【社労士監修】ハラスメントの定義とは?種類や原因、対応方法をわかりやすく解説

目次
働き方の多様化や、個々人にとっての「働く意味」が見直されつつある現代において、「ハラスメント」というワードを耳にする機会も増えてきました。
昔からよく耳にしていた「セクハラ」「パワハラ」に加え、最近では、聞いたこともないハラスメントが続々と出現しています。
企業にとっては、悩ましいテーマのひとつとなりつつある、「ハラスメント」について、その定義や種類について解説していきましょう。
ハラスメントとは
一般的な言葉として広まった「ハラスメント」ですが、そもそもの定義を理解できていない人もいることでしょう。
あらためて、ハラスメントの定義について確認しておきましょう。
ハラスメントの意味と定義
ハラスメントとは、広い意味で「嫌がらせ」を意味します。
ある言動によって、相手を不快にさせる、あるいは脅威に感じさせることは、「ハラスメント」に該当することになります。
重要なポイントとして、加害者側はまったく悪気がなくても、受け取る側(被害者)が不快に感じれば、それは「ハラスメント」として成立してしまうということです。
ハラスメントの現状
ハラスメントというワードが定着する以前は、セクシャルハラスメント(セクハラ)ばかり注目されていました。
次第にパワーハラスメント(パワハラ)、マタニティハラスメント(マタハラ)など、さまざまな種類のハラスメントが定義づけされ、ハラスメントは、職場環境づくりにおいて要注意の要素として認識されるようになっています。
都道府県労働局の相談窓口にて寄せられた「嫌がらせ、いじめ」の相談件数は、令和元年において8万件を超えており、10年前にあたる平成21年の約3.5万件の2倍以上となっています。
この相談のなかでも、パワーハラスメント(パワハラ)についての内容が多い傾向にあります。
>パワハラ防止法を受けて企業が取り組むべきことに関する記事はこちら
職場で発生しやすいハラスメントの種類
多様化するハラスメントは、現在においてさまざまな種類があり、また、個別の事案によっては複数種類の要素をもつものもあります。
ここでは、どういったハラスメントの種類があるのか解説していきましょう。
パワーハラスメント(パワハラ)
パワーハラスメント(パワハラ)は、職場における地位などの優位性を利用し、職務上与えられた範囲を逸脱して、部下や同僚に精神的・肉体的苦痛を与えることを指します。
このパワハラが原因で、退職やうつ病に追い込まれる事案も多く、会社や上司を相手取った訴訟も増加傾向にあります。
企業にとっても最も予防・解決に注力すべきハラスメントの類型であると言えます。
セクシャルハラスメント(セクハラ)
セクシャルハラスメント(セクハラ)は、性的な言動を通して、相手を不快にさせる嫌がらせを指します。
性的な関係を要求されて断ったところ、不当な処遇を受けるといった事案もセクハラに該当します。
主に女性が被害者になることが多いですが近年では、男性が被害者になるケースや同性同士のトラブルなども増加しており、セクハラもまた多様化しています。
マタニティハラスメント(マタハラ)
マタニティハラスメント(マタハラ)は、妊娠中や産前産後の女性に対し、就労環境を害するような言動や、福利厚生制度の利用を阻害させるような扱い、異動や降給などの人事上の不当な扱いをおこなうことを指します。
近年においては、男女雇用機会均など法や育児休業法の整備が進み、コンプライアンスにおいても、留意すべきハラスメントの類型といえるでしょう。
>【社労士監修】マタニティハラスメント(マタハラ)とは?に関する記事はこちら
パタニティハラスメント(パタハラ)
パタニティハラスメント(パタハラ)は、いわゆる、マタハラの男性版であり、育児休業を取得することを阻害あるいは、育児休業を取った男性従業員に対して嫌がらせをおこなうことを指します。
男性も育児参加すべきという社会の風潮にともない、注目されるようになったハラスメントのひとつです。
時短ハラスメント(ジタハラ)
具体的な施策がない状態で、単純に残業時間の削減をおこなうことや、定時退社を強制するのが時短ハラスメント(ジタハラ)です。
働き方改革による労働時間削減が進みつつあるなか、注目されるハラスメントのひとつです。
