【社労士監修】労働基準法違反になるケースとは?罰則内容を事例を用いて解説

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働き方改革
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【社労士監修】労働基準法違反になるケースとは?罰則内容を事例を用いて解説

目次

労働基準法を遵守することが企業では求められますが、労働基準法違反となる事例や違反となった場合の罰則について理解している方は少ないかもしれません。

労働基準法違反が発覚する流れや罰則に至るまでの流れ、労働基準法違反の罰則内容や対象者について解説します。

適切に労働基準法を守るためにも、違反してしまった場合にどうなるかの理解を深めておきましょう。

労働基準法違反には罰則規定がある

労働基準法という法律をざっくりと説明すると、「労働者の権利を守るための法律」です。

そもそも、「雇う側(会社)」と「雇われる側(労働者)」は、会社は賃金を支払い、労働者はその対価として、労働を提供する関係となっています。

これは、売買契約などと同じ、対等な者同士が結ぶ、一種の「契約」とされており、民法623条(雇用契約)にも定めがあります。

本来、「契約」であれば、その内容に不満があれば、両者ともに、契約解除を申し入れることが可能であり、パワーバランスが保たれているはずです。

しかし、雇用契約に関しては、労働者の立場が弱くなることが多く、実際、強制労働や、労働の対価に見合わない低額な賃金など、歴史的に労働者の権利が蹂躙される場面は、多々見受けられ、民法の定めだけでは、労働者の権利を守るには不十分でした。

そこで、「労働者の権利を守るための法律」として、労働基準法を始めとした雇用関係の法令が整備され、会社側の義務が体系的に定められることとなりました。

このような経緯から労働基準法による規制を確固たるものとするため、同法の違反に対しては、「罰則規定」が定められており、違反した会社に対しては、懲役や罰金が科せられるという、重いペナルティが待っています。

労働基準法とは

労働基準法とは、1947年に制定された法律で、労働条件の最低基準を定めているものです。

労働基準法では、年次有給休暇や就業規則のほか、以下のような内容が規定されています。[※1]

賃金の支払の原則:直接払、通貨払、全額払、毎月払、一定期日払
労働時間の原則:1週40時間、1日8時間
時間外・休日労働:労使協定の締結
割増賃金:時間外・深夜2割5分以上、休日3割5分以上
解雇予告:労働者を解雇しようとするときは30日以上前の予告または30日分以上の平均賃金の支払
有期労働契約:原則3年、専門的労働者は5年

また、平成31年4月1日から「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」により、長時間労働をおさえることを目的とした法改正がおこなわれています。

労働基準法は、企業が守らなければいけない最低限のルールです。

労働基準法を違反した場合は、懲役や罰金などの罰則が定められているため、企業は「労働基準法の条件を満たしているかどうか」「無意識のうちに違反していないかどうか」など、常に意識をするようにしましょう。

労働基準法違反の罰則対象者とは

労働基準法は、法整備の経緯から、「会社側」を取り締まるものであり、取り締まりおよびその罰則の対象は、会社(法人)、経営者だけでなく、労働者に対して指揮命令の権限を持っていれば、肩書に関わらず該当する可能性があります。

つまり、社長だけでなく、店長、部長、所長なども、労働者に対する指揮命令の実態があれば、労働基準法の罰則の対象となりえます。

労働基準法違反から罰則を受けるまでの流れ

労働者に対する指揮命令権を持つ立場であれば、罰則を受ける対象者になりえることがわかりましたが、実際に労働基準法違反から罰則を受けるまでの流れを見ていきましょう。

①立ち入り検査がますおこなわれる

労働基準監督署の職員が、実際に職場を訪れて、出勤簿や賃金台帳、就業規則をはじめとした各種の書類をチェックや、事実確認の為の聴取の段階です。

立入検査には、あらかじめ日時の指定があるものと、予告なく職場を訪問する「臨検」があり、いずれの場合も検査を拒むことができない為、会社経営者としては、立入検査に対してある種のプレッシャーを感じることがほとんどでしょう。

