オープンダイアローグとは?役割や7つの原則、対話実践の基本要素を解説【専門家監修】
目次
現代では精神疾患の治療方法に、さまざまな手法が存在します。
オープンダイアローグも、数ある治療方法のひとつです。
この記事では、オープンダイアローグとはなにか、7つの原則と12の対話実践の基本要素、実施するときのポイントについて紹介します。
オープンダイアローグとは
オープンダイアローグとは、クライアント(相談に来た人のこと)本人のみならず家族のほか、治療者側も医師や看護師、臨床心理士など関係者が集まり対話を重ねる治療方法のことです。
1984年に、フィンランドのケロプダス病院で、患者の入院手続きに際して、患者本人と家族、同僚や友人、関係のある専門家を集める手法をとるようになったのが始まりといわれています。
統合失調症のケア技法として発展してきましたが、オープンダイアローグは医療現場だけではなく、福祉や教育などの現場でも応用可能です。[※1]
オープンダイアローグの7つの原則
オープンダイアローグには、7つの原則があります。
- (1):即時対応
- (2):社会的ネットワークの視点をもつ
- (3):柔軟性と機動性
- (4):責任
- (5):心理的連続性
- (6):不確実性に耐える
- (7):対話
オープンダイアローグをより理解するために、まずは7つの原則についてみていきましょう。
即時対応
即時対応は、必要に応じてただちに対応することを意味し、初回連絡から24時間以内に治療チームを立ち上げ対応をおこないます。
24時間以内は無理でも、ニーズに合わせてできるだけ早く対応できるようにまずは目指していきます。
社会的ネットワークの視点をもつ
オープンダイアローグでは、患者本人だけでなく、その周囲の家族や友人など周りの人とのかかわりに注目する視点が大切です。
患者本人とかかわりのある人をできるだけ集めて、一緒に話を聞きます。
柔軟性と機動性
通常の心理療法は2週間に1回など、決められたタイミングに決められた場所でおこないます。
オープンダイアローグでは、ニーズがあれば場所やタイミングにこだわらずにミーティングをおこない、柔軟性と機動性を重視します。
責任
オープンダイアローグでは、クライアントが保健所や行政、学校などにかかわる必要があるときに、クライアントをたらいまわし状態にすることを許しません。
関係機関の担当者と一緒に対話を実施し、責任をもって治療にあたります。
心理的連続性
オープンダイアローグでは、治療メンバーの異動などがある場合も、可能な限り1人はチームに残るようにされています。
患者をよく知っている人物がチームに居続けることで、心理的連続性を維持します。
不確実性に耐える
問題が起きたときに、解決や結論を出すのを急がないようにします。
オープンダイアローグは、根気強く対話を続けることで、独自の最適な答えを出していくプロセスを重視します。
対話
スタッフは患者や家族、関係者がどんな状態であっても対話を続け、対話を重視します。
オープンダイアローグにおいて、対話は解決のための手段ではなく、対話自体を目的としてとらえます。
オープンダイアローグにおける対話実践の12の基本要素
オープンダイアローグでは、対話を実践するうえで、12個の基本要素を重視しています。
各要素についてそれぞれ解説します。
2人以上のセラピストの参加
オープンダイアローグにおいては、2人以上の複数のセラピストがいることを重視しています。
1人のセラピストが話を聞いている間に別のセラピストは質問をするなど、チームワークを活かした対話が可能です。
家族や社会ネットワークメンバーの参加
オープンダイアローグでは、患者以外の関係者が対話に参加することを重要なポイントとしています。
家族や社会ネットワーク(職場や友人関係など)のメンバーが対話に参加することで、より多面的な視点を獲得でき、対話も進みます。
開かれた質問を使う
「はい」「いいえ」で答えられる質問をクローズドクエスチョンといい、「はい」「いいえ」では答えられない質問をオープンクエスチョンといいます。
「今日ここに来るという考えに至った経緯は何ですか?」「このミーティングをどのように使いたいですか?」などが開かれた質問にあたり、この2つはオープンダイアローグの開始にあたってよく使われる質問です。
>【専門家監修】オープンクエスチョンとは?に関する記事はこちら
クライアントの発言に応答する
対話を促進するために、クライアントの発言に応答することは重要です。
クライアントが使った言葉や表現を用いて応答する方法や、傾聴に専念する方法などがあります。
今この瞬間を重視
オープンダイアローグでは、ミーティング中に起こっていることや反応・感情を重視します。
ミーティング中にクライアントやその家族がどのような反応をするのか、どのようなやりとりをするのか、どのような感情が生じたのかを対話を通してあつかっていきます。
多様な観点を明るみに出す
