社会保険とは?【2024最新】加入条件やメリット、手続きの方法、未加入時の罰則などを解説
目次
社会保険制度は正社員やフルタイム労働者を中心に加入していました。
しかし、近年の法改正により範囲が拡大し、現在では中小企業の短時間勤務者にまで及んでいます。
2024年10月には短時間勤務者の社会保険適用がさらに拡大し、多くの従業員が社会保険の対象となっています。
一見、企業にとってはコスト増と捉えられがちな社会保険ですが、実は企業側にも様々なメリットがあります。
本記事では、社会保険の基本から、最新の加入条件、企業・従業員双方にとってのメリットを詳しく解説します。
社会保険とは
社会保険は、国民の生活を保障する公的保険制度のことで、国民が支払う保険料を財源とし、病気・ケガの治療や高齢者の年金などに充てられます。
広義には健康保険、介護保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険の5つを指しますが、狭義では前者3つを指すことが一般的です。
健康保険は国が運営する医療保険制度で、加入者の保険料で医療費や出産費用を補助し、病院での自己負担を3割に抑えています。
介護保険は、40歳以上の被保険者が加入し、介護が必要な人々にサービスを提供するための制度です。
保険料は介護訪問サービスやデイサービスなどの費用に充てられ、高齢社会における介護の課題に対応しています。
厚生年金保険は、企業に雇用されている人が加入する公的年金制度です。
現役世代の保険料で現在の受給者に年金を支払う「賦課方式」を採用しており、退職後の生活を社会全体で支える仕組みを構築しています。
社会保険の加入条件
社会保険の加入対象となるのは、「適用事業所に雇用される従業員」です。
適用事業所とは、一定の条件を満たした事業所で、企業の規模や従業員個人の意思に関係なく、社会保険の加入が義務付けられている事業所を指します。
ただし、適用事業所の条件に該当しなくても、厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受ければ、任意適用事業所として社会保険に加入できます。
事業所の加入条件
社会保険の加入対象となる適用事業所の条件は、以下のとおりです。
- 法人
- 従業員が常時5人以上いる個人事業所
法人の場合は、株式会社や合同会社などであれば、従業員の人数に関係なく適用事業所になります。
一方で、個人事業所の場合は、従業員を常時5人以上雇用していることが、適用事業所の条件となります。
ただし、個人事業所で5人以上雇用している場合でも、美容業や飲食店などのサービス業、農林漁業の場合は適用事業所となりません。[注1]
厚生年金保険の適用事業所となるのは、株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)です。また、従業員が常時5人以上いる個人の事業所についても、農林漁業、サービス業などの場合を除いて厚生年金保険の適用事業所となります。被保険者となるべき従業員を使用している場合は、必ず加入手続きをしなければいけません。
従業員の加入条件
適用事業所または任意適用事業所に雇用される従業員は、原則として社会保険に加入する必要があり、対象として以下の従業員が含まれます。
- 正社員
- 役員
- 一定の条件を満たすパート・アルバイト従業員
- 派遣社員
正社員や役員は原則、社会保険に加入する必要があります。
一方、パート・アルバイト従業員の場合は、以下の条件のいずれかに該当する場合は社会保険の加入対象となります。
- 1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、同様の業務に従事している正社員の4分の3以上である場合
- 特定適用事業所(従業員数が51人以上の事業所)に勤務し、以下のすべての条件を満たす場合
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 賃金の月額が8.8万円以上
- 2か月を超えるの雇用見込みがある
- 学生でない
たとえば、正社員が週40時間、月20日勤務の場合、週30時間、月15日勤務のパート・アルバイトも社会保険加入対象となります。
また、派遣社員についても、基本的に上記の条件が適用されます。
派遣元企業が社会保険の適用事業所である場合、派遣先での勤務時間や日数に応じて、上記のパート・アルバイト従業員と同様の基準で社会保険加入の対象となります。
非正規雇用の加入条件
非正規雇用者の社会保険加入条件は、近年の法改正により徐々に拡大されています。
2017年4月から「特定適用事業所」として条件を満たした事業所では、短時間労働者(1週間の所定労働時間が、同じ事業所に雇用されている正社員と比べて短い労働者)も社会保険への加入が義務付けられるようになりました。
この背景には、非正規雇用者の増加に伴い、健康保険や厚生年金保険に加入せずに働く人が増えていることがあります。
社会保険加入者を増やし、非正規雇用者の年金保障の拡充や医療保険の充実を図るため、適用事業所の範囲が拡大されています。
2022年10月の改正では、一部の士業の個人事務所も適用対象となり、5人以上の従業員を雇用している場合は社会保険の加入が義務付けられました。
さらに、2024年10月の改正では短時間労働者の範囲も拡大され、従業員(厚生年金保険の被保険者数)が51人以上の事業所で、一定の条件を満たす従業員は社会保険に加入できます。
短時間労働者の適用は、今後従業員数に関わらず適用されることが検討されています。事業主は従業員数に関わらず、最新の改正内容を常に確認し、適切な対応を取ることが重要です。
社会保険に加入するメリット
社会保険は、保険料の負担が増えるというデメリットが大きいようにみえますが、加入するメリットもあります。
ここからは、社会保険に加入するメリットを、企業側と従業員側それぞれの視点でみていきましょう。
企業側のメリット
企業側のメリットは以下のとおりです。
- 社会的信頼性の向上
- 人材の獲得
- 従業員の生活保障の充実
社会保険に加入すると、企業にとって保険料負担が増加するデメリットがある一方で、企業の信頼性を向上させます。
多くの求職者にとって、社会保険の加入は入社を検討する際の重要な条件の一つとなっています。
これは、社会保険が従業員の生活保障を充実させる重要な要素だからです。
逆に言えば、社会保険に未加入の企業は、社会的信頼が低いと見なされ、人材採用において不利な状況になります。
社会保険への加入は、短期的には負担増となりますが、長期的には企業の成長と安定に寄与する重要な投資と捉えることができます。
従業員側のメリット
従業員側のメリットは以下のとおりです。
- 企業と保険料を折半できる
- 手厚い保障が受けられる
- 生活保障の拡充につながる
