【社労士監修】変形労働時間制とは?導入方法やメリット・デメリットを解説
目次
変形労働時間制は繁忙期や閑散期に合わせて労働時間を柔軟に調整できる制度です。
厚生労働省の調査によると変形労働時間制を導入している企業割合は59.6%(令和3年度)と半数以上が締めています。
今回は変形労働時間制の種類や導入方法、残業時間の計算方法について詳しく解説します。[注1]
変形労働時間制とは
変形労働時間制とは一定の期間内の労働時間を調整できる制度です。
たとえば、繁忙期に労働時間を増やし、閑散期の労働時間を減らすことで、メリハリのある働き方ができます。
ただし、変形労働時間制を導入した場合でも、法律で規定された労働時間を超えた分は残業代を支払わなければなりません。
企業の担当者は、導入前に制度の特性を理解し、慎重に導入を検討する必要があります。
裁量労働制との違い
裁量労働制とは、労働時間を労働者の裁量にゆだねる制度です。
実働時間ではなく、雇用契約で定めた時間を働いたものとみなして、給与が計算されます。
一方、変形労働時間制は使用者が労働時間を変更できる制度であり、労働者の裁量によって変更はできません。
事業場外みなし労働時間制との違い
事業場外みなし労働時間制は外回りの営業職など、社外で業務をおこなう場合に所定労働時間を働いたとみなす制度です。
社外で業務に従事しているため、労働時間の算定が困難であることから、あらかじめ決められた労働時間を働いたものとして算出します。
一方、変形労働時間制は所定労働時間を変更することで、法定労働時間を超えても時間外労働とみなさない制度です。
変形労働時間制の種類
変形労働時間制は様々な働き方に対応できるよう、4種類が用意されています。
- 一ヶ月単位の変形労働時間制
- 一年単位の変形労働時間制
- 一週間単位の非定型的変形労働時間制
- フレックスタイム制
それぞれの内容を確認していきましょう。
一ヶ月単位の変形労働時間制
一ヶ月単位の変形労働時間制は、一ヶ月以内の期間を平均して週40時間(特例事業は44時間)を超えなければ、一日8時間、週40時間の労働時間を超えても残業とはみなされない制度です。
たとえば、4月の一週目を50時間、最終週を30時間とするなど、月内で所定労働時間を調整できます。
対象期間中は各日・各週の労働時間をあらかじめ定めておく必要があります。
また、会社の都合で随時労働時間を変更することはできません。[注2]
一年単位の変形労働時間制
一年単位の変形労働時間制は、一ヶ月超から一年以内の期間を平均して労働時間が週40時間を超えないことを条件に労働時間を調整できる制度です。
たとえば、7月から9月を一日9時間、10月から12月を一日7時間にするなど、数ヶ月に渡って所定労働時間を調整できます。
ただし、一日10時間、一週間52時間が上限時間となります。
繁忙期と閑散期がはっきりとわかれている企業に有効な制度です。[注3]
一週間単位の非定型的変形労働時間制
一週間単位の非定型的変形労働時間制は、従業員が30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店が一週間単位で毎日の労働時間を柔軟に調整できる制度です。
小規模な飲食店などは事前に繁忙日が予測しにくいため、一週間単位での変形労働時間制が認められています。
ただし、労働時間は週40時間以内にする必要があり、40時間を超えた場合は割増賃金の支払いが必要です。[注4]
フレックスタイム制
フレックスタイム制とは、あらかじめ定められた総労働時間があり、その範囲内で労働者自身が自由に働ける制度です。
たとえば、一ヶ月の総労働時間が168時間の月があった場合、実労働時間の合計が168時間であれば、一日10時間の働いた日や5時間で仕事を切り上げる日があっても時間外労働が発生しません。
仕事とプライベートのバランスもとりやすいため、ワークライフバランス推進のとりくみとしてフレックスタイム制を導入する企業もあります。[注5]
企業にとって変形労働時間制を導入するメリット
企業にとって変形労働時間制を導入するメリットを詳しく解説します。
残業代を抑えられる
変形労働時間制は繁忙期に合わせた勤務時間を設定できるため、残業代を抑えることができます。
しかし、残業代が減ることを懸念する従業員がいる恐れもあるため、導入の際は従業員への周知を徹底しておこないましょう。
メリハリのある働き方ができる
一日の労働時間が8時間の場合、たとえ仕事が少ない日であっても、一日8時間勤務をしなければなりません。
しかし、変形労働時間制で閑散期の勤務時間を短く設定すれば、「やることがなくても会社にいなければならない」というムダな居残り時間をなくすことができます。
従業員の満足度が上がる
メリハリのある働き方ができれば、休息やプライベートの充実など、ワークライフバランスも実現しやすくなります。
変形労働時間制の導入により従業員の満足度が向上し、離職防止にも繋がる可能性もあるでしょう。
