【社労士監修】年末調整とは?手順や書き方、必要な書類をわかりやすく解説

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【社労士監修】年末調整とは?手順や書き方、必要な書類をわかりやすく解説

目次

年末調整は従業員の所得税を確定し、過不足を精算する手続きです。

従業員の所得税は企業が代わりに納付しており、年末調整により企業が従業員ひとりひとりの所得税を確定させています。

この記事では、年末調整の対象者や手順、実務上の注意点などを詳しく解説します。

年末調整とは

年末調整とは、簡単にいうと「所得税の過不足精算」です。

企業に勤める従業員の所得税は、給与や賞与から天引きされ企業が代わりに納めています。

しかし、天引きされている所得税は、あくまで概算で算出されたものであり、正確な金額ではありません。

そのため、年末調整によって正しい所得税を計算する必要があります。

年末調整では、確定した所得税と給与・賞与から徴収した概算の所得税を比較し、過不足があれば従業員に還付または徴収をおこないます。

また、企業は確定した従業員の所得税を、税務署や市区町村に報告をする必要があります。

年末調整の対象

年末調整は、対象になる人と対象にならない人がいます。

それぞれの条件をくわしく解説します。

対象になる人

年末調整の対象者は「扶養控除等(異動)申告書」を企業に提出した一定の人です。[※1]

正社員、パート・アルバイトなど雇用形態に関わりはありません。

具体的に対象となる人は以下のとおりです。

・1年間を通して勤務している人
・年の中途で就職し年末まで勤務している人

・12月の途中に退職する人で12月の給与を受け取った後に退職する人

原則上記の条件に該当する人が対象となりますが、年の中途で非居住者なった人や死亡退職した人は、年の途中でも年末調整が必要です。

対象にならない人

年末調整の対象にならない人は以下のとおりです。

・給与収入が年間で2,000万円を超える人
・災害減免法の規定により、所得税などの源泉徴収の納付猶予や還付を受けていた人
・扶養控除等(異動)申告書を提出していない人
・2か所以上から給与の支払を受けており、他の勤務先に扶養控除等(異動)申告書を提出している人
・年の途中で退職した人(12月の給与を受け取った後に退職する人を除く)
・中途入社をした人で、前職の源泉徴収票(今年分)の提出ができない人
・非居住者

年末調整の対象にならない人は、原則として3月15日までに個人で確定申告が必要になります。

年末調整に必要な書類

令和4年時点で年末調整に必要な書類は以下のとおりです。[※2]

・扶養控除等(異動) 申告書
・保険料控除申告書
・基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
・住宅借入金等特別控除申告書(住宅ローン控除)

それぞれの内容を詳しく解説します。

扶養控除等(異動) 申告書

「扶養控除等(異動) 申告書」とは、扶養控除を受ける際に必要となる書類です。

扶養している親族や配偶者がいる場合に、従業員が申告をすることで税金の負担が軽減できます。

適用できる主な控除は以下のとおりです。

  • 配偶者控除
  • 扶養控除
  • 障害者控除
  • 寡婦控除
  • ひとり親控除
  • 勤労学⽣控除

また、「扶養控除等(異動) 申告書」は扶養する親族や配偶者がいない場合でも提出してもらわなければいけません。

提出がない場合は、給与から天引きされる源泉徴収税額で「乙」欄が適用されることになり、申告書を提出した場合よりも高い税率で所得税を控除する必要があります。

保険料控除申告書

保険料控除申告書とは、従業員が1年間に支払った保険料を申告する書類です。

申告の対象となる主な保険料は以下のとおりです。

  • 生命保険料
  • 地震保険料
  • 社会保険料
  • 小規模企業共済等掛金

生命保険料や地震保険料については「保険料控除申告書」に基づいて控除の適用を受けることができます。

また、社会保険料や小規模企業共済等掛金のうち、毎月の給与から差し引かれていない保険料で、従業員本人が直接支払った保険料についても控除が可能です。

保険料控除をする際には、原則保険料を証明する証明書の原本の回収が必要になります。

ただし、電子データにより受け取った場合は原本の回収は必要ありません。[※3]

