コーピングとは?種類や効果的な実践方法、企業で導入する方法を解説
目次
コーピングとは、ストレスに対してなにかしらの対処行動をとることです。
職場におけるメンタルヘルスへの関心の高まりから、コーピングにも注目が集まっています。
この記事では、コーピングとはなにか、コーピングの種類や特徴、効果的な実践方法や企業での活用方法についてわかりやすく解説します。
コーピングとは
「コーピング」とは、ストレスに対する対処行動を意味するメンタルヘルス用語です。
英語では「coping」と表され、対処するという意味をもつ「cope」が語源となっています。
コーピングは、ストレスの要因を知り、負担を軽減させる目的で実施するもので、ビジネスシーンでコーピングを活用すると、パフォーマンスやモチベーションの向上を期待することができます。
コーピングの具体例としては、以下のようなものがあげられます。
- 気晴らしに音楽を聴く
- 人に相談する
- 好きなものを食べて気分転換する
- 早く寝て心身をリフレッシュする
コーピングは、ただの気晴らしやストレス解消法ではなく、ストレスの要因を知り、向き合い、適切に対処していくものです。
適切にコーピングが活用できるように、種類や実践方法を詳しくみていきましょう。
防衛機制(適応機制)との違い
コーピングと似た概念の言葉に、防衛機制(適応機制)があります。
防衛機制とは、不安や罪悪感などの不快な感情の体験に対処するために用いられる、心理的な働きのことです。
コーピングは意識的にとる行動を指しますが、防衛機制は無意識におこなわれる心の働きを指します。
ただし、防衛機制とコーピングは明確に異なるものではありません。
コーピングのひとつとして、「無意識のうちに笑ってごまかす」といった防衛機制を使用することもあります。
コーピングが注目される背景
企業の組織運営の観点からも、コーピングは注目されています。
注目される背景には、以下のような理由があります。
- ストレスを抱える人が多いから
- 離職率の低下につながるから
- 企業のブランディングにつながるから
近年、仕事でストレスを抱える人が増えており、うつ病などの病気にかかる人も増加傾向にあることから、ストレスへの対処に関心が集まりコーピングが注目されています。
また、ストレスや心の病気は、離職原因になることもあります。
人材確保の観点からも、離職率を下げるためにコーピングは重要です。
また、従業員のメンタルヘルスに関心の高い企業として、ブランディングをおこなうことも可能です。
ストレスとは
厚生労働省の定義では、ストレスとは外部から刺激を受けたときに生じる緊張状態のことです。
外部からの刺激にはさまざまなものがあり、以下に具体例を紹介します。
環境的要因 | 雨が降っていて仕事に行くのが面倒、工事の騒音がうるさくて仕事に集中できない |
---|---|
身体的要因 | 睡眠不足で疲れている、風邪をひいていて接客の仕事でうまく声を出せない |
心理的な要因 | 任された仕事を1人でやり切れるか不安、結婚式を控えていて心配事がたくさんある |
社会的要因 | 職場の上司とうまくいかず人間関係の問題を抱えている、繁忙期で仕事量が増えて忙しい |
ストレスというと、ネガティブな印象があるかもしれませんが、結婚や出産などの喜ばしいポジティブなできごとでもストレスは生じます。[※1]
ストレッサー
ストレスに関連して使われる言葉に「ストレッサー」という用語があります。
ストレッサーは、ストレスを引き起こす原因のことです。
たとえば、「朝から雨が降っていて仕事に行くのが面倒」という場合、雨がストレッサーにあたります。
認知的評価
認知的評価とは、ストレスをどのようにとらえているか、どのように受け止めているかのことです。
同じストレスのもととなるできごとや刺激があっても、人によってどのようにとらえるかは異なります。
「大勢の前でプレゼンテーションをしなければならない」という場面に直面しても、「自分の実力をアピールできるチャンスだ」とポジティブにとらえる人もいれば、「うまくやれなくて恥をかくかもしれない」とネガティブにとらえる人もいます。
ストレスの問題を考えるうえでは、認知的評価も重要な要素です。
ストレス反応
ストレス反応とは、ストレスによって引き起こされる心や身体の反応のことです。
心の反応としては、イライラする、不安になる、悲しいなどがあります。
身体の反応としては、涙が出る、血圧が上がる、おなかが痛いなどがあります。
どのようなストレス反応が出るかは、状況や人によって異なります。
ストレスの悪影響とは
ほどよいストレスであれば、適度な刺激や緊張となり、プラスに働きます。
しかし、強すぎるストレスに慢性的にさらされていると、さまざまな悪影響につながります。
不安などのネガティブな感情が強く、ビジネスシーンで本来のパフォーマンスを発揮できなかったり、腹痛などの体調不良を引き起こしたりします。
ストレスによる悪影響で、日常生活に問題が生じないようにするためにも、ストレスコーピングは重要です。
