「つながらない権利」とは?意味と侵害の例、権利を守る方法を徹底解説
目次
「つながらない権利」とは、仕事や職場からの連絡に対して、従業員が「勤務時間外に連絡の対応をしない権利」を指します。
昨今のテレワークの普及により、仕事とプライベート時間の境界線が曖昧になるケースがあります。
勤務時間外の対応についてルールを明確化しないと、従業員の心身に負担がかかるリスクがあるため、企業側での対策が必要です。
本記事では、つながらない権利の侵害にあたる例や、テレワークでの権利を守る方法を解説します。
「つながらない権利」とは?
「つながらない権利」とは、企業で働く従業員が「勤務時間外の連絡対応をしない権利」を指します。
メールや電話、ビジネスチャットなど、業務のやりとりに関わる連絡すべてが対象です。
従業員は勤務時間外に連絡の対応をしてほしいと言われても、拒否できる権利があります。
また「つながらない権利」の対象には以下の時間も含まれます。
- 休日
- 昼休みなどの休憩時間
- 始業前や就業後の時間
もともと「つながらない権利」は、2017年にフランスから始まったとされています。
現在では日本でも注目されており、企業は従業員の権利を侵害しないためにも、社内周知をして対応方法を検討しておく必要があります。
「つながらない権利」が必要とされる背景
「つながらない権利」が注目されるきっかけになった背景には、新型コロナウイルス感染症によるテレワークの普及があげられます。
総務省の調査によると、民間企業におけるリモートワークの普及率がコロナ渦により高まったことが分かっています。[※1]
初めて緊急事態宣言が発出された際には、テレワークの普及率が17.6%から56.4%に上昇し、2回目の緊急事態宣言時には、一度低下した数値が38.4%に再上昇しました。
特に、これからテレワークの導入を検討している、またはすでに導入している企業では、従業員の権利を侵害しないための対策を講じておく必要があります。
「つながらない権利」に対する海外と日本の対応
テレワークの普及にともない注目を集める「つながらない権利」ですが、世界でも関心が高まっています。
海外と日本、それぞれの対応や取り組みについて見ていきましょう。
海外の対応
海外では「つながらない権利」を守るために、以下の対応を実施しています。
国 | 内容 |
---|---|
スペイン | リモートワーク(在宅勤務)の従業員に対して、勤務時間外にデジタル接続をする権利を設けている。 |
イタリア | 法令制定として、時間や場所にとらわれない働き方をする従業員(スマートワーカー)を対象に、雇用契約に「つながらない権利」の内容を記載する義務を設けている。 |
フランス | 法令制定として、企業(従業員50人以上)を対象に、勤務時間外のメールに関する扱い方について、労使で話し合って決める義務を設けている。 |
上記以外では、2024年4月現在、アメリカのカルフォルニアで「つながらない権利」の法案を議会審議中です。
ほかにも、テレワークや柔軟な働き方を推進するための権利が設けられている国々があり、働き手を守るための権利に注目が集まっています。
日本の対応
2024年4月現在、日本では「つながらない権利」における法整備はされていません。
しかし、厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」によると、企業に向けて以下の認識や見解を広めています。
テレワークを実施している者に対し、時間外、休日又は所定外深夜(以下「時間外等」という。)のメール等に対応しなかったことを理由として不利益な人事評価を行うことは適切な人事評価とはいえない。[※2]
「つながらない権利」を守らないリスクと悪影響
勤務時間外の対応を強要すると、従業員の心身にストレスを与えるため、企業活動にも悪影響を及ぼす可能性があります。
ほかにも、企業において「つながらない権利」を守らないと、以下のようなリスクが発生します。
- ハラスメントにつながる可能性がある
- 従業員の心身に負担がかかる
- 作業効率や生産性低下につながる
- 残業代などの費用がかかる
それぞれの詳細を見ていきましょう。
ハラスメントにつながる可能性がある
「つながらない権利」を侵害すると、リモートハラスメントやパワーハラスメントにつながる懸念があります。
勤務時間外の対応は、リモートワークで働く従業員に対して、仕事を強要させる行為に当てはまるからです。
企業は従業員が出社しているケースと同様に、リモートワークでも従業員の権利を守る必要があります。
