セルフキャリアドックとは?必要な背景とメリット、進め方を事例付きで解説
目次
セルフキャリアドックとは、企業が従業員に向け、キャリア形成の支援やサポートを継続的におこなうことです。
キャリアに関わる面談やキャリア研修などをおこなうことで、従業員のスキルアップを促すだけでなく、企業としての競争力を高めることにもつながります。
実施することで、事業活動の生産性が高まることや離職率の低下が期待できるでしょう。
セルフキャリアドックが必要とされるようになった背景とメリット、進め方について事例を含めて解説します。
セルフキャリアドックとは?
セルフキャリアドックとは、企業が従業員に向けてキャリア形成のサポートをおこなうことです。
サポートの内容例として、キャリアに関わる面談、キャリア研修などがあげられます。
一度実施して終わりではなく、企業側が体制を整え、定期的な実施が大切です。
セルフキャリアドックは、改正職業能力開発促進法により2016年から義務化されました。
キャリア開発やサポートの実施は、企業と従業員の両方を含めておこなう義務があります。
セルフキャリアドックが必要な背景
労働人口が減少し、変化の激しい時代といわれる現代において、キャリアのサポートが重要視されています。
企業や従業員にとって、セルフキャリアドックが必要な背景を見ていきましょう。
労働人口の減少
日本は少子高齢化の影響により、労働人口の減少が予想されています。
企業は優秀な人材の獲得が難しくなるため、募集をかけても人材が集まらないという懸念もあります。
そのため、従業員の離職を減らすためにも、社内で実施するキャリアのサポートが重要です。
従業員が希望するキャリアをヒアリングし、従業員がスキルアップを図りながら、長く働きやすい職場づくりを整えていきましょう。
定年退職の年齢の変化
高年齢者雇用安定法により、令和3年4月1日から定年の年齢が70歳に引き上げられました。
まだ働きたい意欲が高い60代以上の労働者に向けて、企業が働ける場所を提供できるような調整が求められています。
企業は60代以上の人材を再雇用するに辺り、あらためてキャリアをサポートしていく姿勢が重要です。
VUCAの時代の影響
変化が激しいVUCAの時代では、海外や国内の競争に負けないためにも、柔軟に対応できるスキルを保有する人材の確保が大切です。
企業が率先して従業員のキャリア形成をおこなうことで、従業員が時代の流れに合わせたスキルやマインドを身につけられます。
セルフキャリアドックに関わる助成金
セルフキャリアドックをサポートできる助成金として、人材開発支援助成金の制度があげられます。[※]
人材開発支援助成金の制度により、企業は従業員の人材育成を図る際に、一部資金をサポートしてもらうことができます。
経費などの負担を減らせるため、企業がセルフキャリアドックを導入できる要因になっています。
セルフキャリアドックを実施するメリット
セルフキャリアドックを実施することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
企業側と従業員側のメリットの両方から解説します。
企業側のメリット
セルフキャリアドックを実施するメリットについて、企業側の詳細を見ていきましょう。
事業活動の生産性を高められる
従業員のスキルが向上すると、事業活動に還元できるものが増えるため、生産性の向上が見込めます。
たとえば、新しい企画を打ち出せるようになったり、事業改善の提案を出せたりなど、新しい発想や幅広い視点で物事を捉えられるようになるでしょう。
また、従業員に新しい仕事を任せられるようになるなど、企業の将来を担ってくれる人材に成長してくれます。
離職率の低下が期待できる
企業が従業員のキャリア支援をおこなうことで、企業と従業員の間に信頼感が生まれます。
従業員の視点から見たときに「自分のキャリアをしっかりと考えてくれる企業」という印象を抱くため、長く働いて企業に貢献したいという思いも生まれやすくなるでしょう。
また、育児や介護休暇を使い、仕事を辞めようか迷っている従業員に対しても、気軽に戻ってきやすい体制を整えられるようになります。
