社会保険の加入条件とは?手続きの方法や加入のメリット、未加入の罰則をわかりやすく解説
目次
社会保険に加入できる対象者は、以前まで正社員やフルタイムなど、一定の労働時間を働いている従業員に限られていました。
しかし、社会保険の適用範囲は、法改正により年々拡大しており、現在では中小企業で働く短時間勤務者も加入が求められています。
社会保険は、企業側からすればコストがかかるというイメージかもしれませんが、加入することで企業側にもメリットがある制度です。
今回は、社会保険の加入条件や法改正のポイントなどを詳しく解説します。
社会保険とは
社会保険は、国民の生活を保障する制度として、国民が保険料を支払い、病気・ケガをした人への給付や高齢者の年金などにあてられている公的保険です。
「社会保険」という言葉は、広い意味で使われる場合と、狭い意味で使われる場合があり、以下の5つの保険が「広義の社会保険」と呼ばれています。
- 健康保険
- 介護保険
- 厚生年金保険
- 雇用保険
- 労災保険
また、健康保険・介護保険・厚生年金保険の3つを「狭義の社会保険」、雇用保険・労災保険を「労働保険」と区別して使用することもあります。
人事・総務で手続きをおこなう際は、狭義の社会保険を「社会保険」と呼ぶことが多いため、これら3つの保険について詳しく確認していきましょう。
健康保険
健康保険とは、国が運営する医療保険であり、公的医療保険とも呼ばれています。
支払った健康保険料は、医療費や出産費用の補助などにあてられ、治療費の負担や出産した人への給付金に使用されます。
たとえば、病院で支払う医療費が3割負担となっているのは、残りの7割を健康保険料で負担しているためです。
社会保険がなければ、医療費を全額支払わなければいけませんが、国民全員で保険料を負担しているため、3割負担で治療がうけられているのです。
介護保険
介護保険は、介護が必要な人にサービスを提供するための保険です。
保険料の負担は40歳からはじまり、以降生涯支払い続ける必要があります。
介護保険料は、介護訪問サービスやデイサービスなど、介護に必要なサービスの費用にあてられています。
厚生年金保険
厚生年金保険とは、会社員や公務員など、企業に雇用されている人が加入する公的保険です。
「年金保険」とは、「毎年定期的に給付される」ことを意味し、給付が必要になった人へ定期的に支給する保険のことです。
年金保険は、現役世代が支払った保険料を現在の受給者に支払う「賦課方式」を採用しています。
そのため厚生年金保険料は、企業に雇用されている従業員が支払い、現在の年金受給者に給付される年金にあてられています。
社会保険の加入条件
社会保険の加入対象となるのは、「適用事業所に雇用される従業員」です。
適用事業所とは、一定の条件を満たした事業所で、企業の規模や従業員個人の意思に関係なく、社会保険の加入が義務づけられている事業所のことです。
ただし、適用事業所の条件に該当しなくても、厚生労働大臣(日本年金機構)の認可をうければ、任意適用事業所として社会保険に加入することができます。
事業所の加入条件
社会保険の加入対象となる適用事業所の条件は、以下のとおりです。
- 法人
- 従業員が常時5人以上いる個人事業所
法人の場合は、株式会社や合同会社などであれば、従業員の人数に関係なく適用事業所になります。
一方で、個人事業所の場合は、従業員を常時5人以上雇用していることが、適用事業所の条件となります。
ただし、個人事業所で5人以上雇用している場合でも、美容業や飲食店などのサービス業、農林漁業の場合は適用事業所となりません。[※1]
厚生年金保険の適用事業所となるのは、株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)です。また、従業員が常時5人以上いる個人の事業所についても、農林漁業、サービス業などの場合を除いて厚生年金保険の適用事業所となります。被保険者となるべき従業員を使用している場合は、必ず加入手続きをしなければいけません。
従業員の加入条件
適用事業所または任意適用事業所に雇用される従業員は、社会保険に加入しなくてはいけません。
具体的には、正社員だけではなく、会社の代表者や役員なども加入する必要があります。
また、パート・アルバイトの場合でも、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、同様の業務に従事している正社員の4分の3以上である場合は、社会保険の加入対象となります。
「特定適用事業所」「任意特定適用事業所」または「国・地方公共団体に属する事業所」に勤務する、通常の労働者の1週間の所定労働時間または、1月の所定労働日数が4分の3未満である方で、以下の1.から3.のすべてに該当する方が対象です。
- 週の所定労働時間が20時間以上あること
- 賃金の月額が8.8万円以上であること
- 学生でないこと
たとえば、正社員が週40時間、月20日働いていた場合、週30時間、月15日働いているパート・アルバイトも、社会保険に加入しなければならないということです。[※1]
非正規雇用の社会保険の加入条件
2017年4月から、従来の条件にくわえ、「特定適用事業所」という一定の条件を満たした事業所では、短時間で働く非正規雇用の従業員も社会保険の加入が義務づけられるようになりました。
特定適用事業所の範囲は、法改正により年々拡大されており、対象となる事業所が今後も増える予定です。
適用拡大の必要性
社会保険の適用を拡大する背景として、非正規雇用者の増加が要因として挙げられます。
現代では、多様な働き方や夫婦共働きが浸透し、非正規雇用者が増加する一方で、健康保険や厚生年金保険に加入せずに働く人も増えているのが現状です。
そのため、社会保険加入者を増やし、非正規雇用者の年金保障の拡充や医療保険の充実を図るため、適用事業所の拡大がされているのです。[※2]
事業所の範囲拡大
これまで士業の個人事務所は、適用事業所に含まれていませんでしたが、2022年10月の改正で、一部の士業も対象となりました。
これにより、個人事務所で従業員を5人以上雇用している士業事務所は、社会保険に加入しなければいけません。[※3]
