【社労士監修】労働基準法とは?どんな法律かをわかりやすく解説
目次
労働条件の最低基準を定めた労働基準法は、企業に雇用されるすべての労働者に適用される法律です。
労働時間や休日、賃金など様々な基準が定められており、労働者を雇用する際にはその基準を下回ってはいけません。
この記事では、労働基準法がどんな法律なのかをわかりやすく解説します。
労働基準法とは
労働基準法は雇われる側の労働者を保護し、権利を守る法律として1947年に制定されました。
法律には、労働時間や休日、賃金などの最低基準が定められており、企業はこの基準を下回る労働条件で労働者を雇用することはできません。[※1]
また法律には罰則も設けられており、労働者に対する企業の不当行為を防止しています。
労働基準法の制定目的
労働時間や賃金などの労働条件は、企業と労働者の間で自由に決めることができるため、雇用される労働者の方が立場上弱くなってしまいます。
そこで労働基準法では、労働者が企業から不利な労働条件を負わされないよう、最低基準を定め、労働者を保護する目的で制定されました。
労働基準法の対象者
労働基準法では対象となる労働者を「職業問わず、事業または事業所に使用される者で賃金を支払われる者」としています。
つまり、会社の指示に従って労働をした対価として賃金が支払われる者ということです。
そのため、法人の代表者や役員などの指揮命令をする立場にある人は、労働者に該当しません。
また、同居の親族のみで事業をする事業所や家事使用人、一般の国家公務員も労働基準法の対象外としています。[※2]
労働基準法の主な内容
労働基準法は、労働者に関わる基準を広く定義しています。
その中でも重要なものとして、以下の項目について詳しく解説します。
- 労働時間
- 時間外・休日労働
- 割増賃金
- 休日
- 解雇
- 年次有給休暇
- 休憩
労働時間
労働時間とは、労働者が会社の指示に従って労働している時間をいいます。
労働時間は原則、休憩時間を除き1日8時間、週40時間を超えてはいけません。[※3]
また、労働時間の判断は労働契約で決められた時間ではなく、指揮命令下に置かれた時間で判断します。[※4]
そのため、労働者ひとり一人の労働時間を日々管理し、適切に把握することが求められているのです。
時間外・休日労働
「時間外」とは、1日8時間・週40時間を超えて労働した時間のことで、「休日労働」は法定の休日に労働することを意味します。
労働基準法では原則として、時間外労働と休日労働を認めていませんが、業務上の都合で法定の労働時間を超えて労働をせざるを得ない状況が発生する可能性は十分にあります。
そこで、「36協定(時間外・休日労働の協定)」を締結することで一定の時間まで時間外・休日労働が認められるのです。[※3]
36協定を締結せずに時間外・休日労働をした場合は労働基準法に違反するため、時間外や休日労働をする可能性がある場合は必ず締結しましょう。
割増賃金
労働基準法では、時間外や休日労働、深夜労働をした場合には、通常より割増された賃金の支払いが必要とされています。
それぞれの割増率は以下のとおりです。[※5]
- 時間外労働:2割5分以上
- 休日労働:3割5分以上
- 深夜労働:2割5分以上
- 1か月60時間超:5割以上
なお、時間外労働が深夜にわたる場合は5割以上、休日労働が深夜にわたる場合は6割以上、60時間超の深夜は7割5分以上の割増賃金の支払いが必要になります。
休日
休日とは、労働義務がない日のことをいい、法律では毎週少なくとも1日、もしくは4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならないと定められています。
ただし、3交代制勤務などで日をまたがる勤務がある場合には、継続して24時間労働から解放されていれば休日としてみなされます。[※6]
解雇
解雇とは、使用者が一方的に労働契約を解約することをいいます。
解雇する場合には、原則として少なくとも30日前に解雇予告をしなければなりません。
ただし、解雇予告手当として30日以上の平均賃金を支払う場合には解雇予告は必要なくなります。
また解雇の制限として、業務上の負傷により休業している期間と休業明け後の30日間、産休の期間と産休明け後の30日間は解雇できません。[※7]
ただし、労働者の責に帰すべき事由での解雇や天災などで事業の継続が不可能な場合は、これらの制限なく解雇が可能です。
年次有給休暇
年次有給休暇とは、休日とは別に労働義務が免除される休暇です。
「有給」という名称の通り、年次有給休暇を取得した労働者に対しては賃金の支払い義務が発生します。
また年次有給休暇は、労働者の雇い入れから6か月継続で勤務し、かつ出勤率が8割以上あった場合に10日分の付与が必要です。
加えて、付与日を基準に毎年勤続年数に応じて日数が増えていき、最高で20日分が付与されるため、労働者ごとに日数を管理をしなければいけません。
