人件費とは?内訳や計算方法、削減するポイントを解説

目次
人件費は、企業が従業員に支払う給与や賞与、社会保険料などを含む重要なコストです。
経営に大きく影響するため、正確な把握と適切な管理が求められます。
本記事では、人件費の基本的な内訳や計算方法、無理のない削減ポイントについてわかりやすく解説します。
人件費とは
人件費は、企業が従業員に支払う給与や賞与、残業手当、退職金などの費用を指します。
人件費は、企業運営に欠かせない経費であり、人件費の適切な把握は経営の安定性を保つためには非常に大切です。
経営者は、人件費を適切に管理し、業務効率化やコスト削減の改善を図る必要があります。
労務費との違い
労務費と人件費は、どちらも企業の経費管理において重要な費用ですが、定義や会計処理の方法に違いがあります。
まず、労務費は「製品やサービスの製造に直接関連する従業員の賃金や手当」を指します。
たとえば、製造ラインで働く工員や製品を管理する従業員の給与が該当します。
一方、人件費は、「企業全体の従業員に支払われる給与や手当」を意味し、製造部門だけでなく、営業部門や管理部門の従業員への賃金・手当も対象となります。
労務費は人件費の一部であり、人件費には「販売費」や「一般管理費」として計上される費用もあります。
また、労務費と人件費は会計処理の方法にも違いがあります。
労務費は製品やサービスの製造に直接関連するため、製造原価として計上され、製造原価報告書に記載されます。
一方、人件費は、企業全体の運営に関わる経費であるため、販管費(販売費および一般管理費)や売上原価として損益計算書に計上されます。
このように、労務費と人件費は経費管理上の扱いが異なります。
人件費の範囲
「人件費」に含まれる費用は、雇用形態や役職に応じて異なる場合があります。
ここでは、代表的な雇用形態に基づいて、人件費として計上できる費用の範囲について解説します。
役員
役員は、一般的な正規従業員や契約従業員とは異なり、企業との契約形態が「委任契約」になります。
そのため、役員に支払われる報酬や賞与は、法律上「人件費」として計上できません。
役員の報酬は、役員報酬として計上され、税務上の取り扱いも正規の従業員や契約従業員とは異なります。
したがって、役員に関連する費用については、給与や賞与を含む人件費としてではなく、別途「役員報酬」などの勘定科目で扱う必要があります。
正社員・契約社員
正規の従業員や契約従業員は、企業と正式に労働契約を結んだ従業員であり、その給与や手当、賞与などは「人件費」として計上できます。
正規の従業員は企業の正規従業員として安定した雇用契約が結ばれ、長期的な業務遂行を期待されます。
一方、契約従業員も雇用契約が結ばれており、契約期間内で業務を遂行しますが、期間満了後に契約が更新される場合もあります。
これらの従業員に支払われる給与、賞与、社会保険料の企業負担分などは全て「人件費」として計上できます。
また、契約従業員にはアルバイトやパートも含まれる点に留意する必要があります。
アルバイトやパートの契約形態も、正規の従業員や契約従業員と同様に、企業との契約に基づいて業務が遂行されるため、支払われる給与は人件費として計上できます。
アルバイトやパートは勤務時間が短い場合が多いため、支出額としては少ないことが一般的ですが、法的に支払われる給与や手当は全て人件費に含まれます。
派遣社員
派遣従業員は、企業と直接雇用契約を結んでいるわけではなく、派遣元の派遣会社との契約に基づいて派遣先の企業で業務をおこないます。
そのため、派遣従業員の給与を人件費としての計上できるかどうかは、派遣従業員が「常勤」か「臨時」かによって異なります。
常勤の派遣従業員の場合は、通常の正規の従業員と同様に、人件費として計上できます。
派遣従業員がフルタイムで業務をおこなう場合、給与や手当は企業の人件費として処理されます。
派遣元の派遣会社から派遣従業員に支払われる給与の金額が、最終的に派遣先企業の経費となるため、人件費として計上が可能です。
一方、臨時の派遣従業員の場合は、勤務期間が短期的であったり、必要な業務のみの一時的な依頼であったりするケースがあります。
このような派遣従業員に対する給与は、場合によって「雑費」として処理されることがあります。
臨時の契約従業員や派遣従業員は長期的な雇用契約がないため、正規の従業員や契約従業員のように人件費として計上できない場合があることに注意が必要です。
人件費の内訳
人件費は「現物給与」と「現物給与以外」の2種類に分けられ、それぞれに以下の項目があります。
現物給与総額
現物給与総額とは、所定内賃金、所定外賃金、賞与・一時金を合計した金額のことです。
