コアコンピタンスとは?意味や見極め方・手順を事例付きで解説
目次
企業の持続的な成長を目指すためには、他者が真似できない企業の核となる強み「コアコンピタンス」を確立させる必要があります。
本記事では、コアコンピタンスの意味や見極める方法・手順、成功に導くポイントを、事例付きで解説します。
コアコンピタンスの見極め方や見極めるポイントを知りたい企業の方は、ぜひご参照ください。
コアコンピタンスの意味と条件
コアコンピタンスとは、他社が真似できない企業の核となる能力や強みのことです。
英語でコア(core)は「中核」、コンピタンス(competence)は「能力」を意味します。
コアコンピタンスは、アメリカのコンサルティング会社の創始者であるゲイリー・ハメルと、企業戦略教授として活躍するC・K・プラハラードの共著『コア・コンピタンス経営』ではじめて提唱された概念です。
以下の3つの条件を満たすことがコアコンピタンスの条件とされています。
- 条件(1):顧客に利益をもたらす自社能力
- 条件(2):他社が真似できない、真似しづらい自社能力
- 条件(3):他社が真似できない、真似しづらい自社能力
コアコンピタンスとケイパビリティの違い・関係性
コアコンピタンスと似ている言葉として、同じく企業の強みを意味する「ケイパビリティ」という言葉があります。
2つの言葉の違いは、強みの範囲にあります。
「ケイパビリティ(capability)」は、英語で「能力」や「才能」を意味する言葉で、ビジネスにおいては、組織全体的な強みを指します。
コアコンピタンスは、バリューチェーン上における特定の強みを指すため、組織全体におよぶ高度な能力や強みを指すケイパビリティとは異なります。
ケイパビリティを重視し、組織の能力を高めることで、企業戦略を実現でき、市場において競争優位に立てるようになるでしょう。
インサイド・アウト戦略によるコアコンピタンス経営
市場・マーケティング分析のひとつに、以下の4つの項目を整理して、自社の事業活動における課題発見やマーケティング戦略・経営戦略につなげる「SWOT分析」というものがあります。
内部環境 | |
---|---|
外部環境 |
企業の核となる能力や強みを活かして、他社との差別化を図ろうとする「コアコンピタンス経営」は、SWOT分析でいう内部環境の「強み」と「弱み」に着目したインサイド・アウトの考え方に近い経営手法です。
インサイド・アウトは、自社の技術力や製品力などの内部環境に着目する戦略で、市場や競合などの外部環境に着目するアウトサイド・インの戦略よりも、外部環境に左右されずに、市場の優位性を保つことができる経営戦略です。
インサイド・アウト戦略を採用すると、市場の変化に左右されるずに、社内で培った技術力や製品力を活かして市場優位性を確保できるので、企業の安定的な経営を目指すこともできます。
インサイド・アウト戦略を採用するうえでは、自社の強みや弱みを正確に把握し、伸ばしていく必要があります。
では、自社の強みとなる「コアコンピタンス」は、どのように見極めればよいのでしょうか。
「コアコンピタンス」の見極め方や手順について、詳しく確認していきましょう。
コアコンピタンスを見極めるための5つの視点
コアコンピタンスを提唱したゲイリーハメルとC・K・プラハラードは、共著『コア・コンピタンス経営』で、コアコンピタンスを見極めるためには、以下の5つの視点が必要だとしています。
- 模倣可能性(Imitability)
- 移動可能性(Transferability)
- 代替可能性(Substitutability)
- 希少性(Scarcity)
- 耐久性(Durability)
コアコンピタンスを見極めるために必要な5つの視点について、詳しく確認していきましょう。
模倣可能性(Imitability)
自社が保有している能力が、競合他社に模倣されたり、追いつかれて実現されたりする懸念がないかを確認する必要があります。
他社が模倣や追随できてしまう能力は、コアコンピタンスとはいえません。
コアコンピタンスを生み出すためには、自社のみが実現できるような能力を開発する必要があります。
移動可能性(Transferability)
ひとつの技術やサービスがほかの商品や分野に利用や応用できることは、コアコンピタンスに必要な要素です。
たとえば液晶画面は、テレビだけでなくスマートフォンにも応用できます。
汎用性の高い能力か否かと考えると、わかりやすいでしょう。