ほかにも、若手や中途採用の従業員など、仕事を始めて間もないときに社内のサポート体制が整っていれば、早い段階で仕事の不安を解消できるようになります。
従業員側のメリット
セルフキャリアドックを実施するメリットについて、従業員側の詳細を見ていきましょう。
自身の成長につながる
企業からキャリア支援をしてもらえると、新しいスキルやマインドを身につけるチャンスが生まれます。
ひとりで勉強を続けるよりも継続しやすいだけでなく、企業によってはお金の支援をしてもらえる場合もあるでしょう。
また、自身のキャリアを棚卸しする機会が生まれるため、あらためて今後のキャリアを見直せるようになります。
仕事のモチベーションを向上できる
仕事の能力を高めることで作業効率が高まるなど、仕事のモチベーションを向上させる効果が期待できます。
主体的に学べる姿勢も少しずつ身につくので、指示をされて仕事をしている場合よりも、創意工夫をして仕事をこなそうという意欲がわきやすくなるでしょう。
また、仕事に関わるスキルアップは、新しい分野の知識を得る満足感も高まります。
セルフキャリアドックの進め方
実際にセルフキャリアドックを実施する際には、以下のステップで進めるとよいでしょう。
- ステップ(1):人材育成ビジョン・方針を決める
- ステップ(2):実施計画を策定する
- ステップ(3):企業内でインフラを整備する
- ステップ(4):セルフキャリアドックをおこなう
- ステップ(5):フォローアップをおこなう
それぞれのステップの詳細を解説します。
ステップ(1):人材育成ビジョン・方針を決める
セルフキャリアドックを実施する前に、企業側で人材育成のビジョンや方針を決めましょう。
経営者は、企業の経営理念と事業活動に求められる人物像について、時代や企業の周辺環境などに合わせてあらためて整理します。
また、従業員が仕事にどのような悩みを抱えているのかを整理しながら、あらためてビジョンや方針を明確化していきます。
人材育成のビジョンや方針を決めたら、社内の従業員に周知しましょう。
ステップ(2):実施計画を策定する
人材育成のビジョンや方針を決めたあとは、実際に何をするのかを計画しましょう。
具体的には、キャリア研修とキャリアコンサルティング面談を実施する場合、実施のタイミングや資料などを作成して準備を進めます。
同時に、キャリアに関わる面談の内容を記載するための「面談シート」を作成しましょう。
従業員に何を回答してほしいのかを決めておけるなど、効率的に面談の内容を整理できます。
また、面談の情報を人事部などに共有するための報告書も作成します。
ステップ(3):企業内でインフラを整備する
セルフキャリアドックを実施できるように、社内に必要なインフラを整備します。
責任者の決定
セルフキャリアドックの実施にあたり、全体をまとめる責任者を決めておきましょう。
人事部から決める方法もあれば、幅広く全体の部署から決める方法もあげられます。
経営者やコンサルタント、従業員との仲介役になるため、問題なくコミュニケーションを図れるような人物像が求められます。
社内ルールの整備
セルフキャリアドックに関わるルールを決めたら、社内に周知しておきましょう。
キャリアに関わる面談で得られた情報をどのように取り扱うのか、どのように人事制度に反映するのかを決めておきます。
また、セルフキャリアドックに関わる従業員からの疑問に答えられるようにするなど、事前にありそうな質問に対する回答をまとめておく方法とよいでしょう。
キャリアコンサルタントの育成・確保
従業員のキャリア支援をおこなうには、社内におけるキャリアコンサルタントの育成が重要です。
外部のキャリアコンサルタントに依頼する場合、資格保有者などの信頼できる人材の確保が重要です。
また、社内では上司が実施することが一般的ですが、面談の守秘義務や質を向上できるような体制を整えておきます。
質を高める工夫として、上司にキャリアコンサルに関わる研修などを受けてもらい、面談の実施前には、面談の情報を人事部に報告することについて、従業員の許可を得ておきましょう。
どのような情報共有の流れになるのかの共有は、トラブルを起さない工夫につながります。
