要件定義書とは?作成手順やおさえるべきポイント、テンプレートを紹介

目次
システム開発の初期段階でよく起こる「完成したシステムが思っていたものと違う」というトラブル。その原因の多くは、要件定義の不備にあります。
要件定義書は、発注側と開発側の認識をすり合わせるための重要なドキュメントですが、「何をどう書けばいいのか分からない」と悩む方も多いのではないでしょうか。
この記事では、要件定義書の基礎知識、記載すべき要素や作成手順などをわかりやすく解説します。実務に応用できるテンプレートや注意すべきポイントもまとめているので、ぜひ参考にしてください。
要件定義書とは
要件定義書とは、主にシステム開発プロジェクトにおいて、開発の目的や業務要件、機能要件、非機能要件などを記述したドキュメントを指します。
要件定義書を作成する目的は、発注側と開発側の認識のずれを防ぎ、発注側の意図を正確に開発に反映することにあります。
要件定義書が適切に作成されていれば、後工程での修正の手間を減らすとともに、開発効率や品質の向上にもつながります。
要件定義書とRFP(提案依頼書)の違い
RFP(提案依頼書)は、システムやサービスの導入を検討する際、発注元が複数のベンダーに対して課題やニーズを伝え、提案を募ることを目的として作成される文書です。
具体的には、現状の課題や業務上の要望、搭載してほしい機能、予算や納期の希望などが挙げられます。
一方、要件定義書は発注先が決定した後に、システムの詳細な仕様を明確化することを目的としています。
言い換えれば、RFPは「提案を募るための依頼文書」、要件定義書は「開発の設計図」であり、役割が明確に異なります。
要件定義書とRFI(情報提供依頼書)の違い
RFI(情報提供依頼書)は、発注元が市場調査の一環として、複数のベンダーに対して会社情報や提供可能な製品・サービス・技術力・過去の開発実績などの開示を求める文書です。
RFIの目的は、具体的な提案を依頼する前段階で、各ベンダーの能力や対応可能な領域を把握することにあります。
一方、要件定義書は発注先が決定した後に、具体的なシステム要件を整理し、開発の方向性を固めるために作成されるため、役割や必要となるフェーズが異なります。
要件定義書に必要な要素
要件定義書に記載すべき要素は以下の6点です。
- 概要
- 目的・背景
- 用語定義
- 業務要件
- 機能要件
- 非機能要件
概要
概要は、プロジェクト全体の方向性を簡潔に伝える重要な要素です。
具体的には、システム開発や導入の対象となる業務領域、開発規模、関係部門、想定される利用者などが挙げられます。
概要欄は、初見でもプロジェクトの全体像を一目で理解できるよう、簡潔さとわかりやすさが求められます。
目的・背景
目的・背景の項目では、なぜこのプロジェクトを実施するのか、実施に至った根拠や必要性を明らかにします。
たとえば、「既存システムの老朽化により業務効率が低下しているため」や「業務の拡大に対応するため機能を追加する必要がある」など、具体的な課題や改善したい点を記載します。
目的や背景が明記されていることで、関係者はプロジェクトの意義や方向性を理解しやすくなるため、判断や設計の一貫性を保ちやすくなります。
用語定義
要件定義書には専門用語や略語が多く登場するため、用語定義の項目も必要です。
たとえば、「UI」「API」「SLA」などの技術的な用語や、プロジェクトに関する固有名詞や言い回しなどが挙げられます。
これらの用語を明確に定義しておくことで、関係者間の誤解や認識のずれ、その後の作業ミスなどを防止できます。
業務要件
業務要件とは、既存の業務プロセスを踏まえて、システム導入後にその業務がどうなるかを明文化したものです。
たとえば、「受注データの管理」「顧客対応履歴の記録」「経費精算フローの自動化」などが該当します。
業務要件は、システムを使わずに行う業務と、システムによって行う業務を区別しつつ、業務全体がどのように行われるかを記載するのが一般的です。
機能要件
機能要件とは、システムに実装すべき具体的な機能や処理の仕様を記載する項目です。
具体的には、各種権限・データ処理の方法・インターフェース・帳票などが挙げられ、ユーザーがシステムを使うことで実現したい挙動なども含めて明示します。