従業員が社会保険に加入すると、保険料が企業と折半できるため、個人負担が軽減されます。
また、健康保険や厚生年金保険に加入すると、国民健康保険や国民年金と比べて、傷病手当金の支給や年金給付の増額など、より手厚い保障を受けることができます。
社会保険の加入は保険料の負担がある一方、生活保障が充実し、安心して生活できる環境が整うメリットがあると覚えておきましょう。
会社側がおこなうべき手続き
社会保険の加入手続きは、従業員が入社もしくは条件に該当してから5日以内におこなう必要があります。
手続きの一般的な流れは、以下のとおりです。
- 従業員の情報を取得
- 必要書類の作成
- 5日以内に日本年金機構に届出
- 被保険者資格取得確認と標準報酬月額の決定(保険証が発行)
社会保険に加入手続きに必要な書類は「被保険者資格取得届」です。
扶養家族がいる場合は、「健康保険被扶養者(異動)届」「国民年金第3号被保険者届」のほか、収入を証明する書類も必要となるため、従業員に提出してもらいましょう。
また、手続きには従業員のマイナンバーの取得が必要です。
従業員からマイナンバーを取得できなかった場合は基礎年金番号の提出を求めましょう。
なお、2024年12月2日以降は健康保険証は発行されず、原則マイナンバーカードが保険証になります。
マイナンバーカードを持っていない、もしくは健康保険証として登録していない方には、資格確認書が発行される予定です。
>マイナンバーカード(マイナ保険証)が健康保険証になる?に関する記事はこちら
社会保険の加入条件を満たさなくなった場合
社会保険の加入条件を満たさなくなった場合は、社会保険の資格を喪失します。
では、どのような場合に条件を満たさなくなるのでしょうか。
2つのシチュエーションと、資格喪失の条件について詳しく解説します。
労働時間の短縮
労働時間が短縮され、社会保険の加入条件を満たさなくなった場合は、社会保険から脱退しなければなりません。
社会保険の加入条件には「週の所定労働時間が20時間以上」という要件があり、労働時間がこれを下回ると、社会保険の適用対象外となる可能性があります(従業員数が51人以上の企業)。
労働時間は、基本的には雇用契約書で定められた「所定労働時間」が20時間以上であるかで判断します。
たとえば、雇用契約で所定労働時間が20時間未満に変更されれば、原則として適用除外となります。
しかし、意図的に所定労働時間を減らして社会保険加入を回避することは認められません。
そのため、週20時間を下回る雇用契約を締結していたとしても、実労働時間が2か月連続で週20時間以上の場合は、3か月目には加入義務が生じます。[注2]
退職
従業員が退職すると翌日に社会保険の被保険者資格を喪失します。
たとえば、3月31日に退職した場合、4月1日が資格喪失日となります。
退職者はその後、転職しない場合は国民健康保険に加入するか任意継続被保険者制度を利用するかを選択します。
年金については、国民年金に加入し、保険料を自分で納付する必要があります。健康保険の任意継続を希望する場合は退職後20日以内に手続きが必要です。
一方、退職後に転職する場合は転職先で社会保険に加入します。転職先の指示に従って必要書類を提出しましょう。
【2024年最新】社会保険の適用拡大について
2024年10月から、社会保険の適用対象がさらに拡大され、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が101人以上の企業から51人以上の企業にまで適用範囲が広がりました。
これにより、より多くの中小企業の従業員が社会保険の対象となります。
社会保険の適用基準となる労働時間については、以下のとおりです。[注3]
- 従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が51人以上
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 2か月を超える雇用見込みがある
- 学生でない
これらの基準を満たす従業員は、社会保険の加入対象となります。
対象となる企業は社会保険に加入するメリットを伝え、加入手続きに向けた準備が必要です。
また企業側は、コスト管理や従業員の収入管理にも注意が必要となります。
社会保険に未加入だった場合の罰則
適用事業所であるにも関わらず、社会保険が未加入の場合には、健康保険法第208条により、「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」が科される可能性があります。
また、社会保険料の滞納や行政指導に従わないなどの悪質なケースについても、罰則の対象となるため、保険料の支払いや行政指導は適切におこないましょう。
なお、社会保険の加入については、抜き打ちで年金事務所による調査がおこなわれる場合があります。
この調査の際に、社会保険に未加入の従業員がいる場合は、該当した従業員の社会保険料を、2年さかのぼって追徴されます。
さらに、調査時点で退職していて、連絡がとれない従業員の保険料は、全額企業の負担になるため、社会保険の加入手続きは適切におこなうようにしましょう。[注4]
労務管理におけるコミュニケーションの効率化に「Chatwork」
社会保険が適用される事業所の範囲は年々拡大しているため、企業側には、対象者の確認や手続きの漏れがないように、徹底した労務管理が求められています。
社会保険に加入する従業員が入社した際には、速やかに手続きをおこなえるように準備をしておきましょう。
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[注1]出典:日本年金機構「適用事業所と被保険者」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/20150518.html
[注2]出典:政府広報オンライン「社会保険の適用が拡大!従業員数51人以上の企業は要チェック」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202209/2.html
[注3]出典:厚生労働省「社会保険適用拡大の対象について」
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/koujirei/jigyonushi/taisho/
[注4]出典:e-Gov法令検索「健康保険法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070
※本記事は、2024年10月時点の情報をもとに作成しています。
記事監修者:北 光太郎
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。