労働時間が減った一方、抱える業務量は変わっていないため、過度なプレッシャーや品質の低下などの悪影響につながる事例が散見されます。
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)は、「男らしい」「女らしい」といった価値基準の下、性別だけで業務とは無関係な領域において、本人の意に反する言動を強要することを指します。
「女性ならお茶汲みするのが当たり前だ」と女性従業員にお茶汲みを強要するといった事案が、ジェンハラの例としてイメージしやすいでしょう。
ケアハラスメント(ケアハラ)
ケアハラスメント(ケアハラ)は、家族の看護・介護をおこなう従業員に対して、介護休業の取得を阻害するような言動、嫌がらせを指します。
介護休業法が整備された現在では、ケアハラも、法律上厳しく規制されています。
高齢化が進む時勢においては、会社の責任が問われることも多くなるハラスメントです。
リストラハラスメント(リスハラ)
リストラハラスメント(リスハラ)は、企業がリストラ候補者に対して、配置転換や、非常に簡単な業務のみ押し付けるなどの嫌がらせを通し、候補者自らが退職するように仕向ける扱いを指します。
解雇のハードルが高い日本においては、自らの意思で退職するよう間接的に、追い詰める手口も見られますが、悪質な場合は、強要罪に該当する可能性もあり、注意が必要です。
ロジカルハラスメント(ロジハラ)
ロジカルハラスメント(ロジハラ)は、論理的に相手を言い負かして、不快にさせることを指します。
理詰めで相手を追い詰めてしまっては、萎縮して業務意欲も低下することにつながりかねません。
説得が目的でなく、マウントをとる趣旨で正論をぶつけることも、ロジハラに該当するでしょう。
エンジョイハラスメント(エンハラ)
上司や先輩から「仕事楽しいだろ」と投げかけると、部下や後輩の立場からすれば「楽しいです」と返答せざるを得ません。
こういった上司や先輩の価値基準を押し付ける言動も、相手を不快にさせてしまっている場合は、エンジョイハラスメント(エンハラ)に該当してしまいます。
とくに意識の高い職場では、悪気なしに部下や後輩を追い詰めてしまうことにつながりかねません。
アルコールハラスメント(アルハラ)
飲み会における、飲酒の強制や一気飲みのコールなど、ひと昔前までは、飲みにケーションとして見かけることも多かった光景です。
昨今では、度を過ぎてしまうとアルコールハラスメント(アルハラ)に該当することとなります。
また、飲酒できない従業員に対して、「酒が飲めないなんて社会人失格だ」といった言葉を投げかけるのもアルハラになりかねないので、注意が必要です。
テクノロジーハラスメント(テクハラ)
テクノロジーハラスメント(テクハラ)は、主にPCスキルの高い従業員が、PCに疎い従業員に対して、作業のスピードや知識の低さを馬鹿にするような言動で、相手を不快にさせることを指します。
とくに、PCの扱いに不慣れなことが多い中高年の従業員に対する言動で、意図せずテクハラに該当している事案も見受けられるので、年齢層が広い職場においては注意が必要です。
ハラスメントが起きる原因
多種多様な種類がある「ハラスメント」ですが、企業努力によって風通しのよい職場環境を整えるなどおこない、ハラスメント発生の防止に注力しているケースもあれば、頻繁にハラスメントによるトラブルが発生する企業もあります。
ハラスメントが起きる原因について言及しながら解説していきましょう。
個人の価値観の違い
企業にとって、従業員ひとりひとりの価値観や考え方を柔軟に取り入れることは、時代の変化に適応するうえで不可欠な取り組みです。
しかし、職場のように人が集まる場所では、ときに価値観の相違から摩擦が生じることもあります。
人それぞれ価値観や考え方は異なるため、「企業の経営目標を達成するための体制つくり」と「各人の尊重」をバランスよく両立させることがキーポイントとなります。
会社内の風土や職場環境
威圧的な上司が主導権を握っている部署や、従業員からの意見が上層部に汲み上げられない体制で運営されている職場は、ハラスメントの誘発、常態化を招く温床となる可能性があります。
ひとりひとり従業員の意見や問題が社内で共有される、いわゆる「風通しのよい」職場環境がハラスメントの発見と解決に資することとなります。
コミュニケーションの多様化