ステップ(4):セルフキャリアドックをおこなう
社内のインフラが整備できたら、従業員に向けてセルフキャリアドックを実施していきましょう。
従業員に研修を実施する
セルフキャリアドックの実施目的などについて、従業員に研修を実施して伝えていきます。
実際に面談をおこなう担当者が別にいる場合は、顔を合わせて情報共有を済ませておきましょう。
キャリア研修
キャリア研修については、従業員の勤務年数や年齢ごとに実施する方法や、働き方が変化するような状況で実施するとよいでしょう。
たとえば、3年・5年・10年勤務といった区切りや、25歳・35歳・45歳といった区切りを決めて実施します。
また、働き方が変化する状況として育児や介護休暇など、従業員にとって節目になるようなタイミングで実施しましょう。
必要であればグループワークなどを活用しながら、従業員のキャリアの強みや弱みなど、現状の状況を整理してもらいます。
キャリアに関わる面談
上司やキャリアコンサルタントに依頼して、従業員のキャリアに関わる面談をおこないましょう。
従業員に実施の目的を伝えるようにしながら、従業員のキャリアに関わる展望や悩み、今後の希望を聞き取ります。
面談の時間は、60分程度を目安に実施するのが効果的です。
従業員が安心して相談できるように、個室などを設けて話せる環境をつくります。
面談のフォローを進める方法として、アンケートを実施して聞き取るのもよいでしょう。
ステップ(5):フォローアップをおこなう
キャリアに関わる面談を終えたあとは、従業員の状況に合わせてフォローアップを実施しましょう。
キャリアコンサルタントの担当者から、人事部に面談の報告書を提出して、従業員のキャリアに関わる悩みや組織として改善すべきことを整理していきます。
そのあとは人事部から経営者に情報をまとめて伝える形で、今後の対策を検討していく流れです。
また、必要に応じて追加で面談をおこなうなど、継続的にセルフキャリアドックの実施をおこなうようにします。
セルフキャリアドックの企業事例
実際に企業内でセルフキャリアドックを実施している事例を2つ紹介します。
企業内での実施を検討する際の参考にしてください。
金融業界の企業事例
金融業界の企業事例では、若手従業員の特徴に合わせて人材支援をおこなっています。
キャリア研修を実施して、あらためて従業員が仕事の展望、自身の強みや弱みを振り返れるようになりました。
従業員の悩みを共有できるようになっただけでなく、企業としても人材育成の方向性を考える機会になったといいます。
小売業界の企業事例
小売業界の企業事例では、講師を呼んでキャリアの棚卸しの必要性を従業員に伝えるようにしました。
日頃は業務を中心に情報共有をすることが多かったため、きっちりと期間を設けて実施できた結果、上司や同僚などから気づきを得られる意見をもらえたといいます。
実施後のアンケートでは、キャリア研修と面談の実施により、多くの従業員が今後のキャリアを考えるうえで有益だったと回答しています。
セルフキャリアドックを実施して従業員を育成しよう
セルフキャリアドックの実施は、社内の生産性を高められるメリットが期待できます。
従業員にとっても成長のチャンスにつながるため、企業が体制を整えて支援していく姿勢が重要です。
キャリアに関わる面談や研修などをおこない、従業員がキャリアの振り返りをおこなえる体制を整えましょう。
また、実施の理解を得るためにも、社内にセルフキャリアドックの周知をしておくことも大切です。
セルフキャリアドックの周知をする際は、ビジネスチャット「Chatwork」の活用がおすすめです。
グループチャットを作成しておくと、社内全体や部署全体にセルフキャリアドックの周知をスムーズに進められます。
違う部署とのやりとりも円滑化が可能なので、社内の情報共有の活性化に「Chatwork」をご活用ください。
Chatwork(チャットワーク)は多くの企業に導入いただいているビジネスチャットです。あらゆる業種・職種で働く方のコミュニケーション円滑化・業務の効率化をご支援しています。
[※]出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html