手書きの出勤簿は違法?法律上の問題有無や管理方法について解説
目次
労務管理のDX化が進み、従業員の出退勤をデジタル化して管理している企業が増えてきています。
一方で、企業によっては、さまざまな事情や理由から、手書きの出勤簿やタイムカードによる打刻で出退勤を管理しているケースも少なくないでしょう。
手書きの出席簿はコストをかけずに運用できるなどのメリットがある反面、正しい運用や管理ができていないと労務上、問題になってしまう可能性もあります。
本記事は、手書きの出勤簿を法律上の観点で問題なく管理する方法や、正しい書き方などを解説します。
手書きの出勤簿は法律上問題ないのか
手書きの出勤簿による出退勤の管理は、法律上、問題ありません。
しかし、前提として企業は従業員の労働時間の管理に客観的な把握義務があると法律で定められています。[注1]
また、労働時間の把握方法については厚生労働省より「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」というガイドラインに則った勤怠管理が求められています。[注2]
このガイドラインにも記載されているとおり、手書きによる管理は否定されていませんが、「使用者による現認」もしくは「客観的な記録」であることが求められています。
手書きの出勤簿がそれらの条件を満たして、厳密に運用できるのかについては、判断が難しいといえます。
手書きの出勤簿を使用する場合は、適正に管理できる仕組みの構築が必須となる点を理解しておきましょう。
出勤簿とは
出勤簿とは、従業員の労働日数・労働時間数・時間外労働などを把握するために、従業員の労働日ごとに始業と終業時刻を確認し、記録する帳簿をいいます。
「労働者名簿」と「賃金台帳」と同様に法定三帳簿のひとつで、労働基準法により管理・保管が義務づけられています。
パートやアルバイトなど雇用形態を問わず、全ての従業員の出勤簿を作成する必要があります。
フォーマットは決まっておらず、出勤日数や労働時間数など必須項目が記してあれば、自由に作成することが可能です。
なお、出勤簿の役割や作成の目的については、下記の記事もあわせてご覧ください。
正しい出勤簿の書き方
出勤簿を手書きで管理する場合、必要な情報を網羅しておかないと、出勤簿として認められない可能性があります。
必須の情報として、以下の項目が挙げられます。
- 出勤日
- 労働日数・労働時間数
- 出勤・退勤時刻
- 休憩時間
- 時間外の労働時間数・日付と時刻
- 休日出勤の労働時間数・日付と時刻
- 深夜の労働時間数・日付と時刻
前述したとおり、出勤簿には規定のフォーマットはありません。
賃金計算の基礎となる事項が書かれている「賃金台帳」とも照らし合わせやすいように、上記以外に承認印や備考欄などを設けるなど、運用ルールにあわせてカスタマイズしていきましょう。
出勤簿を手書きにするメリット
手書きの出勤簿は、従業員数が少ない企業や外回りの営業がいる組織では、従業員にとっても管理者にとっても扱いやすい利点があります。
手書きの出勤簿を用いるメリットとしては、以下の3つが挙げられます。
- フォーマットをオリジナルで設定できる
- 誰でも使いやすい
- 導入や運用のコストが低い
手書きの出勤簿を使うメリットをそれぞれ解説します。
フォーマットをオリジナルで設定できる
手書きの出勤簿は、必要な項目を自由にレイアウトしたり、メモ欄などを追加したりなど、カスタマイズしやすいです。
他の法定三帳簿にはない項目を盛り込んだり、自社の仕様にあわせて調整できたりするため、勤務体系に合わせて使用できます。
誰でも使いやすい
日付や時刻などを入力していくだけで管理できるので、抵抗なく誰でも使える点も、手書き出勤簿のメリットです。
新たにシステムを導入する場合は、従業員が使い方を覚えなければならず、運用が軌道に乗るまで時間がかかる場合があります。
手書きの出勤簿は従来の管理方法のため、他の手法と比較して従業員に負担をかけずに運用できるでしょう。
導入や運用のコストが低い
手書きの出勤簿を用いる大きなメリットは、コストを抑えられる点です。
出退勤時間や休憩時間の管理のみであれば、出勤簿を準備すればすぐに運用を開始できます。
勤怠管理システムを導入せずに運用できるので、ランニングコストがかかる心配もありません。
出勤簿を手書きにするデメリット
手書きの出勤簿は運用のハードルが低いというメリットがある一方で、デメリットもあります。
手書きの出勤簿を用いるデメリットとしては、以下の4つが挙げられます。
- 記入や提出に漏れが生じやすい
- 情報の信用性が低い
- 保管のスペースを要する
- 給与計算が手間である
デメリットを把握したうえで、適切な運用ができるように仕組みを整備しましょう。
記入や提出に漏れが生じやすい
手書きで運用する際に、課題となるのが記入漏れや申告忘れです。
勤怠管理システムであれば、入力忘れや入力ミスがあったときにアラートが出るため、大きなトラブルになる前に把握できます。
しかし、手書きの場合はミスを見逃したまま運用してしまうケースが多く、修正に時間がかかってしまうでしょう。