SNSやさまざまなコミュニケーションツールが普及されることで、従業員同士の交流は以前のような対面や通話のみならず、オンライン上でおこなわれることが増えてきています。
多様な手法でコミュニケーションをとることができるようになった反面、オンラインでコミュニケーションを完結させることが増え、交流そのものが希薄となり、意思疎通が円滑にできないなどの弊害も起きています。
労働局の相談窓口に寄せられる案件でも、SNS上での同僚からの嫌がらせなど、テキストコミュニケーションに関連したトラブルが増加傾向にあります。
ハラスメントの防止対策
さまざまな価値観を持った人が集まる職場においては、個人間での摩擦は避けて通ることはできないでしょう。
重要なことは、ハラスメントの火種を察知して大きなトラブルに発展する前に対処することです。
ハラスメントの防止対策について解説します。
社内ルールを規定と周知
まずは、ハラスメントの定義を社内で共有するようにしましょう。
ハラスメントといっても現代では多様化が進んでおり、悪気ない言動や行動もハラスメントになりかねないため、ハラスメントかどうかの基準となる定義が必要となります。
また、ハラスメントが起きたときの対処法などの社内ルールも定め、従業員全体に周知することもおこなうようにしましょう。
研修を受講する機会を設ける
個々人にハラスメントの対応策を任せるのではなく、社内でハラスメントについて詳しい従業員や、外部講師などを利用して、ハラスメントについて学ぶ機会を設けるようにしましょう。
ハラスメントに関する研修を受講することで、ハラスメントの知識を得られるだけでなく、ハラスメントへの関心も高めることができます。
さまざまな事例やその対応策をストックしている外部講師や団体を活用すると、体系的にもハラスメントを把握することが可能となります。
>ハラスメント教育をおこなう目的や実施方法に関する記事はこちら
相談窓口を設立する
ハラスメントの火種となりえる事案が発生した際に、大きなトラブルとなる前に対応ができるよう、社内にハラスメントに特化した相談窓口を設ける必要があります。
相談窓口の担当者は、事案について口外しない、責任感の強い人物が求められるでしょう。
相談窓口の担当者については、会社の規模に応じて複数人を選んでおくと「あの人には相談しづらい」といった理由で、相談窓口が利用されないといった事態を防ぐことができます。
ハラスメントが起きたときの対処法
ハラスメントによるトラブルは、客観的に分かりやすいような事案ばかりではないため、どれだけ社内体制を整えても、防ぐことが困難なケースもあり得ます。
実際にハラスメントが起きてしまったときの対処法について解説します。
事実関係を確認する
まずは、被害者、加害者から事情を聴取する必要があります。
場合によっては、両者を特定することからスタートすることもあるでしょう。
事実関係の確認において最も重要なことは、お互いの主張を確認することに加え、客観的な事実もおさえておくことです。
当事者が感情的になっている場合、主観的な意見だけで事態を判断しようとすると、当事者の意見に振り回されることになります。
物理的な証拠やSNSでのやりとりの履歴、第三者の証言なども収集し、ロジカルに事実関係を把握することに努めましょう。
被害者・加害者への適切な対応
加害者に対しては、然るべき懲戒や、被害者への謝罪などの措置をとる必要があります。
一方で、被害者となった従業員に対しては、事案の内容にもよりますが、関係修復の余地があればそのサポートをおこなうこととなります。
しかし、関係修復が困難である場合は、両者を引き離すべく、配置転換や異動などの措置を検討する必要があるでしょう。
ここで中途半端な対応をとってしまうと、ほかの従業員の不信を買うこととなりますので、企業として毅然とした姿勢が求められることとなります。
再発防止の対策を考案
ハラスメントによるトラブルが発生したということは、ハラスメントを防ぐことができない社内体制であるということになります。
トラブルが起きてから対処するのではなく、一歩先の防止策を策定する必要があります。
ここで材料となるのが、事実関係の確認で得られた情報から、ほかの事案でも共通してハラスメントを誘発しうる、いわゆる最大公約数的な要素を抽出し、再発防止の軸足とする必要があります。
ハラスメントを放置したらどうなる?