>ワークライフバランスを実現するメリットとは?に関する記事はこちら
企業にとって変形労働時間制を導入するデメリット
企業にとって変形労働時間制を導入するデメリットを詳しく解説します。
導入や制度設計にコストがかかる
変形労働時間制の導入にあたっては、十分な制度設計が必要です。
場合によっては専門家の意見を聞きながら設計する必要があるため、導入までにコストがかかるでしょう。
また、導入までに人事担当者の負荷がかかるため、人件費増加も予想されます。
管理職に負担がかかる
変形労働時間制は事前に各日・各週の労働時間を決める必要があります。
管理職は変動する部下の勤怠を把握し、勤務実績を確認しなければいけません。
変形労働時間制により管理職の負担が増えるため、導入の際には十分に説明したうえで導入するようにしましょう。
賃金計算が複雑になる
変形労働時間制は、残業代の計算が複雑になります。
そのため、厳格なチェック体制を構築しなければ賃金の誤払いが発生する可能性もあります。
勤怠システムの導入など、複雑な労働時間の計算に対応できる対策を考える必要があるでしょう。
変形労働時間制の導入方法
変形労働時間制の導入方法について解説します。
現状の勤務実績を調査
まずは現状の勤務実績を調査し、変形労働時間制が有効かどうかの判断が必要です。
また、勤怠実績に合わせてどの変形労働時間制が適切なのか見極めましょう。
対象期間や労働時間を決定
変形労働時間制の導入にあたっては、あらかじめ次の項目を決定する必要があります。
- 対象者の範囲
- 対象期間
- 特定期間(1年単位の変形労働時間制のみ)
- 労働日と労働時間
- 労使協定の有効期間
なお、フレックスタイム制の場合は次の項目を決める必要があります。
- 対象者の範囲
- 清算期間
- 清算期間における総労働時間
- 標準となる1日の労働時間
- コアタイム(任意)
- フレキシブルタイム(任意)
上記の決定後、就業規則の変更や労使協定の締結に進みます。
就業規則や労使協定の届出後は原則変更が認められていないため、慎重に検討をおこないましょう。
就業規則の見直し
労働時間の変更は就業規則の絶対的記載事項に該当するため、就業規則の見直しが必要です。
決定した内容に合わせて内容を見直しましょう。
労使協定の締結
変形労働時間制の導入時には、労使協定の締結が必要です。
しかし、一ヶ月単位の変形労働時間制は就業規則の記載でも可能です。
対象者や労働時間、対象期間などを具体的に明記し、労使協定の締結をおこないましょう。
労働基準監督署へ届出
就業規則や労使協定は所轄の労働基準監督署に届出が必要です。
また、一年単位の変形労働時間制は対象期間中のカレンダーの提出が求められる場合があります。
事前に必要書類の準備をし、対象期間が始まる前に届出をおこないましょう。
労働者へ周知
変形労働時間制の開始前には労働者に対して就業規則や労使協定の内容を周知する義務があります。
労働時間や賃金に関わることなので、丁寧に説明をおこないましょう。
運用・管理
運用開始後は適切な運用がなされているかの管理をおこないましょう。
給与計算においては、残業時間と残業代の計算が適切になされているか十分な確認が必要です。
とくに、制度導入当初は計算ミスが起こりやすくなります。
法令違反とならないよう徹底した確認をし、適切な運用・管理をおこないましょう。
労働時間と残業時間の計算方法
変形労働時間制は種類によって残業時間の計算方法が異なります。
それぞれの計算方法について解説します。
一ヶ月単位の変形労働時間制の計算方法
一ヶ月単位の変形労働時間制の残業時間は、次の手順で算出した時間の合計となります。
- 一日について8時間を超える労働時間を定めた日については、その時間を超えた時間
- 一週間について40時間を超える労働時間を定めた週については、その時間を超えた時間。ただし、(1)で時間外とした時間は除く。
- 一ヶ月(又は変形期間内)であらかじめ決められた所定労働時間をこえた部分を時間外とします。ただし、(1)(2)で時間外とした時間は除く。
また、法定労働時間未満の時間を定めた場合において、所定労働時間を超えて法定労働時間未満の労働時間は「割増賃金がない残業代」を支払う必要があります。
一年単位の変形労働時間制の計算方法
一年単位の変形労働時間制の残業時間は次の手順で算出した時間の合計となります。
- 一日について8時間を超える労働時間を定めた日については、その時間を超えた時間
- 一週間について40時間を超える労働時間を定めた週については、その時間を超えた時間。ただし、(1)で時間外とした時間は除く。
- 対象期間における総労働時間(対象期間が一年間の場合は、2,085時間(閏年は、2,091時間)を超えて労働した時間(上記(1)(2)で時間外労働となる時間を除く)。
一ヶ月単位の変形労働時間制と同様、所定労働時間を超えて法定労働時間未満の労働時間は「割増賃金がない残業代」を支払う必要があります。
