【社労士監修】2022年10月に適用拡大された社会保険をわかりやすく解説
目次
社会保険料の負担は、企業運営において、多くの経営者が頭を抱える問題のひとつです。
社会保険は、段階的に適用が拡大されており、いままでは他人事と捉えていた企業にとっても、どんどん身近な話題になりつつあります。
今回は、社会保険の基本から、2022年10月の適用拡大の概要まで、わかりやすく解説していきます。
社会保険とは
社会保険とは、下記の4つの保険の総称です。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 労災保険
- 雇用保険
この4つの社会保険のなかでも、主に会社員を対象とする「健康保険」と「厚生年金保険」の2つが、狭義の意味で社会保険と呼ばれています。
2022年10月に適用が拡大された社会保険も、健康保険と厚生年金保険に限定しての話となります。
適用拡大について、詳しくみていきましょう。
2022年10月の改正ポイント
2022年10月におこなわれた社会保険の適用拡大について、きちんと理解をするために、まずは社会保険の前提知識を確認していきましょう。
そもそも「健康保険」「厚生年金保険」(以下、「社会保険」)に加入するためには、いくつかの条件を満たしている必要があります。
その条件のなかで、ポイントとなるのが、1週間の所定労働時間と1か月あたりの勤務日数です。
この2つが、正社員と比べて「4分の3以上」になっていたら、パートタイマーやアルバイトでも、社会保険に加入しなければいけないというのが原則のルールです。
ちなみに、「所定労働時間」は、実際の労働時間ではなく「契約上、何時間働く約束になっているのか」と捉えて問題ありません。
一般的には、1週間の所定労働時間は、正社員で40時間であり、この4分の3、つまり週30時間以上の契約になっているパートタイマーやアルバイトは、社会保険に強制加入する必要があります。
従来、この所定労働時間と1か月の勤務日数が短いパートタイマーやアルバイトは、社会保険の適用から外れており、この場合、自身で市町村が運営する国民健康保険に加入するか、社会保険に加入している家族の扶養に入るかどちらか一方を選ぶといった運用になっていました。
しかし、2022年10月の適用拡大では、上記のような事情で、いままで社会保険の適用から外れていたパートタイマーやアルバイトのなかで、一定の条件を満たす人を、社会保険の適用とするといった改正が実施されました。
>【社労士監修】所定労働時間と法定労働時間の違いとは?に関する記事はこちら
社会保険適用拡大の背景
社会保険の適用拡大が進められている背景には、我が国において問題となっている、労働人口減少に対応するといった目的があります。
つまり、社会保障を強化することで、いままで配偶者の扶養にはいって、扶養の範囲内で収入を得ていた層の、就業促進をはかろうという狙いがあるということです。
また、社会保険の適用を拡大した結果、国庫にはいる社会保険料を増やすことで、少子高齢化が進むなかでひっ迫する社会保険の財政を改善するといった目的もあります。
適用拡大の対象となる企業
社会保険の適用拡大は、実は2016年からはじまっており、当時は従業員数501人以上の比較的規模の大きい企業に限定して、適用拡大が進んでいました。
2022年10月からは、この基準が101人以上となり、より多くの企業が社会保険の適用拡大の対象となりました。
適用拡大の対象となる従業員規模は、今後も段階的に引き下げられていく予定で、2024年10月からは、従業員数51人以上の企業も、社会保険の適用拡大の対象となる予定となっています。
ちなみに、従業員数のカウントは、法人ごとにおこなわれるため、ひとつの拠点で100人以下の法人であっても、各拠点の従業員数が合計して101人以上であれば、適用拡大の対象となります。
また、従業員数については、もうひとつ重要なポイントがあります。
それは、単純に正社員やパートタイマー・アルバイトの従業員の合計人数ではなく、現在社会保険に加入している従業員数のみをカウントするということです。
