ノーマライゼーションとは?意味や考え方、歴史を事例付きで簡単に解説
目次
近年、ビジネスシーンで注目されている概念のひとつに「ノーマライゼーション」があります。
ノーマライゼーションとは、障害がある人を排除することなく、障害があってもなくてもだれもが同等に生活できるような社会が正常(ノーマル)であるとする考え方です。
この記事では、ノーマライゼーションの意味や取り組み事例、活用のポイントなどを解説します。
ノーマライゼーションとは
ノーマライゼーションとは、障害がある人を排除するのではなく、障害があってもなくても、だれもが同等に生活できるような社会が正常(ノーマル)であるとする考え方です。
障害がある人だけではなく、高齢者などを幅広く含めて、だれもが豊かに暮らしていける状態をさして、ノーマライゼーションと呼ぶケースもあります。
厚生労働省の定義では、障害のある人もない人も、互いに支え合い、地域で生き生きと明るく豊かに暮らしていける社会を目指すことがノーマライゼーションの理念とされています。[注]
ノーマライゼーションの歴史
ノーマラーゼーションの考え方は、いつ誰が提唱して、広まっていったのでしょうか。
ノーマライゼーションの歴史について解説していきます。
ノーマライゼーションの提唱者・語源
ノーマライゼーションは、デンマークの社会省で、知的障害者の施設を担当していたバンク・ミケルセンが提唱した概念です。
バンク・ミケルセンは、「障害があっても、健常者と同じように生活をする権利がある」という理念をもとに、デンマークの障害福祉に大きな影響を与えた人物であり、のちに「ノーマライゼーションの父・ノーマライゼーションの生みの親」として世界的に名が知れ渡りました。
ノーマライゼーションは英語の「normalization」が語源であり、「標準化」「正常化」という意味があります。
高齢者や障害者などを排除するのではなく、健常者と同等に当たり前に生活できるような社会こそが、正常(ノーマル)な社会であるという考え方です。
ノーマライゼーションの取り組み事例
ノーマライゼーションの理解を深めるためにも、実際の取り組み事例を確認していきましょう。
本記事では、福祉現場・教育現場の取り組み事例を紹介します。
福祉現場におけるノーマライゼーション
福祉の現場では、障害者福祉や介護福祉におけるノーマライゼーションの取り組みがあります。
たとえば、障害者や高齢者向けのグループホームは、ノーマライゼーションの例といえるでしょう。
障害者が働けるカフェなど、働く場所を提供する施策も、障害者が健常者同等の生活を送るための取り組みのひとつです。
教育現場におけるノーマライゼーション
教育現場におけるノーマライゼーションとしては、障害の有無にかかわらず、子どもたちが一緒に教育を受けられる体制づくりをするなどの取り組みがあります。
保育の現場では、専門家が訪問して、障害のある子の支援をおこなう保育所訪問支援があります。
ノーマライゼーションと類語との違い
ノーマライゼーションと混同しやすい言葉として、下記の3つがあげられます。
- バリアフリー
- ユニバーサルデザイン
- インクルージョン
それぞれの言葉の意味を確認していきましょう。
バリアフリーとの違い
バリアフリーとは、障害のある人が生活するうえでの障壁(バリア)を除く施策や状態を指します。
たとえば、階段にスロープを設置して、車いすを利用する人が階段を上り下りする障壁が取り除かれている状態は、バリアフリーに当たります。
ノーマライゼーションは、だれもが健常者と同等に生活できる社会が正常とする考えであり、その考えに基づいて、社会のなかにある障壁を取り除く施策をバリアフリーと呼びます。
ユニバーサルデザインとの違い
ユニバーサルデザインとは、年齢や性別、文化など、人が持つさまざまな個性に関係なく、だれにとっても暮らしやすい社会となるような街づくり、ものづくり、サービス提供をしようとする考え方や設計・デザインです。
だれもが出入りがしやすいように自動ドアを設置する施策や、歩道などの段差解消などがユニバーサルデザインの例として挙げられます。
インクルージョンとの違い
インクルージョンとは、だれもが尊重され、それぞれが能力を発揮して活躍できている状態を指します。
インクルージョンは、近年、教育やビジネスのなかで、重要な概念として広まっています。
インクルージョン(inclusion)を直訳すると、「包括」「包摂」などの意味があり、だれもが社会に参加する機会をもっていること(社会的包摂)をインクルージョンといいます。
>ダイバーシティとインクルージョンの違いに関する記事はこちら
