【社労士監修】育児休業とは?期間や育児休暇との違いをわかりやすく解説
目次
男性の育児参加が推進されている昨今、男女問わず育児休業制度を利用する従業員が増えてきています。
しかし、育児休業制度は、近年頻繁に法改正がされており、休業期間や給付金制度が煩雑になっているため、管理が複雑になっています。
そこで今回は、育児休業の制度内容や育児休暇との違い、給付金の計算方法などを、わかりやすく解説していきます。
人事担当者向けに、産休から復職までの流れや手続きも詳しく解説していますので、ぜひご確認ください。
育児休業とは
育児休業とは、原則として1歳に満たない子どもを養育する従業員が、養育に専念できる期間として、法律上認められている休業のことです。
育児休業は、一定条件を満たしていれば、事業主に申請することで、男女問わず取得できます。
また、育児休業が取得しやすくなるように、給付金の支給や社会保険料の免除などが法律で整備されています。
育児休業と育児休暇の違いとは
育児休業と混合されやすい言葉に「育児休暇」があります。
育児休暇は、育児を目的に取得できる休暇として企業に導入が求められている制度で、法律上は努力義務とされています。
一方で、育児休業は、育児・介護休業法で導入が義務づけられている制度で、従業員からの申出があった場合には、必ず取得させなければいけません。
また、育児休業は、休業期間中に給付金が支給されますが、育児休暇は取得しても給付金が支給されないという点でも違いがあります。[※1]
育児休業の現状
育児休業は、2017年10月の法改正で、保育園に入所ができない待機児童問題に対応するため、子どもが2歳になるまで休業期間の延長が認められています。
また、2022年10月にも育児・介護休業法が改正され、延長条件の緩和や育児休業の分割取得が可能となり、育児休業がより取得しやすくなりました。
「令和3年度雇用均等基本調査」によると、育児休業の取得率は女性が85.1% (令和2年度 81.6%)、男性が13.97% (令和2年度 12.65%)と上昇傾向にあります。
とくに、男性の取得率は、令和元年時点の7.48%から大幅に上昇しており、今後も上昇していくことが予想されます。[※2]
育児休業の対象者とは
育児休業の対象者は、「1歳に満たない子を養育する従業員」です。
育児休業は、正社員に限らず、パートやアルバイトも取得することが可能ですが、以下の条件に該当する従業員は対象外となります。[※3]
- 日々雇用される者
- 子が1歳6か月に達する日までに労働契約期間が満了することが明らかである者
また、労使協定で以下の要件を満たす従業員も対象外とすることができます。
- 雇用されてから1年に満たない従業員
- 休業の申出の日から1年以内に雇用関係が終了することが明らかな従業員
- 1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
対象外となる要件は、社内規定に明記し、従業員に周知しておきましょう。
育児休業の期間とは
育児休業期間は、原則として子どもが1歳なるまで可能としていますが、1歳までに保育所に入所できないなどの理由があれば、最大2歳までの延長が認められています。
延長申請は半年ごとに必要で、1歳6か月になるまで保育所に入所できなかった場合は、もう一度申請すれば2歳まで延長することが可能です。
また、育児休業の開始時期は女性と男性で以下のように異なります。
- 女性:産後休業が終了してから
- 男性:出産日(出産予定日)から
女性は、出産後56日の産後休業期間があるため、出産日から57日目に育児休業が開始されます。
一方で男性は、出産日が予定日より早い場合は出産日から、出産日が予定日より遅い場合は出産日予定日から取得することができます。
具体的には、最初に出産予定日を基準に育休を申請してもらい、予定日より早く生まれた場合は、育休開始日の1週間前までに男性従業員から申請があれば、期間の繰り上げができるということです。[※4]
育児休業の給付金・手当とは
育児休業期間中は、企業から給与を支給する義務はありません。
しかし、休業期間中に収入がなくなるのは、従業員にとって経済的に大きな問題となります。
そのため、一定条件を満たした従業員に対し、国から育児休業給付金が支給されます。
育児休業給付金の支給要件
育児休業給付金の支給要件は以下の2点です。
- 雇用保険の被保険者であること
- 休業前の2年間に就業日数(賃金支払基礎日数)が11日以上の月が12か月以上あること
育児休業給付金が支給されるためには、雇用保険の被保険者であることが条件となります。
育児休業給付金は、雇用保険からの給付金であるため、雇用保険被保険者でなければ給付の対象にはなりません。