昇進や昇格により所定内賃金が増えると、所定外賃金も比例して増加するため、人件費の管理には注意が必要です。
適切な予算管理をおこない、無理のない人件費の設定を心がけることが大切です。
項目 | 詳細 |
---|---|
所定内賃金 | 毎月支給される給与の基本給や家族手当・営業手当など |
所定外賃金※1 | 時間外労働賃金(残業代)、深夜労働の割増賃金、休日出勤手当など |
賞与・一時金※2 | 毎月の給与とは別に支給される賃金 |
※1:労働時間によって、変動します。
※2:所定内賃金や成果に連動して、支給額が決定します。
現物給与以外の人件費
現物給与以外の人件費は以下のとおりです。
項目 | 詳細 |
---|---|
退職金 | 退職給付引当金、退職金掛金など※ |
法定福利費 | 介護保険を含む社会保険、健康保険、厚生年金保険など会社負担分 |
法定外福利費 | 交通費、住宅手当、社宅、従業員食堂、レクリエーション費、特別休暇など |
人材採用費・教育研修費 | 任意で企業が実施する福利厚生に関わる費用 |
※退職金額の算出方法は企業ごとに異なります。
人件費の分類方法
人件費はさまざまな経費項目が合算されたものであり、「経営者や会社がコントロールできるかどうか」という観点で分類することができます。
この分類を正しくおこなうことで、経営者はどの経費をどのように管理すればよいのかを把握しやすくなり、経営判断の材料として活用できます。
会社がコントロールできる人件費
経営者や会社がコントロール可能な人件費には、いくつかの項目があります。
まず、「人材採用費」と「教育研修費」が挙げられます。
これらは、会社の方針や予算に合わせて計画し、必要に応じてコストダウンも可能です。
また、比較的コントロールしやすい経費として、賞与や法定外福利費があります。
賞与は、会社の業績や個人の成果に応じて支払われるため、経営者の判断で額を調整できます。
法定外福利費は、会社が任意で設定できる福利厚生であるため、こちらも会社の状況に応じて変更できます。
ただし、就業規則で決められている場合には労働条件の一部とみなされ、減額する際には一定の手続きが必要であるため注意が必要です。
さらに、経営者が制度設計を工夫することでコントロール可能になる人件費もあります。
具体的には、「所定時間内賃金」「所定時間外賃金」「退職金費用」の3つが該当します。
所定時間内賃金においては、ベースアップのコントロールが重要です。
年功序列による自動昇給ではなく、成果に基づく報酬制度(成果主義)を導入することで、柔軟に報酬を設定でき、人件費の管理がしやすくなります。
退職金についても、制度の設計によってコントロールできる費用です。
会社がコントロールできない人件費
一方で、経営者や会社がコントロールできない人件費もあります。
代表的なのは、社会保険料や労働保険料などの法定福利費です。
これらは、法律によって決められた料率に基づいて支払う義務があります。
したがって、会社側で金額を調整することはできません。
近年、医療費の増加や年金財政のひっ迫により、今後は社会保険料率の増加が予想されています。
法定福利費自体の金額を直接減らすことは難しくとも、人材採用数を抑制したり、賃金や賞与の増額を控えたりする方法で、間接的に法定福利費の総額を抑えることは可能です。
しかし、この方法も短期的な効果に限定されると考えられるため、長期的には企業戦略を見直し、持続可能な方法を模索する必要があります。
人件費率とは
企業の人件費管理で重要な指標のひとつが「人件費率」です。
人件費率は売上に対する人件費の割合を示し、経営の健全性や収益性を判断する材料となります。
この数値を把握することで、利益とのバランスや業務の効率を見直すきっかけにもなります。
ここでは、人件費率の求め方や、業種ごとの適正な目安についてわかりやすく解説します。
人件費率の計算方法
人件費率の計算方法には、「売上高人件費率」と「売上総利益人件費率」の2種類があります。
売上高人件費率は、売上に対する人件費の割合を表し、比較的簡単に算出できます。
一方、売上総利益人件費率は、粗利に対する人件費の割合を示し、変動費を除いた精度の高い分析が可能です。
企業の目的や状況に応じて、適切に使い分けることが重要です。
人件費率の計算方法は以下のとおりです。
売上高人件費率(%)=(人件費 ÷ 売上高)× 100
売上総利益人件費率(%)=(人件費 ÷ 売上総利益)× 100
たとえば、年間売上高が1億円で人件費が3,000万円の場合、売上高人件費率は30%です。
さらに、粗利が50%で売上総利益が5,000万円の場合、売上総利益人件費率は60%となります。
売上高や粗利を基にした人件費率の計算は、企業の財務分析にも役立ちます。
適正な人件費率は?