ノーマライゼーションの理念の普及
ノーマライゼーションの理念はデンマークで生まれました。
当時のデンマークでは知的障害者を施設に集めて隔離しており、家族と一緒に生活ができない状態でした。
それに反発した知的障害者の親たちが「知的障害者の待遇改善運動」を1950年に起こし、たとえ知的障害者でも家族と一緒に生活する権利はあると主張しました。
この運動に当時社会省で、知的障害者の施設を担当していたバンク・ミケルセンも参加し、その結果、1959年に知的障害者福祉法が成立しました。
これにより、「どのような障害があったとしても健常者と同じように生活ができる権利を保障されなければならない」という考えが広まり始めました。
この法律には「ノーマライゼーション」という言葉も登場し、これらの運動によって多くの人々に障害者の人権が認められるようになりました。
その影響は国を超え、1960年代にはイギリス、スウェーデンといった北欧諸国、そしてアメリカでも当たり前にノーマライゼーションの理念が受け入れられるようになりました。
ノーマライゼーションにまつわる理念・考え方
ノーマライゼーションにまつわる理念・考え方について、さらに詳しく見ていきましょう。
ノーマライゼーションの8つの原理
ノーマライゼーションが、スウェーデンで広く知られるようになった背景には、スウェーデンの知的障害者連盟のベンクト・ニィリエによって、8つの原理に整理されたことがあげられます。
- 1日のノーマルなリズム
- 1週間のノーマルなリズム
- 1年のノーマルなリズム
- ライフサイクルにおけるノーマルな発達的経験
- ノーマルな個人の尊厳と自己決定権
- その文化におけるノーマルな両性の形態すなわちセクシャリティと結婚の保障
- その社会におけるノーマルな経済的水準とそれを得る権利
- その地城におけるノーマルな環境水準
ベンクト・ニィリエは、ノーマライゼーションを実現するためには、この8つの原理を満たす必要があるとしており、概念が明文化されたことで、ノーマライゼーションが広く知られるようになりました。
ソーシャル・ロール・バロリゼーション
バンク・ミケルセンやベンクト・ニィリエらによって普及していったノーマライゼーションはアメリカのW・ヴォルフェンスベルガーによって、理論化・体系化して発展していきました。
ヴォルフェンスベルガーはノーマライゼーションをアメリカやカナダで紹介し、アメリカのネブラスカ州などで政策に導入し、実践しました。
これまで知的障害者の立場が低く捉えられていたことにたいして、立場そのものを高めるために「知的障害者の社会的役割」の実現と脱施設化を実践しました。
インテグレーション
インテグレーションとは、2つのものを組み合わせて1つのものを作り上げるという意味があります。
ノーマライゼーションにおけるインテグレーションでは、障害者と健常者がそれぞれの違いを理解した状態で、同じ環境で教育を受けるという意味があります。
かつて日本でも重度の障害児は就学できないという状況が続き、学校に通えずに自宅や施設で生活していました。
養護学校の義務化が1979年に決定し、養護学校に通えるようになりましたが、普通学級での就学を妨げることになりました。
しかし、インテグレーションの浸透により、財源の確保や教員のスキル向上などの課題はありながらも、障害者が希望校へ就学できるような例が増加してきています。
メインストリーミング
メインストリーミングとは、日本語で「主流化教育」という意味があります。
社会福祉の分野で考えるメインストリーミングとは、一般的に主流な健常者が通う教育施設に障害者も生活を置くことを意味します。
健常者と障害者で分別するのではなく、同じように社会で生きることを意味するため、ノーマライゼーションと同じ解釈ができます。
インクルージョン
インクルージョンは「包括」という意味があり、ノーマライゼーションや障害児教育の分野では「包括教育」という意味合いで使われます。
1980年代のアメリカで普及した考え方で、インテグレーションと似ていますが、こちらは「統合教育」と訳されており、インクルージョンは「包括教育」と定義されています。
インテグレーションとの違いとして、インクルージョンでは障害者は普通学級で大半の学校生活を送ります。
障害者が初等教育や中等教育において、多くの時間を普通学級で過ごす権利を持つという点がインクルージョンの考え方です。
国内のノーマライゼーション取り組み事例
最後に、国内企業における具体的なノーマライゼーションの取り組み事例を紹介します。
