【社労士監修】傷病手当金とは?計算方法や支給条件をわかりやすく解説
目次
「傷病手当金」とは、健康保険に加入している被保険者が病気やケガで働けなくなった際に支給される給付金のことです。
企業で働く従業員は、病気やケガで働けなくなれば、収入が途絶えて生活に支障をきたしてしまいます。
そのような事態に備え、健康保険では病気やケガで仕事を休んだ期間に所得の一部を保障する「傷病手当金」制度があります。
企業の労務担当者は、傷病手当金の支給条件や申請方法、計算方法などを必ず知っておきましょう。
傷病手当金とは
傷病手当金とは、従業員が業務外の病気やケガで仕事に就けなくなった場合に、従業員の生活保障として健康保険から支給される給付金です。
支給の条件を満たしていれば、加入している健保に申請することで傷病手当金が支給されます。
傷病手当金と傷病手当の違い
傷病手当金と似た制度に、雇用保険の「傷病手当」があります。
雇用保険の傷病手当は、失業中に病気やケガなどで就業できなくなった場合に、基本手当(失業保険)に代えて支給される給付金です。
ハローワークに求職の申込みをした後に15日以上引き続いて病気やケガで職業に就くことができない場合に支給されます。
一方、傷病手当金は健康保険の被保険者が業務外の病気やケガによって4日間以上仕事に就けなかった場合に支給される給付金です。
傷病手当金の支給条件
傷病手当金は、以下の(1)から(4)の条件をすべて満たしたときに支給されます。[※1]
- 条件(1):業務外の事由による病気やケガの療養のための休業である
- 条件(2):仕事に就くことができない
- 条件(3):連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかった
- 条件(4):休業した期間について給与の支払いがない
それぞれを詳しく解説します。
条件(1):業務外の事由による病気やケガの療養のための休業である
傷病手当金は、業務外の事由による病気やケガで休業していることが条件です。
業務中による病気やケガで休業した場合は、労災保険が適用されるため、傷病手当金の対象になりません。
また業務外によるものであっても、美容整形など病気とみなされないものについては対象外となります。
条件(2):仕事に就くことができない
病気やケガがある状態でも仕事に就くことができれば、傷病手当金は支給されません。
仕事に就くことができないかどうかは、医師の診断をもとに仕事の内容を考慮して企業が判断します。
なお、傷病手当金の申請書には、医師が傷病名や療養期間を証明する箇所があるため、自己判断で休業しても傷病手当金は支給されません。
条件(3):連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかった
「連続する3日間を含み4日以上」とは、業務外での傷病によって3日連続で休んで4日目から支給されるということです。
この連続する3日を「待機期間」といい、待機期間がない状態では傷病手当金は支給されません。
なお、待機期間は有給休暇や土日・祝日の公休日も含まれるため、給与の支払いがあったかは関係ありません。
また、3日連続で休んだ実績がある場合は、途中で復職して再度同じ傷病で休業したときには待機期間は必要とせず、休業した日から支給されます。
条件(4):休業した期間について給与の支払いがない
業務外の事由による病気やケガで休業している期間に給与が支払われている間は、傷病手当金は支給されません。
ただし、給与の支払いがあっても、傷病手当金の額よりも少ない場合は、その差額が支給されます。
傷病手当金の支給期間
傷病手当金が支給される期間は、支給開始日から通算で1年6か月になるまでです。
2022年1月以前は、支給開始日から1年6か月であったため、途中で復職して再び休業した場合に復職期間分の傷病手当金が支給されないケースもありました。
しかし、2022年1月から「通算で1年6か月になるまで」と支給期間が改正され、再び休業しても休業期間が通算で1年6か月になるまで傷病手当金が支給されるようになりました。[※1]
傷病手当金の計算方法
傷病手当金は、以下2つのどちらかで計算されます。
- 支給開始日以前に12か月の標準報酬月額がある場合
- 支給開始日以前の期間が12か月に満たない場合
それぞれの計算方法について解説します。
支給開始日以前に12か月の標準報酬月額がある場合
傷病手当金は1日あたり、「支給開始日以前12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日 × 3分の2」が支給されます。[※1]
たとえば、標準報酬月額が26万円の月が2か月、30万円の月が10か月だった場合、以下のように計算されます。
もし10日休業した場合は「65,200円」の傷病手当金が支給されます。
支給開始日以前の期間が12か月に満たない場合
