【社労士監修】パタハラ(パタニティハラスメント)とは?原因や事例、対策方法を解説
目次
パタハラとは、パタニティハラスメントの略称で、男性が育休を取得する際に、職場で差別や嫌がらせをすることです。
近年、男性の育休取得が推進されるようになり、男性育休取得率も急増していることから、パタハラという言葉が、広く認知されるようになりました。
今回は、パタハラが起こる原因や事例、対策方法について詳しく解説します。
パタニティハラスメントの定義
「パタハラ」とは、パタニティハラスメントの略称で、男性従業員が、育児休暇や育児休業など、育児目的の制度を利用することを、阻害したり、それを理由に嫌がらせをしたりする行為のことです。
パタニティは「父性」、ハラスメントは「嫌がらせ」や「いじめ」などの迷惑行為を意味します。
たとえば、男性従業員が育休の申請をしても、上司が認めなかったり、復職後に仕事を与えなかったりなどの行為がパタハラに該当します。
マタハラとの違い
パタハラとマタハラは、ハラスメントをうける対象が、男性か女性かという点で異なります。
マタハラは、マタニティハラスメントの略で、女性の妊娠・出産・育児に関して、職場で嫌がらせなどを行うことをいいます。
一方で、パタハラは、育休や育児に関連する制度を利用する男性に対して、嫌がらせなどを行うことです。
>【社労士監修】マタニティハラスメント(マタハラ)とは?に関する記事はこちら
パタハラが注目を集める背景
パタハラが注目される理由のひとつとして、子育てに関する社会の価値観の変化があげられます。
ひと昔前は、「男性は外で働き、女性が子育てをする」という価値観が主流でしたが、価値観の多様化や共働き世帯の増加に伴い、「男女がともに働いて子育てをする」という価値観をもつ人が増えつつあります。
また、育児・介護休業法の改正により、男性の育休を推進する仕組みが導入され、男性が育児に参加しやすくなりました。
そのため、女性が社会で活躍できる環境が徐々に整いはじめ、男女ともに仕事と育児を両立しながら働ける社会になりつつあります。
このような背景から、今後男性の育児参加が増加することが予想され、パタハラが注目を集めるようになったのです。
日本におけるパタハラの現状
厚生労働省が令和2年に発表した「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、過去5年間でパタハラをうけた割合は26.2%で、約4人に1人が経験しているという結果がでています。[※1]
また、パタハラの要因となった制度としては、育児休業が49.6%と最も高くなっており、男性の育休に対して抵抗のある企業が、いまだに多く存在することがわかります。
くわえて、うけたハラスメントの内容は、「上司による、制度の利用の請求や制度の利用を阻害する言動」が53.4%と最も高く、次いで「同僚による、制度の利用の請求や制度の利用を阻害する言動」が33.6%という結果になっています。
この結果からもわかるように、現時点では、上司や同僚が男性の育児参加に理解を示さない企業も多いということがわかります。
パタハラの事例
実際にどのような行為がパタハラに該当するのでしょうか。
ここからは、パタハラに該当する事例を具体的に解説していきます。[※2]
不利益なとりあつかい
「育休を取るなら辞めてもらう」「復帰しても昇進がなくなる」など、育児制度を利用することで不利益な取り扱いをするような言動は、パタハラに該当します。
なお、育児・介護休業法では、企業側の育休取得の拒否を禁止しており、悪質な場合は罰金が科されることもあります。
制度等の利用への嫌がらせ
育休制度を利用したことを理由に、配置転換や昇格試験の受験を拒否するなどの嫌がらせは、パタハラに該当します。
また、短時間勤務など、育休に関連する制度を利用する従業員に対し、故意に業務を与えない行為もパタハラにあたります。
制度等の利用の妨害
「忙しいのに育休をとるなんて考えられない」など、日ごろから育休を制限するような発言をしている環境は、実質制度の利用を制限していることになり、パタハラに該当します。
くわえて、育休を申し出た従業員に対して、「休まれると困る」「男が使う制度ではない」など、利用を妨害する行為もパタハラ行為になります。
パタハラの原因
そもそも、なぜパタハラがおこなわれるのでしょうか。
その原因を詳しく解説します。
性別による無意識の思い込み
人は、先入観や固定観念で、性別に対する役割を無意識に思い込むことがあります。
たとえば、「男性は外で働き、女性は家庭を守るもの」という概念は、性別に関する固定観念の代表的な例のひとつです。
この思い込みは、過去の経験や情報、価値観から起こるもので、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)とも呼ばれます。[※3]
この無意識の思い込みは、パタハラに大きく影響しており、育休を取得する男性に対して偏見を押しつけてしまう原因のひとつといえるでしょう。
職場の風土や体制の未整備