ハラスメントを軽視して、問題を放置する経営者も少なからず見受けられます。
この場合に企業はどのようなリスクを負うことになるのか解説していきます。
法的責任が求められる
企業は、従業員を雇用するにあたり、職場環境配慮義務(健康的で安全で、かつ働きやすい職場環境を提供し、維持する義務)を負っており、ハラスメントによる被害がある場合、職場環境配慮義務を全うしてないということで、民法上の債務不履行責任を問われる可能性があります。
また、ハラスメントによるうつ病や自殺などの損害が発生した場合、「使用者」としての不法行為責任を問われることとなります。
>【社労士監修】22年4月に中小企業も義務化の「パワハラ防止法」とは?に関する記事はこちら
従業員のモチベーション低下
職場の人間関係は、従業員個々人のモチベーションに深く関係しているため、ハラスメントが横行する職場では、良好な人間関係は望めず、従業員の仕事に対するモチベーションの低下につながりかねません。
モチベーションが低下してしまうと、業務効率や生産性、品質の低下つながり、クレームの増加や業績悪化の可能性も出てくるでしょう。
企業のイメージダウン
情報技術が進歩した現在においては、ハラスメントが原因で、従業員の自殺や、訴訟沙汰になった場合、企業の名は瞬く間に、世間に知れ渡ることとなります。
当然、取引先からの印象も悪化し、最悪の場合、取引中止といった事態にも発展しかねません。
また、企業のイメージダウンにより、応募者の数が激減し採用活動がうまくいかなくなることや、製品の売り上げが下がってしまうなど、さまざまな側面に影響が出てくるでしょう。
ハラスメントを理解してクリーンな職場環境をつくろう
ハラスメントの種類が多様化している背景には、個々人の働き方が尊重されるべきであるという風潮があげられ、これからの時代においては、そういった個々人同士の摩擦がハラスメントという形で顕在化し、企業の活動にとって無視できない足かせになることが考えられるでしょう。
今後も、新たなハラスメントの類型は、増えていくものと考えられます。
このような事柄に振り回されることなく、毅然とした姿勢を示すためにも、企業は効果的なハラスメント対策を検討していく必要があります。
ハラスメントの対策には、円滑な社内コミュニケーションや、情報共有が重要になります。
働き方の多様化も見られる昨今、社内コミュニケーション活性化に効果的なツールとしてビジネスチャットを導入する企業が増えています。
ビジネスチャット「Chatwork」は、オンラインでコミュニケーションがとれるコミュニケーションツールで、社内外問わずに簡単にやりとりができるため、導入する企業が増えています。
「Chatwork」は、1対1のやりとりはもちろん、複数人や社内全体での情報共有にも活用できるため、ハラスメント教育や、企業側のハラスメントに関する方針周知にも活用することができます。
ハラスメント対策で重要な、体制整備などの周知をおこなうコミュニケーションツールとして、また、ハラスメントの情報共有にも活用できるツールとして、「Chatwork」をぜひご活用ください。
Chatwork(チャットワーク)は30万社以上の企業に導入いただいているビジネスチャットです。あらゆる業種・職種で働く方のコミュニケーション円滑化・業務の効率化をご支援しています。
記事監修者:國領卓巳(こくりょうたくみ)
2009年京都産業大学法学部卒業、2010年に社会保険労務士の資格を取得。建設業界、製造業、社会保険労務士兼行政書士事務所での勤務を経て独立開業。行政書士資格も取得。中小企業の社長さん向けに「労務管理代行、アドバイザリー事業」「助成金申請代行事業」「各種補助金(事業再構築補助金、小規模事業者持続化補助金など)」を展開、企業経営をサポートしています。