支給開始日以前の加入期間が12か月に満たない方の支給額は、以下のいずれか低い額を使用して計算します。[※1]
- 支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均
- 全被保険者の標準報酬月額の平均額
なお、「全被保険者の標準報酬月額の平均額」は加入している健保によって異なります。
傷病手当金の調整とは
傷病手当金は、以下の事由があった場合に一部または全額が調整されます。[※2]
- ケース(1):給与の支払いがあった
- ケース(2):障害厚生年金または障害手当金を受けている
- ケース(3):老齢退職年金を受けている
- ケース(4):労災保険から休業補償給付を受けていた
- ケース(5):出産手当金を同時に受けられる
それぞれのケースをみていきましょう。
ケース(1):給与の支払いがあった
業務外による傷病で休業している期間に企業から給与の支払いがある場合は、傷病手当金は支給されません。
ただし、給与の支払いがあってもその給与の日額が、傷病手当金の日額より少ない場合は、給与と傷病手当金の差額が支給されます。
ケース(2):障害厚生年金または障害手当金を受けている
傷病手当金の対象となる傷病で、厚生年金保険の障害厚生年金または障害手当金を受給している場合は、傷病手当金は支給されません。
ただし、障害厚生年金の額(障害基礎年金が支給されるときは合算額)の360分の1が傷病手当金の日額より少ない場合は、その差額が支給されます。
なお、障害手当金を受給できる場合は、傷病手当金の額の合計額が障害手当金の額になるまでの間は、傷病手当金が支給されません。
ケース(3):老齢退職年金を受けている
退職後に傷病手当金の継続給付を受けている方が、老齢(退職)年金を受けている場合は、傷病手当金は支給されません。
ただし、老齢(退職)年金額の360分の1が傷病手当金の日額より少ない場合は、その差額が支給されます。
ケース(4):労災保険から休業補償給付を受けていた
過去に労災保険から休業補償給付を受けており、休業補償給付と同じ病気またはケガのために休業した場合は、傷病手当金は支給されません。
また、業務外の事由による病気やケガのために休業した場合でも、別の原因などで労災保険から休業補償給付を受けている期間中は、傷病手当金は支給されません。
ただし、休業補償給付の日額が傷病手当金の日額より少ないときは、その差額が支給されます。
ケース(5):出産手当金を同時に受けられる
傷病手当金と出産手当金の両方が受給できる場合は、出産手当金が優先されます。
ただし、傷病手当金の額が出産手当金の額よりも多ければ、その差額が支給されます。
傷病手当金申請に必要な書類
傷病手当金の申請には、「健康保険傷病手当金支給申請書」が必要になります。
健康保険傷病手当金支給申請書には、「被保険者記入欄用」「事業主記入欄用」「療養担当者記入用」の3種類があり、それぞれ記入漏れがないよう必要事項を記入しましょう。
また、以下の状況によって添付書類が必要になる場合があります。[※3]
条件 | 必要書類 |
---|---|
支給開始日以前の12か月以内に事業所を変更した場合や定年再雇用等で被保険者証の番号が変更された場合 | 以前の事業所の名称・所在地・事業所に使用されていた期間がわかる書類 |
障害厚生年金の給付を受けている方でマイナンバーを利用した情報照会を希望しない場合 | 年金給付額等がわかる書類(以下のすべての書類が必要)
|
障害手当金の給付を受けている方でマイナンバーを利用した情報照会を希望しない場合 | 年金給付額等がわかる書類
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老齢退職年金の給付を受けている方でマイナンバーを利用した情報照会を希望しない場合 | 年金給付額等がわかる書類(以下のすべての書類が必要)
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労災保険から休業補償が支給されている場合 | 休業補償給付支給決定通知書のコピー |
傷病の原因が第三者の行為(交通事故やけんか等)によるものである場合 | 第三者行為による傷病届 |
被保険者が亡くなられ、相続人が請求する場合 | 被保険者との続柄がわかる「戸籍謄本」等 |
被保険者のマイナンバーを記載した場合 | 以下のいずれかの書類を添付台紙に添付
|
傷病手当金に関する注意点
傷病手当金を申請する際は、以下の点に注意する必要があります。
- 自営業の場合は支給されない
- パートタイマーでも受給できるケースがある
- 退職後も受給できるケースがある
- 受け取りまでに一定の期間がかかる
- 復職したら支給が打ち切りになる
それぞれの条件や制約について、詳しく解説します。
自営業の場合は支給されない
自営業者や個人事業主が加入する「国民健康保険」には傷病手当金の制度がありません。