ノーマライゼーションの実現を目指す際の、参考にしてみてください。
サポート体制の充実
障害者雇用においては、「どのように接すればいいのかわからない」という現場の悩みが発生するケースも多いでしょう。
障害者へのサポートのために、従業員に対して、ジョブコーチ(企業在籍型職場適応援助者)や、障害者職業生活相談員などの資格取得を積極的におこなっている企業もあります。
多くの資格取得者を確保することで、雇用される障害者はもちろん、だれもが働きやすい職場の実現を目指しています。
制度や職場環境の整備
人事評価、雇用形態、業務内容を障害の有無にかかわらず、同じ条件として定めている企業もあります。
同条件で働くことで、障害があっても、健常者同等に活躍する機会が得られます。
制度面でも、通院が必要な社員に対して、定期的に取得できる休暇制度を設けるのも、環境整備のひとつとして機能するでしょう。
段差の解消など物理的な環境整備も効果的です。
ユニバーサルデザイン
だれもが暮らしやすいまちづくりやサービス提供を意味するユニバーサルデザインは、ノーマライゼーションの身近な例といえます。
具体的には、以下のような事例があり、多機能トイレや自動ドアなどは、目にする機会も多いでしょう。
- トイレなどの絵文字表記のピクトグラム
- 多機能トイレ
- 自動ドア
- 歩道などの段差解消
- シャンプーボトルの突起
障害者雇用促進法
障害者雇用促進法では、障害者雇用における差別の禁止や合理的な配慮の義務などが定められています。
これにより、障害者があっても、健常者同等に働ける社会の促進につながっています。
厚生労働省の取り組み
厚生労働省は、障害の有無に関わらず、全ての人が地域で活き活きと暮らせる社会を目指し、ノーマライゼーションの理念に基づいて活動しています。
主な取り組みとして、障害者の自己決定を尊重し、福祉サービスの選択肢を利用者自身が選べるようにする制度の導入や、情報提供の充実、手話や点訳の支援、福祉サービスの利用支援などがあります。
また、全国障害者スポーツ大会の開催もおこなっており、ノーマライゼーションの理念の普及に取り組んでいます。
企業におけるノーマライゼーションの取り組み事例
企業におけるノーマライゼーションの取り組みは、障害者が他の社員と共に働く環境を整え、社会的なバリアを取り除くことを目指しています。
企業におけるノーマライゼーションの取り組み事例を紹介します。
バリアフリーの職場環境整備
建物内の段差を解消したり、エレベーターや障害者用トイレを設置したりするなど、物理的なバリアを取り除くための措置です。
また、視覚や聴覚に障害がある社員のために、必要な情報を点字や手話で提供する設備や支援もおこなわれています。
障害者の雇用促進
障害者雇用率の目標を設定し、積極的に採用活動をおこなっています。
特に、職務の内容や勤務条件を調整することで、障害者が働きやすい環境を提供できるよう、工夫している企業も多いでしょう。
また、障害者の職業訓練やキャリア開発のサポートもおこなわれています。
合理的配慮の提供
障害者が働く上で必要な配慮を提供する取り組みです。
たとえば、勤務時間の柔軟化、テレワークの導入、専用の作業スペースの提供など、個々のニーズに応じた対応をおこなっています。
社員教育・啓発活動
全社員を対象に、障害に対する理解を深めるための研修やセミナーの実施です。
これにより、障害者と共に働くことに対する理解や配慮が広がり、職場全体の雰囲気が改善されます。
アクセシブルな製品・サービスの提供
障害者が利用しやすい製品やサービスを開発・提供することで、社会全体のノーマライゼーションを促進しています。
たとえば、音声案内機能を搭載した家電製品や、障害者向けの金融サービスなどがその例です。
これらの取り組みは、障害者がより自立して社会に参加できるようサポートするものであり、企業の社会的責任の一環として重要視されています。
国内のノーマライゼーションの課題
ノーマライゼーションの実現を阻む課題として、社会における理解がいまだ十分ではない状況があげられます。
法律や制度は整いつつある状況ですが、「ノーマライゼーション」という言葉の意味を知っている人は、いまだに多いとは言えない状況です。
国内におけるノーマライゼーションの課題について見ていきましょう。
施設に関する問題
日本では、公共施設や交通機関、オフィスビルなどにおいて、バリアフリー化が進んでいない場所が多くあります。
たとえば、エレベーターやスロープの設置が不十分だったり、視覚障害者向けの誘導ブロックが設置されていないなど、物理的なバリアが存在するため、障害者が自由に移動できない状況があります。
