【社労士監修】ケアハラスメントとは?起きる原因や対処法を解説

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働き方改革
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【社労士監修】ケアハラスメントとは?起きる原因や対処法を解説

目次

企業におけるケアハラスメントとは、介護や育児をしている従業員に対して不当な干渉や差別的な扱いをするハラスメントです。

たとえば、育児や介護のための休暇取得を申請した際、上司や同僚から「職場に迷惑をかける」「責任感が足りない」などの言葉で圧力をかけられるケースが該当します。

少子高齢化によって、要介護者の増加によるケアハラの事案も増加傾向にあります。

本記事では、介護を中心としたケアハラについて、起こる原因や防止方法などを解説しています。

ケアハラスメント(ケアハラ)とは

ケアハラスメント(以下、ケアハラ)とは、病気やケガで介護及び看護が必要な家族のケアをする従業員に対して、不当な干渉や差別的な扱いをすることを指します。

少子高齢化社会になって久しい日本において、主に高齢の家族の介護をしている従業員に対し、嫌がらせする事案が多く発生しています。

ケアハラスメントが起こる原因

少子高齢化によって、要介護者が増加したことからケアハラの事案も増加傾向にあります。

しかし、ケアハラが起こる原因は単に高齢者が増えたからだけではありません。

ケアハラが起こる原因について触れていきましょう。

介護に対する認識の相違

職場の上司や同僚が、介護の実態やその負担を正しく理解していないために、介護を理由にした休暇や時短勤務が「特権的」と見られてしまうケースがあります。

介護が単に「家事の延長」や「個人の問題」として捉えられることが多く、支援を受けることへの抵抗感が生まれるからです。

この認識の相違は、介護を必要とする従業員に対して不公平な扱いや圧力を加える結果となり、職場内でのハラスメントを引き起こしやすくなります。

介護の終わり・始まりのなさ

育児と異なり、介護には明確な開始や終了の時期がありません。

介護の必要性は突然訪れ、さらにその期間は予測できず、長期化する場合もあります。

この不確実性は、介護を担う従業員自身に大きな心理的負担を与えるだけでなく、職場においても、従業員がどれだけの時間や労力を介護に費やすのかが見えにくいため、ネガティブな感情や誤解を生む場合があります。

結果、周囲から「いつまで介護が続くのか」といった圧力を受けたり、不当な期待がかけられたりすることで、ケアハラスメントが発生します。

業務を引き継ぐ立場の従業員からすると、唐突に自分の業務量が増えたと思うのも無理はなく、介護で休む立場の従業員も多かれ少なかれ負い目を感じてしまうことから、ケアハラを受けても上司や同僚に相談しづらく状況が悪化してしまう可能性があります。

ケアハラスメントの具体例

ケアハラの具体例には介護・育児制度を利用した結果、解雇や降格といった不利益が生じたり、制度の利用が妨害されたり、嫌がらせを受けるケースが挙げられます。

  • 制度利用に関する解雇・そのほかの不利益取扱い
  • 制度利用の妨害・阻害
  • 制度利用を理由とした嫌がらせ

もちろん上記に挙げたもの以外でも、介護を理由とした不当な嫌がらせに該当すればケアハラになり得ます。

制度利用に関する解雇・そのほかの不利益取扱い

介護や育児に関する制度を利用した従業員が、解雇や降格、給与減額などの不利益を受けることは、ケアハラスメントの典型的な例です。

また、介護・育児休暇の取得を理由とした契約更新の拒否も、実質的な解雇と変わりません。

ただし、介護と仕事の両立のために、本人の希望で部署異動や業務の転換をおこなった結果、給与待遇が低下した場合、本人の意思による転換で手続きや内容が正当であれば、不利益扱いとはなりません。

制度利用の妨害・阻害

家族の介護のために仕事を休業する際、給料の67%が保証される「介護休業給付金制度」や、家族の介護をする従業員が希望した場合には、残業の制限ができる制度などが法律で定められています。[注1]

また、上記の国が定めている公的な制度に加えて、会社独自で介護に関する制度を設けている場合もあります。

制度が利用しにくくなるような言動や休暇制度の利用を希望した従業員に対して、左遷や降格を仄めかし、休暇制度の利用を妨害する言動等もケアハラとなります。

制度利用を理由とした嫌がらせ

仮に制度を利用できたとしても、「あなたが介護で休んでいるせいで、こちらにしわ寄せが来ている」、「介護のためとはいえ、残業しないで帰るのは不公平なのではないか」という言葉を本人に浴びせて嫌がらせをする例もあります。

また、同僚や上司からの無言のプレッシャーや、孤立させるような態度も嫌がらせの一環として見られます。

上記のような嫌がらせにより、従業員が制度の利用をためらってしまうという場合もケアハラにあたります。

ケアハラスメントを未然に防ぐ方法

ケアハラの難しいところは、休業や残業時間の制限で上司や同僚に業務負担をかけているとして嫌がらせを受けても、負い目を感じてしまい誰にも相談できずに、嫌がらせがエスカレートしてしまいかねないという点にあります。