たとえば、社会保険に加入していない短時間のパートタイマーやアルバイトが90人、社会保険に加入しているフルタイムの従業員が11人の場合、トータルでは、基準である100名を超えていますが、適用拡大の対象からは外れることとなります。
適用拡大の対象となる従業員
前述したとおり、社会保険の強制加入が必要かどうかは、1週間の所定労働時間と1か月の勤務日数が、正社員の「4分の3以上かどうか」で線引きされます。
ただし、従業員規模が101人以上の企業においては、この「4分の3以上」を満たしていなくても、「ある一定の条件」を満たすパートタイマーやアルバイトは、社会保険に強制加入する必要があるというのが、今回の「社会保険の適用拡大」の要旨となります。
適用拡大の対象となる企業で働いている場合、以下の4点をすべて満たしていると、社会保険に加入する必要があります。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 2か月以上勤務する予定(契約となっているか)
- 給与の月額が8.8万円以上になるか(賞与、残業手当、通勤手当、家族手当等を除いて)
- 学生でないこと
社会保険の適用拡大の対象となる企業で働いているからといって、ただちに社会保険への加入が強制になるわけではありません。
上記の4つの条件を満たしているか否かが、線引きのポイントとなることを、覚えておきましょう。
106万円の壁の真実
社会保険の適用拡大にともない、「106万円の壁」という言葉を耳にする機会が増えています。
この「106万円」という数字は、前述した社会保険の加入条件の月額8.8万円を、単純に12か月分にした金額からきています。
しかしながら、前述した通り、月額8.8万円からは。賞与や残業の割増賃金のほか、除外するものがいくつかあるため、単純に年収が106万円を超過していても、直ちに社会保険に強制加入する必要がある訳ではありません。
「106万」という数字が先行して、誤った認識をされている場面が、多々みうけられるため注意しましょう。
適用拡大に対応するための手順
社会保険の適用拡大は、これまで対象になっていなかった企業や従業員にとって、非常に大きな影響をもたらすものでしょう。
ルールの理解や、対応が後手に回ると、会社に対する従業員の不信感にもつながるため、適用拡大の対応において、拙速なやりとりは厳禁です。
ここからは、トラブルを未然に防ぐという観点から、社会保険の適用拡大に対応するための手順を解説します。
手順(1):加入対象者の把握
まずは、社会保険に加入する必要がある対象者を把握する必要があります。
加入対象者を確認する際のポイントは、2つあります。
- (社会保険に加入している)従業員数のカウント
- どの時点での人数をカウントするのか
ひとつ目のポイントについては、前述の通りですが、ふたつ目については、社会保険に加入している従業員の数が101人を境に、増減を繰り返している場合、どの時点の加入者数をカウントしていいのか判断に迷うことがあるでしょう。
これに関しては、「直近12か月のうち、6か月基準を上回っているか」という点で判断をおこないます。
ちなみに、適用拡大の対象となって以降、従業員数が基準を下回っていても、原則として適用拡大は継続する必要があります。
判断が難しく、手間がかかってしまうと心配される方も多いと思いますが、管轄の年金事務所が、上記の情報を一定把握しているため、安心してください。
たとえば、適用拡大の対象になる可能性がある企業に対しては、管轄の年金事務所から個別的に案内が届くことが一般的となっています。
また、従業員規模が適用拡大に該当する基準に関しては、ある程度までは、管轄の年金事務所が判断してくれます。
手順(2):企業の対応方針の検討
社会保険料は、企業にとって非常に大きな負担のひとつであり、適用拡大は、更なる企業負担の増加を意味します。
もちろん、福利厚生が強化されることで、優れた人材獲得にもつながり得るため、単純にデメリットだけという訳ではありませんが、やはり大きな負担がのしかかる以上、社会保険の加入義務が発生する従業員の賃金体系や労働時間の棲み分けなどは、考えておく必要があるでしょう。