コーピングの種類と特徴
コーピングにはいくつかの種類があり、それぞれ特徴が異なります。
今回は、コーピングの代表例として、以下の2種類を紹介します。
- 問題焦点型コーピング
- 情動焦点型コーピング
それぞれのコーピングの特徴を解説します。
問題焦点型コーピング
問題焦点型コーピングとは、ストレスの原因に直接対処する方法のことです。
たとえば、仕事でノルマの営業件数を達成できるか不安を感じている場合、営業件数を達成するための具体的な方法を考え、実行するという行動が当てはまります。
情動焦点型コーピング
情動焦点型コーピングは、ストレス状況によって感じる情動や感情面にアプローチする方法です。
たとえば、大事な面接の前に緊張しているとき、音楽を聴いてリラックスするといった方法があります。
音楽を聴いても面接はなくならず、直接的に面接の成功につながるわけでもありませんが、音楽を聴くことで緊張がほぐれる効果が期待できます。
緊張がほぐれた結果として、面接がうまくいく可能性があり、情動焦点型のコーピングも重要なストレスへの対処法です。
コーピングの効果的な実践方法
効果的にコーピングを実践するための方法を2つ紹介します。
- コーピングリストを作成する
- 人に相談する
自分にあった方法でコーピングが実践できるように、確認していきましょう。
コーピングリストを作成する
いまの状況に対してとれる対処法をリストにして、コーピングリストを作ってみましょう。
できるかどうかの実現可能性は気にせず、まずはひとつでも多くのコーピングをリストアップすることが大切です。
たくさんのコーピングをリストアップできれば、それだけでも「こんなにたくさんの対処法がある」と心を落ち着かせる材料になります。
目で見てわかるように、実際にリストとしてコーピングを書き出してみましょう。
人に相談する
ストレスについて、周囲に相談するのも効果的です。
問題そのものの解決方法を教えてもらえるなど、問題焦点型コーピングにつながる可能性もあります。
話を聞いてもらうことで、不安や緊張が少なくなるなど、情動焦点型コーピングになることもあるでしょう。
コーピングを企業で導入する方法
社員のストレスに対するコーピング能力を高めるために、企業として実践できる方法を5つ紹介します。
- 産業医の活用
- 相談窓口の設置
- メンター制度の活用
- 1on1の活用
- 職場環境の改善にとりくむ
企業の持続的な成長を目指すうえで、従業員のストレス対策は重要です。
ぜひ取り組みやすいものから取り組みを開始してみてください。
産業医の活用
産業医がいる企業は、頼れる専門家がいる企業といえます。
産業医による研修や、産業医との面談を通してコーピングの機会提供ができるでしょう。
相談窓口の設置
職場のストレスや問題について、相談窓口を設置するのも、コーピングに役立ちます。
相談窓口があることで、問題を一人で抱え込んでしまうリスクを減らせます。
とくにハラスメントの問題については、組織的な対応も必要になるため、相談窓口があることの重要性は高いといえるでしょう。
メンター制度の活用
メンター制度があれば、気軽に相談できる相手ができるため、コーピング能力の向上につながります。
新入社員はとくに不安や悩みを感じやすいので、メンターの存在は心強いでしょう。
1on1の活用
1on1は社員ひとりひとりとじっくり話ができる機会です。
日ごろ話しづらいことも、1on1なら話せるということもあるでしょう。
話を聞いてもらえたことで安心につながり、場合によっては具体的な解決策を検討することも可能です。
職場環境の改善にとりくむ
会社の職場環境は社員のストレスに影響をおよぼします。
快適な休憩室をつくる、人員配置の工夫など職場環境の改善により、社員のストレスが軽減する可能性もあります。
適切なストレス対処で健康経営を目指しましょう
コーピングとは、ストレスに対してなにかしらの対処行動をとることです。
社員のコーピング能力を高めることで、ひとりひとりが最大限のパフォーマンスを発揮し、企業としても大きな成果をあげられます。
近年、チャットツールを使って職場環境の改善、円滑なコミュニケーションの実現を目指している企業も多いです。
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[※1]出典:厚生労働省「1.ストレスって何?」
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/first/first02_1.html
※本記事は、2023年6月時点の情報をもとに作成しています。
記事監修者:山崎ゆうき(やまざきゆうき)
臨床心理士・公認心理師の資格を所持。司法・障害福祉領域などでの勤務を経て、独立開業。メンタルヘルス系の記事を中心に、心理学の知識をいかした記事執筆・監修を担当。心理学の知識をわかりやすく、日常でも実践しやすい形で発信しています。