【社労士監修】家族手当とは?扶養手当との違いや金額の相場・支給条件を解説
目次
家族手当とは、企業が従業員に対して家族を扶養している場合に支給する手当のことです。
一般的には、扶養している配偶者や子ども、場合によっては親などを対象とし、扶養者の生活費を補助する目的で支給されています。
しかし、共働きの増加や女性の社会進出が推進され、家族手当の見直しを検討する企業も増えてきました。
本記事では、扶養手当との違いや金額の一般的な相場・支給条件、家族手当の今後の動向について詳しく解説します。
家族手当とは?
家族手当とは、配偶者や子どもがいる従業員に支給される手当です。
家族が増えれば生活費の負担も大きくなるため、従業員の経済的な不安を和らげることを目的として多くの企業が支給しています。
なお、家族手当に法的な支給義務はなく、企業が福利厚生の一環として独自に制度を設けています。
そのため、支給条件や対象者、支給額などの詳細は企業ごとに異なり、中には家族手当自体を設けていない企業もあります。
家族手当の支給条件
家族手当の支給条件は企業ごとに異なりますが、一般的には以下のようなケースで支給されます。
配偶者 | |
---|---|
子ども |
その他、父母や兄弟姉妹などで、一定の所得要件を満たす場合に支給する企業もあります。支給条件や対象者は企業ごとに異なるため、必ず就業規則など社内規程を確認しましょう。
家族手当の支給金額・相場
家族手当の支給金額は企業によってさまざまで、子どもの人数や業界、地域によっても差があります。
主な違いには以下のような項目があります。
- 子どもの人数や年齢による違い
- 企業規模別の相場
- 他の福利厚生とのバランス
公的な調査結果をもとに、家族手当の相場を紹介します。
子どもの人数や年齢による違い
東京都産業労働局が公表している「中小企業の賃金事情(令和4年版)」の調査結果では、子どもの人数によって家族手当の金額に以下のような違いが出ています。[※1]
配偶者 | 10,372円 |
---|---|
第一子 | 5,576円 |
第二子 | 5,259円 |
第三子 | 5,305円 |
また、企業によっては、配偶者と子の区別なく、以下のように扶養の人数で支給額を分けている場合もあります。
1人目 | 12,000円 |
---|---|
2人目 | 8,000円 |
3人目 | 7,000円 |
また、対象年齢についても企業によってさまざまですが、子どもに対して年齢制限を設けている企業もあります。
企業規模別の相場
厚生労働省「令和2年就労条件総合調査」によると、家族手当の金額は企業規模によって以下の違いが出ています。[※2]
1,000人以上 | 2万2,200円 |
---|---|
300〜999人 | 1万6,000円 |
100〜299人 | 1万5,300円 |
30〜99人 | 1万2,800円 |
このように、従業員規模に応じて金額が高くなっていることがわかります。
他の福利厚生とのバランス
企業が従業員に対して提供する福利厚生は、各企業の経営方針や財務状況、従業員のニーズなどを考慮して決められます。
そのため、家族手当と他の福利厚生とのバランスを取ることも重要です。
家族手当は、家族がいる従業員の経済的安定や子育て支援としての役割がある一方で、配偶者や子どもの有無によって従業員に賃金格差が生じる可能性があります。
住宅手当や資格取得手当など、福利厚生として支給している手当とのバランスを考慮しながら金額を決定することが大切です。
家族手当と扶養手当の違い
「家族手当」と「扶養手当」はともに、家族の扶養を支給条件にしている企業がほとんどです。[※3]
ただし、誰かを扶養していなくても、配偶者や子どもがいることを条件に支給する手当を「家族手当」としている企業もあります。
手当の名称は企業が独自に定めているため、「家族手当だから扶養ではない家族も対象」と明確に区分されているわけではありません。
家族手当が設けられている企業では、就業規則で要件を確認しておきましょう。
家族手当の一般的な申請方法
家族手当の申請方法は企業によってさまざまですが、一般的には社内様式である「家族異動届」や「家族手当申請書」などの申請書を用いて申請をします。
申請書には、扶養を開始する家族の氏名や続柄を記入し申請するのが一般的であり、企業によっては証明書の添付を求められる場合があります。
企業担当者は、従業員からの申請の内容を確認し、就業規則に則って家族手当を支給し、扶養親族が扶養から外れる時も同様の申請が必要です。
家族手当の支給条件から外れたにも関わらず申請を怠った場合は、不正受給に該当しますので、家族の異動があった場合は必ず申請をしましょう。
家族手当にかかる税金・社会保険料の影響
家族手当は給与の一部であるため、税金や社会保険に影響します。
影響がある項目は以下のようなものがあります。
- 家族手当にかかる税金の影響
- 社会保険料の計算への影響
- 税務上の注意点
それぞれの影響と注意点を詳しく解説します。
家族手当にかかる税金の影響
家族手当が支給されることで所得が増加するため、その分所得税・住民税が増加します。
ただし、家族手当の支給が扶養を要件にしている場合は、所得税の計算時に扶養控除が適用されるため、家族手当の金額を扶養控除額が上回る場合は、結果的に所得税が減額になる場合もあります。
社会保険料の計算への影響
家族手当は、社会保険料の算定において「報酬」にあたるため、標準報酬月額に変動があれば社会保険料が増加します。