一週間単位の変形労働時間制の計算方法
一週間単位の変形労働時間制は、8時間以上の時間を定めた場合は、その時間を超えて労働した時間が時間外労働時間となります。
たとえば、月曜日・水曜日が9時間、火曜日・木曜日が7時間と定めた場合、月曜日・水曜日は9時間を超えた時間が時間外労働時間です。
また、火曜日・木曜日の7時間の日に7時間を超えた労働をした場合でも週40時間を超えているため時間外労働となります。
フレックスタイム制の計算方法
フレックスタイム制は「清算期間」における「総労働時間を超えた時間」が時間外労働として計算されます。
たとえば、清算期間を一ヶ月、総労働時間を168時間と定めた場合、一ヶ月の総労働時間が168時間を超えた時間が時間外労働となります。
ただし、法定休日に出勤した際の労働時間は、清算期間の総労働時間に含めずに別途計算が必要です。
企業が変形労働時間制を導入するときの注意点
企業が変形労働時間制を導入するときの注意点を解説します。
法定の労働時間や労働日数を遵守
変形労働時間制は勤怠管理が複雑化するため、人事担当者は法定労働時間や労働日数が遵守されているかの確認が必要です。
制度の概要を理解し、徹底した勤怠管理をおこないましょう。
また、勤怠管理においては変形労働時間制に対応した、勤怠システムの導入をおすすめします。
勤怠システムは随時勤務状況の確認が可能になり、労働時間の計算も自動でおこなってくれます。
労働時間や労働日数の管理はシステムを活用することで、ミスの軽減や業務の効率化がされるでしょう。
満18歳未満の労働者は原則禁止
変形労働時間制は原則18歳未満の労働者には適用できません。
ただし、15歳以上18歳未満の労働者は次の条件の場合のみ適用できます。
- 1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮する場合で他の日を10時間まで延長
- 1日8時間、週48時間の範囲内で、一ヶ月または一年単位の変形労働時間制を適用
上記の制限があるため、18歳未満の労働者を雇用する場合は注意が必要です。
就業規則や労使協定に定めた内容は原則変更できない
就業規則や労使協定で定めた変形労働時間制の内容は、原則変更できません。
しかし、顧客の要望や予定されていたイベントの中止など、突発的な理由により出退勤時間を変更せざるを得ない状況は発生します。
予測が可能な程度に具体的な変更事由を、就業規則で定めておくと良いでしょう。
ただし、会社の裁量で自由に変更はできないので、その点は注意する必要があります。
変形労働時間について理解を深めよう
変形労働時間制は、繁忙期と閑散期で労働時間を調整できる制度です。
人件費を抑えるだけではなく、ワークライフバランスの推進としても活用ができます。
多様な働き方が求められる昨今では、変形労働時間制の導入が採用などにも影響することもあります。
より良い労働環境を推進するうえで変形労働時間制の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
Chatwork(チャットワーク)は多くの企業に導入いただいているビジネスチャットです。あらゆる業種・職種で働く方のコミュニケーション円滑化・業務の効率化をご支援しています。
[注1]出典:厚生労働省「令和3年就労条件総合調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/21/index.html
[注2]出典:厚生労働省「1ヶ月単位の変形労働時間制」
https://jsite.mhlw.go.jp/hyogo-roudoukyoku/content/contents/000597825.pdf
[注3]出典:厚生労働省「1年単位の変形労働時間制の手引き」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyo-roudoukyoku/jikanka/1nen.pdf
[注4]出典:厚生労働省・徳島労働局「1週間単位の非定型的変形労働時間制」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokushima-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/hourei_seido/jikan/henkei05.html
[注5]出典:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/content/001140964.pdf
※本記事は、2022年6月時点の情報をもとに作成しています。
記事監修者:北 光太郎(きた こうたろう)
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。