システム開発において要ともいえる重要な項目であり、この項目ですべての機能を漏れなく洗い出すことが非常に重要です。
非機能要件
非機能要件とは、システムの性能や機能以外に関する、以下のような要件を指します。
- スケジュール
- 予算
- 拡張性・互換性
- セキュリティ関連
- 教育・運用・保守
非機能要件は多岐にわたり、システムの信頼性やユーザー体験に大きな影響を与える項目です。
システムそのものの開発や導入だけでなく、関連するあらゆる要素について明記しておくのが理想です。
要件定義書の作成手順
ここからは、要件定義書を作成する際の手順を6つのステップで解説します。
- 現状を分析する
- 要求を明らかにする
- 優先順位を決める
- システムの構成を決める
- それぞれの要件を定義する
- プロジェクトの予算・スケジュールを設定する
1.現状を分析する
要件定義書を作成するにあたってまず最初にすべきことは、現状の業務やシステムがどのような課題を抱えているかを客観的に分析することです。
既存の業務フローの確認や現場担当者へのヒアリングなどを行い、業務プロセスの中でボトルネックとなっている部分、属人化している作業、システムの使い勝手や処理速度などを調査し、情報を整理しましょう。
現状分析で得られた情報が今後の要件整理やシステム構想の質を左右するため、十分な時間をかけて入念に行うことが大切です。
2.要求を明らかにする
現状の課題が把握できたら、次に「どのような問題を解決したいのか」「何を実現したいのか」といった要求を明確にします。
たとえば、「手作業の自動化を図りたい」「入力ミスを減らしたい」など実現したい要求を整理していきます。
要求が具体的であればあるほど後の要件定義もスムーズになるため、実際にシステムを使用するユーザーや業務担当者の声を丁寧にヒアリングすることが重要です。
3.優先順位を決める
システムに対する要求が明確になったら、それぞれの内容に対して優先順位を設定します。
すべての要望を同時に満たすことは現実的ではないため、重要度・緊急性・予算・リソースの制約などを考慮して、優先順位をつけていく必要があります。
優先順位を明確にすることで開発の方向性がブレにくくなり、満足度の高いシステムの構築につながります。
4.システムの構成を決める
優先順位をもとに要求内容を整理できたら、次にシステム全体の構成を検討します。
この段階では、どのような機能が必要で、どのように連携すべきかを設計し、全体のシステム像を描いていきます。
たとえば、「既存システムとの連携は必要か」「新たに導入すべきモジュールは何か」「クラウド環境かオンプレミスか」などです。
発注側と開発側で共通認識を持てるよう、構成図(アーキテクチャ図)を作成してシステムの全体像を可視化するのが一般的です。
5.それぞれの要件を定義する
システムの構成が固まったら、それぞれの要件を「業務要件」「機能要件」「非機能要件」に分類して定義していきます。
このように分類することで、各要件の目的と性質が明確になり、設計や開発の効率が大幅に向上します。
6.プロジェクトの予算・スケジュールを設定する
最後に、定義した要件をもとにプロジェクト全体の予算とスケジュールを設定します。
必要な人的リソースや開発期間、各工程にかかるコストの見積もりなど、具体的に数値化してスケジュールに落とし込んでいきます。
予算の過不足や無理なスケジュールは開発の遅延や失敗にもつながりかねないため、十分検討して適切な設定を行うことが重要です。
【テンプレートあり】要件定義書の具体的な作り方
【概要】
本プロジェクトでは、既存の販売管理業務における作業負担の軽減とデータの一元管理を目的として、新たなシステムの導入を検討しています。本要件定義書は、関係者間で仕様や要望を明確に共有するための基礎資料として作成します。
【目的・背景】
現在の販売管理業務では、Excelを用いた手作業の入力・集計が多く、人的ミスや処理遅延が発生しています。これらの課題を解決し、営業活動の効率化と情報の精度向上を図ることがプロジェクトの主な目的です。
【用語定義】
販売管理システム:受注、出荷、売上、請求などの販売に関わる情報を一元的に管理するシステム。
CSVファイル:データをカンマ区切りで保存したファイル形式。Excelで読み取り可能。
