【社労士監修】社会保険とは?国民健康保険との違いやメリット、切り替え方法をわかりやすく解説
目次
社会保険は、病気やケガ、出産、老後などの生活に備えるための公的な保険制度です。
万が一のリスクから従業員を守る重要な役割を担っています。
一方、国民健康保険は市区町村が運営する自営業者や無職の人を対象とした公的医療保険です。
本記事では、社会保険と国民健康保険の違いをわかりやすく解説するとともに、社会保険と国民健康保険の切り替え方法について紹介します。
社会保険とは?
社会保険は、病気やケガ、出産、老後、失業などのリスクに備えるための公的な保険制度です。
社会保険には、以下の5つの種類があります。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険
- 雇用保険
- 労災保険
保険の加入対象者は、企業に勤める従業員です。
また、本人だけではなく扶養家族も加入対象となり、保険料は本人と企業がそれぞれ一定割合を負担します。
社会保険は、人生のあらゆるリスクに備える公的保険として国民全体の生活を支える制度です。
2022年10月の適用拡大とは
2022年10月から社会保険の適用範囲が拡大され、一定の条件を満たす短時間労働者(パートタイマーやアルバイト)が社会保険加入の対象とされました。
社会保険の適用拡大は、従業員数の多い企業から段階的に行われています。
年 | 従業員数 |
---|---|
2016年10月 | 501人以上 |
2022年10月 | 101人以上 |
2024年10月 | 51人以上 |
条件を満たせば、健康保険や介護保険、厚生年金保険に加入でき、正社員と同等の社会保障を受けられるようになります。
社会保険の種類・分類
社会保険は保険の種類によって以下の5つに分かれています。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険
- 労災保険
- 雇用保険
それぞれの保険を詳しく解説します。
健康保険
健康保険は、病気やケガまたは休業、出産、死亡といった事態に備える公的保険です。
健康保険の主な給付内容は、病気やケガで受けた診療の費用の一部負担や出産育児手当金、傷病手当金などです。
たとえば、加入者が通院した場合、その医療費は健康保険が7割を負担し、残りの3割を自己負担とする仕組みとなっています。
また、業務外の病気やケガで長期休業した場合には、傷病手当金として給与額(標準報酬月額)の3分の2が健康保険から給付されます。[※2]
このように健康保険は、加入者の健康的な生活を守り、医療費の過度な負担を軽減する役割として設けられています。
厚生年金保険
厚生年金保険は、主に老後の生活を支える公的年金制度の一つです。
年金制度の2階部分として国民年金に上乗せされます。
老後の厚生年金は、原則65歳から支給が開始され、加入期間と年収に応じて支給額が変わります。
支給開始時期は希望により選択でき、60歳から75歳までの間で繰り上げ・繰り下げが可能です。[※3]
また老後の年金だけではなく、加入者が死亡した場合は、遺族に対して遺族厚生年金が支給され、障害を負った場合は、障害厚生年金が支給されます。
介護保険
介護保険は、高齢や病気などで介護が必要になった場合に、適切な介護サービスを受けられるよう支援する公的な制度で、保険料は40歳から徴収が開始されます。
主な介護サービスには、介護施設への入所や訪問介護、通所介護(デイサービス)などがあり、費用の9割が介護保険の給付で賄われ、1割が利用者の自己負担となります。
ただし、所得に応じて負担割合が異なり、最大で費用の3割を利用者が負担します。[※4]
労災保険
労災保険は加入者が業務上の事由や通勤途中で被災した際に、必要な保険給付を行う制度です。
業種の規模問わず雇用されるすべての従業員が加入し、保険料は企業が全額負担するため、従業員の負担はありません。
主な給付内容としては、医療費の全額が支給される「療養補償給付」や、長期休業時の生活保障として支給される「休業補償給付」などがあります。[※5]
健康保険が業務外の病気やケガに対する保険である一方、労災保険は業務が原因で発症した病気やケガを対象にした保険です。
雇用保険
雇用保険は、失業した労働者に対する生活保障と就業促進を目的とした公的保険制度です。
加入者は離職後すぐに就職が決まらない場合、失業保険(基本手当)の支給を受けながら、求職活動に専念できます。
また、在職者でも資格取得のために受講した講座の費用を一部補填する「教育訓練給付金」が受給できるなど、スキルアップや就労支援をする制度もあります。[※6]
社会保険の加入条件
社会保険の加入条件において見るポイントは「事業所」と「従業員」の2つです。
はじめに、事業所単位で社会保険が適用されるかされないかを判断します。
