短時間正社員とは? メリット・デメリットや社会保険の適用条件を解説
目次
短時間正社員制度とは、フルタイム正社員(1日8時間、週40時間で就労するなど、その会社で正社員として定義される社員)より短い時間で働きながら、正社員としての待遇を受けられる働き方のことです。
育児や介護などの事情がある人でも、ワークライフバランスを実現しながら、正社員としてキャリアを積むことができます。
人材の確保や従業員の満足度向上につながるなど、企業にも多くの利点があるのが特徴です。
本記事では、短時間正社員制度の概要や対象になる人の具体例のほか、メリット・デメリット、社会保険が適用される条件などについて詳しく解説します。
短時間正社員制度とは
短時間正社員制度とは、フルタイム正社員よりも短い時間で働きながら、期間の定めのない労働契約を締結でき、時間当たりの給与・ボーナスなどの算定方法も、ほかのフルタイム正社員と同等の基準が適用される仕組みのことです。
この制度を利用すれば、育児や介護などの事情によって、フルタイムで働くのが難しい人や、定年後も働きたいと考えている高齢者の人でも、ワークライフバランスを実現しながら、正社員として働くことができます。
高い意欲や能力を持っている人材を確保・活用できるほか、従業員満足度の向上にもつながるため、企業にとっても利点が多い制度といえるでしょう。
短時間正社員制度とフルタイム正社員との違い
短時間正社員はフルタイム正社員に比べ、1日または1週間の所定労働時間が短くなっています。
フルタイム正社員は、1日8時間・週5日など、週40時間程度働く必要があるのに対して、短時間正社員は「週2日のみ」「週20時間まで」などのように、短い時間で働くことが可能です。
時間あたりの基本給に差はなく、賞与や退職金などの算定方法も同じですが、短時間正社員は、働く時間が少ない分、フルタイム正社員よりも給料が少なくなります。
短時間正社員制度と時短勤務の違い
時短勤務とは、育児や介護、通院などが必要になった社員の勤務時間を一時的に短くする制度です。
育児・介護休業法に基づいて、3歳未満の子どもをもつ社員や介護が必要な家族をもつ社員の勤務時間を原則1日6時間に短縮する「短時間勤務制度」も、時短勤務の一種で、介護休業とあわせて93日以上利用できるようにする必要があります。
短時間正社員制度は、育児や介護以外の事情でも利用することができ、継続的に短い時間で勤務できる点で、育児・介護休業法の短時間勤務制度と異なっています。
また、短時間正社員制度では、1日の所定労働時間を6時間以下に短縮することも可能です。
ただし、3歳以上の子どもをもつ従業員や育児・介護以外の理由での時短勤務を認めている企業や、時短勤務でも勤務時間を6時間以下に短縮することを認めている企業もあります。
また、2025年10月からは、育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法の改正により、小学校就学前の3歳以上の子どもをもつ労働者に対しても、「始業時刻等の変更」「テレワーク等(10日/月))」「保育施設の設置運営等」「新たな休暇の付与(10日/年) 」「短時間勤務制度」の中から2つ以上の制度を選択して措置することが企業に義務付けられます。[注]
そのため、時短勤務は、一般的に勤務時間を短くする事情がなくなったら元の勤務時間に戻すことを前提としており、短時間正社員制度は継続的に短い時間で働けるという点が一番の違いといえるでしょう。
時短勤務の仕組みやメリット・デメリットについてより詳しく知りたい方は、下記の記事をあわせてご参照ください。
短時間正社員制度とパートタイマーの違い
アルバイトやパートなどの「パートタイマー」は、週の所定労働時間がフルタイムより短いという点で短時間正社員と似ていますが、時給(賃金)や賞与・退職金などの計算方法・基準と福利厚生の待遇面に違いがあります。
短時間正社員の対象になる人
短時間正社員として働くための条件は、明確に定められていないため、企業の就業規則で基準を定める必要があります。
企業によっては、もともと正社員として雇用している人を対象とするケースや、非正規から正社員への登用の過程で活用されるケースもあるでしょう。
ここでは、短時間正社員の対象になる人の具体例を4つ紹介します。
- (1)育児中の人
- (2)介護が必要な家族がいる人
- (3)病気や障害をもつ人
- (4)その他の理由でフルタイムが難しい人
短時間正社員制度の導入を検討している企業の方は、ぜひ自社の従業員の働き方と照らし合わせて、短時間正社員の対象とする人を検討してみてください。
(1)育児中の人
「子育てと仕事を両立させたいが、フルタイム勤務だとバランスが取りにくい」という人は、短時間正社員の対象になりやすいでしょう。
