【社労士監修】算定基礎届とは?社会保険における定時決定の手続き方法や計算方法をケースごとに解説

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働き方改革
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【社労士監修】算定基礎届とは?社会保険における定時決定の手続き方法や計算方法をケースごとに解説

目次

給料から天引きされる社会保険料の、変更のきっかけとなる「算定基礎届」(被保険者報酬月額算定基礎届)について、あまり知らない人も多いのではないでしょうか。

算定基礎届は、社会保険や労働保険の保険料を決定するために、毎年提出されるものです。

具体的には、従業員の給与額に基づいて、次年度の保険料を算出するための基礎となるデータを提出します。

本記事では、そもそもの社会保険料の決め方から、混同しやすい月額変更届(随時改定)との違い、記入のルールについて解説します。

算定基礎届(定時決定)とは

算定基礎届とは、社会保険や労働保険の保険料の算出基礎となる、労働者の賃金等の額を労働者ごとに記載し、保険者(健康保険組合や日本年金機構など)に提出する書類のことを指します。

正式名称は「被保険者報酬月額算定基礎届」といいます。

社会保険に加入している人たちの保険料は、会社から支払われる給料にある程度紐づいて金額が決定されています。

社会保険料の金額と会社からの給料の金額に大きな差が生じないように、算定基礎届を日本年金機構に提出することで、定期的に社会保険料の見直しをする「定時決定」をおこなうというルールが定められています。

社会保険料の決め方

月々の給料から天引きされている社会保険料は、「標準報酬月額」に応じて決まります。

標準報酬月額とは、社会保険や労働保険の保険料の算出基準となる月額給与額のことを指します。

あらかじめ料金のテーブルが設定されており、同じ標準報酬月額の人であれば、月々給料から天引きされる社会保険料は、ほぼ同じ金額になります。

「ほぼ同じ」というのは、社会保険料のうち健康保険料は、年齢に応じて「介護保険料」が上乗せされるほか、保険料率も都道府県ごとに異なるため、同じ標準報酬月額の人であっても異なる場合があります。

標準報酬月額というのは、ある一定のルールに基づいて見直すこととされており、標準報酬月額が変わるきっかけの一つが、算定基礎届を提出することでおこなわれる「定時決定」です。

算定基礎届の算定期間・適用期間

定時決定は、原則4~6月に支払われた給料金額の平均額をもとに、毎年9月分〜翌年8月分の標準報酬月額が決定されます。

「4~6月に残業をすると社会保険料が高くなる」と聞いたことがあるかもしれませんが、定時決定の対象となる算定期間(4~6月)に支払いのあった給与・報酬が高いほど、社会保険料に反映されるということになります。

なお、4〜6月払い分ということなので、給与の締めと支払いが、末日締め翌月末日支払いである場合、3月1日〜5月31日に働いた分の給与が対象ということです。

月額変更届(随時改定)との違い

社会保険や労働保険の保険料の算出基準となる標準報酬月額ですが、これが変更されるもう一つのきっかけが「月額変更届」(随時改定)です。

月額変更届と算定基礎届は、どちらも標準報酬月額が変動した際に提出する書類ですが、提出のタイミングや目的が異なります。

月額変更届(随時改定)とは

社会保険料と実際の給料に大きな差分が発生することを防ぐため、毎年定期的に算定基礎届を提出し、「定時決定」によって「標準報酬月額」が見直されます。

しかし、昇給、降給によって支払われる給料に変動が生じた際にも、3か月間の平均をとって「標準報酬月額」を見直すべきとされています。

これが、月額変更届を提出することによっておこなわれる「随時改定」です。

社会保険料は定期的な「定時決定」と、昇給・降給があった際に随時おこなう「随時改定」の2通りで見直すタイミングがあります。

>月額変更届に関する記事はこちら

算定基礎届(定時決定)と月額変更届(随時改定)が競合する場合

昇給・降給のタイミングによっては、定時決定と随時改定の算定時期が重なる場合があります。

たとえば、標準報酬月額20万円の従業員が、4月払い分から毎月25万円に昇給したとしましょう。

定時決定なら、9月分から標準報酬月額が改定となりますが、随時改定の場合であれば、7月分から改定です。

このように、定時決定と随時改定が競合する場合は、随時改定が優先されます。

算定基礎届における標準報酬月額とは

前述の通り、社会保険料は、「標準報酬月額」に応じて決まります。

一般的な標準報酬月額は、都道府県ごとの「保険料額表」に基づいて、対象期間の給与金額の平均額を一定の幅で区分した等級に当てはめて計算します。[※1]