また、育児休業前の2年間に就業日数(賃金支払基礎日数)が11日以上の月が12か月以上あることも条件のひとつです。
なお、産前休業中に賃金が支払われていない場合は、産前休業前の2年間で条件が満たされていれば、給付が認められます。
育児休業給付金の計算方法
育児休業給付金は以下の計算方法で算出されます。
育児休業開始から180日まで | 休業開始時賃金日額×支給日数×67% |
---|---|
181日目から育児休業終了まで | 休業開始時賃金日額×支給日数×50% |
育児休業給付金は、原則として、育児休業開始前6か月の総支給額を180で割った「休業開始時賃金日額」をもとに計算されます。
育児休業開始から180日までが67%、181日目以降が50%で、育児休業終了まで2か月ごとに支給されます。
ただし、育児休業中に就労した場合などで、休業中に給与が支給される場合は、育児休業給付金が減額または支給されないなど、給与との調整が必要になるため注意しましょう。[※5]
育児休業を取得する手順と必要な手続き
ここまで育児休業制度の仕組みや概要について確認してきましたが、ここからは、産休・育休から復職までに必要な手続きを5つのステップにわけて解説します。
(1)産前休業
産前休業とは、出産予定日から42日前から開始される休業のことです。
産休中は社会保険料が免除されるため、日本年金機構に「産前産後休業取得者申出書」の届出をしなければいけません。
また、健保組合に加入している場合は、同様の届出が健保組合にも必要になります。
(2)出産
出産後は「出産一時金」の申請と「出産手当金」の申請準備をおこないましょう。
出産一時金は、出産費の補助として1児につき42万円が支給される給付金で、出産手当金は産休中の収入補填として平均賃金の3分の2が支給されるものです。
どちらも医師の証明書が必要になるため、事前に従業員に渡しておきましょう。
一般的には、出産一時金は出産後に添付書類が揃い次第、出産手当金は産後休業が終わり次第、加入している健保に提出します。
また、子どもを扶養にいれる場合は、「健康保険被扶養者(異動)届」も必要になるため、あわせて準備しておきましょう。
(3)産後休業
出産予定日と出産日が異なる場合は、社会保険料の免除期間が変わる可能性があるため、「産前産後休業取得者変更(終了)届」の提出が必要になります。
出産日がわかり次第、日本年金機構や健保組合に届け出をおこないましょう。
(4)育児休業
産後休業が終了すると、育児休業が開始されます。
育児休業期間中も、産休中と同じく社会保険料が免除となるため、育児休業が開始次第、「育児休業等取得者申出書」を日本年金機構に提出しましょう。
また、育児休業給付金の申請には、「休業開始時賃金月額証明書」と「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書」が必要になるため、作成しましょう。
作成ができたら、休業開始日から4か月を経過する日の属する月の末日までに、母子手帳などの証明書を添付のうえ、管轄のハローワークへ届け出をおこないます。
その後、育児休業が終了するまでは、ハローワークから交付される「育児休業給付金支給申請書」を、2か月ごとに提出することが求められます。
(5)復職
最後に産休・育休から復職する際の動きについて確認しましょう。
予定通り復職をした場合には、届出は必要ありませんが、育児休業終了予定日より前に復職をした場合は、日本年金機構に「育児休業等取得者申出書終了届」の提出が必要になります。
また、時短勤務などで賃金が下がった場合は、復職してから3か月後に「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出しなければいけません。
「育児休業等終了時報酬月額変更届」とは、育児休業から復帰した従業員の社会保険料の等級を改正する手続きです。
通常の月額変更とは違い、1等級の差で改正ができるため、育休から復職した従業員の多くが対象となります。
くわえて、育児休業を理由に、社会保険料の等級が下がる従業員には、下がった期間を従前の等級で年金額を計算する特例があります。
その特例を適用するためには、「養育期間標準報酬月額特例申出書」を日本年金機構に届け出することが必要になります。
戸籍謄(抄)本や住民票など、必要書類を添付して、忘れずに手続きをおこないましょう。
育児休業に関連する制度
育児休業に関連する制度として以下の2つが設けられています。
- パパ・ママ育休プラス
- 出生時育児休業(産後パパ育休)
それぞれを詳しく解説します。
パパ・ママ育休プラス
パパ・ママ育休プラスは、両親ともに育児休業を取得することで、育休期間を1歳2か月まで延長できる制度です。