たとえば、労働時間が週20時間以上のパート・アルバイトの契約を見直し、20時間未満の従業員を増やすといったとりくみをおこなえば、適用拡大による社会保険料の負担増は、一定避けることが可能です。
その一方で、このようなとりくみをおこなえば、週20時間以上の契約で働いていた従業員が離職するリスクもともなうため、企業としてどのような方針を打ち立てるか、従業員の意見にも耳を傾けつつ、慎重に進めていく必要があるでしょう。
手順(3):適用拡大の社内周知
今回の適用拡大で、社会保険に加入する必要がでた従業員に対しては、十分な説明の機会を設ける必要があります。
新たに強制加入となる従業員のなかには、これまで配偶者の扶養にはいっていて、社会保険料の負担がなかった方も相当数いるはずです。
強制加入となることで、手取り額などの待遇面でどのような変化が生じるのか、強制加入とならないような働き方の選択の余地も含めて説明しておかないと、「一方的に給与の手取りを減らされた」などの偏った認識を招き、大量離職につながる恐れもあります。
とくに、配偶者控除の上限ギリギリでの就労を希望するけれども、社会保険の強制加入になりたくないという従業員に関しては、企業として譲歩できる部分と譲れない部分を明白に説明しておかないと、トラブルの火種になりかねません。
状況に応じて、関係者全員を対象とした説明会を実施するなども検討しましょう。
手順(4):必要書類の作成・提出
社会保険に加入する場合、「被保険者資格取得届」「被扶養者異動届」といった、社会保険に加入するための書類を、企業として行政に作成・提出する必要があります。
また、社会保険に加入後、賃金の変動があった場合は、一定の要件を満たしているか判断したうえで、「月額変更届」を、また毎年夏頃には、社会保険料の等級を定期的に見直す「算定基礎届」を提出する手間も発生します。
くわえて、給与から天引きする社会保険料は、料率の改定や年齢に応じて変動するため、これらの管理も事務負担として企業にのしかかることとなります。
手順(5):雇用管理の徹底
適用拡大の対象となった企業においては、強制加入か否かの線引きの判断にもなる労働時間・賃金等の管理は、よりシビアにおこなう必要があります。
社会保険の強制加入とならない従業員に関しても、その従業員が社会保険の加入をあえて希望していないのであれば、強制適用に該当するような就業はさせないように注意を払う必要があります。
こういった対応を、企業として成立させるには、現場で従業を管理する立場の管理職の教育も必要となることも、あわせて理解しておきましょう。
情報共有には「Chatwork」
社会保険の適用拡大について、2022年10月の改正を中心に、どのような企業が対象となるのかや、企業がとるべき対応について確認してきました。
健康保険や厚生年金保険は、従業員にとって非常に重要な福利厚生となるため、誤った対応をしないように、企業の担当者は適切に理解し、対応を進めましょう。
社会保険適用拡大の対象となった企業において、とくに重要となるのが、従業員とのコミュニケーションです。
今回の改正で適用拡大の対象となったのは、ある程度の規模がある企業での話となるため、制度や企業としての方針に関して、周知や理解が曖昧なままだと、後々の大きなトラブルにつながりかねません。
また、社会保険料の天引きにより、手取りが減ってしまうことに、良いイメージをもつ従業員は少数です。
無用なトラブルを防ぐためにも、日々のコミュニケーションや情報共有は、抜け漏れなく、円滑におこなうことが大切です。
また、共有した情報は、さかのぼって確認できるものにしておくと、従業員も確認しやすく、安心でしょう。
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記事監修者:國領卓巳(こくりょうたくみ)
2009年京都産業大学法学部卒業、2010年に社会保険労務士の資格を取得。建設業界、製造業、社会保険労務士兼行政書士事務所での勤務を経て独立開業。行政書士資格も取得。中小企業の社長向けに「労務管理代行、アドバイザリー事業」「助成金申請代行事業」「各種補助金(事業再構築補助金、小規模事業者持続化補助金など)」を展開、企業経営のサポートをおこなう。