受け取る給与金額がどの等級に当てはまるかで各保険料の金額が決まり、等級が上がるにつれて保険料が高額になる仕組みです。

標準報酬月額の対象となる報酬

標準報酬月額は、大まかにいうと、年3回以下の賞与や実費、弁償的なもの、大入袋等の臨時的なものを除いて、多くの手当等も対象となります。

また、金銭に限らず、通勤定期券、食事、住宅など現物で支給されるものも対象となるため注意が必要です。

算定基礎届における支払基礎日数とは

支払基礎日数とは、算定基礎届の対象期間となっている各月に働いた日数=支払い基礎日数のことです。

対象期間の3か月間の給与平均額をもとに社会保険料を見直すということは、ある月において、欠勤等の理由で普段より給与額が極端に減っている場合、この月分の給与を平均額の計算に入れてしまうと、普段の給与額に見合った社会保険料からかけ離れてしまうことになります。

こういったことを防ぐために、一定のルールのもと、支払い基礎日数が少ない月は、計算から除外すべきとされています。

支払い基礎日数の数え方に関しては、時給制、日給制の方であれば出勤日数となり、月給制で欠勤しても欠勤控除がない場合(いわゆる完全月給制)は歴日数となります。

月給制で欠勤控除がある場合は、就業規則、給与規定等に基づき、会社が定めた日数から欠勤日数を控除した日数が支払基礎日数となります。

支払基礎日数計算における注意点

支払基礎日数の計算では、有給休暇や特別休暇で出勤しているけれども、欠勤控除しない日については、出勤しているものとしてカウントする必要があります。

一方、休職の場合は、給与が発生していなければ、休職している日は支払基礎日数としてはカウントしないものとして取り扱います。

算定基礎届の対象となる従業員

届出の対象となるのは、7月1日現在、社会保険に加入している従業員となりますが、6月1日以降に社会保険に加入した従業員、7~9月に随時改定に該当する(可能性のある方も含めて)従業員は、届出は不要となります。

ただし、随時改定の可能性があり、算定基礎の対象から外している従業員で、結局随時改定に該当しないことが判明した場合は、追加で算定基礎届を提出する必要があります。

標準報酬月額の算出方法

算定基礎届について理解を深めるために、各ケース別に標準報酬月額を算定する際の記入例を解説します。

  • ケース(1):一般的な正規雇用就労者の記入例
  • ケース(2):短時間就労者(パートタイマー)の記入例
  • ケース(3):適用期間内に転職・退職・休職があった場合の記入例

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

ケース(1):一般的な正規雇用就労者の記入例

いわゆる正社員で月給制(欠勤の場合控除あり)の場合で、特に欠勤がなければ支払基礎日数の欄は歴日数を記入すればよいとされています。

欠勤控除があれば、会社が定めた日数から欠勤日数を控除した日数を記入しましょう。

そして、各月に支払いのあった給与額(基本的に各種手当は含めます)を記入し、3か月の平均額を算出しますが、支払基礎日数が17日未満の月は計算から除外します。

ケース(2):短時間就労者(パートタイマー)の記入例

パートタイマーでも1週間でおおむね30時間以上働く場合は、社会保険の加入対象となります。

ただし、正社員と違い、通常勤務の場合でも支払基礎日数が17日未満の月がある珍しくないため、以下のようなルールになっています。

  • 支払基礎日数が17日以上の月が1か月以上ある
  •  →支払基礎日数17日以上の月だけで算出
  • 3か月とも支払基礎日数が17日未満だが、15日以上の月が1か月以上ある
  •  →支払基礎日数15日以上の月だけで算出
  • 3か月とも支払基礎日数が15日未満
  •  →従前の標準報酬月額が引き続き適用される

補足として、算定基礎届において、パートタイマーの従業員の場合、様式の備考欄に「7.パート」という項目を○で囲んでおきましょう。

ちなみに、一定以上の規模を持つ会社(特定適用事業所)では、より少ない労働時間で社会保険に加入する従業員(短時間労働者)が存在します。

短時間労働者の算定基礎届の場合は、支払基礎日数11日以上の月が算出対象となります。

ケース(3):適用期間内に転職・退職・休職があった場合の記入例

途中入社等で給与が日割り計算されている場合は、支払基礎日数が17日以上であっても計算からは除外して平均額を算出しましょう。

休職で、給与の支払いがある場合は、支払基礎日数にカウントすることとなりますが、給与の支払いがなければ、その月は算定基礎の対象になりません。

ちなみに、退職の場合は社会保険料の見直しが必要ないため、算定基礎の対象からは外れます。

算定基礎届の記入方法

算定基礎届は、日本年金機構より「算定基礎届提出に関する大切なお知らせ」といった名称で封筒に入った通知書と記入用紙が郵送されます。

算定基礎届の記入は以下のステップですすめます。

  • ステップ(1):算定基礎届の対象者を確認
  • ステップ(2):提出者記入欄に電話番号を記入
  • ステップ(3):4月・5月・6月の支給額を記入
  • ステップ(4):合計額から平均額を計算して記入