立入検査が、その会社でおこなわれる主なきっかけとしては、

  • 労働者からのタレコミ
  • 重大な労災事故の発生
  • 計画に基づく定期的な検査

となり、法令違反が疑わしく、証拠の隠ぺいなどを防ぐために必要と判断されれば、「臨検」として、予告なく職場に立入検査が入ることとなります。

立入検査は、数時間に及ぶことも珍しくありませんので、この立入検査自体が会社側としては非常に負担となります。

②是正勧告が立ち入り検査で発生する可能性が高い

立入検査の結果、法令違反により、改善が必要な箇所があれば、労働基準監督署は、「是正勧告書」を発行し、違反状態の解消を命ずることとなります。

是正の対象としては、

  • 残業代の未払い、長時間労働
  • 出勤簿や賃金台帳、就業規則等の書類の不備や備付の有無
  • 健康診断関連
  • 安全衛生関連

といった内容が多く、労務管理能力が乏しい中小零細企業が多い状況にあっては、立入検査の結果、多くが「是正勧告」を受けることとなります。

ちなみに、法令違反とまではいかないものの、改善が必要であると判断された場合は、「是正勧告書」にかえて、「指導票」が発行されます。

③是正報告書の提出が期限内に必要になる

指摘を受けた箇所を改善した後、「是正報告書」を提出することで、立入検査から始まる一連の流れとしては、一部の事例を除いて終局を迎えることとなります。

「是正報告書」の提出は期限が定められるため、期限内提出を厳守しましょう。

期限内に提出できない場合は、再度立入検査を受ける可能性があります。

立入検査の多くは、以上のような「立入検査」→「是正勧告」→「是正報告」の流れに進みますが、稀に、刑事事件に進む事例もあります。

労働基準法違反で罰則が発生するのは刑事事件として立件されてから

「是正勧告には強制力がない」ということをご存知の経営者もいらっしゃることでしょう。

確かに、是正勧告自体には、それに従わなくとも罰則はありません。

しかしながら、是正勧告に従わない場合、書類送検されてしまうこととなります。

この辺りから、罰則のお話が出てきます。

つまり、立入検査=罰則となる案件自体は、非常に少数であり、行政の是正勧告に対応していれば、実際に罰則というペナルティを受けることは稀と言えます。

稀とは言いましたが、重大な労災事故の隠ぺい、法令違反の実態が悪質である場合書類送検を免れることが困難となりますので、手放しで安心することはできません。

逮捕・拘留は異例だがある

労働基準監督官は、警察官同様、容疑者を逮捕する権限が与えられています。

しかしながら、労働基準監督官による逮捕は、調査や立入検査の妨害などに対して実力を行使するといったレアケースに限られるのが実際のところです。

立入検査の際に、未払いの賃金が発覚したからと言って、直ちに逮捕されるようなことはありません。

労働基準法違反があった場合の対応

労働基準法違反があった場合は、労働基準監督署に通報をするようにしましょう。

労働基準監督署には、労働基準法に違反している場合に、是正勧告をする権限をもっています。

労働基準監督署に通報することで、「3. 労働基準法違反から罰則を受けるまでの流れ」で説明したように、立ち入り検査が発生することになるので、労働基準法違反に適切な対処をおこなうことができます。

労働基準監督署に通報しにくい場合は、社内の相談窓口や労働組合などを活用しましょう。

違反があった事実を伝えることで、企業として必要な対応をしてくれたり、必要な機関や団体との連携をとってくれたりする可能性があります。

>社内相談窓口の効果的な運用方法に関する記事はこちら

労働基準法違反となる事例

労働基準法が違反が発覚する流れや罰則を受けるケースについて見てきましたが、どのようなものが労働基準法違反となるのか、事例を見ていきましょう。

労働基準法違反事例:違法な長時間労働

36協定で定めた残業時間を超える長時間労働が、その会社で日常的なものになっている場合は、労働基準法第119条の定めにより、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

人員不足の傾向にある中小零細企業においては、長時間労働が強いられている場面も多く、これに関連して、割増賃金などの残業代の未払いも発生していることも珍しくないことから、労働基準監督署も立入検査では特に目を光らせています。

この場合、直ちに立件されることは稀であり、まずは「是正勧告」をおこない、改善が見られなければ、悪質な案件は立件、罰則というペナルティを負うこととなります。

働き方改革においても、36協定で定めることが可能な残業時間の上限が定められたこともあり、近年に特に厳しく追及される項目と言えます。

>長時間労働の原因と改善策に関する記事はこちら

労働基準法違反事例:有給を与えない

働き方改革において、対象となる労働者については、1年間で5日間は、会社側で時季を指定して有給休暇の消化をさせることが義務化され、罰則規定も置かれており、労働基準法第119条により、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

ひと昔前までは、有給休暇の消化は、労働者の申告がなければ、会社側で消化させる義務が無かったため、近年の立入検査では重点的にチェックされるポイントとなります。

要注意なのは、有給休暇の管理体制や、就業規則の内容もチェックされるということです。

有給休暇の管理簿に関する罰則自体はないものの、就業規則にて、年5日間の時季指定について定めがない場合は、30万円以下の罰金となりますので、就業規則の見直しをここ数年されていない場合は、必ずチェックしておきましょう。

>【社労士監修】有給の義務化と罰則に関する記事はこちら

労働基準法に違反しないための対策

労働基準法違反で罰則に至るケースは、稀とはいえ、会社経営者にとっては、やはり労働基準監督署の立入検査は、身構えてしまう事柄です。

できれば、立入検査が入るような状況は避けたいところですが、計画的な立入検査もあることから、長期的には労働基準監督署の立入検査は避けては通れないでしょう。

やはり、日常から労働基準法に違反しないコンプライアンスに意識を置いた管理体制の構築が必須となります。

「そんなこといっても、どうしたらいいのか分からない・・・」

そんな中小企業の経営者さん向けに、もしもの時に大事に至らないよう、現実的な対応という切り口で労働基準法違反のない職場作りのヒントについて解説していきましょう。

優先順位をつける

労働基準法および、その他の雇用関係の法令では、実に多岐に渡って、会社側の義務を定めており、これにすべて違反しないような職場作りは、リソースの限られている中小零細企業では難しいというのが現状です。