基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書

「基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」は以下3つの申告書がひとつにまとまった書類です。

  • 基礎控除申告書
  • 配偶者控除等申告書
  • 所得金額調整控除申告書

基礎控除申告書

「基礎控除」とは、従業員の合計所得金額が2,500万円以下である場合に、金額に応じて最大48万円が控除される制度です。

令和元年分までは合計所得金額に関わらず一律38万円の控除でしたが、改正により変更されました。

基礎控除額は所得金額によって以下のように控除額が変わります。

合計所得金額 基礎控除額
2,400万円以下 48万円
2,400万円超2,450万円以下 32万円
2,450万円超:2,500万円以下 16万円
2,500万円超 0円

なお、年末調整で基礎控除申告書の提出漏れがあった場合は、基礎控除が適用されませんのでご注意ください。

配偶者控除等申告書

「配偶者控除」とは、従業員の合計所得金額が1,000万円以下で、その従業員と生計を一にする配偶者の合計所得金額が、48万円以下である場合に受けられる控除です。

従業員の合計所得金額に応じて38万円を限度に控除されます(配偶者が70歳以上の場合は48万円を限度に控除)。

また、配偶者の合計所得金額が48万円を超え133万円以下である場合には、従業員の合計所得金額と配偶者の合計所得金額に応じて最大38万円が控除される「配偶者特別控除」が適用されます。

得金額調整控除申告書

「所得金額調整控除」とは、年末調整の対象となる給与の収入金額が850万円を超える人が次のいずれかの要件を満たす場合に適用される控除です。

  • 23歳未満の親族を扶養している
  • 従業員本人が特別障害者である
  • 従業員の扶養している親族や配偶者が特別障害者である

控除額は以下の計算式により算出し、15万円を限度として給与所得の金額から控除します。

【所得金額調整控除額の算式】
(給与等の収入金額(1,000万円を超える場合は1,000万円)-850万円)×10%

なお、「所得金額調整控除」は、同一世帯である夫婦の両方が給与の収入金額850万円を超えていて、かつ23歳未満の扶養親族がいる場合は、夫婦両方に控除が適用されます。

たとえば、夫婦それぞれの給与収入金額が850万円を超えており、20歳の子どもがいる場合は、夫婦の両方とも所得金額調整控除を受けることができます。

住宅借入金等特別控除申告書(住宅ローン控除)

「住宅借入金等特別控除」とは、住宅借入金の年末残高に応じて一定額を税額から直接差し引く控除です。

「住宅借入金等特別控除申告書」を従業員から提出された場合に年末調整で控除ができます。

ただし、初年度分は確定申告により申告が必要になるため、初年度に限り年末調整で控除はできません。

作成しなければいけない提出書類

年末調整は所得税の過不足を精算したあとに以下の書類を作成しなければいけません。

  • 源泉徴収票
  • 法定調書合計表
  • 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
  • 給与支払報告書

各書類について詳しく解説します。

源泉徴収票

源泉徴収票は、年間の給与額や控除額をまとめて記載した書類です。

原則、従業員ひとりにつき従業員に交付する「受給者交付用」と、税務署に提出する「税務署提出用」の合計2部を作成する必要があります。

法定調書合計表

法定調書合計表は、企業が1年間に支払った給与や報酬などの合計金額がまとめられた書類です。

原則として翌年の1月31日までに作成し、税務署に提出しなければいけません。

報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書

報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書とは弁護士や税理士の報酬などに支払った報酬金額が記載された書類です。

個人事業主である弁護士や税理士などの専門家やフリーランスに仕事を依頼し、報酬を支払った場合に作成します。

一定の支払金額を超えるものは、支払調書を法定調書合計表に添付して税務署に提出が必要です。

給与支払報告書

給与支払報告書は、市区町村が従業員の住民税を計算するために必要な書類です。

その年の給与所得などの必要事項を記入し、翌年の1月31日までに従業員の住んでいる市区町村に提出します。

なお、記載内容は源泉徴収票とほぼ同じで、従業員ひとりにつき2部作成する必要があります。

年末調整の手順・流れ

年末調整の手順と流れを解説します。

>年末調整をペーパーレス化する方法とメリットに関する記事はこちら

書類の配布

まず、年末調整の対象者に対して書類の配布をします。

令和4年現在で必要になる書類は以下の3つです。

  • 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
  • 給与所得者の保険料控除申告書
  • 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書

