高度プロフェッショナル制度とは?メリット・デメリット、仕組みや対象者を解説
目次
働き方改革の一環で導入された高度プロフェッショナル制度は、時間ではなく成果をベースに賃金を決定する労働制度です。
導入条件や対象職種などが細かく定められているため、導入を検討する企業は慎重に手続きを進めましょう。
裁量労働制との違いや、導入の条件や流れ、メリット・デメリットについて解説します。
高度プロフェッショナル制度とは
高度プロフェッショナル制度とは、高い知識や技術をもつ人に対して、成果をベースにして給与支払いをおこなう制度のことです。
厚生労働省は、高度プロフェッショナル制度の適用を以下のように定めています。
- ポイント(1):対象労働者は、一定の年収要件を満たし、高度な専門的知識等を要する 業務に就く方に限定されます。
- ポイント(2):対象労働者には、始業・終業時刻が指定されないなど、働く時間帯の選 択や時間配分について自らが決定できる広範な裁量が認められます。
- ポイント(3):対象労働者には、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び割 増賃金に関する規定が適用されません。
高度プロフェッショナル制度は、成果をベースにして給与が決定するため、定められた就業時間の縛りがありません。
導入する際は、労使委員会の決議にくわえて、労働者本人の同意を前提として、年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた措置を講ずることで、導入することができます。
働く時間を自由に設定できるため、効率よく仕事をすれば短時間で多くの給与が得られ、個人の裁量が大きいなかで仕事をすることができます。
高度プロフェッショナル制度を適用すると、労働基準法によって決められた、労働時間や、残業代の支給、休憩・休日などの特別手当がないことが特徴のため、注意が必要です。[※1]
裁量労働制との違い
高度プロフェッショナル制度と裁量労働制には「残業代の支給」「労働規定の適用」「年収や対象職種の限定」に違いがあります。
裁量労働制における残業代は、あらかじめ想定される時間分が給与に含まれており、これを超えた場合は、その時間に応じて支給されるというものです。
一方で、高度プロフェッショナル制度の場合は、成果ベースで給与が支払われるため、想定される時間より多く仕事をしても特別な賃金手当はつきません。
労働規定の適用では、裁量労働制はみなし残業時間を超えると特別手当が支給されるなどの、労働規定が適用されますが、高度プロフェッショナル制度は、成果に応じての報酬となるため、労働規定が適用されません。
また、裁量労働制は適用に条件はありませんが、高度プロフェッショナル制度は、想定年収が1,075万円以上であることや、対象職種が限られていることなど、適用には一定の条件が必要になる点で異なります。
高度プロフェッショナル制度 | 裁量労働制 | |
---|---|---|
残業代 | なし | あり |
労働規定 | 適用なし | 適用あり |
対象職種 | あり | なし |
年収 | 1,075万円以上 | なし |
高度プロフェッショナル制度の対象業務とは
高度プロフェッショナル制度の対象業務について解説します。
対象業務の前提条件
制度の対象となる人は、業務分野に対する高度な知識や技術を持っていることが前提となります。
仮に業務が制度の対象となるものでも、対象者自身が高度な知識・技術を持っていない場合は、制度の対象外となるため注意しましょう。
また、成果ベースで給与が決まる制度となるため、就業時間と成果の関連性が高くないことも重要です。
対象業務・職種
現時点では、対象業務・職種は下記の5つに限定されています。
- ⾦融⼯学等の知識を⽤いて⾏う⾦融商品の開発の業務
- 資産運⽤(指図を含む、以下同じ)の業務又は有価証券の売買その他の取引の業務
のうち、投資判断に基づく資産運⽤の業務、投資判断に基づく資産運⽤として⾏う有価証券 の売買その他の取引の業務又は投資判断に基づき⾃⼰の計算において⾏う有価証券の売買
その他の取引の業務 - 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務
- 顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務
- 新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務
なお、これらの業務に関する、働く時間や時間配分などの、時間に関する具体的な指示については、企業は出さず、個人に業務の裁量を与えることになっています。[※1]
対象労働者
対象労働者は、以下の範囲により設定されることが決まっています。
- 使用者との間の合意に基づき職務が明確に定められていること
使用者は、次の(1)~(3)の内容を明らかにした書面に労働者の署名を受けることにより、職務の範囲について労働者の合意を得なければなりません。
(1)業務の内容、(2)責任の程度、(3)求められる成果 - 使用者から確実に支払われると見込まれる1年間当たりの賃金の額が少なくとも1,075万円以上であること
- 対象労働者は、対象業務に常態として従事していることが原則であり、対象業務以外の業務にも常態として従事している者は対象労働者とはならないこと
高度プロフェッショナル制度の導入条件
高度プロフェッショナル制度は、成果ベースでの給与支払いとなるため、過重労働にならないように、企業側で健康管理をおこなう必要があります。
企業側がおこなう健康管理は、以下の4つを満たす必要があります。
- 健康管理時間の把握(事業場外での稼働時間を服務従業員の労働時間を把握すること)
- 休日の確保(年間104日以上かつ、4週間に4日以上の休みを確保すること)
- 選択的措置
- 健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等
「(3)選択的措置」に関しては、以下のいずれかに該当する措置を、実施する必要があります。
勤務間インターバルの確保 (11時間以上)