従業員の心身に負担がかかる
「つながらない権利」が守られていないと、従業員は勤務時間外に対応しなければいけないストレスを感じます。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査では、勤務時間外に上司・同僚・部下から業務連絡が届くことについて、雇用者の62.2%が「ストレスを感じる」と回答しました。[※3]
また、単にストレスを感じてしまうだけでなく、従業員は「勤務時間外に対応をしないと、評価に響くのではないか」という不安感を抱くことにつながってしまいます。
作業効率や生産性低下につながる
従業員の「つながらない権利」を侵害すると、作業効率や生産性の低下につながるなど、企業にとっても悪影響があります。
従業員が常時対応に迫られる状態だと、従業員の心身が休まりません。
仕事とプライベート時間の切り替えが難しくなり、マルチタスクな状態が続くため、勤務時間中の処理能力が低下する原因になります。
残業代などの費用がかかる
「つながらない権利」が守られないと長時間労働につながり、残業代などの人件費がかさみます。
勤務時間外の対応は、基本的に生産性や作業効率が落ちやすく、営業時間中に対応するよりも時間がかかります。
経営を圧迫する要因になりかねないため、社内ルールを設けて従業員を守ることが重要です。
「つながらない権利」が侵害される3つの例
始業時間前や退勤後、休日は本来、プライベートの時間であり、業務時間外です。
しかし、以下のような対応をうながすと「つながらない権利」を迫害してしまう可能性があります。
- ケース(1):休憩中に対応をうながす
- ケース(2):アプリの通知オンをうながす
- ケース(3):勤務時間外に連絡を強要する
どのようなケースなのか、詳細を解説します。
ケース(1):休憩中に対応をうながす
休憩中は勤務時間外の扱いと同じであるため、連絡の対応をうながしてはいけません。
電話、メール、チャットなど、連絡に関わるすべての内容が対象となります。
たとえば、休憩中に10分間電話の対応をした場合、別途で10分休憩を設ける必要があります。
暗黙の了解で対応する状況を防ぐためにも、休憩時間中の対応について社内でルールを決めておきましょう。
ケース(2):アプリの通知オンをうながす
仕事に使うアプリは、PCやスマートフォンを含め、常に通知オンにしておくことをうながすのは避けましょう。
従業員が余暇の時間にリラックスできないという弊害が生まれます。
休日などの勤務時間外は設定をオフにするなど、社内で運用方法を周知してみてください。
ケース(3):勤務時間外に連絡を強要する
「つながらない権利」を侵害する例には、勤務時間外に「早く対応してほしい」など、連絡を強要する行為があげられます。
勤務時間外に対応する様子を見て、ほかの従業員も「対応しなければいけない」という空気感が生まれるはずです。
過重労働につながるだけでなく、業務の生産性が落ちるなど、企業にとってもリスクが高まります。
取引先の企業に向けては、休憩時間は対応が遅れる旨を伝えるなど「つながらない権利」を侵害しない取り組みを実施してみてください。
企業が「つながらない権利」を守る方法
企業が「つながらない権利」を守るためには、従業員に対して「つながらない権利」の認知を高める必要があるでしょう。
ほかにも、以下のような取り組みをおこなうことがおすすめです。
- 勤務時間外の対応を人事評価に含めない
- 意識を変えるための研修を実施する
- 仕事内容を可視化する
- 勤務時間外に対応しないようにルールを周知する
それぞれの取り組みについて紹介します。
勤務時間外の対応を人事評価に含めない
人事評価をおこなう際は、勤務時間外のサービス対応を評価に含めないようにしましょう。
従業員は「勤務時間外の対応が評価につながる」と認識してしまい「つながらない権利」を守るのが難しくなります。
従業員全体の適切な評価を実施できなくなると、評価基準について不満の声が出る原因になりかねません。
早朝や夜などの勤務時間外に対応しないように、社内で明確な評価基準を設けてみてください。
意識を変えるための研修を実施する
従業員の「つながらない権利」を守るためにも、営業時間外の対応における意識改革を実施しましょう。
まずは認知を広めるために、社内全体で「つながらない権利」に関する研修を実施するのがおすすめです。
研修では、下記の項目を伝えましょう。
- どのような目的で実施するのか?