育児・介護休業法では、3歳未満の子を養育するための短時間勤務制度(原則1日6時間勤務)の導入が 義務付けられています。
短時間正社員制度がこれを含んでいない場合(たとえば、1日の労働時間が6時間ではないなど)、短時間正社員制度のほかに、育児・介護休業法に沿った短時間勤務制度を整備する必要があります。
(2)介護が必要な家族がいる人
高齢の親や病気の家族の介護をしながら働く場合、フルタイムで勤務するのが難しいことも少なくなく、短時間正社員制度の対象になりやすいでしょう。
ただし、介護のための短時間正社員制度を、要介護状態にある対象家族を介護するための短時間勤務制度として導入する場合は、連続する3年以上の期間において2回以上使用できる所定労働時間の短縮などの措置を講じなければなりません。
制度をうまく活用すれば、正社員としてのキャリアを継続しながら、仕事と介護を両立できます。
(3)病気や障害をもつ人
フルタイムの正社員と同等か、それ以上の意欲・能力を持っているにも関わらず、病気の治療や通院、障害などにより、フルタイムで働くのが難しい人も、短時間正社員制度の対象になります。
短時間の勤務であれば、治療や通院などと両立しながら、自分の体調にあわせて無理なく働くことができるでしょう。
(4)その他の理由でフルタイムが難しい人
企業の規定にもよりますが、学校に通いながら仕事をしたい人や、副業と両立したい人なども、短時間正社員制度の対象になりやすいでしょう。
企業が短時間正社員制度を導入するメリット
短時間正社員制度は、従業員だけでなく、企業にとっても多くの利点がある制度です。
短時間正社員制度を利用するメリットを4つ紹介します。
詳しく確認していきましょう。
柔軟な働き方の実現
短時間正社員制度を利用する第一のメリットは、柔軟な働き方を実現できることです。
短時間正社員制度を利用すれば、育児や介護、通院などによってフルタイム勤務が難しくなった場合でも、「週3勤務」「1日6時間勤務」など、短い時間で働きながら、正社員としてのキャリアを継続できるようになります。
また、高い意欲や能力をもっているにも関わらず、家庭の事情などで正社員になるのを諦めていた人も、正社員として働くチャンスを得ることができます。
ワークライフバランスの実現
従業員のワークライフバランスを実現できるのも、短時間正社員制度の大きなメリットです。
フルタイム正社員は、プライベートの時間を確保しづらいことも多く、生活よりも仕事の方にバランスが偏りやすい傾向があります。
一方で、短時間正社員であれば、労働時間が少なくなる分、プライベートを充実させたり、家庭と仕事を両立させたりしやすくなるでしょう。
優秀な人材の獲得・人材流出の防止
短時間正社員制度を導入することで、柔軟な働き方やワークライフバランスを実現できるようになると、家庭の事情などでフルタイム勤務が難しくなった従業員の離職を防止したり、優秀な人材の定着を促したりできるようになります。
また、パートタイマーとして働く優秀な人材の正社員登用もしやすくなります。
人材不足の課題を抱える企業が多いなかで、意欲や能力の高い優秀な人材を採用しやすくなる短時間正社員制度は、企業側にとって大きなメリットがある制度といえるでしょう。
従業員満足度の向上
短時間正社員制度によって、多様な働き方やキャリアアップなどが可能になると、従業員満足度が高まりやすくなります。
従業員エンゲージメントや仕事に対するモチベーションも向上するため、職場の雰囲気が改善されるほか、人材の定着や生産性の向上にもつながるでしょう。
また、従業員や顧客、投資家などのステークホルダーから、「従業員のワークライフバランスに気を配っている企業」と評価されやすくなるため、企業のイメージアップも期待できます。
企業が短時間正社員制度を導入するデメリット
従業員にも企業の双方に多くのメリットがある短時間正社員制度ですが、場合によってはデメリットが生じる場合もあります。
ここでは、短時間正社員制度を導入することで考えられるデメリットを3つ紹介します。
人件費の増加
短時間正社員制度では、社会保険料や賞与・退職金などが発生するため、パートタイマーを雇用するよりも、企業のコスト負担が重くなることがあります。
また、短時間正社員は、フルタイム正社員よりも労働時間が短いため、時間当たりの人件費が増加する可能性もあるでしょう。
フルタイムの社員への業務の偏り
短時間正社員が増えると、業務量がフルタイムの正社員に偏る恐れもあります。
とくに、長時間の作業や急ぎの対応が発生する職場では、短時間正社員だけでは対応が難しく、フルタイムの正社員がその分を補わなければならなくなる可能性もあるでしょう。
特定の従業員に業務が偏ると、モチベーションの低下や離職につながる場合もあるため、事前に対応を検討しておく必要があります。
従業員間における不公平感の発生