なお、パートやアルバイトなどで労働日数が週4日以下の労働者や労働時間が週30時間未満の労働者にも、その日数や時間に比例して付与されます。[※8]
休憩
休憩とは、労働からの解放を保障されている時間をいいます。
休憩時間は労働時間によって以下のように定められています。[※3]
- 労働時間が8時間を超える:少なくとも1時間
- 労働時間が6時間を超える:少なくとも45分
- 労働時間が6時間以下:与えなくてもよい
法律では上記のように定められていますが、多くの企業では8時間を超える労働(時間外労働)が発生する可能性があるため、休憩を1時間としています。
また、休憩は労働時間の「途中」で取ることが条件となっており、始業前や終業後に取った休憩は認められません。
なお法律では、休憩を原則一斉に与えるよう定められており、個別に休憩を取得させる場合は労使協定の締結が必要となります。
労働基準法の注意点
労働基準法は、労働条件の最低基準を定めた基本的なルールであるため「知らなかった」では済まされません。
ここでは、労働基準法の主な注意点を解説します。
36協定の必要性を確認する
労働基準法により法定労働時間を超える場合や休日労働される場合は36協定(時間外・休日労働の協定)を締結し、労働基準監督署に届け出なければいけません。
もし、36協定を届出せずに時間外労働や休日労働を行わせた場合は、労働基準法違反になります。
まずは自社の労働時間を把握し、36協定の必要性を確認しましょう。
また、36協定の限度時間である月45時間、年360時間の時間外労働を超える場合には、特別条項付きの36協定の締結も必要です。
労働時間を適切に管理し、必要な対応を行いましょう。
適用されない場合もある
労働基準法は企業に雇用される「労働者」のみに適用されます。
そのため、以下に該当する方には労働基準法が適用されません。
- 法人の役員
- 同居の親族のみ使用する事業
- 家事使用人
- 一般職の国家公務員
なお、管理監督者など法律で認められている地位や役職に就く労働者は、労働時間や休日など一部の労働基準法が適用されません。
罰則が規定されている
労働基準法の違反となる行為を行った場合には、罰金や懲役などの罰則が科される可能性があります。
また労働基準法に違反した企業は、社名などが報道されることもあるため、企業にとって経済的・社会的に大きなダメージとなるでしょう。
そのため労働者を雇用する企業は、労働基準法に違反する行為が発生しないよう、日々の業務を適切に管理・運営していくことが求められます。
>【社労士監修】労働基準法違反になるケースに関する記事はこちら
労働契約法も確認する
労働契約法は、会社と労働者との間で締結される労働契約に関する基本的事項を定めた法律です。
労働者を雇用する際には「労働契約」を締結する必要があるため、労働契約法についても知る必要があります。特に以下の3つについては注意しておきましょう。
- 雇止めなどの契約更新
- 不当な解雇
- 一方的な不利益変更
これらの行為は、法律で厳格に定められており、具体的な要件などは労働契約法に明文化されています。[※9]
労働者を雇用するにあたっては労働基準法だけではなく、労働契約法の遵守も不可欠です。
労働基準法の改正について
働き方改革関連法により2019年から労働基準法の改正法が施行されています。
主な改正内容は以下のとおりです。[※10]
- 時間外労働の上限規制
- 年次有給休暇の取得義務
- フレックスタイム制の清算期間変更
- 高度プロフェッショナル制度の導入
- 割増賃金の引き上げ
それぞれを詳しく解説します。
時間外労働の上限規制
時間外労働の上限については、2019年4月まで罰則が設けられておらず、かつ36協定の特別条項を締結すれば上限なく時間外労働を⾏わせることができていました。
しかし、改正によって罰則付きで上限が規定され、さらに臨時的な特別な事情がある場合にも時間外労働の上限が設けられました。
これにより原則、時間外労働の上限である月45時間・年360時間を超えると罰則が科されることになりました。
また、特別条項付きの36協定を締結した場合でも、以下の上限は超えることができません。
・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働と休日労働の合計が⽉100時間未満
・時間外労働と休日労働の合計が1か月あたり平均80時間以内
・時間外労働が月45時間を超える月が年6か月まで
上記に違反した場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰⾦が科される可能性があります。
年次有給休暇の取得義務
改正により、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対し、年5日分を取得させることが企業側の義務となりました。
企業は、「時季指定」「労働者自らの請求・取得」「年次有給休暇の計画的付与制度」のいずれかの方法で年5日取得させる必要があります。
