことがあっても、意味や必要性を知らない人が多いかもしれません。

金融庁がガイドラインを定めているコーポレートガバナンスについて、意味や強化する方法、企業事例を解説します。

コーポレートガバナンス(企業統治)とは

コーポレートガバナンス(Corporate Governance)とは、企業が不祥事を起こさないために社外取締役や監査役をおいて、不正のない健全な経営を実施するように監視する仕組みのことです。

コーポレートガバナンスは、「会社は経営者のものではなく、資本を投下している株主のもの」という考えに基づいており、「企業統治」とも呼ばれます。

社外に監査役や委員会を設置するコーポレートガバナンスは、企業が株主や従業員などのステークホルダーに対し、利益を最大限還元していくために、企業価値の向上と不正防止を目的としています。

金融庁がコーポレートガバナンス・コードというガイドラインを策定したり、経済産業省がコーポレートガバナンスの実態調査をしたりなど、企業にとってコーポレートガバナンスへのとりくみは必要といえるでしょう。[※1][※2]

不祥事の発生などの企業価値を下げる状況にない、企業統治がされている状態のことを、「ガバナンスが効いている」と表現します。

コーポレートガバナンスが注目される背景

コーポレートガバナンス・コードは、平成26年6月24日に閣議決定された「日本再興戦略改訂2014」で「日本の稼ぐ力の強化」として策定が決定しました。

少子高齢化による働き手の減少により、日本企業の稼ぐ力が弱まっていることや、外国人投資家の持ち株比率が増加しているのに対し、日本のコーポレートガバナンスがグローバル水準に達していないことが、策定の理由です。[※4][※5]

コーポレートガバナンスは、企業の経営に関する仕組みのため会社法と関わりがあり、令和元年12月11日の改正会社法では、上場会社は社外取締役の設置が義務付けられました。[※6]

そのため、企業にとってコーポレートガバナンスは法律でもあり、企業の稼ぐ力を強化するためにも必要な仕組みとして注目されています。

コーポレートガバナンス・コードの5原則

コーポレートガバナンス・コードとは、金融庁が策定したコーポレートガバナンスのガイドラインです。

ガイドラインには、以下の5つの原則が定められています。

  1. 株主の権利・平等性の確保
  2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
  3. 適切な情報開示と透明性の確保
  4. 取締役会等の責務
  5. 株主との対話

コーポレートガバナンス・コードに記されている5原則を解説します。[※3]

1.株主の権利・平等性の確保

企業は、株主の権利の確保に対し適切な対応や、株主が権利を行使できる環境の整備をしなければなりません。

また、外国人株主や少数株主に不平等な対応をしないことが求められています。

2.株主以外のステークホルダーとの適切な協働

企業は、従業員や取引先、顧客などのさまざまなステークホルダーの貢献によって企業が発展できたことを理解し、ステークホルダーと協働することが求められています。

3.適切な情報開示と透明性の確保

企業は、財政、経営に関する情報を法令に則って開示するだけでなく、法令外でも積極的に開示するよう求められます。

開示する情報は、有用性とわかりやすさが必要です。

4.取締役会等の責務

取締役会等は、企業が不正をおこなわず、企業価値をうみだしていくために、事業の方向性を示したり、リスク回避できる企業環境を整備したり、客観的に監督したりすることが求められています。

5.株主との対話

企業は、株主総会の場だけでなく、株主と対話する機会を増やし、株主の意見を傾聴したり、企業の経営方針を株主に説明したりして、相互理解を深めるとともに、株主やステークホルダーに対し適切な対応をするよう求められています。

内部統制との違い

内部統制とは、社内のルールや法令を従業員に遵守させる仕組みです。

たとえば、就業規則などの社内規定や、法律を守ることが内部統制です。

コーポレートガバナンスは、企業の経営に関して不正がないこと、ステークホルダーに利益を還元することを目的とした仕組みのため、法令遵守の点は内部統制と共通しています。

コンプライアンスとの違い

コンプライアンスは「法令遵守」とも呼ばれ、企業が法律や社会的倫理を守ることをいいます。

コーポレートガバナンスは、企業に不正がないという法令遵守も目的としているため、コーポレートガバナンスを効かせることが、コンプライアンスを守ることにつながります。

>コンプライアンスの意味に関する記事はこちら

海外との違い

日本のコーポレートガバナンスは、不正のない経営をしながら株主や従業員などのステークホルダーの権利保護や適切な対応、稼ぐ力の強化を重視していますが、海外各国のコーポレートガバナンスと比較すると、重視する点や法令化の観点に違いがあります。

たとえば、アメリカやイギリスは株主の価値向上を重視しており、従業員にはあまり重きが置かれていません。

ドイツでは、監査役会に従業員代表を半数入れる必要があるなど、従業員を重視している傾向があり、フランスも従業員規模等によって従業員代表の取締役への登用を義務づけています。