また上記の書類以外にも、従業員に記入依頼をするために、記入例や扶養の基準などを案内する書類を配布するようにしましょう。

問い合わせ対応

書類を受け取った従業員は、扶養に入れる親族や今年の収入・所得などを確認し、必要事項を記入します。

ただし税制改正により制度が複雑になり、かつ控除額の計算も必要なことから、従業員から頻繁に問い合わせがあります。

ひとりひとりの状況を確認しながら、対応に当たりましょう。

書類の回収

人事担当者は書類の回収状況を随時確認し、期限までに提出していない従業員には催促を行う必要があります。

回収ができないと所得税が確定できないため、書類は必ず回収しましょう。

内容の確認と控除額の検算

書類の回収ができたら、記載内容の確認や控除額の検算をおこないます。

主な確認内容は以下の3つです。

  • 扶養親族が所得基準を満たしているか
  • 保険料・住宅ローン控除などの控除額があっているか
  • 必要な証明書は揃っているか

提出された書類は徹底して確認をおこないましょう。

記載内容に間違いや不足があれば、所得税を正しく算出できないため、徹底した確認が必要です。

源泉徴収票の交付

所得税の過不足精算を終えたら、従業員に源泉徴収票を交付します。

確定申告に使用する従業員もいるため、早めに交付しましょう。

なお、再年末調整を行った従業員がいる場合は、再年末調整後に対象の従業員に対して改めて源泉徴収票を交付する必要があります。

法定調書・給与支払報告書の提出

翌年1月31日までに法定調書と給与支払報告書を提出します。

提出先は法定調書が税務署、給与支払報告書が市区町村です。

年末調整をおこなううえでの注意点

最後に年末調整の実務をおこなううえでの注意点を紹介します。

ひとり親控除

「ひとり親控除」は年末調整の実務上で申告漏れが多い項目のひとつです。[※4]

「ひとり親控除」は、合計所得金額が500万円以下のシングルマザー・シングルファザーを対象とした控除で、未婚であっても適用されます。

たとえば、従業員が離婚して子どもを扶養している場合は「ひとり親控除」が適用される可能性があります。

従業員が申告漏れをしている可能性が高いため、注意してチェックしましょう。

住宅ローンの借り換え

住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)は、従業員がローンの借り換えを行った場合、控除額の計算が変わる可能性があります。

ローンの借り換えを行った場合の計算は次のとおりです。[※5]

・A=借換え直前における当初の住宅ローン等の残高
・B=借換えによる新たな住宅ローン等の借入金額(当初金額)
・C=借換えによる新たな住宅ローン等の年末残高

(1) A≧Bの場合
対象額=C

(2) A 対象額=C×A/B

つまり、「新たな住宅ローンの借入金額」が「借換え直前における当初の住宅ローンの残高」よりも金額が大きい場合は、指定の計算式にあてはめて控除額を算出する必要があるのです。

従業員にはあらかじめ、住宅ローンを借りた場合の計算式について案内するようにしましょう。

休業・休職中の従業員の年末調整

育児休業や傷病による休職などで長期休業している従業員も年末調整の対象になります。

休業・休職を理由に年末調整の対象から外すことはできません。

自宅に書類や案内を送り返送してもらうようにしましょう。

年末調整はミスのないよう準備を徹底しよう

年末調整は企業の担当者にとって年に一度の大きな業務のひとつです。

税制改正により年々煩雑化しており、計算ミスや確認漏れも起きやすくなっています。

しっかりとポイントを押さえて、ミスなく運用ができるよう準備をしておきましょう。

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[※1]国税庁「年末調整の対象となる人」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2665.htm

[※2]国税庁「令和4年分年末調整のしかた」
https://www.nta.go.jp/users/gensen/nencho/index/shikata.htm#a01

[※3]国税庁「年末調整手続の電子化の概要・メリット」
https://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/nencho_01.htm

[※4]国税庁「ひとり親控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1171.htm

[※5]国税庁「住宅ローン等の借換えをしたとき」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1233.htm


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Chatworkのお役立ちコラム編集部です。 ワークスタイルの変化にともなう、働き方の変化や組織のあり方をはじめ、ビジネスコミュニケーションの方法や業務効率化の手段について発信していきます。


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記事監修者:北 光太郎(きた こうたろう)

きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。

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