【社労士監修】パワーハラスメントの定義とは?6類型や企業の対策義務を解説
目次
職場のパワーハラスメント(パワハラ)とは、上司や先輩など、職場内の立場や知識の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて身体的・精神的に苦痛を与えることです。
職場のパワーハラスメントは、個人の尊厳を傷つけるだけでなく、人材の流出や社会的信用の低下にもつながります。
今回は、職場におけるパワーハラスメントについて詳しく解説すると共に、企業の適切な対策方法をご紹介します。
職場のパワーハラスメントの定義
以下の3つの要素を満たすものが、「職場のパワーハラスメント」として定義付けられています[※1]
- 優越的な関係に基づいて行われること
- 業務の適正な範囲を超えて行われること
- 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
それぞれの項目について、詳しく解説します。
(1)優越的な関係に基づいて行われること
「優越的な関係」とは、立場を利用して、相手に不当な圧力や攻撃をする行為のことです。
たとえば、上司と部下の関係など、知識や経験で、さまざまな「差」があることで発生し、抵抗または拒絶することができない関係性のことが、「優越的な関係」にあたります。
また、部下から上司に対するものであっても、優越的な関係性が認められれば、パワーハラスメントに該当します。
(2)業務の適正な範囲を超えて行われること
「業務の適正な範囲を超えて」とは、業務上あきらかに必要性のない言動のことをいいます。
たとえば、「覚えが悪い」「仕事ができない」など、業務の指導を超えて相手を侮辱するような行為です。
このような行為は、業務上あきらかに必要性のない行為として、パワーハラスメントに該当します。
(3)身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
暴力や暴言などで、身体的もしくは精神的な苦痛を与えることで、就業環境を悪化させるような事案は、パワハラに該当します。
厳しい叱責は、時として従業員の成長を促すために必要な行為でもありますが、執拗に繰り返すことで、相手に恐怖を感じさせます。
また、その行為により、従業員が本来の能力が発揮できず、就業するうえで看過できない程度の支障が生じていれば、その行為はパワハラに該当します。
パワハラに関連する用語の定義
パワハラは以下の用語について定義をしています。[※2]
- 職場
- 労働者
- 優越的関係
それぞれの定義を詳しく解説します。
職場の定義
「パワハラ」における「職場」とは、パワハラが発生する場所のことで、被害者が労働に従事する場所のことを指しています。
具体的には、企業や公共機関、学校、病院、店舗などを指しますが、現代はテレワークも普及しており、必ずしも職場で起こるとは限りません。
また、業務外である通勤中や接待中などであっても、実質上職務の延長と考えられるものは、「職場」に該当します。
ただし、「職場」の判断にあたっては、職務との関連性や強制か任意かといった要因を考慮して個別におこなう必要があります。
労働者の定義
パワハラにおける労働者とは、労働契約に基づいて労働を提供する者のことを指します。
そのため、正社員や契約社員、パート・アルバイト、派遣社員など、雇用形態に関わらず、労働者として定義付けられます。
なお、派遣先は、派遣社員に対して指揮命令をおこなうため、自社の従業員だけではなく、派遣社員も含めて、パワハラの防止に努めなければいけません。
優越的関係の定義
パワハラにおける「優越的な関係」とは、一方的に影響力や権力をもち、指示や命令を出すことができる関係のことを指します。
たとえば、上司と部下、先輩と後輩などの関係で、職務上の地位に上下関係がある場合が、優越的な関係にあたります。
また、地位的な上下関係がなくても、知識や経験が豊富な従業員と、そうでない従業員の関係も、パワハラにおいて「優越的関係」と定義付けられます。
パワーハラスメントの6類型
パワハラは、行為によって以下の6つの類型に分類されています。[※3]
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大な要求
- 過小な要求
- 個の侵害
ここからは、分類ごとに具体例をあげて、どのような行為がパワハラに該当するのかを解説します。
なお、パワハラにあたる行為は状況ごとに判断されるため、例に挙げている行為だけがパワハラになるわけではありません。
身体的な攻撃
「身体的な攻撃」とは、暴行や傷害などの行為のことです。
該当すると考えられる例 |
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該当しないと考えられる例 |
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たとえば、書類で頭をたたく行為も、パワハラになる可能性があります。
原則、故意の暴行や傷害は、パワハラに該当すると考えてよいでしょう。
一方で、不注意でぶつかったり、たまたま肘が顔にあたってしまったりなど、偶然起こったことは、パワハラにはなりません。
また、工事事故や交通事故などの危険から守るための行為も、パワハラにならないケースがあります。
精神的な攻撃
「精神的な攻撃」とは、脅迫や侮辱・暴言などの攻撃です。
該当すると考えられる例 |
