【社労士監修】女性活躍推進法とは?企業の義務や改正内容、成功事例を解説
目次
女性活躍推進法は、企業が雇用している女性が活躍しやすい環境をつくることを目的とした法律です。
法律は2020年10月から順次改正され、女性活躍推進法による対象企業の拡大や情報公表の強化が行われています。
この記事では女性推進法の改正内容を解説するとともに、女性活躍推進法にとりくむ企業の成功事例をご紹介します。
女性活躍推進法とは
女性活躍推進法は、「自らの意思によって職業生活を営み、又は営もうとする女性の個性と能力が十分に発揮されることが一層重要。このため、以下を基本原則として、女性の職業生活における活躍を推進し、豊かで活力ある社会の実現を図る。」として2016年4月1日に施行されました。[※1]
2019年5月には改正女性活躍推進法が成立し、2020年4月1日から順次改正法が施行され、対象企業の拡大や情報公表の強化が行われています。
女性活躍推進法が成立した背景
女性活躍推進法が成立した背景には少子高齢化があります。[※2]
少子高齢化によって労働者人口の減少が予想されている日本で、持続的な成長を実現するためには女性の労働力が不可欠なものとして位置づけられているためです。
しかし、日本企業では出産や育児の関係で離職をしたり、管理職候補から除外されることも珍しくありません。
そうした背景から、女性の能力が十分に発揮され、活躍できる社会を実現するために女性活躍推進法が成立されました。
女性活躍推進法の改正内容
女性活躍推進法は、2020年4月1日から順次施行されます。
主な改正内容は以下のとおりです。
- ⾏動計画の策定・情報公表の対象拡大
- 情報公表の強化
- 特例認定制度(プラチナえるぼし)の創設
それぞれを詳しく解説します。
⾏動計画の策定・情報公表の対象拡大
これまで女性活躍推進法に基づく取り組みは、労働者が301人以上の企業に義務化されていましたが、2022年4月1日から101人以上の企業に拡大されました。[※3]
ここでいう「労働者」とは以下に該当する者です。
- 正社員
- 期間の定めのない非正規社員
- 1年以上引き続き雇用されている有期契約労働者
- 1年以上雇用が見込まれる有期契約労働者
上記に該当する労働者を101人以上雇用している場合は、女性活躍推進法に基づく行動計画の策定や情報公表が必要になります。
情報公表の強化
301人以上の労働者を雇用する企業には以下3項目の情報を公表する必要があります。[※4]
- 女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績
- 男女の賃金の差異
- 職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績
なお、労働者が101人以上300人以下の企業は、任意の項目を1つ以上選択し、情報公表が必要です。
女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供実績
女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績として、以下の8項目から1項目を選択し、公表する必要があります。
- 採用した労働者に占める女性労働者の割合
- 男女別の採用における競争倍率
- 労働者に占める女性労働者の割合
- 係長級にある者に占める女性労働者の割合
- 管理職に占める女性労働者の割合
- 役員に占める女性の割合
- 男女別の職種または雇用形態の転換実績
- 男女別の再雇用または中途採用の実績
男女の賃金の差異
2022年7月8日から「男女の賃金の差異」の公表が義務づけられました。
「男女の賃金の差異」は、男性労働者の賃金の平均に対する女性労働者の賃金の平均を割合(パーセント)で示す必要があります。
職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備実績
以下の8項目から1項目を選択し、公表する必要があります。
- 男女の平均継続勤務年数の差異
- 10事業年度前およびその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合
- 男女別の育児休業取得率
- 労働者の一月当たりの平均残業時間
- 雇用管理区分ごとの労働者の一月当たりの平均残業時間
- 有給休暇取得率
- 雇用管理区分ごとの有給休暇取得率
特例認定制度(プラチナえるぼし)の創設
「えるぼし認定」とは女性活躍推進法に基づき、一定基準を満たしている優良な企業を認定する制度です。
2020年6月から、えるぼし認定企業のうち、より高い水準の要件を満たした企業には「プラチナえるぼし」が認定されることとなりました。[※5]
「プラチナえるぼし」の認定を受けることで、女性の活躍を推進している企業であることを対外的にアピールができ、優秀な人材が集まりやすくなります。
また、「プラチナえるぼし」の認定企業は、一般事業主行動計画の策定・届出が免除される特典がついています。
企業がとりくむべき女性活躍推進法の流れ
女性活躍推進法によって労働者が101人以上の企業には、行動計画の策定や情報公開が義務化されています。
対象となっている企業は以下の流れで取り組みを実施しましょう。[※6]
- 分析と調査
- 計画の策定
- 計画の周知と公表
- 計画を策定した旨の届出
- 取り組みの実施と効果の測定
順を追って解説します。
分析と調査
まずは社内の女性従業員の活躍状況について、以下の4点を把握します。
- 採用者に占める女性比率