適用される事業所の中でも一定の労働条件を満たした従業員に対し、社会保険への加入が義務付けられています。
ここでは、それぞれの加入条件を詳しく解説します。
事業所の加入条件
すべての法人事業所と従業員を常時5人以上雇用している個人事業所(一部業種を除く)には社会保険の加入が義務付けられています。
これらを強制適用事業所といい、条件に該当すれば強制的に社会保険に加入します。
一方、強制適用事業所以外は厚生労働大臣の認可を受ければ社会保険の適用される事業所となり、これらを任意適用事業所といいます。
事業所の社会保険加入条件は以下のとおりです。[※7]
事業形態 | 従業員数(常時雇用) | 社会保険の適用 |
---|---|---|
法人 | 人数基準なし | 強制適用事業所 |
個人事業 (適用業種) | 5人以上 5人未満 |
強制適用事業所 任意適用事業所 |
個人事業 (非適用業種) | 人数基準なし | 任意適用事業所 |
個人事業の適用業種・非適用業種は、農林・畜産・水産業、 飲食店、接客業などが挙げられます。
詳細は、厚生労働省のホームページなどで確認できます。
従業員の加入条件
適用事業所または任意適用事業所に雇用される一定の条件を満たした従業員は、社会保険の加入が義務付けられています。
従業員の加入条件は以下のとおりです。[※7]
労働条件 | 社会保険の加入 |
---|---|
正社員(フルタイム) | 強制加入 |
週の所定労働時間と所定労働日数が正社員の4分の3以上のパート・アルバイト等 | 強制加入 |
週の所定労働時間と所定労働日数が正社員の4分の3未満のパート・アルバイト等(短時間労働者) | 以下の条件に該当すれば加入
|
社会保険の適用拡大
2024年10月から法改正により、短時間労働者の社会保険の適用が拡大されます。
具体的には、対象企業が従業員数(被保険者数)101人以上から51人以上の企業へと拡大される予定です。[※8]
適用が拡大されることで、対象企業には従業員への説明や加入手続きの準備が必要になります。
対応に不安のある企業は、日本年金機構で専門家派遣などのサポートを行っているので、問い合わせるとよいでしょう。
社会保険と国民健康保険の違いとは?
的医療保険は、「社会保険」と「国民健康保険」に分かれており、それぞれ制度が異なります。
どちらも日本における国民皆保険制度を実現するための保険制度であり、家族の扶養に入っていない場合は、いずれかの保険制度に加入しなければなりません。
社会保険と国民健康保険の違いについて解説します。
国民健康保険とは
国民健康保険とは、社会保険の加入条件に該当しない方や自営業、無職の方などが加入する公的医療保険制度です。
市区町村で運営しており、自治体ごとの医療費の水準や財政状況を反映して、保険料が設定されるため、地域間で保険料に差があります。[※9]
また社会保険とは異なり、保険料は全額自己負担で、扶養という概念はありません。
社会保険と国民健康保険の比較
社会保険と国民健康保険の違いを比較すると以下のとおりです。
社会保険 | 国民健康保険 | |
---|---|---|
加入対象者 | 会社員、公務員、短時間労働者など | 自営業者、無職者など会社員以外 |
保険料 | 会社と被保険者で折半負担 | 被保険者本人が全額負担 |
扶養制度 | あり | なし |
加入手続き | 会社が手続き | 本人が手続き |
運営 | 全国健康保険協会、健康保険組合 | 市区町村 |
非正規社員が社会保険に加入するメリット
非正規社員で働く人の中には、保険料の支払いが発生しないよう扶養の範囲で働いている人や加入条件を満たせず国民健康保険に加入している人もいるでしょう。
社会保険に加入すると以下のメリットがあります。
- 将来もらえる年金が増える
- 傷病手当金がもらえる
- 保険料が会社と折半される
それぞれのメリットを解説します。
将来もらえる年金が増える
社会保険の一つである厚生年金保険に加入すると、保険料を支払うことで将来受け取れる年金額は増えていきます。
厚生年金は賃金に応じて保険料が決まるため、給与が高ければその分天引きされる保険料は多くなりますが、その分将来の年金額も増えていくため、老後資金を準備できます。
なお、厚生年金保険に加入した場合は国民年金にも加入するので、厚生年金と国民年金の両方がもらえることになります。
傷病手当金がもらえる
傷病手当金とは、病気やケガで働けなくなった場合に、一定期間にわたり健康保険から支給される給付金のことです。
会社を休まざるを得ない期間の収入が補償されるため、治療に専念しながら生活を維持できます。
なお傷病手当金は、自営業者などが加入する国民健康保険にはなく、健康保険に加入することで傷病手当金の支給対象となります。
長期間休業が必要な病気になった際に、健康保険に加入していることは大きなメリットとなります。
