エンパワーメントとは?意味や例を、介護や福祉での使い方を簡単に解説
目次
ビジネスの現場では、従業員の能力を引き出す「エンパワーメント」が求められます。
従業員に権限を与えて、自主的な行動につなげてもらうことで、意思決定のスピードや生産性の向上に期待できるでしょう。
エンパワーメントを社内で推進するとき、どのような方法で実践していくとよいのでしょうか。
福祉におけるエンパワーメントの意味とともに、ビジネスで推進する方法と企業事例を解説します。
ビジネスにおけるエンパワーメントとは?
ビジネスのエンパワーメントとは、「自信を与える」「力をつける」という意味があり、個人の潜在能力を引き出し、十分に発揮できる環境を整えるという意味合いで使われています。
具体的には、従業員に権限を与えて、自主的な行動につなげてもらい、スキルを発揮してもらうことを指します。
従業員ひとりひとりの能力を引き出しやすくなり、事業活動の生産性を向上させる効果が期待できるでしょう。
また、仕事の裁量権を与えられるため、仕事に対する満足度を高めやすくなります。
もともとは、20世紀のアメリカで起こった市民運動や先住民運動などの公民権運動で提唱された考え方であり、1980年代の女性の権利獲得運動をきっかけに広がった言葉です。
ビジネスにエンパワーメントが必要な背景
AIの導入による技術革新など、時代の変化に対応するには、経営においてもスピーディーな意思決定が求められます。
現場に権限委譲することで、経営方針に合った行動を自主的に判断できるようになり、仕事の成果につながる行動をとりやすくなるでしょう。
とくに現場レベルの小単位のチームに対してエンパワーすることで、より円滑に動きやすくなるための決定ができます。
そうした権限委譲は、現場が臨機応変に対応するスキルが磨かれるだけでなく、従業員の達成感や自己評価を高めることにつながるでしょう。
また、新入社員や中途採用社員などの人材育成において、自主的な行動をうながすことで吸収できる情報量が増えて、現場に馴染みやすくなる効果が期待できます。
看護・介護におけるエンパワーメントの意味
看護や介護などの福祉の現場では、患者が受け身にならずに、積極的に治療に専念する姿勢が求められます。
たとえば、医療者から治療内容の詳細を聞いて、知識を身につけることなどが当てはまるでしょう。
医療者は円滑にコミュニケーションを図りながら、患者の治療に関する目標達成に向けた自己管理をサポートしていきます。
障害者福祉におけるエンパワーメントの意味
障害者福祉の現場においては、本人の能力を十分に発揮できるように、保護する対象という見方を見直すことが必要です。
日常生活や仕事において役割を与えたり、心理的なサポートをしたりすることで、自立の支援につながります。
エンパワーメントが生まれた理由や歴史
エンパワーメントという考え方の始まりは、20世紀にアメリカで起こった公民権運動がきっかけであると言われています。
1970年代、作家・ジャーナリストのバーバラ・ソロモンにより、介護におけるエンパワーメントの重要性が広がりました。
ソロモンは、「エンパワーメントとは、『スティグマ化された集団の構成メンバーであることに基づくパワーの欠如状態を減らす』こと」と定義しており、具体的には、ソーシャルワーカーやサポートする第三者は被介護者に対して、全てに手を貸すのではなく、本人ができることを引き出し、自立を促すという考え方です。
この考え方は波及していき、現在では経営においても取り入れるべき考え方として注目されています。
エンパワーメントが広く知れ渡った理由
エンパワーメントが広く知られるようになった主な理由は、以下の3つがあります。
- 意味合いが広い
- 社会変革のきっかけとなる言葉だった
- 社会的立場が弱い人に力を与える
それぞれ解説していきます。
意味合いが広い
エンパワーメントには、さまざまな意味がありますが、それぞれの意味で使われる個人や組織、グループやコミュニティなどで対象を問わず、使用したい対象に合わせた使い方ができる、という点で汎用性が高いという特徴があります。
これにより、使用シーンが広く、柔軟な意味で使われる場合が多いため、広がりやすかったといえるでしょう。
社会変革のきっかけとなる言葉だった
エンパワーメントの概念を用いる分野として、社会福祉や女性運動、現代の心理学などが挙げられます。
社会変革を引き起こすにあたって、エンパワーメントの考え方やその言葉が有効だったことも、広く普及した要因のひとつでしょう。
社会的立場が弱い人に力を与える
社会的立場が弱い人とは、人種や宗教、国籍や性別などによって、所得・身体能力・発言力などが制限され、社会的に不利な立場にある人を指します。