そのため、国民健康保険に加入している方は業務外の傷病で休業しても公的保険からの給付はありません。
パートタイマーでも受給できるケースがある
パートタイマーでも勤務先の健康保険に加入している場合は、傷病手当金の対象になります。
パートタイマーが健康保険に加入するためには、原則1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が正社員の4分の3以上あることが条件です。[※4]
また、4分の3以上の基準を満たさなくても、従業員数101人以上の企業では以下の要件をすべて満たすと健康保険に加入します。[※5]
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 2か月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
これらの条件を満たしていれば、パートタイマーでも健康保険に加入できるため、傷病手当金が受給できます。
退職後も受給できるケースがある
傷病手当金は、以下の2点を満たしていれば退職後も引き続き受給することができます。[※6]
- 資格喪失日の前日(退職日)までに継続して1年以上の被保険者期間がある
- 資格喪失時に傷病手当金を受けている、または受ける条件を満たしている
なお、退職日に出勤したときは条件を満たさないため、退職後に傷病手当金は受給できませんので注意しましょう。
受け取りまでに一定の期間がかかる
傷病手当金は、内容に不備がない場合でも、申請してから支給されるまでに2週間程度かかります。
加えて、担当医の書類記入時期や企業の給与計算の関係で申請するまでに時間がかかる場合もあるため、すぐに傷病手当金は受け取れないことを覚えておきましょう。
なお、休業日が経過していない期間の申請はできません。たとえば、医師の診断によって4月30日まで休むことが確定している場合でも申請できるのは5月1日以降となります。
復職したら支給が打ち切りになる
療養を終えて職場に復帰した場合は給与が支給されるため、傷病手当金は支給されません。
ただし、リハビリ勤務などにより一時的に出社した場合は賃金が発生した日だけ支給されず、療養している日は手当をもらえることもあります。
円滑な情報共有に「Chatwork」
業務外での病気やケガで会社を休んだときは、傷病手当金が受給できます。ケガだけではなく、うつ病などの精神障害で長期休業する場合も傷病手当金の対象です。
ただし、働くことができないかは医師の診断をもとに企業が判断します。自主的に休んでいても傷病手当金は申請できません。
なお、企業側は長期休業する従業員に対して必ず傷病手当金の案内をしましょう。
傷病手当金の存在を知らない従業員もいるため、収入の不安を解消するためにも企業側から説明することが大切です。
ビジネスチャット「Chatwork」は、チャット形式で簡単にコミュニケーションができるチャットツールです。
メールや電話よりも気軽にやりとりができるため、療養中の従業員ともコミュニケーションが取りやすくなります。
円滑なコミュニケーションの実現に、ぜひ「Chatwork」をご活用ください。
Chatwork(チャットワーク)は多くの企業に導入いただいているビジネスチャットです。あらゆる業種・職種で働く方のコミュニケーション円滑化・業務の効率化をご支援しています。
[※1]出典:全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3040/r139/
[※2]出典:全国健康保険協会「傷病手当金」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3170/sbb31710/1950-271/
[※3]出典:全国健康保険協会「健康保険傷病手当金支給申請書」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g2/cat230/r124/
[※4]出典:日本年金機構:「私は、パートタイマーとして勤務しています。社会保険に加入する義務はありますか。」
https://www.nenkin.go.jp/faq/kounen/kounenseido/hihokensha/20140902-07.html
[※5]出典:日本年金機構:「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内」
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2021/0219.html
[※6]出典:全国健康保険協会「傷病手当金について」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat620/r307/
記事監修者:北 光太郎
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。