【社労士監修】労使協定とは?種類や届出の必要性、罰則のケースを解説
目次
労使協定とは、労働者と使用者が労働条件について合意したことを証明する書面です。
労働基準法では、労働時間や休日、賃金などの労働条件に関する事項は、労使協定の締結によって、例外事項を定めることが認められています。
労使協定は、作成を怠ったり、届出が漏れていたりした場合は、罰則が科される可能性があるため、締結手順や届出の有無などを適切に理解しておく必要があります。
正しく運用できるように、労使協定の種類や届出の必要性、罰則のケースを解説します。
労使協定とは
労使協定とは、労働者と使用者(企業)が、労働条件について合意したことを証明する協定書です。
協定の内容は、使用者と労働者代表との合意によって定められます。
労使協定を締結することで、労働基準法に規定された原則事項の例外として労働条件を設けることができるようになります。
なお一部事項については、労使協定の締結を必須としており、労働基準監督署への届け出が義務付けられています。
労使協定の目的
労使協定は、労働基準法などの法律の例外条件を定めたい場合に、労使間でルールを決めることを目的としています。
基本的に法律には、最低条件が定められており、企業が遵守する原則を示しています。
しかし、企業ごとに働き方は異なるため、例外として、労働者と使用者が合意した場合に、条件を規制または緩和することが認められています。
労使協定と関連用語との違い
労使協定と関連する用語として、以下の3つがあげられます。
- 就業規則
- 労働協約
- 労働契約
これらの関連用語と労使協定の違いを解説します。
就業規則との違い
就業規則は、常時10人以上の従業員を雇用する事業所に作成が義務付けられた職場のルールブックです。
企業側によって規定が定められ、労働者の代表の意見聴取をおこなったうえで作成されます。
一方、労使協定は、労働者と使用者との間で合意したうえで締結されるものであり、労働者の過半数を代表する者との間で締結する必要があります。
労働協約との違い
労働協約は、労働組合と使用者との間で労働条件の合意により締結される協約です。
労働協約は、原則組合員のみの適用となりますが、労働協約の適用を受ける労働者数が、事業場の4分の3以上となる場合は、労働組合に加入していない労働者についても、労働協約の内容が適用されます。
一方で労使協定は、使用者と労働者の過半数を代表する者との間で締結されるものであり、事業場の全労働者に適用されます。[注1]
労働契約との違い
労働契約は、使用者と労働者の個人間で締結されるものであり、労働者個人にのみ適用される労働条件です。
一方で労使協定は、使用者と労働者の過半数を代表する者との間で締結されるものであり、事業場の全労働者に適用されます。
労使協定の種類と届出の必要性
労使協定は、さまざまな種類がありますが、労働基準監督署に届出が必要な場合と不要な場合があります。
ここでは、届出が必要な労使協定と不要な労使協定をそれぞれ解説します。
届出が必要な労使協定
労働基準監督署に届出が必要な労使協定の代表例は、以下の3つです。
- 時間外労働・休日労働に関する労使協定
- 事業場外のみなし労働に関する労使協定
- 変形時間労働制に関する労使協定
主に労働時間に影響するものについて届出が義務付けられています。
時間外・休日労働に関する労使協定
時間外・休日労働に関する協定届(36協定)は、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて従業員を労働させる場合に必要となる労使協定です。
また、法定休日(原則週1日の休日)に労働させる場合も、36協定を締結して、労働基準監督署に届け出る必要があります。[注2]
事業場外のみなし労働に関する労使協定
出張や外回りの営業など、事業場外でおこなう必要がある業務は、「使用者の指揮監督がおよばず労働時間の算定が困難な業務」として、労使協定で定めた時間を労働時間とみなすことができます。
ただし、事業場外労働のみなし労働時間に関する協定届は、法定労働時間(1日8時間)を超える場合に、所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります。
なお、協定で定める事業場外のみなし時間が法定労働時間以下になる場合には、届出は不要です。[注3]
変形労働時間制に関する労使協定
変形労働時間制には、以下3つの制度があります。
- 1か月単位の変形労働時間制
- 1年単位の変形労働時間制
- 1週間単位の非定型的変形労働時間制
それぞれの制度を導入するには、労使協定の届出が必要です。
ただし、1か月単位の変形労働時間制に限り、就業規則に内容を定めていれば、労使協定の届出は必要ありません。[注4]
届出が不要な労使協定
労働基準監督署に届出が不要な労使協定の代表例は、以下の3つです。
- フレックスタイム制に関する労使協定
- 年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定
- 休憩の一斉付与に関する労使協定
主に労働者に与える影響が比較的小さい労使協定が、届出不要とされています。
フレックスタイム制に関する労使協定
フレックスタイム制は、労働者に出退勤時間を委ねる制度です。
フレックスタイム制の労使協定では、対象労働者の範囲、清算期間、清算期間における総労働時間、1日の標準労働時間などを定めます。
フレックスタイム制の導入には労使協定の締結が必要ですが、労働基準監督署への届出までは求められていません。[注5]
年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定
年次有給休暇の計画的付与制度とは、従業員の年次有給休暇のうち、5日を除く部分をあらかじめ取得する日を決めておく制度です。
制度を導入するには、労使協定の締結が必要になりますが、届出の必要はありません。[注6]