そういった人々を本人の力で自立した状態にするために、エンパワーメントという考え方や言葉が広まっていったとされています。
エンパワーメントが注目されている理由
ビジネスシーンにおいて、現在エンパワーメントが注目されている理由として、以下の3つが挙げられます。
- 中途従業員の早期適合をはかる
- 迅速な意思決定ができる
- 次世代の若手の育成ができる
それぞれの理由について解説していきます。
中途従業員の早期適合をはかる
中途社員のもつポテンシャルを早期に発揮させるためには、自社の文化や業界にいち早く馴染んでもらう必要があります。
その有効的な手段として、一定の裁量を譲渡し、エンパワーメントを活用して成果を上げやすい環境を作る企業が増えてきています。
エンパワーメントの効果を十分に活かすためには、エンパワーメントする従業員とその内容が肝心であると覚えておきましょう。
迅速な意思決定ができる
近年の技術革新やグローバル化、AI技術の進歩はめざましいものであり、すべての意思決定を経営陣や上層部で協議していると、時代に追いつくことができません。
ある程度の選択や決定は現場のリーダーに任せることで、迅速な意思決定が可能となり、時代の流れに即した経営が可能となります。
もちろん、誰にどこまでの権限を譲渡し、イレギュラーがあった際のオペレーションはどうする、といったフローを決めておく必要もあります。
次世代の若手の育成ができる
若手世代の育成にもエンパワーメントは有効です。
リーダー候補の若手社員に対して、現場レベルの判断を委ねることで、適切な判断力や行動力の育成が可能となります。
優秀な人材確保は経営において重要なミッションです。
その育成の手段として、エンパワーメントが注目されています。
エンパワーメントを推進するメリット
従業員に権限を与えて、自主的な行動につなげてもらい、スキルを発揮してもらうエンパワーメントは、推進することでビジネスシーンでどのようなメリットを期待することができるのでしょうか。
- 主体的に行動できる人材を育成できる
- 意思決定のスピードや生産性が向上する
- 顧客満足度・従業員満足度の向上につながる
ビジネスにおいて、エンパワーメントを推進するメリットを見ていきましょう。
主体的に行動できる人材を育成できる
現場の従業員に裁量権を与えるため、主体性をもって行動できる人材を増やせます。
上司から指示を待つ形ではなく、部下が仕事に対する責任感をもって、自力で課題解決に向けた判断ができるでしょう。
従業員の能力を引き出しながら、マネジメント能力が身につけられて、管理職やリーダーの育成に役立ちます。
意思決定のスピードや生産性が向上する
エンパワーメントは、経営上層部にすべての判断をゆだねるわけではなく、ある程度は現場に権限委譲します。
仕事内容の判断において確認する工程が簡略化できるため、意思決定の時間を短縮できるでしょう。
意思決定のスピードが高まると、職場全体の生産性向上に期待できます。
顧客満足度・従業員満足度の向上につながる
現場に権限委譲や裁量権を与えると、仕事に対する自由度の向上から従業員満足度を高めやすくなります。
仕事を任せてもらえるという信頼感が生まれて、自主的な行動をうながせるため、従業員が本来もっている能力を発揮しやすくなるでしょう。
企業の目標や方向性に照らし合わせながら、各従業員が顧客の課題解消に向けた行動をとれるようになり、顧客満足度を向上させる効果が期待できます。
エンパワーメントを推進するデメリット
次にビジネスシーンでエンパワーメントを推進するデメリットを見ていきましょう。
- 組織と従業員の方向性にズレが起きる場合がある
- 権限委譲に向いていない従業員が出てくる
メリットばかりに目を向けてしまうと、デメリットや注意点を検知できず、かえって取り組みがマイナスに働いてしまう危険性があります。
エンパワーメントを推進する際は、デメリットもきちんと把握するようにしましょう。
組織と従業員の方向性にズレが起きる場合がある
エンパワーメントの自主的な判断は、あくまで企業の方向性に合った判断が重要になります。
導入の目的を理解できていないと、部下が自由に行動してよいと勘違いするケースが出てくるかもしれません。
従業員の認識がズレてしまうと、組織の価値基準に合わない判断をしてしまいます。
権限委譲に向いていない従業員が出てくる
現場に権限をゆだねる方法よりも、上層部からの指示をあおぐほうが仕事を進めやすいと感じる従業員もいます。
従来の方法に慣れている場合、自主的な行動をとりづらいと感じてしまい、生産性が低下してしまう可能性もあるでしょう。
従業員が心理的なプレッシャーを感じるケースもあるため、現場の様子を見ながら調整していく必要があります。
エンパワーメントを推進する方法