人件費率は、売上高に対する人件費の割合で、一般的には10〜20%程度が目安とされています。
ただし、これはあくまで参考値であり、業種や事業内容によって大きく異なります。
たとえば、サービス業や運輸業のような労働集約型の業種では、人件費率が高くなる傾向があります。
一方、製造業や卸売業では比較的低めです。
また、事業規模が大きくなると人件費の総額が増えても、売上に対する割合は低くなることが多いです。
そのため、自社の業種や規模に合った基準をもとに判断することが重要です。
業界ごとの基準値に従うのもひとつの方法ですが、自社の業務内容や経営目標に応じた適切な人件費率を設定することが重要です。
自社の状況に最適な人件費率を見極めることが、企業の成長につながります。
業種 | 人件費率の目安 |
---|---|
製造業 | 19.4% |
情報通信業 | 30.6% |
運輸業 | 30.0% |
卸売業 | 6.4% |
小売業 | 12.9% |
宿泊・飲食サービス業 | 31.7% |
その他のサービス業 | 42.3% |
人件費率は定期的に見直し、変動要因を分析することで、経営の効率化と最適化が可能になります。
人件費を分析するための指標
適正な人件費は、売上高や粗利に対する割合だけでなく、従業員の生産性や付加価値など他の指標を使って分析できます。
ここでは、適正な人件費を把握・分析する指標について解説します。
労働生産性
労働生産性とは、従業員一人あたり、または労働時間1時間あたりにどれだけの成果を生み出せるかを示す指標です。
主に「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の2つに分類されます。
物的労働生産性は、生産物の数量や物量を基準にして生産効率を表します。
たとえば、「1時間で何個の製品を作れるか」といった量的観点からの評価が該当します。
一方、付加価値労働生産性は、従業員や時間単位ごとにどれだけの付加価値、つまり利益や価値を生み出せたかを表すもので、質的な観点による評価方法です。
どちらの指標も、業務の効率化や企業の成長戦略を考えるうえで重要な要素といえ、目的に応じて使い分けることで、効果的な経営判断につなげられます。
一人あたりの生産性の計算式:生産物の物量 ÷ 労働者数
1時間あたりの生産性の計算式:生産物の物量 ÷(労働者数 × 労働時間)
上記の計算式は例として、工場で生産物がどれだけ作られているかを測定する際に使われます。
一人あたりの生産性の計算式:付加価値額(粗利)÷ 労働者数
1時間あたりの生産性の計算式:付加価値額(粗利)÷(労働者数 × 労働時間)
付加価値労働生産性とは、労働によって生み出された付加価値額に基づく指標です。
付加価値額は売上から仕入れ原価を差し引いたもので、粗利益とほぼ同じ意味です。
数値が高いほど従業員の生産性が高く、効率的に業務をおこなっている企業といえます。
労働分配率
労働分配率とは、付加価値額に対する人件費の割合を示す指標です。
付加価値額は、売上から原材料費を差し引いて算出します。以下の計算式により明確に求められます。
労働分配率(%)= 人件費 ÷ 付加価値額(粗利)× 100
人件費が上がると労働分配率も高くなります。
労働分配率が低いのは生産性が高い証拠ともいえますが、過重労働の可能性もあるため注意が必要です。
従業員の負担や意欲に配慮し、適正な水準を保つことが大切です。
人時生産性
人時生産性とは、従業員1人が1時間でどれだけ利益を生み出せたかを示す指標です。
数値が高いほど生産性が高いと判断されます。
人時生産性(円)= 粗利 ÷ 総労働時間
粗利には売上高や営業利益など、自社が重視する指標を用いても問題ありません。
人時生産性は、飲食業など労働集約型業種で生産性を測るのに適しており、店舗や部門ごとの比較にも役立ちます。
人件費を削減するための方法
企業にとって人件費は大きな負担となることもありますが、適切に管理すれば削減できる部分もあります。
以下の方法を取り入れることで、無理なく人件費の削減を目指せます。
業務効率化を図る
業務効率を高めて労働時間を削減することは、人件費の見直しにつながります。
たとえば、ITシステムを活用すれば業務の手間を省くことができ、コスト削減にも効果的です。
勤怠管理システムを導入すれば、タイムカードの確認作業が自動化され、人事や労務の負担が軽減されます。
経費精算システムを取り入れれば、誤りや漏れの防止につながり、正確な処理が可能になります。
こうしたシステムを導入することで、従業員が本来の業務に集中できる環境が整います。
その結果、必要な人員の見直しや残業時間の削減も期待でき、企業全体としての生産性向上にも貢献します。
人事制度を見直す
人事制度を見直すことも効果的です。
とくに、決算賞与制度の導入は、人件費の適正化に効果的な手段といえます。
通常の年2回の賞与とは異なり、決算賞与は業績に応じて支給され、「臨時ボーナス」という位置づけとなります。
一律で支給されるものではないため、従業員の意欲向上にもつながります。
また、定年退職後の従業員を再雇用する制度を取り入れれば、経験や知識を活かしながら若手育成に貢献できる点がメリットです。
ただし、若手がベテランの意見に遠慮し、世代交代が進まないといった課題もあるため、人事部が間に立ち、マネジメント研修や社内交流の場を設けるなど、世代間の橋渡しを図る工夫が求められます。
外注や非正規雇用を活用する
派遣従業員やアルバイトなどを採用し、非正規雇用者を活用することで、人件費の削減が見込めるケースもあります。
非正規雇用者は正規の従業員に比べて給与や福利厚生の負担が少ないため、コストを抑えた人材確保が可能になります。
ただし、非正規雇用には注意点もあります。
雇用の不安定さから勤労意欲が下がりやすく、離職率が高くなる傾向があります。
さらに、業務を通じた知識やスキルの蓄積が難しく、長期的な戦力になりにくいという課題もあります。
こうした問題を回避するためには、非正規雇用の従業員にも適切な教育や研修を実施し、正規の従業員と連携した人材配置やコミュニケーションを実現することが大切です。
働きやすい環境を整えることで、意欲の維持と定着率の向上が期待できます。
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