一斉休憩の適用除外に関する労使協定
法律上、休憩は一斉休憩を原則としていますが、労使協定を締結すれば、一斉に与える必要がなくなります。
労使協定には、一斉休憩から除外する従業員の範囲や休憩の与え方を定める必要があります。
なお、運送業や映画・演劇業などの特定の業種については、あらかじめ一斉休憩の適用が除外されているため、労使協定の締結は必要ありません。[注7][注8]
労使協定を締結する手順
労使協定を締結し、その内容を適用する手順は以下のとおりです。
- 手順(1):労働組合または労働者の過半数代表者との交渉
- 手順(2):労使協定の締結
- 手順(3):就業規則の変更
- 手順(4):従業員への周知
各手順の詳細を確認していきましょう。
手順(1):労働組合または労働者の過半数代表者との交渉
まずは、企業側が労使協定で締結する内容を定め、労働組合または労働者の過半数代表者と交渉をおこなう必要があります。
企業側は、労働者代表の意見を聴き、労使間で協議をしながら内容を検討します。
手順(2):労使協定の締結
労使間で内容がまとまったら、労使協定を締結します。
労使協定は、書面での締結が必須です。
企業側と労働者側の代表者が署名または記名押印することで締結されます。
手順(3):就業規則の変更
労使協定で定めた内容には、就業規則に記載される内容が含まれています。
そのため、常時10人以上の従業員を雇用する事業場では、労使協定で定めた内容を就業規則に記載する必要があります。
なお、就業規則には「労使協定の定めによる」などと記載し、労使協定で詳細を明示する場合もあります。
手順(4):従業員への周知
締結した労使協定や変更後の就業規則の内容は、以下のいずれかの方法で労働者に周知する必要があります。
- 常時各作業場の見やすい場所へ掲示または備え付ける
- 書面で交付する
- 磁気テープ・磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する
周知を怠ると、労働基準法違反になるため、必ず周知をおこないましょう。
労使協定に違反した場合の罰則
労使協定を締結しなかった場合や、内容に違反があった場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
また、労使協定を従業員に周知させていなかった場合は、30万円以下の罰金が科される可能性があるため、注意しましょう。
なお、違反があったとしても、即罰則が科されるわけではなく、指導や是正勧告などの行政指導がなされるのが一般的です。
ただし、是正勧告をしても改善が見られない場合は罰則がかされることになります。[注9]
「Chatwork」で情報共有の円滑化をはかりましょう
労使協定とは、労働者と使用者が合意した労働条件の取り決めです。
労使協定を締結することで、労働者を法定労働時間を超えて働かせたり、勤務時間を変更したりなど、さまざまな労働条件を定めることができます。
各企業の業務内容や働き方にあわせて、適切な労働要件を取り決めるようにしましょう。
労使協定を締結した後は、必ず労働者に周知しなければなりません。
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[注1]出典:厚生労働省「労働協約の拡張適用について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/roudoukumiai/index_00004.html
[注2]出典:東京労働局「36協定の締結当事者の要件」
https://jsite.mhlw.go.jp/ishikawa-roudoukyoku/content/contents/000839281.pdf
[注3]出典:東京労働局「事業場外労に関するみなし労働時間制」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyo-roudoukyoku/jikanka/jigyougairoudou.pdf
[注4]出典:厚生労働省「1か月単位の変形労働時間制」
https://jsite.mhlw.go.jp/hyogo-roudoukyoku/content/contents/000597825.pdf
[注5]出典:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」
https://jsite.mhlw.go.jp/yamagata-roudoukyoku/content/contents/000382401.pdf
[注6]出典:厚生労働省「年次有給休暇の計画的付与制度」
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kinrou/dl/101216_01e.pdf
[注7]出典:埼玉県「休憩時間の自由利用について」
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0809/rodo/912-2009-1207-165.html
[注8]出典:愛媛労働局「休憩(第34条) 休日(第35条)」
https://jsite.mhlw.go.jp/ehime-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/hourei_seido/20404/2040407.html
[注9]出典:e-Gov法令検索「労働基準法第119条1号・120条1号」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
※本記事は、2023年12月時点の情報をもとに作成しています。
記事監修者:北 光太郎(きた こうたろう)
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。