しかし前述のとおり、介護は長期に及ぶ場合もあり、ケアハラを受けながら仕事と介護を両立させると、精神的負担が大きくなります。

ケアハラを受ける状態が続くと、介護する人も心身を壊してしまいかねません。

自分の身は自分で守れるように、ケアハラを防ぐためにどういった対策ができるのか、従業員視点で解説していきます。

  • 介護の事情を理解してもらう
  • 介護保険のサービスを利用する
  • ケアマネージャーに相談する

対策の内容は、いずれも周囲への相談が鍵となるため、ひとりで抱え込まずに、まずは現状を伝えるところから始めてみてください。

介護の事情を理解してもらう

介護の辛さや大変さは、介護を経験した人にしか理解が難しいものであるため、介護の経験がない人が悪気なく嫌がらせをしてしまう場合があります。

介護の負担がいかに大きなものか理解している人がいる職場では、ケアハラは起こりにくく、周囲もサポート体制を整えてくれるでしょう。

つまり、自分の状況を理解してもらうことがケアハラ防止における効果的な手段となります。

現在自分が直面している介護の状況がどのようなものであるか、日常的な会話や面談などの場面を通じて上司やチームメンバーに共有しておくことが肝心です。

ただし、心情的な内容ばかりを共有していると、相手が「愚痴を聞かされている」と思ってしまう可能性もあるため、「病院の送り迎えのために早退している」「現在入院中のため、緊急時には対応する必要がある」などの現状を共有すると良いでしょう。

介護保険のサービスを利用する

介護保険サービスとは要介護・支援状態にある「65歳以上の高齢者」と「40歳から64歳までの医療保険加入者で特定疾患の患者」が受けられる公的なサービスであり、介護保険、国、自治体からの財源によって運営されています。[注2]

たとえば、要介護・要支援者が自宅に住んだまま受けられる訪問介護や、利用者を長期間受け入れ、食事や排せつの介護、リハビリやレクリエーションなどを提供する特別養護老人ホームなどがあります。

利用者は、収入に応じて1割〜3割の負担でこれらのサービスを受けることが可能です。

介護を受ける家族の意向も尊重する必要がありますが、こういったサービスを積極的に活用すると、介護に関する負担を大きく軽減できます。

介護の負担をが軽減できれば仕事に与える影響も小さくなり、ケアハラ防止につながります。

ケアマネージャーに相談する

ケアマネジャー(介護支援専門員)は、要介護者が適正な介護保険サービスを受けられるように、ケアプラン(サービス計画書)の作成やサービス事業者との調整をおこなう介護保険に関する専門家です。

ケアマネージャーは、介護される側はもちろん、介護する側の苦悩についてもよく理解している人が多く、職場におけるケアハラの実例やその解決例についての知識も豊富なので、介護をする立場になった際の相談先として覚えておきましょう。

また、ケアマネージャーは法制度や地域の支援サービスに精通しており、利用可能な制度を効果的に活用するためのアドバイスをしてくれます。

仕事と介護の両立に必要なサポートを確保し、職場での理解を得やすくなるだけでなく、精神的な安心感も得られるため、ケアマネージャーへの相談もケアハラ対策のひとつといえます。

ケアハラスメントの対処方法

少子高齢化がさらに進むと、介護をしながら働く従業員が増え、ケアハラのリスクが高まるという状況は容易に想像できます。

企業においても、ケアハラについて何も対策を講じなければ、職場環境が著しく悪化し、人間関係のトラブルや離職率の増加といった事態に繋がりかねません。

ケアハラから従業員を守るために、企業としてどういった対策をとるべきか、みていきましょう。

  • ハラスメントに対する方針を明確にする
  • 社内方針を従業員に周知・啓発する
  • ハラスメント相談窓口を設置する
  • ハラスメント教育や研修の実施
  • 社内アンケートで実情を把握する

これらの取り組みを総合的におこなうことで、企業内でのケアハラを未然に防げるようになります。

ハラスメントに対する方針を明確にする

まず第一に、経営層が「ケアハラは会社として許さない、ケアハラが発覚した場合には、会社として相応の処分を下す」といった姿勢を示すことでケアハラに対する抑止力につながります。

具体的に、どのような行為が該当するかを明確に定め、その方針を公表することで、従業員の理解を促進できます。

方針の明確な発表は、企業全体の文化としてハラスメントを防ぐ第一歩であり、従業員に対する信頼性の向上にもつながります。

社内方針を従業員に周知・啓発する

明確な方針を策定した後、その方針を従業員へ周知させることが不可欠です。

定期的な社内研修や説明会を通じて、全従業員に対してケアハラスメントの概念や、企業が取るべき行動の周知が求められます。

また、ポスターや社内のコミュニケーションツールを使って、方針を繰り返し知らせることで、従業員がいつでも確認できるようにすると、周知が徹底されていきます。

とくに、介護を必要とする従業員やその上司に対しては、個別に相談を行い、具体的な支援制度や権利を理解してもらうと効果的です。

周知や啓発の徹底によって、従業員が制度を利用しやすくなり、ケアハラのリスク減少につながります。

ハラスメント相談窓口を設置する

ケアハラは、被害を受けた従業員が相談しない事案も多いため、気軽に相談できるようにハラスメント相談を受ける窓口を設置しましょう。

窓口の担当者は、社外の専門スタッフ、社内の従業員のどちらでも可能ですが、社内の従業員の場合は適切な研修を受け、迅速な対応ができるようにフローを明確にしておきましょう。