代替可能性(Substitutability)
自社の技術や能力が唯一無二のものであり、ほかの商品やサービスで代替が不可能である場合、自社のコアコンピタンスということができます。
簡単に代替がきく技術や能力では、自社の核となる強みにはなりえないでしょう。
コアコンピタンスにするためには、代替がきかないオリジナリティやユニークさが必要です。
希少性(Scarcity)
自社の能力が珍しく、希少であることも、コアコンピタンスに必要な要素です。
希少性を満たしているかの判断が難しい場合は、他者が真似することができないかを判断する「模倣可能性」と、ほかの商品やサービスで代替できないか判断する「代替可能性」の要素が満たされているかを確認するようにしましょう。
この二つの要素が満たされていれば、希少性も満たされていると判断することができます。
耐久性(Durability)
耐久性とは、自社の能力を長期にわたり維持でき、他社からも模倣されず、競争優位に立ち続けることを指します。
IT技術の進化や発展が続く昨今、市場や環境は目まぐるしく変化しますが、ブランディングを確立し、他社との差別化を図ることで、変化の影響を受けず、長期的な競争優位を維持できるでしょう。
コアコンピタンスを見極めるための手順
コアコンピタンスを見極めるための5つの視点を確認したところで、次にコアコンピタンスを見極める手順を確認していきましょう。
- 手順(1):自社の強みを洗い出す
- 手順(2):自社の強みを評価する
- 手順(3):自社の強みを絞りこむ
自社のコアコンピタンスを正しく見極めるためには、どのような手順を踏む必要があるのかをわかりやすく解説します。
手順(1):自社の強みを洗い出す
自社のコアコンピタンスを見極めるためには、まず、自社の強みとなる部分や要素を洗い出す必要があります。
さまざまな部署のメンバーを集め、能力や技術のみでなく、社風や文化など、多角的な視点で自社を考え、コアコンピタンスとなりえる要素を洗い出します。
強みを洗い出す際は、自由に考えを発するブレインストーミングや、物事を要素ごとにわけて考えるロジックツリーなどのフレームワークを活用するとよいでしょう。
手順(2):自社の強みを評価する
自社の強みを洗い出せたら、その強みが、コアコンピタンスの3つの条件に該当するかを確認しましょう。
適切に評価するためには、それぞれに点数をつけることが望ましいです。
点数をつける際は、競合他社と比較した場合の点数をつけたり、100点を基準として現在の点数を考えたりするといいでしょう。
点数をつけたあとは、強みごとの点数を比較し、コアコンピタンスとなりえる強みを見つけ出します。
【例:強み(1)の評価表】
自社 | 競合他社A | 競合他社B | |
---|---|---|---|
顧客に利益をもたらす能力 | 50 | 70 | 70 |
他社が真似できない能力 | 80 | 90 | 60 |
複数市場・商品へのアプローチ能力 | 40 | 50 | 40 |
合計点数 | 170 | 210 | 170 |
手順(3):自社の強みを絞り込む
洗い出しと評価が完了したら、最後のステップとして、コアコンピタンスとなりうる自社の強みをさらに絞り込みましょう。
強みを絞り込む際は、前述したコアコンピタンスを見極めるための5つの視点を活用します。
- 模倣されないか
- 汎用性があるか
- 代替される可能性はないか
- 希少性はあるか
- 長期にわたって競争優位に立ち続けられるか
コアコンピタンスは、自社の核となる強みです。
安易な選択は避け、企業の持続的な成長や長期的な競合優位性を目指すうえで、最適なものかどうかを慎重に絞り込みましょう。
コアコンピタンスを成功させるポイント
コアコンピタンスを正確に見極め、企業の持続的な成長を成功させるためのポイントを4つ紹介します。
- ビジョンを明確にする
- 組織力を高める
- 顧客との接点を大切にする
- 常に成長し続ける
コアコンピタンスを見極める際の参考としてみてください。
ビジョンを明確にする
ビジョンを明確にすることで、自社のコアコンピタンスを確立しやすくなります。
企業のビジョンが曖昧な場合、従業員が自社の目指すべき姿をイメージできずに、自社の強みとすべき部分を見出せない恐れがあります。
企業が目指すビジョンを社内で共有すると、従業員は自社の将来の姿がイメージできるようになり、コアコンピタンス確立への意欲を向上させることができるでしょう。