なお、年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合は、30万円以下の罰金が科される可能性があります。
人事担当者は労働者ごとに年次有給休暇の取得日数を労働者ごとに管理し、毎年5日以上取得しているかを確認しなければいけません。
フレックスタイム制の清算期間変更
改正により、フレックスタイム制の清算期間は最長「1か月間」から「3か月間」に延長されました。
これまで月をまたぐことのできなかった清算期間が長期間で調整できるようになり、閑散期や繁忙期に合わせた、より柔軟な働き方ができるようになります。
ただし、清算期間が1ヵ月を超える場合には、労働者自身が時間外労働時間を把握しにくくなるため、人事担当者から各月の労働時間数を通知することが望ましいとされています。
高度プロフェッショナル制度の導入
高度プロフェッショナル制度とは、高度な専門的知識が必要な業務に従事している労働者に対して労働時間の適用を除外する制度です。
制度の適用を受ける労働者は労働時間ではなく、成果を対価として給与が支払われます。
対象となるのは以下のいずれかの業務に従事し、かつ年収1,075万円の労働者のみです。
・金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
・資産運用の業務又は有価証券の売買その他の取引業務
・有価証券市場における相場等の分析、評価・投資に関する助言の業務
・新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務
また、労働時間の適用が除外されることから、労働者本人の同意や年間104日以上の休日確保、健康を確保するための措置など様々な措置を講じなければ導入することはできません。
割増賃金の引き上げ
2023年4月から中小企業も月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が5割に引き上げになります。
大企業は2010年4月から適用されていましたが、2023年4月からは中小企業まで拡大し、例外はなくなります。
そのため、中小企業でも就業規則の変更など改正に向けた準備が必要です。
労働基準法の正しい理解で働きやすい職場を作りましょう
労働基準法は、すべての労働者に適用される労働条件の最低基準を定めた法律です。
企業は労働基準法を下回る条件で労働者を労働させてはいけません。
また基準を守るだけではなく、基準を上回る環境を整え、労働者がより快適に働ける環境を整えることが求められます。
経営者や人事担当者は労働基準法を正しく理解して、働きやすい職場を目指していきましょう。
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[※1]e-Gov法令検索「労働基準法」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
[※2厚生労働省「確かめよう労働条件」
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/qa/roudousya/zenpan/q1.html
[※4]厚生労働省「労働時間の適正な把握 のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000187488.pdf
[※5]東京労働局「しっかりマスター労働基準法」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501860.pdf
[※6]徳島労働局「休日(第35条)」
https://jsite.mhlw.go.jp/tochigi-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/roukijou/roukihou_point/kijunhou_kaisetsu/article35.html
[※7]厚生労働省「リーフレットシリーズ労基法20条」
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-1.pdf
[※8]厚生労働省「年次有給休暇とは」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/sokushin/roudousya.html
[※9]厚生労働省「労働契約法のあらまし」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/leaf.pdf
[※10]厚生労働省「働き方改革関連法のあらまし(改正労働基準法編)」
https://www.mhlw.go.jp/content/000611834.pdf
記事監修者:北 光太郎
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。