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該当しないと考えられる例 |
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たとえば、ほかの従業員の前で、「無能なやつだ」と言ったり、土下座をさせたりする行為はパワハラにあたります。
一方で、例にあげたような行為について、厳しく注意することは、パワハラに該当しません。
しかし、その注意方法が、一般的にみて限度を超えている場合は、パワハラに該当する可能性があるため、注意が必要です。
人間関係からの切り離し
「人間関係からの切り離し」とは、隔離や無視のことです。
該当すると考えられる例 |
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該当しないと考えられる例 |
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たとえば、気に入らない部下をあからさまに無視したり、部署内の共有メールを特定の従業員に送らなかったりする行為が、人間関係からの切り離しの類型のパワハラに該当します。
一方で、理由があって隔離する行為は、パワハラに該当しません。
過大な要求
「過大な要求」とは、業務上あきらかに不要な業務や、遂行不可能な業務を強制的にさせる行為です。
該当すると考えられる例 |
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該当しないと考えられる例 |
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たとえば、緊急性がないのに、毎週休日出勤を命じたり、未経験の業務を大量に押しつけて期限内に処理するよう命じたりする行為は、過大な要求のパワハラに該当します。
一方で、育成のために責任のある仕事を任せたり、繁忙期でどうしても業務が多くなるような状況は、パワハラにはなりません。
過小な要求
「過小な要求」とは、あきらかに能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えなかったりする行為のことです。
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該当しないと考えられる例 |
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たとえば、専門職で採用した人に、無理やり専門外の業務をおこなわせたり、特定の従業員のみに仕事を与えなかったりするなどの行為が、パワハラにあたります。
一方、業務過多の解消を目的とした業務の軽減は、パワハラにはなりません。
個の侵害
「個の侵害」とは、私的なことに過度に立ち入る行為のことです。
該当すると考えられる例 |
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該当しないと考えられる例 |
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たとえば、ストーカーに近い行為や個人情報を勝手に他人に言いふらす行為などが、個の侵害の類型のパワハラに該当します。
一方で、特定の部門に個人情報を伝えなければいけない状況で、本人が了解している範囲内で伝える行為は、このパワハラには該当しません。
パワーハラスメントの裁判事例
パワーハラスメントは、裁判に発展する事例が少なくありません。
ここからは、パワーハラスメントの裁判事例を2つ紹介します。
生命保険会社の事例
ある生命保険会社では、管理職としての配慮に欠ける言動が、パワハラに該当するという判決をうけました。
これは、生命保険会社でマネージャーとして勤務していた従業員が、支社長と営業所長から、逆恨みによる嫌がらせをうけたため、損害賠償を求めた事案です。
支社長と営業所長は、マネージャーである従業員に対して、部下の前で叱責を繰り返したり、チームから分離させたりなどの嫌がらせを繰り返しおこなっていました。
結果、必要性がないにもかかわらず、ほかの従業員がいる前で不用意に問いただしたり、ルールに反する取扱いをしたりすることは、管理職として配慮に欠ける言動として、生命保険会社に慰謝料300 万円の支払を命じた事例です。[※4]
消費者金融会社の事例
ある消費者金融会社では、従業員3名が、上司からうけたパワハラを理由として、損害賠償請求をした事例があります。
上司は、冬の時期にたばこの臭いが気になることを理由に、被害者の近くに扇風機を置き、長期間執拗に風を当て続ける嫌がらせをおこなっていました。
また、日常的に暴言・暴行を繰り返し、業務報告がおこなわれていなかった場合には、「給料をもらっていながら仕事をしていませんでした」という文言を挿入させた上で、始末書を提出させていました。
結果、上司の行為はパワハラと認められ、従業員3人に対し、慰謝料の支払いが命じられました。[※5]
パワーハラスメントの罰則
パワーハラスメントの防止を定めた「パワハラ防止法」には、罰則は定義されていません。
ただし、必要があると認められた場合には、行政から助言・指導または勧告をうける場合があります。
また、勧告に従わない場合には、その旨が公表される可能性もあるため、注意が必要です。[※6]