社内全体が男性の育休に対して否定的な姿勢をみせるなど、育休が取得しづらい風土をもった職場では、育休は促進されません。
とくに、人手不足や長時間労働が慢性的になっている職場では、「育休を取得されると業務が増える」として、上司や同僚からパタハラが起きやすいです。
まずは、就業規則や社内制度を整備して、周知・啓発したうえで、お互いに協力し合う職場の風土づくりをすることが大切です。
育児休業に対する知識不足
男性の育休に関する研修や社内周知がおこなわれておらず、上司や同僚の知識不足のためにパタハラが起きるケースもあります。
とくに、育休を最初に相談される上司が適切な対応をしなければ、パタハラに発展する可能性が高くなるでしょう。
パタハラを防ぐためにも、全従業員に男性育休について研修をおこない、理解を深めてもらうことが大切です。
パタハラの裁判事例
パタハラは、裁判にまで発展する場合もあります。
実際に起きたパタハラの裁判事例をふたつご紹介します。
育休復帰後に不当な異動を命じた事例
ある男性従業員が、育休から復帰した後に、まったく経験のない業務をおこなう部署に配属されたことで、パタハラを理由に慰謝料を請求した事例があります。
男性は、もともとオフィス業務に従事していましたが、育休復帰後には、肉体労働をおこなう部署へ異動になりました。
この男性従業員は、不当な異動で、ハラスメントにあたるとして、慰謝料を求めて企業を相手に提訴をおこしました。
この件は、和解が成立していますが、従業員の同意を得ず、不当な異動を命じた場合、パタハラに該当する可能性がでてくるでしょう。
育休復帰後に昇格試験をうけさせなかった事例
ある病院では、男性看護師が育児休業を取得したことを理由に、給与の昇給が認められず、かつ昇格試験をうける機会を与えなかった事例があります。
この男性看護師は、昇給・昇格した場合の差額分の損害賠償と慰謝料を求めて、病院を提訴しました。
判決では、育休で1年のうち4分の3を休業していたことから、能力向上の判断はしがたいとして、企業が昇給をしないことは違法にならないとしました。
しかし、昇格試験をうけさせなかったことは違法として、病院に慰謝料として15万円の支払いを命じています。
パタハラと法律
2019年の育児・介護休業法改正により、ハラスメント防止のための事業主や従業員の責務に関する規定が追加されました。
ここからは、事業主と従業員それぞれに、どのような責務が生じているのかを解説します。
事業主の責務
事業主には、育児・介護休業法25条の2第2項と第3項により、以下の責務が課せられています。[※4]
- 労働者の関心と理解を深めるために広報活動や啓発活動、その他の措置を講ずるよう努めること
- 育休に関連するハラスメント問題に対して労働者の関心と理解を深めること
- 研修の実施や、その他必要な配慮をするほか、国の講ずる措置に協力するように努めること
事業主も自ら、育休に関連するハラスメント問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めること
つまり、事業主には、育児に関連するハラスメントの理解を、従業員が深められるように、社内周知や研修をおこない、ハラスメント問題に注意を払うよう責務が課されているということです。
労働者の責務
労働者には、育児・介護休業法25条の2第4項により、以下の責務が課せられています。[※4]
- 育休に関連するハラスメント問題に対して関心と理解を深め、ほかの労働者に対する言動に注意を払うこと
- 事業主の講ずるハラスメントを防止するための措置に協力するよう努めること
つまり、従業員も、ハラスメント問題に対して理解を深めつつ、企業が実施する防止策に従って行動するよう責務が課されているということです。
パタハラが起こってしまった場合
実際にパタハラが起こってしまった場合は、一般的に以下の手順で対処する必要があります。
- 事実関係の確認
- 被害者のケア
- 加害者への指導
- 再発防止の対策・周知
各項目を詳しくみていきましょう。
事実関係の確認
もしパタハラが発生してしまったら、まずは事実確認をおこないましょう。
パタハラの加害者や被害者をはじめ、周囲の人から情報収集し、正しい事実関係を確認・把握することが大切です。
被害者のケア
パタハラにより、不当な処分や妨害をうけていた場合には、その処分の取り消しも必要です。
また、被害者の心理的な支援をするとともに、被害者が申し出た育休制度の利用を認めるなど、迅速にケアをおこないましょう。
加害者への指導
パタハラをおこなった加害者に対して、適切な指導や処分を検討しましょう。
状況によっては、就業規則に則って、懲戒処分や配置転換などの対応が必要な場合もあります。
再発防止の対策・周知
再発を防止するために、パタハラの原因を特定し、再発防止策を講じましょう。
また、社内で起きた事例を踏まえて、研修などで、改めて従業員に制度の周知をすることも大切です。
パタハラの対策方法
前述した通り、事業主には、パタハラが発生しないように、対策を講じる責務があります。
パタハラに有効な対策をみていきましょう。
