年功序列とは?メリット・デメリット、成果主義との違いを解説
目次
年功序列は、勤続年数や年齢を重視して人事評価をおこなう制度で、日本特有の制度です。
人材の囲い込みが可能なため、定着率の向上に効果的でしたが、近年の働き方の変化で、廃止する企業も増えています。
年功序列の制度の概要やメリット、成果主義との違いをみていきましょう。
年功序列制度とは
「年功序列制度」とは、勤続年数や年齢に応じて役職や賃金をあげる人事制度のことで、高度経済成長期に普及した日本独自の人事制度です。
2017年の段階では、全体の約半数である46.7%の日本企業が採用している人事制度で、年功序列を採用している企業の雇用形態は終身雇用のため、新卒で入社すると、定年退職まで同じ会社で働くことができます。
年功序列制度は、勤続年数や年齢に応じて賃金や役職があがるため、安定性が高く、社員の定着率が向上しやすくなるというメリットがあるとされています。[※1]
年功序列がうまれた背景
年功序列制度は、高度経済成長期に定着した人事制度です。
それまでは、能力に応じて賃金や役職を決める方法が一般的で、企業が育てた優秀な人材を囲い込むために、さまざまな方法がとられていました。
しかし、高度経済成長期にはいったことで、労働者は生活の安定を求めるようになり、企業側は業績拡大のために、人材の確保が急務となりました。
このような背景から、安定的な賃金や生活が手にはいり、終身雇用が約束される「年功序列制度」が定着するようになったのです。
年功序列のメリット
日本独自の人事制度である「年功序列制度」は、どのようなメリットがあるのでしょうか。
- 企業への帰属意識が高まる
- 人事評価がしやすい
- 人材育成がしやすい
年功序列制度がもたらすメリットについて詳しくみていきましょう。
企業への帰属意識が高まる
年功序列制度を採用することで、企業への帰属意識が高まるメリットがあります。
年功序列制度は、年齢や勤続年数に応じて賃金や役職があがるため、終身雇用を前提として働く人が増えます。
そのため、長期間所属する企業への忠誠心や従業員同士の団結力が、自然と生まれやすくなります。
帰属意識の高まりは、会社の売り上げや利益向上にも結びつく重要なものです。
人事評価がしやすい
年功序列は、年齢や勤続年数に応じて賃金や役職があがるため、人事評価の基準が明確でわかりやすいというメリットもあります。
人事評価をする際、評価の基準や賃金体系が明確だと、評価側の負担も軽減できるでしょう。
人材育成がしやすい
人材育成がしやすい点も、年功序列がもたらすメリットです。
従業員の定着率が高いため、人材育成のプランを長期的な目線で立てられることにくわえ、若手の育成を担えるベテラン社員も多いため、育成自体をスムーズにおこなうこともできます。
人事評価の基準が、勤続年数や年齢のため、従業員同士の競争が少なく、育成やノウハウ共有が進みやすいことも特徴です。
また、長く働いていると、従業員一人ひとりの性格や適性を把握することもできるため、適材適所の人材配置がおこなえるようになることも、メリットといえるでしょう。
年功序列のデメリット
年功序列がもたらすのは、メリットだけではありません。
- 人件費が増大する恐れがある
- 早期離職が増える恐れがある
- チャレンジする風土がなくなる
デメリットについてもきちんと理解をしたうえで、年功序列の導入を検討するようにしましょう。
人件費が増大する恐れがある
年功序列制度を採用すると、人件費が年々増大していく恐れがあります。
勤続年数や年齢に応じて賃金を決めるため、企業の高齢化が進むと、その分賃金の高い人材が増えることになります。
業績を拡大し続けられれば、人件費が膨らんでも対応が可能かもしれませんが、年々企業の負担が増えていくことは、避けられないでしょう。
育てた人材を雇用し続けることも大切ですが、能力のある若い人材を採用することも、企業成長には必要不可欠です。
リストラや早期退職者を募集するような策にならないように、人件費へのリスクヘッジをしていくことが大切でしょう。