保険料が会社と折半される
社会保険料は、従業員と会社がそれぞれ折半して負担をします。
社会保険では、会社が負担した分も含めて給付に充てられるため、手厚い保障がされているのが特徴です。
また、現在扶養に入っている場合は保険料はかかりませんが、将来受け取る年金額が増えません。
社会保険料は給与から天引きされるデメリットがある一方、会社も保険料を負担してくれるため、年金額が増えるメリットがあります。
なお、自営業者が加入する国民健康保険は全額自己負担です。
国民健康保険に加入している非正規社員は、社会保険に加入した方がメリットは大きくなります。
社会保険と国民健康保険を切り替える方法
会社を退職したり、学生が就職したりすると、社会保険と国民健康保険を切り替える必要があります。
前述のとおり、正社員として勤務し始める場合だけでなく、アルバイトやパートタイムの雇用でも、労働時間や労働日数などの条件を満たしていれば社会保険への加入手続きが必要です。
それぞれの切り替え方法を理解し、雇用形態に限らず手続きについて押さえておきましょう。
社会保険から国民健康保険に切り替える方法
会社を退職し、その後自営業または無職となる場合は、社会保険から国民健康保険に切り替えなければなりません。
国民健康保険の切り替えは、退職日の翌日から14日以内に市区町村へ手続きが必要です。[※10]
また手続きの際には、資格喪失証明書や離職票など退職年月日がわかる書類が必要になるため、必ず持参しましょう。
なお、国民健康保険の切り替えは自動的に行われるものではなく、本人が手続きしなければなりません。
手続きを忘れると、医療保険が未加入状態になるので注意しましょう。
国民健康保険から社会保険に切り替える方法
国民健康保険から社会保険に加入したときは、入社日から14日以内に国民健康保険の喪失の手続きが必要です。
会社から受け取った健康保険証やマイナンバーカードなどの本人確認書類を持参して市区町村で手続きしましょう。[※11]
なお、窓口に行く時間がない場合は、健康保険証や本人確認書類のコピーなどを郵送すれば手続きが可能です。
詳しい手続きの方法は各市区町村に問い合わせるとよいでしょう。
健康保険の任意継続制度とは
健康保険の任意継続制度とは、勤めている会社が加入している健康保険に退職後も継続して加入できる制度です。
加入要件は、退職日までに健康保険の被保険者期間が継続して2ヵ月以上あり、かつ退職後20日以内に会社が加入している健康保険に申し込む必要があります。[※12]
保険料は会社負担分を含めて全額自己負担になるため、給与から天引きされている保険料の約2倍の保険料がかかるので注意しましょう。
なお、任意継続制度の加入期間は最大2年です。
2年を過ぎると資格を喪失し、それ以降は国民健康保険などに移行する必要があります。
社会保険に関する企業側がすべきこと
社会保険への加入や喪失手続きは、個人ではなく企業側が行います。
社会保険の手続きにはそれぞれ期限があり、必要な書類の提出や情報提供などを従業員へすみやかに求める必要があります。
従業員の採用時の手続きと退職時の手続きについて解説します。
従業員採用時の社会保険に関する手続き
従業員を採用したときは、社会保険の加入手続きが必要です。
健康保険・介護保険・厚生年金保険の加入手続きは、従業員を採用してから5日以内に健康保険・厚生年金被保険者資格取得届を年金事務所や健康保険組合へ提出します。[※13]
とくに健康保険の手続きは、健康保険証の切り替えに影響する手続きです。
従業員が入社して早々体調不良などによって健康保険証を利用する可能性もあるため、早めに手続きをしましょう。
また、雇用保険は入社日の翌月の10日以内に「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークへ提出します。
労災保険の採用による加入手続きはとくにありません。[※14]
従業員退職時の社会保険に関する手続き
従業員が退職するときは、健康保険・介護保険・厚生年金保険の場合、退職日の翌日から5日以内に「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」を年金事務所や健康保険組合へ提出します。[※15]
健康保険の喪失手続きの際は、従業員が持っている健康保険証の添付が必要です。
従業員が退職する前に、健康保険証を回収することを伝えておきましょう。
また、雇用保険は退職日の翌々日から10日以内に「雇用保険被保険者喪失取得届」と「離職証明書」をハローワークに提出します。
労災保険は、とくに手続きの必要はありません。[※16]
労務管理の効率化に「Chatwork」
社会保険の適用範囲は徐々に拡大しており、2024年10月には従業員51人以上の企業が短時間労働者の加入要件の範囲となります。