>ハラスメント相談窓口に関する記事はこちら

ハラスメント教育や研修の実施

近年では、さまざまなハラスメントが定義化されており、ケアハラに限らず、どのような言動がハラスメントに該当するのか判断に迷う場面も多くなっています。

悪気なくハラスメントをおこなっている事例があるように、何がケアハラになるのかわからないとなると、ケアハラ対策は十分とはいえません。

そのため、会社としても「こういった言動がハラスメントに該当し、会社としてはこれを許さない」として、研修や教育を通じて社内に示す必要があります。

>ハラスメント教育に関する記事はこちら

社内アンケートで実情を把握する

現状、ケアハラに悩んでいる人、または同僚がケアハラを受けているという声はもちろん、同僚が介護のため休暇を取る、残業を減らすといったことについてどう感じるのか、そういった意見を募る機会を設けましょう。

アンケート結果の中には、自社における実情を表しているものもあるかもしれません。

アンケートは、ある程度の匿名性が確保できるのであれば、コミュニケーションツールを用いてもよいでしょう。

ケアハラスメントを放置するリスク

ケアハラに対して何の対策もおこなわず放置した場合、職場環境の悪化や労働力の喪失につながり、企業の業績にも直接的な悪影響を与えます。

具体的なリスクについて、解説していきます。

  • 離職者・休職者の増加
  • 生産性の低下
  • 社会的信用の喪失

企業の業績にも直接的な悪影響を与えるため、早期に対策を講じることが重要です。

離職者・休職者の増加

職場で不当な扱いや差別を受け続けると、精神的・肉体的に疲弊し、最終的には職場を離れる決断をするケースが多くあります。

企業は貴重な人材を失い、さらに新たな人材の採用や教育にコストがかかるという悪循環が生じるでしょう。

生産性の低下

会社は、チームプレイで運営されるものであり、各従業員の連携がとれていないと業務はうまく回りません。

ケアハラによって人間関係がギクシャクしていると業務の運営にも支障をきたし、その結果、ミスやクレームといった生産性の低下を招くこととなります。

社会的信用の喪失

会社は従業員に対して、その安全や職場環境を整える義務があり、これを怠ると最悪法的な責任を追及される可能性もあります。

たとえば、ケアハラの被害があったにも関わらず、放置して心身を壊してしまったとして、会社に損害賠償請求を求めて訴訟を起こすといった可能性もゼロではありません。

このような事態になれば、その事実は瞬く間に社外に拡散され、当然、会社の信用は失われることとなります。

ケアハラスメント対策にも「Chatwork」

少子高齢化が進み、家族の介護をしなければならない人が増える未来が、容易に想像できる日本において、ケアハラに対する取り組みは多くの企業にとって重要な課題の一つとなります。

本記事の内容を参考に自社の実情に即した取り組みを検討してみましょう。

また、ケアハラ対策における社内への周知や情報共有、相談窓口の設置などにはチャットツールが便利です。

ビジネスチャット「Chatwork」では、複数人を招待したグループチャットが作成でき、チームメンバーとの情報共有もスムーズです。

>Chatworkのグループチャットに関する記事はこちら

また、ハラスメントに関する全社へのアナウンスや、周囲の目を気にせず相談できるハラスメント相談窓口チャットの設置など、ケアハラ対策の一環として有効です。

円滑なコミュニケーションの流れをつくるためにも、ぜひ「Chatwork」をご活用ください。

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[注1]出典:厚生労働省「育児・介護休業法について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
[注2]出典:厚生労働省「公表されている介護サービスについて」
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/

※本記事は、2024年9月時点の情報をもとに作成しています。


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Chatworkのお役立ちコラム編集部です。 ワークスタイルの変化にともなう、働き方の変化や組織のあり方をはじめ、ビジネスコミュニケーションの方法や業務効率化の手段について発信していきます。


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記事監修者:國領卓巳(こくりょうたくみ)

2009年京都産業大学法学部卒業、2010年に社会保険労務士の資格を取得。建設業界、製造業、社会保険労務士兼行政書士事務所での勤務を経て独立開業。行政書士資格も取得。中小企業の社長向けに「労務管理代行、アドバイザリー事業」「助成金申請代行事業」「各種補助金(事業再構築補助金、小規模事業者持続化補助金など)」を展開、企業経営のサポートをおこなう。

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