組織力を高める
コアコンピタンスを成功させるためには、特定の従業員のみが尽力すればいいわけではなく、企業に所属する従業員全体でとりくむ必要があります。
コアコンピタンスは、自社の核となる強みであり、さまざまな部署間の連携や、能力の高さによってつくりあげられるものです。
コアコンピタンスを確立するためには、従業員の能力や組織の一体感を高める取り組みが重要です。
顧客との接点を大切にする
モノやサービスが次々とうみだされ、あふれている現代において、顧客はよりよいモノやサービスを求め続けています。
そのため、企業の持続的な成長を実現するためには、顧客はどのようなニーズや価値観をもっているのかを把握するなど、定期的な接点をもつことが大切です。
常に成長し続ける
企業は、コアコンピタンスを確立したからといって安心するのではなく、常に成長し続ける姿勢をもつことが重要です。
コアコンピタンスを高め続けない場合、いずれ競合他社に追いつかれたり、技術力が落ち衰退したりする恐れがあります。
競争優位を維持し続けるためにも、コアコンピタンスを高め、常に成長し続ける意識をもちましょう。
コアコンピタンスの具体的な企業事例
最後に、コアコンピタンスの確立に成功した企業の事例を紹介します。
コアコンピタンスの見極めや確立を目指す際には、現在どのようなコアコンピタンスが存在しているのかを知ることも大切です。
自社のコアコンピタンスを見極める際の参考としてみてください。
エンジン技術
世界的に誇れる輸送機器・機械工業を取り扱うある日本企業は、環境に優しいエンジン技術をコアコンピタンスとしています。
この企業は、排気ガスによる大気汚染の問題が深刻化したことで、自動車の販売基準が厳しくなった状況を好機として、大気汚染の専門研究室を設立し、環境に優しいエンジンの開発に成功しました。
このエンジン技術は、自動車に限らず、芝刈り機や発電機、除雪機などに汎用的に活用できる技術です。
他社が真似することができない圧倒的な技術力や、移動可能性などの条件を満たしたコアコンピタンスといえるでしょう。[※1]
液晶技術
電気通信機器や電気機器などの製造・販売を主な事業内容とするある日本企業は、液晶の研究開発に成功し、コアコンピタンスを確立しました。
もともとはシャープペンシルなどの製造に取り組んでいたこの企業は、時代の流れに乗ってテレビの研究をはじめ、液晶パネルの研究開発に成功しました。
この液晶パネルの技術は、テレビや電卓などに転用され、現在では、携帯電話やゲーム機、時計などのさまざまな電子機器で活用されています。
他社に真似できない技術力で、コアコンピタンスを確立に成功した事例です。[※2]
精密な技術力
印刷機器や光学デバイスなどを取り扱うある日本のメーカーは、写真フィルムの分野で活用していた技術力を応用して、新たな分野でのコアコンピタンスを確立しました。
もともとフィルム事業で広く知られていたこの企業は、デジタルカメラの普及にともない、フィルム事業の大きな需要減退に見舞われてしまいました。
しかし、この企業は事業を縮小するのではなく、フィルム事業で培った「精密な技術力」と「コラーゲンを生み出す開発力」を応用し、医療やスキンケア化粧品の領域に進出するという大きな転換をはかりました。
この挑戦は成功し、高い技術力や他社には真似できないオリジナリティが高い製品の開発で、新たな分野でコアコンピタンスを確立しています。[※3]
小型化技術
日本で初めてテープレコーダーを開発したある企業は、高い技術力と製品の小型化でコアコンピタンスを確立した企業です。
テープレコーダーの開発は画期的なものではありましたが、高額かつ大型で、一般消費者には手が出しにくい商品でした。
この実態を受けた企業は、開発の成功のみで手を止めることなく、「もっと小さくできないか」に取り組み続け、製品の小型化・軽量化を目指しました。
結果として、外でも手軽に持ち運べて、どこでも音楽が聞ける製品の開発に成功し、新たなライフスタイルの創出にも成功しました。
小型化の技術は、現在テレビやカメラなどの製品にも活用されています。[※4]
流通ネットワーク
コンビニエンスストアや総合スーパー、レストランなどの幅広い業態のネットワークを展開する日本の企業は、他社が真似できない圧倒的な店舗数や購買数でコアコンピタンスを確立しています。
この企業は、コンビニエンスストア事業を中心に、総合スーパーやレストラン、またEC事業などのそれぞれの得意分野を活かして、さまざまな顧客ニーズに柔軟に対応することで、企業を成長させることに成功しました。