また、日本はコーポレートガバナンスが法律で定められていませんが、ヨーロッパ諸国では法令化されている点も異なる点です。

コーポレートガバナンスの目的と必要性

コーポレートガバナンスには、以下のような目的と必要性があります。

  • 企業の不祥事を防止し透明性を確保する
  • 企業価値の長期的な向上
  • 社会的価値の長期的な向上
  • 株主の権利と平等性を守る
  • ステークホルダーの権利や立場を守る

それぞれについて、解説していきます。

企業の不祥事を防止し透明性を確保する

コーポレートガバナンスは、社外取締役や監査役を設置することで、社内だけで経営をおこなわせないようにして、企業の不祥事を防止する目的があります。

企業の不祥事を防止するだけでなく、企業に情報開示を求めることで、健全な経営がなされているかを監査できるため、企業の透明性も確保できるでしょう。

企業価値の長期的な向上

コーポレートガバナンスで企業の不正を防止することで、不正のない企業として世間的な信頼度が高まるため、銀行からの新たな融資や株主からの出資を受けやすくなるでしょう。

また、企業商品の売上の向上、優秀な人材の求職も考えられるため、企業経営の安定につながり、企業価値の長期的な向上が見込めます。

社会的価値の長期的な向上

企業は利益を追求するだけでなく、社会貢献も求められています。

たとえば、気候変動などの環境問題へ配慮し、プラスチックごみの削減にとりくむことや、自然災害への危機管理を高めることなどが必要とされています。

企業が社会的価値を向上させるには、従業員の健康や労働環境に気を配ったり、人権を尊重したりすることも重要です。

環境問題や従業員の労働環境などのサステナビリティを経営にとりいれるには、有識者やさまざまなステークホルダーをメンバーとしたサステナビリティ委員会の設置が有益とされています。

全社的にサステナビリティを推進し、自社が社会に不可欠な存在になれば、長期的に社会的価値を高めていけるでしょう。

株主の権利と平等性を守る

コーポレートガバナンスは、株主が適切な権利をもつこと、権利を行使できること、国籍や持ち株数により不平等な対応をしないことを求めます。

企業は、株主に適切な情報開示をおこなわないなど、株主に不利となる行為が可能なため、企業に出資する重要な存在として、株主には誠実に対応しましょう。

ステークホルダーの権利や立場を守る

企業は、経営で得た利益を株主や従業員、取引先などのステークホルダーに最大限に還元していかなければいけません。

コーポレートガバナンスを実施することで、社外から社内へと監視の目が入るため、企業のステークホルダーに対する不正防止ができるだけでなく、企業のステークホルダーに対する誠実な対応により、企業とステークホルダーの良好な関係へとつながるでしょう。

コーポレートガバナンスの問題点

コーポレートガバナンスは、企業の不正を防いだり、企業とステークホルダーとの良好な関係を築けたりするとりくみですが、次のような問題点もあるため注意が必要です。

  • 事業スピードが遅くなる
  • 株主・ステークホルダーへの依存性が高まる
  • 社外取締役などの外部人材が不足している
  • グループ会社へのとりくみが必要になる

各問題点を解説します。

事業スピードが遅くなる

コーポレートガバナンスにとりくむことで、事業スピードが遅くなる恐れがあります。

事業に関して社外の監査が入るため、指摘されないように注意するなどして、以前は迅速におこなえていた意思決定に時間がかかり、成長のチャンスを逃したりスピード感をもって事業をおこなえなかったりするでしょう。

とりくむ事業によっては監査から指摘を受け、中止を余儀なくされるケースも考えられます。

株主・ステークホルダーへの依存性が高まる

ステークホルダーへの利益還元を重視しているコーポレートガバナンスは、株主やステークホルダーへの依存性が高まる可能性があります。

たとえば、中長期的に成長していくことを目指している企業と、短期的な利益を欲するステークホルダーではお互いの方向性が合いませんが、企業はステークホルダーの考えを尊重することが求められます。

企業とステークホルダーの意見が合わない場合、企業は思いどおりの経営が難しくなるでしょう。

社外取締役などの外部人材が不足している

コーポレートガバナンスの強化には、社外取締役や社外監査役の設置が必要ですが、適切に監視してもらうには人材に経験やスキル、専門知識が求められます。

企業の不正防止や価値向上を目指すには、外部人材であれば誰でもいいというわけではないため、適任者の不足により、複数企業を兼任している社外取締役等が多い傾向です。

自社の健全な経営やステークホルダーからの信頼を高める点で、社外取締役や社外監査役は重要であり、優先的に解決すべき問題といえます。

グループ会社へのとりくみが必要になる

子会社などのグループ会社がある場合は、グループ会社にもコーポレートガバナンスのとりくみが必要です。

自社がコーポレートガバナンスを強化していても、グループ会社で不正や不祥事が発生すると、グループ全体の社会的信用が低下しかねません。

グループ全体でコーポレートガバナンスにとりくむことを「グループガバナンス」といいますが、グループガバナンスをおこなうことで、グループ全体の不正を防止でき、企業価値や社会的価値の向上につながるでしょう。