バッチ処理:一定のタイミングでまとめて実行される自動処理。
【業務要件】
現状の業務フロー
営業担当が受注情報を紙で記録
月末に事務担当が受注情報をExcelに転記
管理者がExcelファイルを集計し、売上報告書を作成
報告書を経理部門にメール送付
システム導入後の想定フロー
営業担当がタブレット端末から直接受注を入力
システムがデータをリアルタイムで集計
管理者が売上状況を画面上で確認し、報告書をワンクリックで出力
自動で経理部門へ報告書が送付される
主な利用者・関係者 営業担当、事務担当、営業部マネージャー、経理部門、情報システム部
【機能要件】
主な画面・機能
受注登録画面:受注情報(顧客名、商品、数量、単価など)を入力
売上集計画面:月別・顧客別などで売上情報を表示
帳票出力機能:売上報告書をPDFまたはExcel形式で出力
通知機能:毎月1日に売上報告書を自動送信
操作権限・制御
受注登録は営業担当のみ
売上集計と報告書出力は営業部マネージャーと経理部門が可能
連携・外部インタフェース
会計システムへの売上データ連携(CSVファイルまたはAPI)
外部倉庫システムとの出荷情報連携
【非機能要件】
互換性・制約条件 「販売管理システムは既存の会計ソフト(バージョン12.0.0)とCSV形式で連携可能とする。将来的なバージョンアップによる影響は検証対象とする。」
スケジュール
2025年6月10日まで:要件定義完了
2025年7月10日まで:開発完了
2025年8月10日まで:テスト実施
2025年8月末:本番運用開始
予算・規模感
予算:100万円以内
要件定義書を作成する際のポイント
実用性の高い要件定義書を作成するために、意識するとよいポイントを4つ解説します。
- 認識をすり合わせる
- 要件の漏れがないか確認する
- 業務内容やシステムを理解する
- 専門用語を使いすぎない
認識をすり合わせる
要件定義書を作成する上で最も重要なのは、発注側と開発側の認識を一致させることです。
ユーザーは業務の課題や要望を、ベンダーはシステムの技術的観点を重視するため、視点にずれが生じがちです。
認識のすり合わせがうまくいかないまま開発が進んでしまうと、完成後に「思っていたものと違う」という事態になりかねません。
そのため、それぞれの目線や注目している点が異なることを理解した上で、丁寧に認識をすり合わせることが重要です。
要件の漏れがないか確認する
要件定義書を作成する際は、要件の漏れがないか入念に確認しましょう。
要件の記載漏れは、後工程での大きなトラブルや追加コストなどの原因になるためです。
プロジェクトがテスト段階や運用フェーズまで進んだ頃に問題が表面化すると、大幅な修正や遅れが発生してしまいます。
このような事態を防止するためにも、作成した要件定義書は入念にチェックし、不足や曖昧な表現がないかを複数回にわたって確認することが大切です。
業務内容やシステムを理解する
的確な要件定義を行うには、ユーザーの業務内容や既存のシステムの構成などを深く理解することが前提となります。
現場の業務を知らずに要件定義を行うと、非効率な設計や現実と乖離したシステムになる恐れがあるためです。
担当者へのヒアリングや実際の業務フローの観察など、現状の理解を深めることがよりよい要件定義書を作成することに直結します。
専門用語を使いすぎない
要件定義書は専門用語を使いすぎないこともポイントです。
要件定義は開発に携わるエンジニアだけでなく、技術的な専門知識を持たない業務担当者や経営層など、さまざまな立場の関係者が参照するためです。
専門用語を多用すると、意図が正確に伝わらず誤解を生むリスクが高まります。
要件定義書は「どのような立場の誰が読んでも理解できること」を重視し、明確かつ平易な表現を心がけることが重要です。
ポイントをおさえて分かりやすい要件定義書を作ろう
要件定義書の作成は、システム開発を成功に導く重要なツールです。
現状分析から要求整理、構成設計、要件分類、予算・スケジュール策定と、段階を踏んで丁寧に進めることで、開発後のトラブルや手戻りを未然に防止できます。
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