労働時間を正確に把握するには、適切な運用方法の構築が欠かせません。
情報の信用性が低い
手書きの出勤簿は、他者が代理で記入することもできるため、情報を簡単に改ざんしやすいデメリットがあります。
本来はあってはならない事象ですが、手書き出勤簿は遅刻時に記載を同僚に頼んだり、残業時間を減らすために実際の労働時間よりも短く記録したりなどの不正行為をおこないやすいためです。
不正が起きやすい環境では、適正な管理ができず、労働に関する記録・情報の信用性も低くなってしまうでしょう。
保管のスペースを要する
出勤簿の保管は、法律改正により原則5年間の保存が義務づけられています。[注3]
そのため、タイムカードなど手書きの出勤簿を使用している場合は、保管のスペースを確保しておきましょう。
あらかじめ保管スペースを用意したうえで、運用する必要があります。
給与計算が手間である
手書きの出勤簿で管理する場合、給与計算が大きな手間となります。
帳簿を見ながら電卓で計算したり、Excelやスプレッドシートなどで運用する場合はデータを転記したりする手間がかかります。
手作業が多くなると必然的にヒューマンエラーも起きやすくなるため、チェックなどに大幅に時間を要してしまうでしょう。
出勤簿を手書きにする際の注意点
手書きの出勤簿には前述のとおりメリットがある一方で、管理運用の側面でデメリットもあります。
デメリットを踏まえたうえで運用上注意すべき事柄は、主に3つあります。
- 管理者によるチェック体制を整備する
- 必ず本人が記載する
- 勤務実態を把握する
適正な管理ができるように、以下の注意点を詳しくみていきましょう。
管理者によるチェック体制を整備する
記入漏れや申告忘れ、情報の改ざんがないかを確認できる体制の構築が重要です。
管理者を定めて、チェック項目を整理しておき、チェックがきちんと機能するような仕組みにする必要があります。
また、誤りがあった場合の修正フローも作成しておきましょう。
必ず本人が記載する
手書きの出勤簿で運用する場合、他者が簡単に記入できない仕組みを構築して、必ず本人が記載するように従業員の認識をあわせておきましょう。
代理者の記入が常習化していると、勤怠状況を正確に管理できず、適正な運用ができているとはいえません。
また、記入の際には鉛筆や消せるボールペンの使用は禁止し、修正の際には上長の確認印を必要とするなど、管理ルールを徹底するとよいでしょう。
勤務実態を把握する
適正な管理をおこなうには、組織内で客観的に勤務実態を把握しなければいけません。
たとえば、業務日報を記すようにすると、出勤簿と業務日報に記された稼働内容を照らし合わせて勤務状況の乖離がないかをチェックできるでしょう。
また、従業員との1on1で、同僚やチームの稼働状況を確認しておくなど、定期的なヒアリング・内部チェックによって、不適正な運用を抑止する効果も期待できます。
出勤簿の保管期間
出勤簿の保管期間は、労働基準法により5年間の保管が義務づけられています。[注3]
退職後の残業代や給与の請求などに対応するために、出勤簿に最後に記された日付から5年間は保管しなければいけません。
出勤簿を適切に保管できていなかった場合は、30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
紛失や破棄などのトラブルが起きないように、出勤簿の保管や管理のルールを定めておきましょう。
勤怠管理のサポートに「Chatwork」
手書きの出勤簿は、記入漏れや申請忘れなどが課題となりますが、コミュニケーションツールを活用することで、全体管理がスムーズとなり、客観的な勤務状況の把握も期待できます。
たとえば、ビジネスチャット「Chatwork」を活用し、勤怠管理用のグループチャットによる客観的な勤務状況把握をおこなう運用は、手軽に実践できる手法のひとつです。
ルールとして出退勤時にチャットでの報告を義務づけておけば、客観的に勤務状況を把握できるようになります。
手書きでの出勤簿の運用や、リモート時の実態管理のサポートに活用することも可能です。
勤怠管理システムを導入するハードルが高い場合や、手書きの出勤簿の正確性を高めたい場合に「Chatwork」をご活用ください。
Chatwork(チャットワーク)は多くの企業に導入いただいているビジネスチャットです。あらゆる業種・職種で働く方のコミュニケーション円滑化・業務の効率化をご支援しています。
[注1]出典:厚生労働省「労働安全衛生法」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=74001000&dataType=0&pageNo=1
[注2]出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/070614-2.pdf
[注3]出典:厚生労働省「労働基準法」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=73022000&dataType=0&pageNo=1
※本記事は、2024年10月時点の情報をもとに作成しています。