ナレッジマネジメントとは 埋もれがちなノウハウを共有して競争力を高める方法

目次
経営戦略の見直し、あるいは今後の起業を計画する上で知っておきたいのが、会社の経営手法です。経営手法のひとつとして知られているものの中には、「ナレッジマネジメント」があります。
ナレッジマネジメントとは、企業や従業員の蓄積してきた経験、知識を、企業全体で可視化し、共有することによって企業の競争力を高めていこうとすることです。
ナレッジマネジメントを取り入れることによって何が変わるのか、この記事ではナレッジマネジメントの概要と導入の効果を紹介します。
ナレッジマネジメントの背景
ナレッジマネジメントは、日本の経営学者である野中郁次郎氏が提唱した経営手法のひとつです。具体的にどのような手法なのか、概要とナレッジマネジメントの理論についてみていきましょう。
暗黙知と形式知を知ろう
ナレッジマネジメントの基礎理論によると、人の知識は、「形式知」と「暗黙知」のふたつにわけられるといいます。
形式知は、マニュアルのように、言語化、あるいは図表化できる、誰がみても理解できるような知識のことです。
一方、暗黙知は、言語化や図表化の難しい知識で、個人の経験や技術によって培われた知恵や勘のような知識を指します。
このうち、共有することで誰もが理解できるのが形式知です。しかし、ナレッジマネジメントを考える上で、人の経験やスキルの蓄積で積み上げられた暗黙知を排除し、形式知だけに頼ることはよくありません。
形式化することが難しい暗黙知こそ、いかに形式に直して伝えていくかが重要です。ナレッジマネジメントは、企業や個人の蓄積した知識や経験を全体に共有することと冒頭で触れましたが、知識をいかに理解できる形として、そして、実践できる形として残していくかが課題となります。
なぜナレッジマネジメントがうまれたのか
ナレッジマネジメントは、1990年代に生まれた経営理論で、新しい手法ではありません。発表から時間が経った現在、注目されるようになった背景にあるのが、人材の流動性の激化です。
以前は定年まで同じ会社で働き続けることが一般的でしたが、現代は人材の出入りが激しく、複数回の転職も珍しくなくなりました。
人材の流動性が高まったことによって表面化してきた問題が、企業における教育です。流動化が進んでいない時代は人材教育に時間もお金もかけることができましたが、流動化の進んだ現代では人材教育に対する投資についてはシビアな経営判断がなされるようになってきました。
また、企業間の競争が激化しビジネスモデルの変化も早い現代では、求められるスキルや能力も経営環境の変化とともに大きく変わっていきます。それに対応する教育や研修は多岐にわたり、その内容も常に更新をしていかなければ、技術や知識が陳腐化してしまう速度も早いでしょう。こういった外部環境の中、必要なナレッジが社内に残らなくなるリスクを避けるためにもナレッジマネジメントは注目されています。
ナレッジマネジメントの導入効果とは
ナレッジマネジメントは、人材の流動化が高まった現代において、企業の経営にも大きな影響を及ぼす手法だと紹介しました。具体的に、ナレッジマネジメントを取り入れることによって企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
組織内連携の強化
社内にすばらしいスキルやノウハウがあっても、共有せずに埋もれてしまっては、企業の成長につながりません。ナレッジマネジメントは、企業内のスキルやノウハウである暗黙知を共有することによって、組織内の連携の強化に貢献します。
たとえば、属人的業務の回避です。属人的、つまり担当が専属で取り組んでいるような業務は、暗黙知の部分も多く、だれも十分なノウハウをもっていないため専任者の負担が大きくなりがちです。
このような暗黙知の部分をナレッジマネジメントによって形式化し、共有化することができれば、専任者が不在でも仕事を進めることが可能になるでしょう。専任者の負担が社内に共有されることによって、分散が進み、誰かひとりに大きな負担がかかることも避けられます。
また、ナレッジマネジメントの導入は、スキルやノウハウを横展開できるメリットも大きいです。結果として、組織内の情報共有が円滑になり、組織内の連携を強化することが可能になります。
業務の効率化が可能
ナレッジマネジメントは、営業活動や顧客対応にも役立ちます。
たとえば、営業成績のよい社員のデータを蓄積することによる勝ちパターンの再現です。勝ちパターンを文章化あるいは図表化して、誰でも実践できるようにすれば、営業部門の社員全体の成績の底上げが期待できます。
また、顧客対応においては、顧客からのクレームや意見をデータベースにし、担当者が必要に応じて過去のデータを参照できるようにすることで、対応の品質も高まるはずです。
経営層は、データを確認することで、顧客が何を求めているのか、どのような改善を期待しているのか、今後の経営にも反映できるようになります。
円滑な情報共有と情報取得による結果として、業務の効率化、業務の統一化を図ることができるでしょう。
ナレッジマネジメントを導入するには
企業にとってさまざまなメリットがあるナレッジマネジメントを取り入れるには、何が必要になるのでしょう。この項では、ナレッジマネジメントのプロセス、ツール選びなど、導入のポイントを紹介します。
ナレッジマネジメントの4つのプロセス
ナレッジマネジメントで重要なのは、暗黙知から形式知への変換です。形式知化には4つのプロセスがあります。
■共同化(Socialization)
共通の体験をすることによって、個々のもつ暗黙知を理解します。
■表出化(Externalization)
共通の暗黙知を話し合いにより、言葉や図で表現する形式知に変えていきます。
■連結化(Combination)
生み出された新しい形式知を、既知のものと組み合わせて、新たな知識体系を創造します。
■内面化(Internalization)
新たに創造された知識体系を共有し、個々のスキルや知識へと落とし込んでいきます。
つまり、体験を通じて暗黙知を理解して形式知化し、共有することで個人の知識やスキルを膨らましていこうというプロセスがナレッジマネジメントの基本ということです。
暗黙知の形式知への変換を支援する適切なツール選び
ナレッジマネジメントを上手に取り入れるために、ITツールの利用も視野に入れましょう。
■文書作成ソフトや表計算ソフトを利用する
ナレッジ共有のために使えるツールのひとつが、多くの企業で導入されている文書作成や表計算、プレゼンテーション資料が作成できるソフトウェアです。個々の知識やノウハウをこれらのソフトウェアを使って見える化し、共有することができます。
■クラウド型のITシステムを活用する
ビジネスチャットや社内Wiki、社内SNSなどのクラウド型ITシステムの活用も有効です。クラウド型のITシステム活用のメリットは、インターネットにさえ繋がっていれば、皆が同じ情報にアクセスができ、リアルタイムに情報の追加・更新が可能な点です。また、検索性も高いため、自分が求めている情報を探し回る手間も省けるでしょう。
導入のためのポイント
■現場の意見に耳を傾ける
とにかくどういった情報もナレッジマネジメントのために共有すればよい、というわけではありません。目的に合わせて、必要な知識やスキルの共有を図ることが大切です。中でも、実際に知識やスキルを共有することになる現場の意見は欠かせません。
■定期的に見直す
運用中、現場の状況と共有するノウハウとの間にずれが生じることがあります。必要な知識の共有が現状とかい離しないように、定期的に効果の検証やデータの見直しを図るようにしましょう。
まとめ
人材の流動性が高まる中、企業内部の知識やノウハウをうまく共有し、多くの社員が活用できるようにしていくことが重要です。ナレッジマネジメントは、このような企業の課題を洗い出し、適切に共有を図ることに役立ちます。