ますます非正規社員の社会保険加入者が増え、人事労務担当者の負担も増加するでしょう。
また、社会保険の適用は従業員の給与に関わる重要な事項です。
社会保険に加入する従業員には事前に説明し、円滑に手続きを進めることが大切です。
ビジネスチャット「Chatwork」は複数人でも簡単に円滑なコミュニケーションができるチャットツールです。
社会保険の手続きをする際に、従業員から必要な情報や書類を求める際にはコミュニケーションが欠かせません。
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従業員のコミュニケーションの円滑化と社会保険業務の効率化に、ぜひ「Chatwork」をご活用ください。
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[※1]出典:日本年金機構「令和4年10月からの短時間労働者の適用拡大・育児休業等期間中の社会保険料免除要件の見直し等について」
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2022/0729.html
[※2]出典:全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3040/r139/
[※3]出典:日本年金機構「年金の繰上げ・繰下げ受給」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/index.html
[※4]出典:厚生労働省「給付と負担について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001119097.pdf
[※5]出典:鳥取労働局「労災給付の種類」
https://jsite.mhlw.go.jp/tottori-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/rousai_hoken/rousaikyuuhushurui.html
[※6]出典:厚生労働省「教育訓練給付制度」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kyouiku.html
[※7]出典:日本年金機構「適用事業所と被保険者」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/20150518.html
[※8]出典:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内」
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2021/0219.html
[※9]出典:厚生労働省「国民健康保険制度」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/koukikourei/index_00002.html
[※10]出典:江東区「職場の健康保険をやめたとき(社会保険等から国民健康保険へ切替)」
https://www.city.koto.lg.jp/250102/fukushi/kokumin/todokede/5145.html
[※11]出典:江東区「職場の健康保険に加入したとき(国民健康保険から社会保険等へ切替)」
https://www.city.koto.lg.jp/250102/fukushi/kokumin/soshitsu/5152.html
[※12]出典:全国健康保険協会「健康保険任意継続制度(退職後の健康保険)について」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat650/
[※13]出典:日本年金機構「従業員を採用したとき」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/hihokensha/20140718.html
[※14]出典:厚生労働省「雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147331.html
[※15]出典:日本年金機構「従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20150407-02.html
[※16]出典:厚生労働省「雇用保険被保険者離職証明書についての注意」
https://www.mhlw.go.jp/content/000763185.pdf
※本記事は、2024年4月時点の情報をもとに作成しています。
記事監修者:北 光太郎
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。