- 導入しないリスクや悪影響に何があるのか?
- 「つながらない権利」を侵害する例に何があるか?
- 管理側が注意したいポイントは何か?
社内全体で意識が変化すれば、営業時間外における対応の仕方も変わっていくはずです。
仕事内容を可視化する
「つながらない権利」が侵害されやすいポイントを知るためにも、仕事内容を可視化しましょう。
たとえば、社内全体でPC業務のログなどをデータ化して、業務状況を見える化するツールの導入もおすすめです。
ほかにも、長期休暇などの場合は、不在通知のメールを設定しておき、定型文を設定して自動で返信する方法もあります。
テレワークの場合、Webで共有できるカレンダーを使う方法も便利です。
各メンバーがどのような仕事に取り組んでいるのか、業務状況を見える化することで、不要な連絡そのものを減らすことも可能となります。
勤務時間外に対応しないようにルールを周知する
勤務時間外の対応を避けるためにも、社内でルールを決めておくと効果的です。
現場の状況が分からない場合は、どのようなポイントで「つながらない権利」の侵害が起きているのか、全体からアンケート調査などでヒアリングをおこないます。
勤務時間外のルールに関する項目は、以下のような内容がよいでしょう。
- ビジネスチャットの通知は、営業時間内のみオンに設定しておく
- 休日などを含む勤務時間外にメールが届いた場合は、営業日に対応をおこなう
- 取引先には、契約段階の時点で勤務時間外の対応ができない旨を伝える
- 勤務時間外は、電話の自動アナウンスを利用する
ルールを決めたあとは、トップダウンで社内全体に伝えると、現場に内容を速やかに広められます。
「つながらない権利」を守るために「Chatwork」の活用を
「つながらない権利」は、従業員の心身における安全性を守るためにも必要不可欠です。
企業にとっても、権利を守らないリスクや悪影響は大きいので、社内で対応方法を検討しましょう。
たとえば、勤務時間外の対応をうながさないようにするために、仕事に使うツールなどの通知設定を変更しておくなどもおすすめです。
現状のツールでは対応が難しい場合は、ほかのサービスと併用して活用する方法もおすすめです。
たとえば、ビジネスチャット「Chatwork」なら、通知方法に合わせてさまざまな設定が可能です。
プッシュ通知の場合は、スマートフォンのアプリなら「休日は通知しない」「指定時間は通知しない」という設定を使うと、営業時間外に通知が届かなくなります。
PCアプリを使う場合は、設定の「デスクトップ通知」の表示を「Toがあった時のみ通知」を使うと、自分宛てのメッセージのみ通知を表示します。
ほかにも、メッセージをいつ送信したかの履歴も残るので、従業員が営業時間外の対応をしていないかを把握できるメリットもあります。
企業が従業員の「つながらない権利」を守る方法のひとつとして、ぜひ「Chatwork」をご活用ください。
Chatwork(チャットワーク)は多くの企業に導入いただいているビジネスチャットです。あらゆる業種・職種で働く方のコミュニケーション円滑化・業務の効率化をご支援しています。
[※1]出典:総務省「第1部 特集 デジタルで支える暮らしと経済 ー 第3節 コロナ禍における企業活動の変化」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd123000.html
[※2]出典:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf
[※3]出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「つながらない権利に関する調査2023」
https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2024/01_02/kokunai_03.html
※本記事は、2024年8月時点の情報をもとに作成しています。