早期離職が増える恐れがある
年功序列制度の影響で、若手の早期離職が増える可能性もあります。
年功序列制度では、勤続年数や年齢が主な人事評価の基準となるため、勤続年数の浅い若手社員は、適切な評価をうけることができていないと感じ、モチベーションや帰属意識を低下させてしまうでしょう。
「頑張っても仕方がない」「成果を出しても、長くいる先輩の方が評価される」という不満は、早期の離職につながりかねません。
チャレンジする風土がなくなる
チャレンジする風土がなくなることも、年功序列のもたらすデメリットです。
年功序列制度では、年齢や勤続年数を重ねれば、自然と評価があがり賃金もあがるため、成果を出すことへの向上心が失われやすいです。
新しいことにチャレンジして成果を出そうとする姿勢よりも、ミスをせずに現状を維持しようとする従業員が増えると、企業の持続的な成長も難しくなっていくでしょう。
持続的な成長を望む企業であるならば、チャレンジする風土を保つ工夫や仕組みをとりいれる必要があります。
年功序列の注意点
ここまで年功序列制度のメリット・デメリットを確認してきましたが、実際に年功序列制度を導入する際は、どのようなことに気をつければいいでしょうか、
年功序列を導入する際の注意点について具体的にみていきましょう。
持続的な企業成長
年功序列を適切に運用するためには、持続的な企業成長は欠かせない要素です。
年功序列制度は、企業が歴史を重ねるほど、賃金の高い雇用が徐々に増加するため、人件費は想像以上に増大するでしょう、
雇用に対して適切な賃金を支払うためにも、企業は持続的に成長し、利益を拡大し続ける必要があります。
年功序列制度の導入は、継続的な業績向上を踏まえた経営戦略が前提となることを覚えておきましょう。
継続的な人材採用
継続的な人材採用も、年功序列制度の維持には欠かせません。
上述した通り、増加し続ける人件費を支払うためには、企業成長が必須です。
この企業成長を止めないためにも、事業拡大を担える人材を採用する必要があります。
事業拡大に貢献できるような人材を継続して採用することで、企業に営利をもたらす事業発展が期待できるでしょう。
この人材採用は、新卒採用だけでなく、スキルや経験のある中途採用も必要になってきます。
企業成長を担える優秀な人材を採用するためにも、採用戦略にも力をいれるようにしましょう。
継続的な人材育成
継続的な人材育成も、年功序列制度を成立・維持するうえで重要です。
長期雇用が前提となる年功序列制度では、既存の従業員の知識やスキルを継続的に伸ばし続けることが重要になってきます。
業務経験の長さに比例して、知識やスキルがつけば、企業成長に大きな利益をもたらすでしょう。
年功序列制度のメリットである長期雇用を前提として、将来を見据えた長期的な育成プランをたて、企業が求める人材像の育成を目指しましょう。
賃金格差の是正
年功序列制度を導入する際に、賃金格差を見直し、是正することも重要です。
「こんなに頑張っても、先輩と差がありすぎる」と感じてしまう賃金の低さは、若手社員の早期退職の原因になりえます。
遠い将来の賃金指標をみせることも重要ですが、20代や30代のうちに賃金格差の是正にとりかかることも、持続的な企業成長を目指すうえでは重要でしょう。
年功序列と成果主義の違い
年功序列の評価制度と対称の評価制度として「成果主義」があげられます。
近年導入する企業が増えている成果主義ですが、年功序列とどのように異なるのでしょうか。
成果主義について詳しくみていきましょう。
成果主義とは
「成果主義」は、社員の能力や貢献度などの業務の成果を基準に、役職や賃金を決定する人事制度です。
年功序列では、勤続年数や年齢が重視されますが、成果主義の場合は、仕事の成果により昇進や昇給などが決まります。
勤続年数や年齢はまったく考慮されず、最終的な結果や成果に重点を置くことが、成果主義と年功序列の大きな違いといえるでしょう。
成果主義の普及状況