育休に関する制度を整備する
育休や短時間勤務制度など、育休に関連する制度の整備は、法律で義務づけられています。
就業規則や社内規定に、条件や申請方法など、育休に関する制度内容を明記したうえで、従業員に周知をはかりましょう。
制度の整備をすることで、従業員が社内ルールに沿って申請ができるため、パタハラの防止につながります。
育休に関する社内理解の促進
男性の育休は、性別による固定概念や思い込みが深く根付いていることが多いため、意識改革が必要になる可能性が高いです。
そのため、全従業員に研修を実施するなど、社内理解を促進させることが重要です。
くわえて、育児休業制度や育児休業に関するハラスメント防止措置については、就業規則などに規定し、周知・啓発にとりくみましょう。
相談窓口の設置
企業には、パタハラ防止のために、労働者が相談できる窓口の設置が義務づけられています。
たとえば、上司が育児休業を渋るような場面では、相談窓口があることで状況が解決することも期待できるでしょう。
育休を取得しやすい環境づくり
男性の従業員が育休を取得しやすい環境をつくることも、パタハラ対策のひとつです。
たとえば、仕事の引継ぎに十分な時間が確保できるように、育休取得を希望する従業員にははやめに上司へ相談するよう周知したり、育休を取得しない従業員の業務を適切に分担したりなどが、方法としてあげられます。
社内全体を、育休を取得しやすい環境に整えれば、パタハラを軽減できるでしょう。
パタハラの対策事例
実際にパタハラを対策している企業は、どのようなとりくみをしているのでしょうか。
ここからは、パタハラ対策にとりくんでいる企業の事例をご紹介します。
パパ・ママミーティングの実施
部品製造をおこなう企業では、育休中の従業員に対して、担当者から育休に関する社内制度について説明をうけたり、上司や育休から復職した従業員と面談したりなど、育休の不安を軽減できるとりくみを実践しています。
面談を通じて、上司が部下の育休の事情を把握することで、上司の育休に対する理解が促進され、育休制度を利用する従業員に配慮したマネジメントがおこなえるようになりました。
この企業では、育休中の従業員や上司、育休復帰者と情報交換をおこなう「パパ・ママミーティング」を定期的に実施し、従業員の育休に対する理解の促進を目指しています。[※5]
男性の育休取得に向けた冊子を作成
ある通信企業では、「男性の育休取得に向けた冊子」を全従業員に配布し、男性の育休制度の周知・利用促進を積極的におこなっています。
また、育休に関する相談窓口には、育休取得経験者を配属し、経験を生かした具体的な相談をおこなうことで、育休制度を利用する従業員の不安解消に努めています。[※6]
情報共有には「Chatwork」
共働き世帯の増加や女性の活躍が推進される昨今では、男性の育児参加が欠かせません。
しかし、「男性は働き、女性が家庭を守る」という思い込みは根深く、どの企業でもパタハラが起こる可能性はあります。
男性の育休を推進するためにも、従業員一人ひとりの理解を深め、男性が育児に参加しやすい環境を整えていきましょう。
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1対1だけでなく、複数人や社内全体の情報共有にも活用できるため、ハラスメント教育や、育休に関する相談にも活用することができます。
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[※1]厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000775817.pdf
[※2]三重県「マタハラ・パタハラ困らないためのトリセツ」
https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000618264.pdf
[※3]男女共同参画局「無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)とは」
https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/pdf/seibetsu_r03/movie.pdf
[※4]e-Gov法令検索「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=403AC0000000076
[※5]三重県「職場におけるマタハラ、パタハラ防止マニュアル 住友電装株式会社」
https://www.pref.mie.lg.jp/TOPICS/m0011500045.htm
[※6]三重県「職場におけるマタハラ、パタハラ防止マニュアル 株式会社ZTV」
https://www.pref.mie.lg.jp/TOPICS/m0011500045.htm<
記事監修者:北 光太郎
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。