※1+深夜業の回数制限(1か月に4回以内)
※始業から24時間を経過するまでに11時間以上の継続した休息時間を確保しなければなりません。健康管理時間の上限措置(1週間当たり40時間を超えた時間について、1か月について100時間以内又は3か月について240時間以内とすること) 1年に1回以上の連続2週間の休日を与えること(本人が請求した場合は連続1週間×2回以上) 臨時の健康診断(1週間当たり40時間を超えた健康管理時間が1か月当たり80時間を超えた労働者又は申出があった労働者が対象)
「(4)健康管理時間」の状況に応じた健康・福祉確保措置等に関しては、下記の措置を実施する必要があります。
[※1]
- 「(3)選択的措置」のいずれかの措置
(上記(3)において決議で定めたもの以外)- 医師による面接指導 ※2
※2.この他にも、1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間が1か月当たり100時間を超えた対象労働者については、労働安全衛生法に基づき、本人の申出なしに、医師による面接指導を行わなければなりません。- 代償休日又は特別な休暇の付与
- 心とからだの健康問題についての相談窓口の設置
- 適切な部署への配置転換
- 産業医等による助言指導又は保健指導
高度プロフェッショナル制度の導入方法
高度プロフェッショナル制度を導入する場合、まずは労使委員会を設置し決議される必要があります。
労使委員会による決議が完了したら、次に、労働基準監督署長に届出・決議をおこないます。
ふたつの決議が完了し、最後に制度の対象となる人に書面で同意を得ることができれば、導入を開始することができます。
労使委員会では、対象となる業務や労働者の範囲、健康管理に関する事項の把握、対象者の同意が撤回となった場合の手続きなど、10の事項の決議がおこなわれます。
制度の対象となる人の同意が必要となるのは、以下の3つの事項です。
- 労働基準法第4章の規定が適用されないこと
- 対象期間
- 対象期間中に支払われると予想される見込み賃金額
高度プロフェッショナル制度のメリット
高度プロフェッショナル制度のメリットについて解説します。
不公平性の改善
高度プロフェッショナル制度を導入することで、給与に関する不公平性を改善することができます。
高度プロフェッショナル制度が適用されていない場合、仕事が遅く、長時間残業している社員は、超過分の残業代がすべて支給され、給料を多くもらうことがあるでしょう。
この場合、能力が高く、残業しなくても仕事が早く終わる社員が、残業していない社員よりも給料が低くなってしまい、成果を出している社員が、企業の制度に対して不公平感や不信感を抱いてしまう可能性があります。
高度プロフェッショナル制度を適用すると、能力が高く、成果を出している社員が評価され、給与も評価にともない上がるため、不公平性を改善することができます。
生産性向上
働いた時間ではなく、成果に応じて評価される制度のため、就業者は効率的に仕事をおこなおうと自主的に努力するようになり、結果として、職場全体の生産性向上を期待することができます。
また、働く時間も従業員が自由にコントロールできるため、自分にとって力を発揮しやすい時間帯や、意欲が高いときなどに合わせて就業することができます。
自分で裁量を持って働けることや、成果を発揮した分の評価を受けられることで、社員のモチベーションアップや生産性向上につながります。
ワークライフバランス
働く時間を自由に決められるため、仕事とプライベートのバランスを自分で調整することができます。
「子供の学校行事に参加する」「夜は家族との時間を大事にする」などのさまざまな理由で、プライベートと仕事のバランスをとることができます。
短い時間で効率よく仕事をして、あまった時間は、自分の生活の好きなことに使うことが可能になるため、仕事のみでなくプライベートの満足度も上がるでしょう。
>ワークライフバランスに取り組むメリットに関する記事はこちら
高度プロフェッショナル制度のデメリット
高度プロフェッショナル制度のデメリットについて解説します。
労働時間規制が適応されない
労働基準法で定められている、休日や休日にともなう給与支給、労働時間、休憩に対する規定などが適用されません。
高度プロフェッショナル制度は、成果をベースにして給与が決定されるため、労働時間は決まっておらず、就業時間数にも上限の規制がありません。
従業員は、就業時間に上限がないため、労働基準法を超える過剰な労働時間になる可能性もあり、ストレスを感じる恐れもあります。
高度プロフェッショナル制度を取り入れる場合は、従業員の健康管理に十分に留意する必要があります。
残業手当が発生しない件
残業手当が発生しないため、想定される就業時間数より多く働いた場合でも、時間に見合う給与が支給されません。
成果ベースで給与が支払われるため、能力が低い社員や、時間がかかる作業などに対しては、労働時間に給与が見合わない可能性があるため、導入には注意が必要です。
制度の内容を把握し導入条件の遵守を
高度プロフェッショナル制度は、成果ベースでの給与支払いとなるため、健康管理の導入条件を遵守して、従業員の健康を守るようにしましょう。
ビジネスチャット「Chatwork」は、対象従業員がテレワークの際でも、迅速なコミュニケーションができるため、細かなサポートが可能になります。
会話のようにリアルタイムでのチャットができ、送られてきたメッセージに対してスタンプで素早く意思表示ができ、必要に応じて音声やビデオなどを使用するなどで、さまざまな形態でのコミュニケーションが可能です。
高度プロフェッショナル制度を取り入れた企業でも、円滑で素早いコミュニケーションが実現できる「Chatwork」の利用をご検討ください。
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[※1]出典:厚生労働省「高度プロフェッショナル制度の概要」
https://jsite.mhlw.go.jp/fukushima-roudoukyoku/content/contents/000415522.pdf
※本記事は、2022年6月時点の情報をもとに作成しています。