成果主義は、近年拡大傾向にある評価方法です。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、テレワークやリモートワークなどの働き方が増加し、従来おこなっていた評価や管理や評価が難しい状況になってきたことが、成果主義が増加している要因と考えられます。
離れた場所で働くようになったことで、業務の過程や努力が見えづらくなったことで、成果や結果による評価をせざるをえない企業が増加しています。
時間管理を土台として評価をしてきたこれまでとは、異なる人事評価が一般的になりつつあるのです。
成果主義のメリット・デメリット
働き方の変化によって拡大する成果主義ですが、どのようなメリット・デメリットがある評価方法なのでしょうか。
成果主義のメリット・デメリットについて、それぞれみていきましょう。
成果主義のメリット
成果主義は、個人の成果や結果を重視する評価制度のため、企業への貢献度に対して、適切に賃金の配分がされることが特徴です。
従業員にとっても、自分の頑張りが「賃金」というわかりやすい指標でみることができるため、モチベーションにつながりやすいでしょう。
そのほかにも、以下のメリットが期待できます。
・社員のモチベーションのアップ
・マンネリ化した人事の解決
・人件費の最適化
・人材開発の促進
成果主義のメリット
従業員のモチベーションアップが期待できる成果主義ですが、もちろんデメリットも存在します。
たとえば、企画職や事務職、研究職のような、売上や営業成績のような定量数値で成果が計測できない部署や職種では、成果主義が適応しづらいです。
そのため、評価基準に公平性や納得感がないと、不満や不平が生まれやすくなってしまいます。
そのほかにも、個人の成果や結果を重視しすぎると、従業員同士の競争が生まれてしまい、ノウハウの蓄積やチームワークの低下が妨げられるなどの悪影響も想定されます。
・長期的な人材育成の阻害
・組織の強みの喪失
・社員の離職率の増加
成果主義を導入する際は、なにが従業員にとってメリットになりえるかを検討したうえで、公平性が保てる運用をする必要があるでしょう。
年功序列制度崩壊の背景
1980年代頃までは多くの企業が注目していた年功序列ですが、現在は崩壊しつつあります。
その背景にはなにがあるのでしょうか。
終身雇用制度の見直し
終身雇用制度が見直されていることにより、年功序列制度も崩壊しつつあります。
年功序列には多くの人件費がかかるため、終身雇用を続けてしまうと、年功序列の維持が困難になり、最悪の場合業績の悪化にもつながりかねません。
正社員で入社した社員を全員終身雇用することは、企業側にもリスクがともなうため、見直しが徹底されつつあります。
労働人口の減少
労働人口の減少も、年功序列制度の崩壊の要因となっています。
日本の生産年齢人口は、先進国に先駆け高齢化を迎えています。
高齢従業員の数は増加し続けているものの、なかなか若い従業員が増えないことは、企業の生産性や持続的な成長にも大きく影響するでしょう。
年功序列から成果主義へと移行する企業が増えている背景には、労働人口の減少も考えられます。
年功序列の廃止する際の注意点
近年、年功序列を廃止する企業も増えてきましたが、年功序列制度の廃止には、「労働契約法第8条及び9条」に規定されているとおり、社員の合意を得ることが必須です。
年功序列制度を廃止することは、従業員の生活やキャリアにも大きく影響します。
そのため、就業規則や労働協約、社員との契約変更など、さまざまな事項が絡んできます。
きちんと理解を得たうえで廃止を実施しないと、訴訟にもつながりかねません。
従業員からの理解と合意を得たうえで、廃止に向けて動くようにしましょう。
年功序列廃止に必要な対応
年功序列の廃止には、企業側がとるべき必要な対応がいくつかあります。
- 手順(1):廃止の背景を共有する
- 手順(2):労働組合から合意を得る
- 手順(3):就業規則を改訂・労働基準監督署に提出する