オープンダイアローグは、対話を通して意見を一致させることを目指すものではなく、参加者それぞれの考えや感じ方の多様性を重視します。
人と異なる意見でもすべての意見を傾聴し、尊重することが大切です。
関係が強調される点をつくる
人と人とのかかわりがわかるようなタイミングを、オープンダイアローグでは意図的につくることがあります。
たとえば家族間の関係についての質問など、人間関係の質問をする方法によって関係が強調される点をつくります。
個人だけではなく、個人を含めた関係性を理解できるようになるでしょう。
問題発言や問題行動への対応
オープンダイアローグでは、対話をおこなうなかで、問題発言や問題行動がみられることもあります。
問題発言や問題行動に対しては、どのように間違いであるのかを指摘し、その発言や行動がどのような意味を持つのかに注目することが重視されます。
クライアント自身の言葉と物語を重視
オープンダイアローグにおける対話では、クライアント本人に何が起こったのか、どのような考えや感情体験があったのか話すようにうながします。
対話の参加者全員が、クライアント本人の発言の細かい点に注目し、対話をおこなっていきます。
専門職同士の会話(リフレクション)
オープンダイアローグには、医師や看護師、臨床心理士など複数の専門家が同席します。
オープンダイアローグでは、専門職同士がクライアントや家族の前で会話し、あえてクライアントに観察させるリフレクションがおこなわれます。
>【臨床心理士監修】リフレクションとは?に関する記事はこちら
透明であること
透明であることとは、治療にかかわる会話の内容が、参加者全員に共有される状態のことを意味します。
治療についての選択肢などの話し合いが、全員の前でなされるなど情報の透明性が重要視されます。
不確かさに耐える
不確かさに耐える、というのはオープンダイアローグの7原則のひとつでもあります。
対話においても、危機的な状況や診断の結論を急がない、つまり不確かさに耐えることによって誤った判断や決断を避けることが可能です。
オープンダイアローグをおこなうときのポイント
最後にオープンダイアローグをおこなうときのポイントを2つ解説します。
- 治療チームは複数人で
- 対話自体が目的である
効果的にオープンダイアローグを実践するためにも、2つのポイントを確認していきましょう。
治療チームは複数人で
対話の基本要素で「セラピストは2人以上でおこなう」というポイントがありますが、オープンダイアローグでは治療チーム側においても、最低2名体制でおこないましょう。
治療者とクライアントが一対一になると、治療者と被治療者という上下関係ができやすくなってしまいます。
上下関係なくさまざまな関係性における対話を深めていくためにも、治療チームは2人以上でオープンダイアローグをおこないましょう。
対話自体が目的である
オープンダイアローグにおける対話とは、クライアントを説得したり、アドバイスを与えたりというものではありません。
対話をすること自体を目的としています。
参加者がそれぞれ自分の考えや感じたことを発言し、お互いに関心を向け合うプロセスを重視しています。
治療者側は、どうしても「症状を改善しよう」「入院するように説得しよう」という気が起こりがちです。
オープンダイアローグでは、議論はおこなわず、対話自体が目的であるという点を忘れないようにしましょう。
オープンダイアローグを正しく理解しよう
オープンダイアローグとは、複数の専門職とクライアント、その家族などの関係者が集まって対話をおこなう技法のことです。
クライアントはオープンダイアローグの対話によって、話を聞いてもらえたという実感をもちやすくなり、自発的に発言をするようになります。
クライアントの自発的な発言が増えれば、治療者側もより深くクライアントの困りごとや悩みを理解できるといったメリットがあります。
オープンダイアローグは、医療機関以外の福祉や教育など、さまざまな場面で応用可能な技法です。
ぜひ技法の選択肢のひとつとして検討してみてはいかがでしょうか。
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[※1]出典:オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン「対話実践のガイドライン」
https://jinkaren.net/wp-content/uploads/2020/10/200912-open-dialogue-guideline-web-01.pdf
※本記事は、2022年12月時点の情報をもとに作成しています。
記事監修者:山崎ゆうき(やまざきゆうき)
臨床心理士・公認心理師の資格を所持。司法・障害福祉領域などでの勤務を経て、独立開業。メンタルヘルス系の記事を中心に、心理学の知識をいかした記事執筆・監修を担当。心理学の知識をわかりやすく、日常でも実践しやすい形で発信しています。