【社労士監修】働き方改革とは?基礎知識や目的、取り組み方法を解説

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働き方改革
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【社労士監修】働き方改革とは?基礎知識や目的、取り組み方法を解説

目次

平成31年4月からスタートして久しい「働き方改革」ですが、制度がスタートして月日が経過した現状においても、新しいルールに対応できていない職場が中小細企業を中心に今なお存在しているのが実情です。

「そんなこと言っても、何をしていいのか、よく分からない」
「そもそも、働き方改革と言われても、いまいち、ピンとこない」

このように働き方改革について感じている経営者の方々も多いのではないでしょうか。

そもそも働き方改革が何の目的のためにスタートしたのか背景から、実際にどういった取り組みが求められているのか、働き方改革をわかりやすく解説していきます。

働き方改革とは

働き方改革とは、狭義では、法律改正など政府主導で進められている取り組みですが、企業は法律を順守するだけではなく、制定趣旨や推進目的を理解した上で、「ワークライフバランス」を重視した価値観の醸成など、「広義の働き方改革」に取り組む必要があります。

働き方改革を理解するためには、なぜ働き方改革という取組が必要になった背景から掘り下げていきましょう。

ご存知のとおり、日本では、少子高齢化が急速に進んでおり、この状況が進めば働き手、いわゆる労働人口が少なくなる問題が発生するのは目に見えています。

厚生労働省の調査を基にした試算においては、「2016年の労働力人口約6600万人が、2065年には、約4000万人まで減少する」という見通しが出ており、将来的には労働人口は現在の60%にまで減少することになります。[※1]

労働人口は国の生産力ともいうことができ、労働人口が減少すれば国としての生産力が落ち、国力が弱くなるということに繋がります。

よって労働人口の減少になんとしても歯止めをかけるべく、国が打ち出した政策が「働き方改革」です。

働き方改革の目的

働き方改革は「労働人口の減少」に対応するべく打ち出されましたが、働き方改革の目指す目的の方向としては、働くポテンシャルは持っているけれど、労働市場の外にいた女性や高齢者の活躍を促し労働力化につなげるというものです。

しかし、なぜ女性や高齢者は働くことができるのに、労働市場の外にいるのでしょうか。

これには、日本の労働制度と働き方に原因があり、この原因を取り除いて、働くことができる人にどんどん活躍してもらいたい、そのための「下ごしらえ」をするという考え方が働き方改革の目的として根底にあります。

働き方改革を阻む課題や原因

女性や高齢者が活躍できる環境を作り上げていくには、日本の労働制度と働き方に存在する課題をクリアしていく必要があります。

課題として主に以下の3つが挙げられます。

  • 正規、非正規労働者の不合理な処遇の差の解消
  • 長時間労働の是正
  • 単線型のキャリアパス

例えば、女性や高齢者は家事・育児、体力などの事情でフルタイムおよび長時間の残業に対応することが難しい為、高い能力を持っているにも関わらず、短時間の単純作業に甘んじている。

あるいは、正規雇用の職員と同様の能力、職務内容にもかかわらずパートタイマーという理由だけで待遇が違う為、モチベーションが上がらないといった事情が、日本の職場には存在します。

こうした女性や高齢者の労働市場への進出の障害になっている課題を取り除いて、働きやすい職場環境を整えて、労働人口の減少に歯止めをかけていく、そのための施策が働き方改革で企業が取り組むべき内容といえます。

働き方改革で企業の対応が必須のもの

働き方改革において、改正された法律は、

  • 「労働基準法」
  • 「労働安全衛生法」
  • 「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」
  • 「じん肺法」
  • 「雇用対策法」
  • 「労働契約法」
  • 「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」
  • 「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」

以上のように、あまり耳慣れない法律もあり、これらの改正に対応するとなると気が遠く思えるかもしれません。

働き方改革での取り組みは多岐に渡り、企業が対応しなければ罰則が発生するものもあり、注意が必要ですが、そういった必須的なもの、優先的に取り組むべきものはある程度限定することができます。

多くの中小企業で特に対応が必要なポイントは以下の3点です。

残業時間の見直し

意外に思われるかもしれませんが、これまで法律として、「この時間以上残業させたらNG」という基準が明確に示されていませんでした。

もちろん、相場的なラインは示されていたものの、それだけでは、長時間労働の是正には至らず、深刻な社会問題となっていたことを踏まえ、働き方改革では残業時間に対してルールが示されました。