- 手順(4):変更後の就業規則を共有する
必要な対応をおろそかにしてしまうと、従業員からはもちろん、社会的な信頼喪失につながりかねません。
手順を追い、きちんとした対応をとるようにしましょう。
手順(1):廃止の背景を共有する
年功序列制度を廃止する際は、就業規則や賃金制度の変更も必要になります。
そのため、まずは従業員に対して廃止の背景共有を必ずおこないましょう。
勤続年数が長い従業員にとっては、不利益な変更だと思われてしまうため、説明は丁寧に真摯におこなうことが大切です。
長年自社のために働いてくれた従業員への対応を怠ると、帰属意識の低下につながりかねません。
「なぜこのタイミングで変更するのか」を従業員の納得のいくかたちで説明する責任があることを念頭におきましょう。
手順(2):労働組合から合意を得る
従業員の労働状況の維持や改善を束ねている労働組合からの合意を得る必要もあります。
合理的な変更理由を提示しなければいけないため、何度か交渉を繰り返すケースも少なくありません。
年功序列を廃止することのメリットやデメリットを明確にしたうえで、労働組合に廃止の提示をおこなうようにしましょう。
手順(3):就業規則を改訂・労働基準監督署に提出
労働組合からの合意が得られたら、就業規則を改訂し、労働基準監督署へ提出します。
変更届と労働組合からの意見書もあわせて労働基準監督署に提出する必要があるため、手順を混同しないよう注意しましょう。
手順(4):変更後の就業規則を共有する
就業規則を変更したら、速やかに従業員へ共有をおこないましょう。
メールでは送信漏れやエラーが発生する恐れがあるため、ビジネスチャットなどの活用がおすすめです。
全社員に時差なく一括で情報を共有できることにくわえて、確認することをタスクにすることができるため、「確認していない」「知らなかった」などのトラブルを防ぐこともできるでしょう。
年功序列を廃止した企業事例
実際に年功序列を廃止した企業も多く出てきています。
年功序列制度を廃止した企業事例について見ていきましょう。
大手電機メーカー企業
世界的にも知られている大手電機メーカーでは、管理職を対象にした職能給の廃止と、グローバル共有の査定基準をもとにした職務給制度の変更をおこないました。
国際的に競争をしていく必要がある企業だからこそ、積極的にチャレンジをする環境改善のため、廃止へと踏み切った事例です。
大手家電メーカー企業
家電業界でトップシェアを誇る企業では、管理職を対象にした役割等級制度が導入されていましたが、この制度を、一般社員にも適応することで、若手社員のモチベーションの向上をはかりました。
人材育成の強化や国際的にも通用する体制づくりを重視するために、年功序列の廃止に踏み切った事例です。
適切な人事制度を採用しましょう
持続的な企業成長の核となる従業員が、不満なく働き続けるためには、適切な人事制度の採用が欠かせません。
日本独自の人事制度である年功序列制度は、定着率の高さや帰属意識の向上などのメリットがある一方で、適正な運用が難しく、若手の早期離職の恐れなどもあります。
テレワークやリモートワークなどの働き方の多様化や、雇用形態にこだわらない働き方が拡大するにつれて、企業の評価制度にも変革が求められています。
従業員が健康に生き生きと働けるように、企業の目標や経営戦略にあった、適切な人事制度を採用するようにしましょう。
採用した人事制度について、従業員が正しく理解できるように情報開示して伝えていくことも重要です。
テレワークやリモートワークも多い昨今の状況においては、広く従業員に向けて効率的に情報を周知させていく手段として、ビジネスチャットの活用がおすすめです。
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[※1]出典:日本の人事部「人事白書2017」
https://jinjibu.jp/research/2017/
※本記事は、2023年1月時点の情報をもとに作成しています。