通常、育休期間の延長は保育所にはいれないなどの理由が必要になりますが、パパ・ママ育休プラスは、理由問わずに延長することができます。
たとえば、女性が育児休業を子どもが1歳になるまで取得し、男性が1歳から1歳2か月まで休業するなど、両親ともに育児休業する場合に延長ができる制度です。[※6]
出生時育児休業(産後パパ育休)
出生時育児休業(産後パパ育休)は、2022年10月の法改正で創設された休業です。
子どもの出生から8週間以内、最大4週間まで育児休業とは別に男性が取得できる休業制度で、出生時育児休業は、2回まで分割することができ、労使協定を締結すれば、休業期間中に就労することも可能です。
また、出生時育児休業期間は、給付金の対象となり、育児休業給付金と同様に、休業開始時賃金日額の67%が支給されます。
ただし、出生時育児休業期間中に支給された給付金は、育児休業給付金が67%支給される期間である180日に通算されます。[※2]
育児休業を運用する際のポイント
育児休業を運用する際は、従業員が取得しやすい職場環境をつくることが大切です。
ここからは、育児休業の取得率を向上させる運用のポイントをふたつご紹介します。
従業員フォローを欠かさずにおこなう
育児休業を取得する従業員がいる一方で、その仕事を代わりにおこなう従業員がいることを忘れてはいけません。
休業をしていない従業員に負担がかかることのないように、あらかじめ人材配置や業務分担などの計画を立てておきましょう。
また、育児休業を機に、業務の棚卸をおこない、必要のない業務の廃止や業務改善をおこなうなど、業務効率化を図り、従業員の負担を減らすとりくみをおこなうことで、従業員の満足を向上させることもできるでしょう。
制度目的を社内周知する
育児休業は、女性だけではなく男性も取得しやすいよう、制度の目的を社内周知することが大切です。
掲示板や社内ポータルサイト、社内報などで育児休業について定期的に情報を掲示し、社内に制度の目的や内容、取得方法などを周知させましょう。
また、管理職などの組織を管理する立場の従業員には、研修などを通じて、育児休業を取得しやすい環境づくりに関する理解を深めさせ、組織的に浸透させていくことが大切です。
育児休業中の円滑なコミュニケーションに「Chatwork」
育児休業は、子どもを養育する期間として、男女ともに認められている休業制度です。
従業員から申し出があった場合には、必ず取得させるようにしましょう。
ただし、育児休業は、法改正により、近年手続きが煩雑になっています。
人事担当者は、育児休業者の手続きを適切に管理できるように、制度内容の理解や労務管理を徹底することが大切です。
また、育児休業中の従業員と連絡が必要となった場合にそなえて、円滑なコミュニケーション手段を用意しておくことも重要です。
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育児休業中の従業員との連絡も簡単におこなうことができるため、育児に関連する申請もスムーズに実現できるでしょう。
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[※1]出典:厚生労働省「育児休業と育児目的休暇の違いについて」
https://jsite.mhlw.go.jp/okayama-roudoukyoku/content/contents/syuseiji2019-1.pdf
[※2]出典:厚生労働省「育児・介護休業法の改正について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000851662.pdf
[※3]出典:厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000355354.pdf
[※4]出典:厚生労働省「男性の育児休業取得促進等に関する参考資料集」
https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/000686517.pdf
[※5]出典:厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001126859.pdf
[※6]出典:厚生労働省「両親ともに育児休業をする場合(パパ・ママ育休プラス)の特例」
https://ryouritsu.mhlw.go.jp/pdf/q0310.pdf
※本記事は、2023年3月時点の情報をもとに作成しています。
記事監修者:北 光太郎
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。