  • 年間の時間外労働は720時間まで
  • 単月で時間外労働は原則45時間まで※一部の職場は42時間
  • 繁忙期でも単月100時間以上の時間外労働はNG(2~6か月平均80時間以内)
   

おおむね以上のようなルールが示され、これに違反した場合は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金というペナルティが企業に科せられることとなりました。

人材資源の乏しい中小零細企業においては、長時間残業が恒常化している職場も珍しくはありません。

こういった企業においては、今後規制が厳しくなることも予見されるため、残業時間の見直しや残業の抑制や削減といった対応は必須となるでしょう。

>残業が多い原因と改善方法に関する記事はこちら

年次有給休暇の取得

日本の年次有給休暇は取得率が全体の半分に満たず、年次有給休暇を取得していない労働者は長時間労働の傾向が強いことから、年次有給休暇が確実に取得されるように、企業として、年次有給休暇を取得させることが法律で義務化されることとなりました。

ルールの概要としては、

  • 年5日間については、時季を指定して有給休暇を取得させる(企業の義務に)
  • 対象は有給休暇の付与日数が10日以上の労働者(正社員、一部のパート)

従来までは、有給休暇の取得を申し出る労働者がいなければ有給休暇を取得させる義務はなかったものの、働き方改革を受けて、これが年間5日間に限定されるものの取得が義務化となりました。

これも違反した場合は、罰則が定められており、違反した企業には、30万円以下の罰金が科せられます。

また、有給休暇取得の時期を企業があらかじめ指定する場合は、就業規則においてその旨定めておく義務があり、これに違反しても罰金の対象となってしまいます。

労働者10人以上の職場は就業規則を所轄の労働基準監督署に提出する必要があるため、就業規則を見直していないまたは、そもそも就業規則を作っていない企業は早急な対応が必要となります。

>年次有給休暇の義務化に関する記事はこちら

産業医・産業保健機能の強化

働き方改革においては、産業医による面接指導や健康相談などが確実に実施されるように法改正を通して、産業医の権限や、面接指導制度の義務化が強化されています。

  • 面接指導の対象となる労働者の要件は、「1ヶ月当たりの時間外・休日労働時間が80時間を超過しており、かつ疲労の蓄積が認められる者」に拡大
  • 研究開発業務に従事する労働者に関しては、1ヶ月当たりの時間外・休日労働時間数が100時間を超えた際、労働者からの申出の有無にかかわらず面接指導をおこなう

おおむね以上のようなルールとなり、後者の違反については、50万円以下の罰金が定められており、該当する企業においては、特に注意が必要でしょう。

他にも、働き方改革においては、数々のルールが制定され、そのルールの遵守が企業に課せられています。

しかしながら、そういったルールは努力義務に留まる場合や、対象になる企業が少数であることなどから、過敏に反応する必要がないものも一定数あります。(例えばフレックスタイム制の清算期間延長は、同制度を導入していない企業は対象外です)

よって、働き方改革において、企業として取り組むべき内容は、実質的にはある程度限定されており、特に重要かつ優先度の高いものとしては、これらの3点が挙げられます。

言い換えると、さすがにこの3点を無視すると、罰則など、企業として手痛いダメージを負う可能性があるので、特に注意が必要ということもいえるでしょう。

>産業医とは?に関する記事はこちら

働き方改革に対し企業がすべき取り組み

ここまで解説してきた働き方改革における取組はあくまで、「法律で定められた最低限守るべき」ルールのお話です。

この最低限のルールさえ守れば、働き方改革の目的である「女性や高齢者が活躍できる日本の職場作り」は達成されるのかと言えば、そうとはいえません。

最低限のルールを設けた上で、各企業が各々の事情に合わせた「プラスαの」取り組みをおこなうことで、この働き方改革は補完されるといっても過言ではないのです。

また、長時間労働の抑制に関しては、現行の体制のままでは、法令遵守が困難な企業も多いはずです。

こういった現状を打破し、働き方改革のルールが無理なく遵守可能な環境整備も企業においては必要になります。

働き方改革の目的を実現し、本当の意味で働きやすい環境を作るためにも、働き方改革において企業が取り組むべきことを見ていきましょう。

業務効率化

テクノロジーの進化により、さまざまな分野においてAI化、電子化、自動化により従来では人の手でやっていたことが、省力化できるようになりました。

行政における公文書の電子化によるペーパレス化、AIを導入した人事労務経理ソフトの導入による業務改善などはその一例と言えます。

現在、手作業でやっている業務が実は、ちょっとした工夫あるいは、機器の導入で省力化できれば、時間短縮となり、残業時間の抑制、ひいては人件費も抑えることに繋がります。