近年では、流通ネットワークで確立したコアコンピタンスを活用して、銀行ATMの設置などの金融サービスの展開も手がけています。
技術力を活かした商品やサービスだけでなく、流通ネットワークもコアコンピタンスになり得ることがわかった事例です。[※5]
ブランディング
女性用のインナーウェアを中心に衣料品の製造・販売をおこなうある日本企業は、「世の女性に美しくなって貰う事によって広く社会に寄与する」という目標を掲げ、ブランド力の向上に取り組んでいます。
この企業が創業された当時、「女性用インナーウェア」は希少性が高く、ニッチな業界とされていました。
このような状況のなかで、「美」「快適」「健康」の価値を提供できる製品開発や、製品価値を伝達できる販売経路の絞り込みなどに取り組み、女性用インナーウェア市場で確固たる地位を築き上げました。
「下着もファッションの一部とする」ブランディングにも成功し、コアコンピタンスの確立に成功しています。[※6]
コアコンピタンスの確立にも「Chatwork」
コアコンピタンスは、他社が真似できない企業の核となる強みのことです。
確立するためには、ただ強みを洗い出せばいいわけではなく、組織力を高め社員一丸となって取り組む姿勢が大切です。
まずは、自社のビジョンを従業員に共有し、従業員全体にコアコンピタンスの理解を深めるところからはじめましょう。
従業員全体への情報共有や、本記事で紹介した自社の強みの洗い出しをスムーズにおこなう方法として、ビジネスチャット「Chatwork」の活用が便利です。
テレワークやリモートワークなど、従業員それぞれが異なる場所で働く働き方を採用している企業が昨今増えています。
柔軟な働き方の採用で、ワークライフバランスが実現できるようになった一方で、顔をあわせて話す機会が減ってしまい、コミュニケーション不足や意思疎通の難しさに課題を抱える企業は多いのではないでしょうか。
ビジネスチャット「Chatwork」は、チャット形式やビデオ・音声通話形式でコミュニケーションがとれるツールで、離れた場所にいても、スムーズでスピーディなコミュニケーションが実現できます。
また「Chatwork」は、グループチャット機能を活用することで、複数人で同時にやりとりができるので、たとえば、自社の強みを洗い出す際のブレストや従業員全体に向けた情報共有も、簡単におこなうことができます。
コアコンピタンスを確立して、企業の持続的な成長を目指すためには、従業員の協力が欠かせません。
ぜひ「Chatwork」を活用して、従業員が働きやすい環境の構築と、コアコンピタンスの確立の両立を目指してください。
Chatwork(チャットワーク)は多くの企業に導入いただいているビジネスチャットです。あらゆる業種・職種で働く方のコミュニケーション円滑化・業務の効率化をご支援しています。
[※1]出典:本田技研工業「75年史 第3章 独創の技術・製品 第2節 四輪車 第3項 CVCCエンジン」
https://global.honda/jp/guide/history-digest/75years-history/chapter3/section2_3/
[※2]出典:シャープ株式会社「シャープを支える製品・技術」
https://corporate.jp.sharp/ir/personal/products/
[※3]出典:富士フイルム「富士フイルムの技術」
https://brand.fujifilm.com/sekai-hitotsuzutsu/
[※4]出典:ソニーグループポータル「Sony History 第6章 理屈をこねる前にやってみよう」
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/CorporateInfo/History/SonyHistory/2-06.html
[※5]出典:セブン&アイ・ホールディングス「経営レポート(統合報告書)価値創造プロセス」
https://www.7andi.com/library/ir/library/mr/pdf/mr_pdf-01.pdf
[※6]出典:ワコールホールディングス「ワコールの強み」
https://www.wacoalholdings.jp/group/vision/
※本記事は、2024年9月時点の情報をもとに作成しています。