また、家族手当は「固定的賃金」に該当するため、支給開始から3ヶ月平均で標準報酬月額が2等級以上変動した場合は、随時改定が発生する可能性もあります。
税務上の注意点
家族手当は扶養を要件としていることが多いため、年末調整の際に扶養から外れる見込みであれば、家族手当の支給停止または遡って徴収される可能性があります。
たとえば、扶養していた子どもがアルバイトをしており、年末調整で収入が103万円を超えていることが判明した場合は、家族手当の支給が停止されるということです。
ただし、要件や対応は企業によって異なるため、就業規則で確認しましょう。
今後の家族手当について
家族手当は、働き方やライフスタイルなど時代の変化とともに、在り方や考え方が見直されています。
今後の家族手当の将来性や政府の動向を知っておきましょう。
将来性や予測される変化
現在、家族手当は多くの企業で導入されていますが、縮小や廃止の動きが加速しています。
その背景には、女性の社会進出や成果主義の導入があげられます。
家族手当は基本的に扶養を前提とした制度であり、共働き世帯や独身者にとって不公平感があります。
「家族手当をもらうために労働時間を制限する」「既婚者の方が給与が高い」となれば、従業員のモチベーションにも影響するでしょう。
また、個人の能力や成果に関係なく支給される家族手当は、評価制度と整合性が取れません。
インセンティブよりも家族手当の方が金額が高ければ、不満を抱く従業員も出てきます。
そのため、家族手当は将来的に縮小や廃止を検討する企業が増えることが予想されます。
政府の動向・関連政策
政府は、女性の社会進出や働き方の多様化に対応するため、配偶者手当(家族手当)の見直しを推進しています。
厚生労働省は、各企業に配偶者手当の見直しを促進するため、2023年10月に「配偶者手当見直し検討のフローチャート」を公表しました。
このフローチャートでは、以下の手順で配偶者手当の見直しを検討するよう促しています。[※4]
- 賃金制度・人事制度の見直し検討に着手
- 従業員のニーズを踏まえた案の策定
- 見直し案の決定
- 決定後の新制度の丁寧な説明
詳しくは、厚生労働省の「>企業の配偶者手当の在り方の検討」をご覧ください。
家族手当の見直し事例
家族手当の見直しが推進され、縮小・廃止を進める企業も増えている中で、どのように見直しをすればよいか悩んでいる企業も多いでしょう。
ここでは、家族手当を縮小・廃止した企業の事例を紹介します。
配偶者の金額を縮小した事例
家族手当の配偶者の金額を縮小した事例として、配偶者と子どもの金額を差なくし、一律の金額を支給する制度に変更した事例があります。
たとえば、配偶者を扶養している場合は2万円、子どもを扶養している場合は1万円の家族手当をしていた制度を、扶養人数1人つき1万5,000円に変更するというものです。
そうすることで、配偶者がいる世帯といない世帯との不公平感がなくなり、また「ひとり親」の従業員に対する不満の解消が期待されます。
基本給に家族手当分を入れ込む
家族手当を廃止し、その財源を基本給に入れ込む事例もあります。
たとえば、勤続年数や年齢に応じて、配偶者と子どもがいる想定で基本給に家族手当分を反映させたり、家族手当分の財源を全従業員の基本給に反映させたりなどです。
そうすることで、家族手当の不公平感を解消するとともに、従業員の賃上げが可能になります。
なお、廃止する企業の中には経過措置として数年かけて支給額を徐々に減らし、採取的に廃止する計画で実施している企業もあります。
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家族手当は、配偶者や子どもがいる従業員に支給される手当です。
扶養家族を支える従業員に対する手当として多くの企業が支給している一方、女性の社会進出や成果主義の導入とは相反する手当として、縮小・廃止を検討する企業が増えています。
政府も家族手当(配偶者手当)の見直しを推進しており、今後家族手当を見直す企業は確実に増えていくでしょう。
しかし制度の見直しは、慎重に進めなければなりません。
従業員のニーズ把握や丁寧な説明は不可欠です。
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[※1]出典:東京産業労働局「中小企業の賃金事情(令和4年版)」
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/toukei/koyou/r4chintyo_2-2.pdf
[※2]出典:厚生労働省「令和2年就労条件総合調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/20/dl/gaiyou02.pdf
[※3]出典:厚生労働省「配偶者手当の在り方の検討に向けて」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001040024.pdf
[※4]出典:厚生労働省「企業の配偶者手当の在り方の検討」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/haigusha.html
記事監修者:北 光太郎(きた こうたろう)
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。