改正によって適用事業所となった士業は以下のとおりです。
適用の対象となる士業 |
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短時間労働者の範囲拡大
短時間労働者とは、常時101人以上が雇用している事業所で、以下の条件をすべて満たす非正規雇用の従業員です。
- 週の所定労働時間が20時間以上ある
- 賃金の月額が8.8万円以上である
- 1年以上の雇用見込みがある
- 学生ではない
上記の条件に該当する従業員は、社会保険に加入しなければいけません。
短時間労働者の適用は、これまで従業員が501人以上の事業所が対象でしたが、2022年10月の改正により、雇用している従業員が101人以上の事業所も対象とされるようになりました。
2024年10月には、51人以上の事業所も対象となる予定です。
改正に気がつかなかったとならないように、従業員数に限らず、改正内容を確認するようにしましょう。[※4]
社会保険に加入するメリット
社会保険は、保険料の負担が増えるというデメリットが大きいように見えますが、加入するメリットもあります。
ここからは、社会保険に加入するメリットを、企業側と従業員側それぞれの視点でみていきましょう。
企業側のメリット
社会保険に加入することは、保険料の負担が増える一方で、社会的な信頼性向上につながります。
なぜなら、従業員側からすれば、社会保険の加入は、生活保障を充実させるメリットがあるため、社会保険の加入の有無を、入社条件のひとつとしてみているからです。
反対の捉え方をすると、社会保険に未加入の企業は、社会的な信頼が低く、人材が集まりにくい傾向があるということです。
社会保険に加入することで、社会的な信頼性が向上し、採用活動を効果的に進めることができるでしょう。
従業員側のメリット
従業員が社会保険に加入すると、保険料が企業と折半できるというメリットがあります。
また、健康保険・厚生年金保険に加入すれば、傷病手当金の支給や年金給付の増額など、個人が加入する国民健康保険や国民年金よりも手厚い保障をうけられるのもメリットのひとつです。
そのため、従業員が社会保険に加入すれば、個人で加入する保険よりも生活保障の拡充につながるでしょう。
社会保険の罰則
適用事業所であるにも関わらず、社会保険が未加入の場合には、健康保険法第208条により、「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科される可能性があります。
また、社会保険料の滞納や行政指導に従わないなどの悪質なケースについても、罰則の対象となるため、保険料の支払いや行政指導は適切におこないましょう。
なお、社会保険の加入については、抜き打ちで年金事務所による調査がおこなわれることがあります。
この調査の際に、社会保険に未加入の従業員がいる場合は、該当した従業員の社会保険料を、2年さかのぼって追徴されます。
さらに、調査時点で退職していて、連絡がとれない従業員の保険料は、全額企業の負担になるため、社会保険の加入手続きは適切におこなうようにしましょう。[※5]
社会保険の加入手続きの手順
社会保険の加入手続きは、原則従業員が入社してから5日以内に手続きをしなければなりません。
一般的な加入手続きの手順は以下のとおりです。
- 従業員の必要な情報を取得
- 必要書類作成
- 入社後5日以内の届け出
- 被保険者資格取得確認と標準報酬の決定(保険証の発行)
加入手続きをすることで、従業員の健康保険証が発行されるため、入社後は速やかに手続きをおこないましょう。
社会保険に加入する際の必要書類
社会保険に加入する際の必要書類は以下のとおりです。
- 被保険者資格取得届
- 基礎年金番号通知書(年金手帳)またはマイナンバーカード
- 健康保険被扶養者(異動)届
- 国民年金第3号被保険者届
社会保険の加入手続きには、従業員の基礎年金番号またはマイナンバーが必要になります。
そのため、事前に必要な書類を従業員に提出してもらわなければいけません。
また、従業員に扶養家族がいる場合は、健康保険被扶養者(異動)届や国民年金第3号被保険者届もあわせて届け出が必要になります。
あらかじめ従業員の情報を整理し、速やかに加入手続きができるよう準備をしておきましょう。
労務管理におけるコミュニケーションの効率化に「Chatwork」
社会保険が適用される事業所の範囲は年々拡大しているため、企業側には、対象者の確認や手続きの漏れがないように、徹底した労務管理が求められています。
社会保険に加入する従業員が入社した際には、速やかに手続きをおこなえるように準備をしておきましょう。
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[※1]出典:日本年金機構「適用事業所と被保険者」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/20150518.html
[※2]出典:日本年金機構「どうして被用者保険の適用拡大を進める必要があるのですか。」
https://www.nenkin.go.jp/faq/kounen/tekiyoukakudai/kyufu/hitsuyou.html
[※3]出典:日本年金機構「健康保険・厚生年金保険の適用事業所における適用業種(士業)の追加(令和4年10月施行)」
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2021/20211118.html
[※4]出典:日本年金機構「令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2021/0219.html
[※5]出典:e-Gov法令検索「健康保険法」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=211AC0000000070
※本記事は、2023年3月時点の情報をもとに作成しています。
記事監修者:北 光太郎
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。