導入に掛かるコストなどの課題もあるものの、各種補助金、助成金の活用で大幅にコストカットできる余地もあるため、「思い切った業務改善」を検討されてみる価値は大いにあります。

ジョブ型雇用、成果主義の導入

日本の評価制度はいわゆる「職能制度」であり、能力に応じて待遇が上昇するようになっています。

これは言い換えると、「同じ仕事をしていても、同じ結果を出していても能力の差があれば待遇に差が発生する」ということになります。

社員の能力が上がるにつれて、相応の役職(部長・課長・係長など)を用意することになり、ポストがなければ新たにその役職を用意することになり、役職者ばかり増えて、結果として人件費が膨らんでいくといった事態が発生します。

高度経済の時期であれば、成り立っていた図式ですが、中小企業においてもこういった評価制度も見直しが必要となります。

   

能力が違っても、同じ職務であれば、同じ待遇であり、あらかじめポストの数と職務内容をを定め、そのポストに労働者を当てはめるジョブ型雇用や、成果を出せば相応の待遇で応えるといった成果主義を導入している職場も増えています。

こういった考え方は、働き方改革の一環で示された、「同一労働同一賃金」の考え方にも沿うものであり、評価制度の見直しを検討されている経営者様は、こういった考え方についても参考にするといいかもしれません。

>ジョブ型雇用のメリットと導入のポイントに関する記事はこちら

テレワークの導入

新型コロナウイルス感染症の影響を受けて導入が加速した「テレワーク勤務」ですが、従来と違った働き方で、職務が遂行できるか不安視していた声もあったものの、「案外問題なかった」「フレキシブルな働き方ができる」といった好評な意見が目立っており、新しい働き方のスタイルとしての地位を確立しつつあります。

中小企業においては、設備などの環境面での整備にコストが掛かるなど、テレワークの導入に前向きでないケースが目立つものの、単純な入力作業や各種の事務作業は、必ずしも職場でなければできないというものではなく、工夫次第で場所を選ばずに取組むことも十分可能なケースが多いのも事実です。

自宅に居ながら働くことができる条件は、まさに家事育児で職場から遠ざかっている人材の活用に繋がることから、働き方改革の趣旨においては大いに意義のあるスタイルと言えます。

>テレワークのメリットとポイントに関する記事はこちら

   

働き方改革の目的を理解し推進しよう

先進国における少子高齢化と人口減少は宿命ではあるものの、我が国においては、少子高齢化の加速度が顕著であり、「このままで国を維持できるのか?」という段階にあります。

こういった現状において、「労働市場の外にいた人材の労働力化」を目的とする働き方改革は労働人口の減少に歯止めをかける現実的な施策であるといえます。

そして、この改革の成功には、日本の企業の99%以上を占める中小企業の取り組みが、やはり必須です。

まずは、法定で必須となるルールに対応すべく、社内体制の見直しをおこない、プラスαで実情にマッチした施策をおこなうことで、自社にとっての働き方改革を成功させ、盤石な企業経営の一助としていきましょう。

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[※1] みずほ総合研究所みずほインサイト「少子高齢化で労働人口は4割減労働力率引き上げのカギを握る働き方改革
https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/mhri/research/pdf/insight/pl170531.pdf

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「働き方改革」は、そもそもなぜ必要なのでしょうか。働き方改革の本質や法制度の概要を漫画で解説します。

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Chatworkのお役立ちコラム編集部です。 ワークスタイルの変化にともなう、働き方の変化や組織のあり方をはじめ、ビジネスコミュニケーションの方法や業務効率化の手段について発信していきます。

記事監修者:國領卓巳(こくりょうたくみ)

2009年京都産業大学法学部卒業、2010年に社会保険労務士の資格を取得。建設業界、製造業、社会保険労務士兼行政書士事務所での勤務を経て独立開業。行政書士資格も取得。中小企業の社長さん向けに「労務管理代行、アドバイザリー事業」「助成金申請代行事業」「各種補助金(事業再構築補助金、小規模事業者持続化補助金など)」を展開、企業経営をサポートしています。

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