コーポレートガバナンスを強化する方法

コーポレートガバナンスは企業価値を高めるためにも重要です。

強化する方法について紹介します。

  • 内部統制の強化
  • 社外取締役・監査役の設置
  • 執行役員制度を導入する
  • 社内規定を明確化する

それぞれ詳しく見ていきましょう。

内部統制の強化

コーポレートガバナンスは社外から企業を監視するため、内部統制が綿密に定まっていない場合、即座にルール違反に気づけず、不正や不祥事を見落とす恐れがあります。

コーポレートガバナンスを機能させるためだけでなく、従業員に社内ルールや法令を遵守させるためにも、内部統制を綿密に定め、従業員に徹底させることが大切です。

社外取締役・監査役の設置

社内の経営層のみの経営では、第三者の監査の目が届かず、不正が起きる恐れがあります。

そのため、社外取締役や監査役を設置し、経営に関する第三者の監視体制を構築することで、経営層の不正防止への意識が高まるでしょう。

>社外取締役の選び方に関する記事はこちら

執行役員制度を導入する

業務を執行する執行役員と、経営の意思決定をする取締役を分離させることは、コーポレートガバナンス強化に有効です。

意思決定と執行する人が同一だった場合、不正を企て、実行することが容易になるでしょう。

執行役員制度を導入し、意思決定者と執行者を分離させることで、そもそも不正を企てられない、企てづらい環境を構築できます。

社内規定を明確化する

就業規則や業務フローをまとめたマニュアル、賞与に関することなど、社内ルールである社内規定を明確化しましょう。

社内規定を明確化することで、企業の方針や守るべきことが理解できるため、従業員は社内ルールに則った行動ができ、コーポレートガバナンスを強化できます。

コーポレートガバナンスを運用するときの注意点

コーポレートガバナンスを実施することは企業にとって重要ですが、運用には注意点があります。

コストがかかる

社外取締役を設置する場合、報酬を支払うためコストがかかります。

経済産業省が2019年11月から2020年1月にかけて、東証一部、二部上場企業の全社外取締役におこなったアンケートによると、社外取締役の報酬は600万円以上から800万円未満が最多という結果があります。

コーポレートガバナンスの運用は重要ですが、かかるコストも踏まえて最適な運用方法を検討するといいでしょう。[※7]

社外取締役・監査役の人材が不足している

社外取締役や監査役は、企業の不祥事を発見したり、防止したりするだけでなく、経営者層への報酬や経営戦略なども考える場合があるため、幅広い知識や経験が求められます。

そのため、社外取締役や監査役を担えるだけの人材が不足していることで、依頼できる人材が見つからず、コーポレートガバナンスの運用がスムーズにいかない恐れがあります。

>社外取締役に関する記事はこちら

コーポレートガバナンスに関する企業事例

コーポレートガバナンスの強化に成功した企業例と、違反した企業例を紹介します。

コーポレートガバナンスの強化に成功した事例

製造小売業を営む企業は、社外取締役だけでなく、社内取締役も取締役会や諮問委員会に設置し、社内外からの企業価値向上を目指しています。

また、監査室はひとつではなく、事業部門ごとに設置することで、不正防止へのとりくみを強化しています。

コーポレートガバナンスに違反した例

小売業を営む企業は、莫大な金額の粉飾決算をおこない、コーポレートガバナンスに違反しました。

結果として、世間に不信感を募らせたり、職を失った人がいたりしたため、コーポレートガバナンスの違反は、社会に対しさまざまな影響をおよぼすことがわかります。

企業のコーポレートガバナンスを強化しよう

コーポレートガバナンスとは、社外取締役や監査役を設置し、不正を防止したり企業価値を向上させたりする目的があります。

コーポレートガバナンスを強化するためには、内部統制を綿密に定め、ルール遵守を従業員に徹底することも有効なため、コストのかかる社外取締役や監査役を設置する前に内部統制の調整からとりかかるのもいいでしょう。

グローバル社会になっている現代、コーポレートガバナンスは、企業にとって今後さらに重要となることが考えられるため、企業のコーポレートガバナンスを強化していくことが大切です。

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[※1]出典:金融庁「コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~の確定について」
https://www.fsa.go.jp/news/26/sonota/20150305-1.html
[※2]出典:経済産業省「コーポレートガバナンスに関する各種政策について 」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/corporategovernance.html
[※3]出典:金融庁「コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~ 」
https://www.fsa.go.jp/news/26/sonota/20150305-1/04.pdf
[※4]出典:首脳官邸「「日本再興戦略」改訂 2014-未来への挑戦- 」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/honbun2JP.pdf
[※5]出典:経済産業省「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/pdf/ggs/190628ggsguideline.pdf
[※6]出典:法務省「会社法の一部を改正する法律について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00001.html
[※7]出典:経済産業省「社外取締役の現状について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/cgs_kenkyukai/pdf/2_017_04_00.pdf
※本記事は、2024年8月時点の情報をもとに作成しています。


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