エンパワーメントを推進する方法を解説します。
- 社内で情報公開・権限委譲する
- 従業員から共感を得る
- 目標に向けた行動・フォローを欠かさない
- トラブルの予防に向けて勉強会を実施する
円滑にエンパワーメントを推進できるように、推進方法の各ステップを確認していきましょう。
社内で情報公開・権限委譲する
エンパワーメントを推進するには、経営の責任者から従業員全体に向けて説明する機会を設けましょう。
企業の具体的な導入事例を紹介することで、エンパワーメントに関するイメージを掴みやすくなります。
また、エンパワーメントに関わる企業の情報や成果について、社内でオープンにすることが重要です。
情報の公開範囲を管理職に限定するなど、小規模から権限委譲することで、エンパワーメントの推進を成功させやすくなります。
従業員から共感を得る
エンパワーメントの内容を広めていく過程では、従業員が感じている不満や疑問を解消することが重要です。
「仕事の負担が増えないのか」「どのように実践するのかわからない」など、従業員の声を聞きとる機会を設けましょう。
従業員が実践するメリットとともに伝えることで、導入する目的や必要性を理解してもらいやすくなります。
目標に向けた行動・フォローを欠かさない
企業の目標達成に向けて、上司は部下を心理的にサポートしていく姿勢が求められます。
部下に仕事を丸投げしてしまうことや、指示を出しすぎる形ではなく、課題解消に向けたヒントを与える質問を投げかけることが大切です。
エンパワーメントを発揮するには、お互いの違いを認め合いながら、意見を公平に伝えられる環境を整えることも重要です。
部署内の人間関係において、円滑にコミュニケーションを図れるような雰囲気づくりを意識しましょう。
トラブルの予防に向けて勉強会を実施する
社内にエンパワーメントを広めるには、定期的に勉強会や講習会を実施することが大切です。
権限委譲や範囲について説明をすることで、失敗する前に報連相を心がけられるなど、対策を打ちやすくなります。
改善策と実行を繰り返しながら、自社に合う方法を模索しましょう。
エンパワーメントを導入している企業の具体事例
エンパワーメント経営をしている企業は多くあります。
実際に取り入れるために、他社がどのように実践しているのか詳しくみていきましょう。
リゾートホテルの事例
あるリゾートホテルでは、従業員の退職が相次ぎ、人材確保に課題を抱えていました。
そこで退職を希望する従業員にアンケートをしたところ、トップダウンでのマネジメント方針に不満をいただいてることがわかりました。
その課題を払拭すべくエンパワーメントを導入し、社員同士の情報共有の活性化やアイディアなどの発言を自由にできる機会作りを実施し、従業員を定着させていきました。
コーヒーチェーン店の事例
心地よい接客が有名なコーヒーチェーン店では、エンパワーメントの一環として接客マニュアルを作成しておりません。
それぞれの従業員で顧客が求めているサービスを考えながら行動することを促しており、それにより顧客目線で高いサービス提供が実現されています。
有名ホテルの事例
ある有名ホテルでは、3つのエンパワーメントを定めています。
- 1日2000ドルまでの決裁権がある。
- 上司の判断を仰がずに従業員の判断で行動する。
- 自分の通常業務を離れて、チームの壁を超えて仕事を手伝える。
スピーディで質の高いサービス提供により、顧客満足度を高めています。
エンパワーメントを推進する際の注意点
エンパワーメントを推進する際の注意点について解説します。
権限委譲の範囲・判断基準を決めておく
権限委譲の範囲については、部署間や従業員同士で揉める原因にしないためにも、あらかじめ範囲を決めておくことが大切です。
また、判断基準についても、上司と部下において基準を明確にしておくことで、判断ミスによる失敗のリスクを軽減できます。
判断ミスによる失敗を受けとめる
判断ミスによる失敗は、部下が責任をとるのではなく、上司が責任をとる姿勢が重要です。
基本的には、部下に任せて介入しないようにしながら、上司は様子を見守って相手を信頼する姿勢が求められます。
企業でエンパワーメントを推進しよう
エンパワーメントを発揮するには、従業員を信頼して判断を任せる姿勢が求められます。
企業側は、現場に権限委譲する範囲や判断基準を決めておくことで、トラブルが起きる状況を予防しやすくなるでしょう。
従業員の能力を引き出すためにも、エンパワーメントに関する成果や内容を共有することが重要です。
まめに情報を発信し、従業員の理解をうながしながら、エンパワーメントを推進していきましょう。
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