それぞれのステップについて詳しく解説していきます。

ステップ(1):算定基礎届の対象者を確認

郵送される算定基礎届には、6月時点の情報をもとに対象となる従業員の情報がすでに記載されている場合がほとんどです。

ただし、対象者であるにも関わらず、記載が漏れている可能性もあるため、その場合は手書きで記入しましょう。

ステップ(2):提出者記入欄に電話番号を記入

算定基礎届の上部には、会社情報(事業所整理記号、所在地、法人名等)が印字されています。

電話番号の欄は空白になっているため、連絡がつきやすい電話番号を記入しましょう。

ステップ(3):4月・5月・6月の支給額を記入

4~6月に支払いのあった給与支給額(社会保険料等を差し引く前の総支給額)を記載します。

また、支払基礎日数は、各月に支払われた給与の計算のもとになった期間の日数を記入します。

たとえば、末締め翌月末払いであれば、4月払いの支払い基礎日数は3月1日から3月末日までの期間が対象となります。

ステップ(4):合計額から平均額を計算して記入

前述のルールに沿って、支払基礎日数が一定以上の月の支給額を合計し、その平均額を計算して記入します。

この平均額をもとに標準報酬月額と社会保険料が決まります。

算定基礎届の提出先と提出方法

算定基礎届を記入した後の提出方法については、以下のように複数の手段があります。

  • 方法(1):年金事務所の窓口に提出
  • 方法(2):年金事務所に郵送
  • 方法(3):電子媒体に記録して郵送
  • 方法(4):電子申請

近年では、紙媒体での提出だけでなく、電子申請も可能となっており、利便性が高くなっています。

それぞれの方法を紹介します。

方法(1):年金事務所の窓口に提出

最もポピュラーな方法は、事業所を管轄する年金事務所の窓口に直接持参することです。

窓口である程度、内容を確認してもらえるので、記載不備による二度手間のリスクは少ないというのがメリットです。

方法(2):年金事務所に郵送

算定基礎届の記入用紙が入っている封筒には、返信用の封筒が同封されているため、これを用いて郵送もできます。

管轄の年金事務所が遠方にある場合は便利ですが、記載不備がある場合、年金事務所から確認の連絡が入る場合があります。

方法(3):電子媒体に記録して郵送

従業員が多数在籍する会社では、紙媒体での作成は事務負担が大きい場合があります。

専用の業務ソフト等で電子データとして算定基礎届を作成し、CD等に保存して、これを管轄の年金事務所へ郵送する方法も可能です。

方法(4):電子申請

届出データを電子データ上で作成して、電子データのまま提出する方法もあります。

オンライン上で完結できるのが電子申請の最大のメリットです。

ただし、電子申請を利用するには、多くの手順を踏む必要があり、手続きに慣れるまでのハードルが高いというのがデメリットとなります。

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算定基礎届は、社会保険の適用がある会社では、年に1回は必ず提出する必要がある非常に重要な届出となっており、提出期間も7月1日~7月10日と非常に短いものとなっています。

提出が多少遅れても問題はありませんが、従業員数が多い会社や、社会保険に加入しているパートタイマー等、記入ルールが一筋縄ではいかないケースもあります。

社会保険料に直結するため間違いが許されないこともあり、作成・確認・提出の一連の流れにおいて、関係者間の密なコミュニケーションが重要となってきます。

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[※1]出典:全国健康保険協会「令和6年度保険料額表」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat330/sb3150/r06/r6ryougakuhyou3gatukara/

※本記事は、2024年5月時点の情報をもとに作成しています。


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Chatworkのお役立ちコラム編集部です。 ワークスタイルの変化にともなう、働き方の変化や組織のあり方をはじめ、ビジネスコミュニケーションの方法や業務効率化の手段について発信していきます。

記事監修者:國領 卓巳(こくりょう たくみ)

2009年京都産業大学法学部卒業、2010年に社会保険労務士の資格を取得。建設業界、製造業、社会保険労務士兼行政書士事務所での勤務を経て独立開業。行政書士資格も取得。中小企業の社長向けに「労務管理代行、アドバイザリー事業」「助成金申請代行事業」「各種補助金(事業再構築補助金、小規模事業者持続化補助金など)」を展開、企業経営のサポートをおこなう。

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