【臨床心理士監修】アンガーマネジメントとは?怒りのメカニズムや職場で実践する方法を解説
目次
仕事をしていると、経営や上司の方針に納得がいかずイライラすることや、人間関係がうまくいかず怒りの感情がこみあげてくることがあります。
この記事では「怒り感情」との上手な付き合い方について考える、アンガーマネジメントを紹介します。
アンガーマネジメントの効果やメリット、具体的な方法やポイントについても解説します。
アンガーマネジメントとは
アンガーマネジメントとは、怒り感情を適切にコントロールすることを意味しています。
犯罪者の更生プログラムや企業の研修など、幅広くアンガーマネジメントの研修がおこなわれています。
「怒り」のメカニズムとは
怒りは、「こうしたい」「こうあってほしい」という欲求が何かしらの原因によって満たされなかったとき、その原因に対して生じる感情です。
たとえば、「上司に書類の決裁を依頼していたのに、お願いした締め切りまでに決裁されていない」「早く帰りたいのに、仕事を増やされて残業しないといけなくなった」といった状況は、人によっては怒り感情を発生させます。
怒りを感じると、気持ちの変化のほかにも、心拍数や血圧の上昇、表情の変化など身体面でも変化が起こります。
アンガーマネジメントが注目される背景
アンガーマネジメントが注目されるようになったのは、メンタルヘルスに対する社会の関心の高まりが背景としてあります。
うつ病など心の病気を抱える人や、悩みを抱えて自殺におよぶ人の増加などから、身体はもちろん心の健康も重視されるようになりました。
怒りやイライラしている状態が、個人の生活の質や心身に与える悪影響は大きなものです。
とくに労働環境においては、自分の心の安定はもちろん一緒に働く人とうまくやっていくためにも、感情のコントロールは重要であり、アンガーマネジメントが注目されています。
アンガーマネジメントを企業でとりいれるべき理由
アンガーマネジメントの研修を実施している企業も数多くあります。
アンガーマネジメントを企業でとりいれるべき理由について紹介します。
ハラスメント対策の強化
アンガーマネジメントを実施することによって、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントといった問題の予防につながります。
たとえば、上司や先輩が部下や後輩に対して指導をおこなうとき、大きな声で怒鳴る、人格を否定するなど怒りに任せて指導をしてしまうとパワーハラスメントにつながってしまいます。
怒り感情に支配されて冷静さを保てないと、指導のつもりでやっていることがパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントとなってしまうため、アンガーマネジメントは重要です。
人材育成における重要性の高まり
怒りの感情をうまくコントロールできないでいると、仕事に集中できず生産性が低下する、職場の人間関係がうまくいかなくなるなど、さまざまなデメリットがあります。
人材を育成するうえで、単に仕事ができるよう教育するだけではなく、社員が感情を上手くコントロールできるようにしていくことも重要です。
教育機会の提供
高校や大学などの教育課程と社会人になってからでは、求められるスキルが大きく異なります。
学校教育場面では学習に重点が置かれており、社会人に必要な感情のコントロールの仕方について十分な教育を受けられているかという点には疑問が残ります。
そのため、採用した人材に対し、必要な教育機会を提供することも企業の責務として重要です。
仕事のやり方といったスキル面の教育だけではなく、一社会人として組織に属する個人の教育に力を入れていることは、社外へのアピール材料にもなります。
アンガーマネジメントを身につける効果・メリット
アンガーマネジメントを身につけることで、どのような効果やメリットを期待できるのでしょうか。
代表的なメリットを4つ解説します。
- 円滑なコミュニケーション
- 質の高い人材育成
- 従業員の心身の健康が保たれる
- 生産性向上
詳しく解説します。
円滑なコミュニケーションができる
怒りを適切にコントロールできれば、怒りでカッとなって怒鳴ったり人にあたったりすることがないため、周囲と円滑なコミュニケーションがとれるようになります。
怒りを我慢するのではなく、適切な形で怒りを表現できるようになれば、周囲との人間関係を良好に保ちつつ自己主張することができます。
質の高い人材育成につながる
アンガーマネジメントによって、自身の感情をコントロールし、適切に怒り感情を表現できる質の高い人材育成が可能です。
仕事では多くのルールや制約があるなかで働くことになります。
さまざまな状況、相手とのやりとりがあり、怒りを感じることも少なくありません。
状況や相手にかかわらず、感情をコントロールできる人材は企業にとって貴重な存在です。
従業員の心身の健康が保たれる
イライラする状態が慢性的に続いていると、心身が疲れてしまい体調不良につながるおそれがあります。
アンガーマネジメントを身につけて、適切に怒りをコントロールできるようになることは、従業員の心身の健康維持において重要といえるでしょう。
生産性向上につながる