このような環境では、障害者が公共の場にアクセスするのが困難であり、社会参加を制約されています。
政治的な問題
ノーマライゼーションの実現には、法律や政策の整備が不可欠ですが、これらが十分に進んでいないことが課題です。
たとえば、障害者の権利を保護し、平等な機会を提供するための法律や規制が不十分であったり、既存の法律が適切に施行されていないことがあります。
また、障害者支援に関する予算が十分でないため、福祉サービスの提供が制限されている場合もあります。
これにより、障害者が必要な支援を受けられない状況が続いています。
理念の普及が遅れている
ノーマライゼーションの理念が広く社会に浸透していないことも課題のひとつです。
多くの人々が障害者に対する理解を深める機会が少なく、偏見や無理解が残っていることが原因です。
また、企業や教育機関などでも、障害者に対する適切な対応や支援が行われていないことが多くあり、このような社会的な認識不足は、障害者が社会で平等に扱われることを妨げ、彼らの自立や社会参加の機会を制限しています。
これらの課題を解決するためには、法整備の強化、予算の確保、教育や啓発活動の推進が必要です。
ノーマライゼーションを実現するために企業ができること
ノーマライゼーションを実現するにあたって、注意しておきたいポイントがあります。
企業におけるノーマライゼーションの実現における注意点を紹介します。
障害者を特別扱いはしない
ノーマライゼーションでは、障害があっても健常者と同等に生活ができるようにする状態を目指しますが、障害者を特別扱いするのとは異なります。
障害者に対して過保護な扱いをしたり、逆に健常者と同様の生活を強要することも、ノーマライゼーション考え方からは外れています。
ノーマライゼーションの実現には、障害者に対する適切なサポート体制の整備が重要です。
採用前の企業研修を実施する
障害者の採用前に企業全体でノーマライゼーションの理解を深めるための企業研修を実施することも良いでしょう。
採用前研修では、障害に関する基本知識や対応方法に関する基本知識や対応方法といった内容があります。
具体的には、障害の種類や特性、コミュニケーションスキル、合理的配慮についての理解を深め、法的権利や義務、倫理的な視点を強化します。
また、ロールプレイやケーススタディを通じて実践的な対応力を養い、職場のバリアフリー化や情報アクセシビリティの改善も進めます。
これらの研修は、障害者が働きやすい環境を整え、企業全体の意識向上を図るために重要となってきます。
助成金を活用する
障害者雇用では、助成金を活用できます。
障害者を一定期間雇い入れた際に利用できる「トライアル雇用助成金」や、障害者雇用に当たって必要となった施設などの整備に対する費用を助成する「障害者雇用納付金制度に基づく助成金」などが、助成金の例としてあげられます。
助成金の活用により、企業のノーマライゼーションを促進できるでしょう。
ノーマライゼーションの実現にも「Chatwork」
ノーマライゼーションとは、障害がある人を排除することなく、障害があってもなくても、だれもが同等に生活できるような社会が正常(ノーマル)であるとする考え方です。
社会的に、今後ますますノーマライゼーションへの理解が求められるようになる状況が予想され、企業におけるノーマライゼーションの考え方も重要性を増してくるでしょう。
このような変化の中で、コミュニケーションツールとして、ビジネスチャットを活用する施策は、障害がある社員が働きやすくなるための方法の一つとして、効果的でしょう。
離れた場所にいても、円滑にコミュニケーションが実現できるだけでなく、たとえば、耳が聞こえづらい社員とのコミュニケーションや、メモをとるのが苦手な社員への指示などに役立ちます。
ビジネスチャット「Chatwork」には、チャット機能だけでなく、ビデオ/音声通話機能も搭載されているため、多様なコミュニケーション手段の確保が可能です。
企業のノーマライゼーションの実現にも効果的な「Chatwork」を、ぜひご活用ください。
Chatwork(チャットワーク)は多くの企業に導入いただいているビジネスチャットです。あらゆる業種・職種で働く方のコミュニケーション円滑化・業務の効率化をご支援しています。
[注]出典:厚生労働省「障害福祉施策の考え方」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/idea01/index.html
※本記事は、2023年8月時点の情報をもとに作成しています。