法令遵守という視点でいえば、定められたルールはすべて守るべきですが、それが難しいのであれば、優先度の高いものから違反状況を正していくことが現実的です。

具体的には、賃金未払(残業代、最低賃金等)、安全衛生に関する項目は、労働者の生活や身体の安全に直結するものであり、これに関する違反に対しては、労働基準監督署も特に目を光らせています。

まずは、これらの項目における違反で心当たりがあれば、優先的に改善する必要があります。

もちろん、コンプライアンスの視点から考えれば、法令違反ゼロであることが求められますが、時間と労力は限られています。

最短でクリーンな状態を目指すのであれば、優先順位の意識は必須です。

法定三帳簿を整備する

会社側に備え付けが義務付けられている、

  • 労働者名簿
  • 出勤簿
  • 賃金台帳

これらの「法定三帳簿」の整備がされていない職場も要注意です。

立入検査の際、「法定三帳簿」はほぼ必ず提示を求められますので、これを提示できない職場イコール法令違反の疑いが濃厚という印象も、行政側に与えてしまいます。

先ほどの優先順位の内容にもリンクしますが、法定三帳簿の整備も優先的におこなう必要があります。

また、法定三帳簿を整備すると、自ずと、残業の管理や賃金計算についての問題も浮き彫りになり、労務管理改善の大きな手掛かりとなります。

労働基準監督署を味方につける

これまでの内容を踏まえれば、無理もないことかもしれませんが、多くの会社経営者は、労働基準監督署を敬遠されていることでしょう。

しかしながら、法令違反かどうかの判断基準、その改善方法の答えを持っているのは労働基準監督署です。

つまり、労働基準監督署とうまく付き合うことができれば、法令遵守のハードルは格段に下がります。

「取り締まる側に質問するなんて危険なのでは」と思うかもしれませんが、意外と労働基準監督署は「中立」です。

労働者側に一方的に肩入れするのではなく、あくまで、ルールに則って粛々と事案を処理する行政といったイメージが実態であると考えます。

案外、分からないことを質問してみると、親身になって教えてくれる職員も多く、無料で参考になるパンフレットや様式も提供してくれます。

「取り締まる立場の行政」である以上、ある程度の距離感は重要ですが、日ごろから労務管理についてアドバイスを受けるなどの関係性を持っておくと、そうでない会社と比較して、コンプライアンス意識の強い会社という印象を与えるため、無暗に敬遠するのではなく、参考知識を提供してもらう感覚で活用してみましょう。

労働基準法違反をすると罰則以外にも代償がある

ペナルティとして、罰則ばかりに注目しがちですが、労働基準法違反により行政から介入を受けた場合、企業としてダメージを負う代償があります。

まず、書類送検された場合、企業名が公表されてしまうことが挙げられます。

コンプライアンス重視の世の中にあっては、信用問題となり、取引先との今後の関係に影響を及ぼしかねません。

また、是正項目の改善内容が、賃金未払い(残業代、最低賃金等)の場合、適正な賃金への変更による人件費の増加(本来支払うべき正しい金額ではありますが)だけでなく、今まで未払いとなっていた賃金を、遡って従業員に支払うこととなります。

未払い賃金の時効は2年の為、労働者が多い職場では未払い賃金の金額が高額に至る恐れもあります。

労働基準法違反にともなう罰則などのペナルティは、会社経営者としては是が非でも回避したいものであり、そのためには、会社として遵守すべき項目を知り、必要な対応を粛々と継続していくことが不可欠です。

労働基準監督署の立入検査が入っても、毅然とした態度で臨めるよう、今一度労務管理体制を見直してみましょう。

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参考:労働基準に関する法制度
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/law/roudoukijun.html


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Chatworkのお役立ちコラム編集部です。 ワークスタイルの変化にともなう、働き方の変化や組織のあり方をはじめ、ビジネスコミュニケーションの方法や業務効率化の手段について発信していきます。

記事監修者:國領卓巳(こくりょうたくみ)

2009年京都産業大学法学部卒業、2010年に社会保険労務士の資格を取得。建設業界、製造業、社会保険労務士兼行政書士事務所での勤務を経て独立開業。行政書士資格も取得。中小企業の社長さん向けに「労務管理代行、アドバイザリー事業」「助成金申請代行事業」「各種補助金(事業再構築補助金、小規模事業者持続化補助金など)」を展開、企業経営をサポートしています。

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