- 平均勤続年数の男女比
- 月別の平均残業時間数
- 女性管理職の比率
上記のうち、1と2については、職種や雇用形態別に把握すると良いでしょう。
現状を把握できたら、次は課題分析です。
課題分析は、以下のような基準を設けると行動計画を策定しやすくなります。
- 女性採用者が40%を下回っている
- 女性の勤続年数が男性に比べて低くなっている
- 残業時間が月平均45時間を上回っている
- 女性管理職の割合が40%を下回っている
このように基準を設けることで自社の課題が明確になり、改善に向けた行動が起こせるようになります。
計画の策定
状況の把握ができたら、行動計画を策定しましょう。
行動計画の策定にあたっては、計画期間や目標、取り組み内容を決める必要があります。
たとえば、管理職の女性割合が低い企業であれば、目標を「課長以上の女性管理職を1人以上増やす」として、「管理職候補となる女性従業員の育成研修を行う」などを行動計画として策定します。
計画の周知と公表
策定した行動計画は、社内に周知するとともに外部へ公表をする必要があります。
社内周知は社内の見やすい場所への掲示や、社内ネットワークへの掲載などの方法で行います。
また、周知する対象者は正社員だけでなく、パート・アルバイトなども含まれます。
外部への公表は、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」への掲載や、企業のホームページへの掲載などの方法で公表しましょう。
なお、計画の周知と公表はどちらも行う必要があります。
計画を策定した旨の届出
行動計画を策定したら、策定の日からおおむね3か月以内に管轄の都道府県労働局へ届出をしましょう。
届出方法は電子申請、郵送、持参のいずれかの方法で行います。
提出の際には、厚生労働省が提供している「一般事業主行動計画策定・変更届」をダウンロードし、必要事項を記入したうえで届出を行いましょう。
取り組みの実施と効果の測定
行動計画を労働局へ届け出たあとは、実際に計画の取り組みをスタートさせます。
数値目標の達成状況や、行動計画に基づく取り組みの実施状況の点検・評価を行い、PDCAサイクルを回しましょう。
PDCAサイクルとは、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)の頭文字をとった略称で、業務管理における改善方法を指します。
PDCAサイクルを確立させ、目標達成に向けて取り組みを実施しましょう。
女性活躍推進法にとりくむ企業の事例
最後に女性活躍推進法にとりくむ企業の事例を紹介します。
ある企業では、管理職のポストのほとんどが男性の出向者が占めており、女性の管理職不足が問題となっていました。
そこで、女性の割合が多いプロパー従業員のなかから管理職の育成を開始しました。
とくに女性管理職育成に向けた研修の充実を図り、女性従業員に「私にもできる」と自信をつけさせていきました。
また、19パターンの短時間勤務制度を設け、子どもが小学3年生の修了までは家庭の事情に応じて柔軟に勤務時間を変更可能にし、仕事と家庭を両立できる環境を整備しました。
結果、女性管理職(課長以上)の割合は、2021年9月末時点で62%となり、一般事業主行動計画に掲げた目標を達成したのです。
さらに、その成果が認められ2021年に「プラチナえるぼし」を取得し、採用の場面において自社のイメージアップや信頼度向上に寄与しています。
女性活躍推進法を正しく理解しとりくもう
女性活躍推進法は、女性が働きやすく活躍できる環境を整備する目的で施行された法律です。
一定の基準を満たす企業では、行動計画の策定や、女性労働者に関する情報公表が義務づけられています。
対象となる企業は、取り組むべき事項を正しく理解し、対応にあたりましょう。
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[※1]厚生労働省「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の概要」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000095826.pdf
[※2]厚生労働省「女性の職業生活における活躍の推進に関する基本方針」
https://www.gender.go.jp/policy/suishin_law/horitsu_kihon/pdf/kihon_honbun_02.pdf
[※3]厚生労働省「令和4年4月1日から女性活躍推進法に基づく行動計画の策定・届出、情報公表が101人以上300人以下の中小企業にも義務化されます」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000862422.pdf
[※4]厚生労働省「女性活躍推進法に関する制度改正のお知らせ」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000962289.pdf
[※5]厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html
[※6]東京労働局「行動計画策定かんたんガイド」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000972774.pdf
記事監修者:北 光太郎(きた こうたろう)
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。