もしパワハラがあきらかになれば、企業の社会的な信用が失われ、経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。
そのため、各企業は、パワハラに対する適切な対策を講じることが重要です。
>【社労士監修】「パワハラ防止法」とは?に関する記事はこちら
企業のパワーハラスメント対策義務
パワハラ対策は法律で定められており、企業規模に関わらず遵守しなければいけません。
ここからは、企業に求められているパワハラ対策について、詳しく解説します。[※4]
(1)事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
企業は、職場のパワハラに関する方針を明確化し、その方針の周知・啓発をおこなうことが求められています。
たとえば、処分の内容を就業規則などに規定し、管理監督者を含む従業員に周知することなどが重要です。
積極的に周知・啓発をすることで、職場のパワハラ防止の効果を高め、従業員のパワハラに対する理解を促進させることもできるでしょう。
(2)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
パワハラが起きた場合に、従業員が相談できるよう相談窓口を設置し、従業員に周知することも重要な対策方法のひとつです。
また、パワハラが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合やパワハラに該当するか否か曖昧な場合であっても、広く相談に応じるように運営することが、企業側には求められています。
事案によっては、解決のために産業カウンセラーや弁護士と連携して対応することも考えておきましょう。
(3)職場におけるパワーハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応
パワハラの被害者から相談をうけた場合には、迅速かつ適切な対応をおこなうことが求められます。
事実確認ができた場合には、速やかに被害者や行為者に適正な措置をおこないましょう。
また、発生した事案を踏まえ、防止体制の見直しや研修の実施などをおこない、再発防止を講じなければいけません。
(4)前述(1)から(3)までの措置と併せて講ずべき措置
パワハラの事実確認をする際は、プライバシー保護や二次被害の防止も考慮する必要があります。
また、被害者が相談したことを理由として、不利益な取扱いをおこなってはならない旨も、規定に定め、従業員に周知させましょう。
パワーハラスメントの対策にも「Chatwork」
職場におけるパワーハラスメントは、昨今問題視されている社会問題のひとつです。
パワーハラスメントを対策することは、企業にとっても大きな課題となっており、企業は職場におけるパワーハラスメントの予防と対応に取り組むことが求められています。
ビジネスチャットツール「Chatwork」は、職場におけるコミュニケーションを円滑にし、従業員同士のコミュニケーションによるトラブルの予防にも役立つツールです。
職場におけるパワーハラスメント対策にも、Chatworkを活用することで、職場環境の改善につながり、働きやすさの向上にもつながることでしょう。
また「Chatwork」を活用して、ハラスメントに関する情報を周知したり、相談窓口を運用したりすることも効果的です。
パワーハラスメントの対策にも、ぜひ「Chatwork」をご活用ください。
Chatwork(チャットワーク)は多くの企業に導入いただいているビジネスチャットです。あらゆる業種・職種で働く方のコミュニケーション円滑化・業務の効率化をご支援しています。
[※1]厚生労働省「パワーハラスメントの定義について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000366276.pdf
[※2]厚生労働省 あかるい職場応援団「ハラスメントの定義」
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/definition/about
[※3]厚生労働省 あかるい職場応援団「ハラスメントの類型と種類」
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/pawahara-six-types/
[※4]厚生労働省 あかるい職場応援団「【第49回】 「管理職としての配慮に欠ける言動が違法であるとされた事案社内ルールに反する取扱いを行うに当たり説得をしなかった点が違法であるとされた事案職業上の誇りを傷つける言動が違法であるとされた事案」 ― 富国生命保険ほか事件」
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/judicail-precedent/archives/51
[※5]厚生労働省 あかるい職場応援団「【第17回】「上司から受けたパワハラを理由とした損害賠償請求」 ― 日本ファンド(パワハラ)事件」
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/judicail-precedent/archives/18
[※6]厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf
記事監修者:北 光太郎
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。