怒り感情を抱えたままでは、仕事に集中するのも難しいでしょう。
怒り感情を適切な形で表現できれば、よりよい職場環境を構築するきっかけになることもあります。
そのため、アンガーマネジメントによって怒りをコントロールできるようになることは、生産性向上につながる可能性があります。
アンガーマネジメントの方法
具体的にどのように怒りをコントロールすればいいのか、アンガーマネジメントの方法について紹介します。
6秒ルール
怒りを感じたときに、最初の6秒間を耐えることができれば、そのあとは怒りが静まっていくという「6秒ルール」があります。
怒りを感じたときには、反射的に行動するのではなく、心のなかで6秒数えてまずは怒りをしずめましょう。
怒りの点数化
怒りを点数化することで、客観的に自分の怒りを観察できるようになります。
10段階や100点満点などで怒りを評価してみましょう。
「この程度ならそんなに怒らなくてもいいだろう」など、自分の怒りを冷静に評価する手助けとなります。
その場との距離をおく
怒りを感じたらその場から離れてみるのも、アンガーマネジメントのひとつです。
職場であれば、一度トイレに席を立つなど物理的に場所を変えてみましょう。
場所が変わることで、気持ちもリフレッシュできる可能性があります。
リフレーミング
リフレーミングとは、ものごとに異なる意味付けをすることです。
たとえば、部下に任せた書類の完成度が低く「仕事にやる気がないのではないか」と怒りをぶつけそうになったときに、「能力的にまだ難しい仕事を任せた自分にも責任があるのではないか」「体調不良などなにか別の原因があるのではないか」とリフレーミングしてみましょう。
リフレーミングすることによって、部下に怒りをぶつけるのではなく、冷静に対応できるようになります。
アンガーマネジメントを実践するときのポイント
アンガーマネジメントにとりくむ際には、自分のペースでとりくむようにしましょう。
個人の性格や考え方のクセなどは、人生の長い時間の積み重ねによって作られたものです。
性格やものごとのとらえ方、価値観などは簡単には変えられません。
アンガーマネジメントにとりくむときには、ある程度の時間と訓練の回数が必要であることを忘れないようにしましょう。
また、アンガーマネジメントというと、「怒りをなくす」というイメージをもってしまう人もいますが、怒りも人間の感情のひとつです。
我慢するのではなく、怒りを適切な形で表現することが大切です。
アンガーマネジメントを企業で導入する方法
アンガーマネジメントを企業で導入するための具体的な方法について紹介します。
研修をおこなう
企業内の研修でアンガーマネジメントの研修を実施してみましょう。
怒りとどのように付き合うのか、ハラスメントになってしまうリスクなど社員への周知徹底をする機会となります。
定期的に面談をする
個別での定期面談も、アンガーマネジメントをするうえで効果的です。
社員がどのような場面で怒りを感じやすいのかを把握し、その場面にどう対処するのがいいのか第三者の立場から客観的にアドバイスすることができるでしょう。
アンガーマネジメント診断における「怒りのタイプ」
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会では、無料のアンガーマネジメント診断が受けられます。
「俺様ライオン」「自由ネコ」「熱血柴犬」「白黒パンダ」「頑固ヒツジ」「慎重ウサギ」の6つの動物キャラクターの分類で、個人の怒りの特徴や課題を教えてくれます。
「世の中には尊重すべき規律があり、人はそれに従うべきだ」などの12個の質問で診断されます。
自分の怒りの傾向を知ることで、アンガーマネジメントにも活かすことが可能です。[注1]
職場でアンガーマネジメントを実践しよう
アンガーマネジメントは、個人が職場において高い生産性を維持し、人間関係を良好に保つうえで役に立ちます。
とくに職場におけるメンタルヘルスやハラスメントへの関心が高まっている現代において、怒りを上手にコントロールすることは重要です。
職場においても研修や個別面談の機会を通して、個人のアンガーマネジメント能力を向上させることが可能です。
アンガーマネジメントにもさまざまな方法があるので、できることから実践してみましょう。
数をこなしていくことで自然とアンガーマネジメントが習慣となり、心穏やかに過ごせるようになります。
ぜひアンガーマネジメントを日常生活の習慣にしてみてください。
Chatwork(チャットワーク)は多くの企業に導入いただいているビジネスチャットです。あらゆる業種・職種で働く方のコミュニケーション円滑化・業務の効率化をご支援しています。
[注1]出典:一般社団法人日本アンガーマネジメント協会「無料アンガーマネジメント診断」
https://www.angermanagement.co.jp/test
※本記事は、2022年10月時点の情報をもとに作成しています。
記事監修者:山崎 ゆうき(やまざき ゆうき)
臨床心理士・公認心理師の資格を所持。司法・障害福祉領域などでの勤務を経て、独立開業。メンタルヘルス系の記事を中心に、心理学の知識をいかした記事執筆・監修を担当。心理学の知識をわかりやすく、日常でも実践しやすい形で発信しています。