短時間正社員とフルタイムの正社員は、業務内容や業務負担、給与、昇進などに差が生じることがあります。
そのため、従業員間で不公平感が生まれる場合もあるでしょう。
短時間正社員は、フルタイム社員と比べると勤務時間が短く、管理職などのポジションに昇進しづらい傾向があります。
また、勤務時間が減る分、給与が少なくなるケースが一般的なため、不満を感じる従業員もいるかもしれません。
さらに、フルタイムの社員に業務負担が偏ると、不公平感を感じる従業員が出てくる可能性もあります。
こうした不満や不公平感は、職場の人間関係や生産性に悪影響を与える可能性もあるので、コミュニケーションを強化する、人事評価制度を見直すなどして、適切に対処することが必要です。
短時間正社員の保険適用条件とは
短時間正社員が社会保険や雇用保険に加入するには、どのような条件を満たせばよいのでしょうか。
ここからは、短時間正社員の社会保険と雇用保険の適用条件について解説します。
社会保険が適用される条件
社会保険は、勤務時間や雇用期間などに関わらず、「労働時間や労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者の4分の3以上である場合に適用される」と定められています。
また、2024年10月からは、従業員51人以上の企業では、週20時間以上の所定労働時間で、社会保険の適用対象となる点に注意が必要です。
短時間正社員の場合は、労働時間や労働日数が4分の3未満でも、以下の条件を満たしていれば、社会保険に加入することが可能です。
- 労働契約や就業規、給与規則などに短時間正社員に関する規定がある
- 期間の定めのない労働契約を結んでいる
- 時間当たりの基本給や賞与、退職金の算定方法がフルタイム正社員と同等
社会保険の適用拡大について、より詳しく知りたい方は、下記の記事をあわせてご参照ください。
雇用保険が適用される条件
雇用保険は、一定の条件を満たしていれば、雇用形態に関わらず適用されます。
短時間正社員の場合、所定労働時間が週20時間以上であれば加入可能です。
雇用保険が適用されると、失業給付や再就職支援などの援助を受けることもできます。
短時間正社員制度に関するよくある質問
最後に、短時間正社員制度に関するよくある疑問について解説します。
短時間正社員の最低労働時間は?
短時間正社員の最低労働時間は、法律では定められていません。
そのため、所定労働時間は、企業の就業規則によって異なります。
所定労働時間については、週単位で定めている企業もあれば、日単位・月単位・年単位で定めている企業もあります。
労働時間ではなく、労働日数で定めている企業もあるでしょう。
たとえば、所定労働時間が週20時間と定められている場合は、「1日4時間・週5日」もしくは「1日5時間・週4日」などの形態で働くことになります。
正社員と待遇に差はある?
短時間正社員は、フルタイム正社員と同じ待遇を受けることができるため、待遇自体に差はありません。
そのため、時間あたりの基本給や、賞与・退職金の算定方法などは、フルタイム正社員と同一ですが、勤務時間がフルタイム正社員より短いため、それに比例して、給与が少なくなるケースが一般的です。
昇進の機会は平等にありますが、現場の責任者を務めるにはフルタイムでないと難しいなどの理由により、思うように昇進できないケースもあります。
時間外労働が発生した場合は?
短時間正社員であっても、時間外労働が発生した場合は、残業代が支払われます。
法定労働時間を超えている場合は割増賃金が支払われますが、所定労働時間内の残業であれば、割増の対象にはなりません。
ただし、時間外労働のルールや限度は、企業の就業規則によって異なるため、事前に規定を作成しておく必要があります。
短時間正社員でも残業できる人もいるため、時間外労働に関しては、「基本はさせないが、本人の同意で残業させる」などの規定を設けるのが望ましいでしょう。
時間外労働を命じる規定を設けてしまうと、「短時間正社員制度が形骸化するのでは」と不安を感じる従業員が出てくる可能性や、反対に残業しても構わないという従業員が出てくる可能性があるためです。
企業側は、短時間正社員・フルタイム正社員のどちらに対しても不公平が生じないように制度を整えるようにしましょう。
柔軟な働き方の実現に「Chatwork」
短時間正社員制度を活用すると、ライフスタイルやライフステージにあわせた柔軟な働き方が可能になり、フルタイム勤務が難しい人でも、正社員のキャリアを継続したり、正社員として就労したりできるようになります。
優秀な人材の確保にもつながるため、企業にとってもメリットの大きい制度といえるでしょう。
また、従業員のワークライフバランスも実現しやすくなるため、従業員満足度の向上や離職率の低下なども期待できます。
こうした柔軟な働き方を実現するには、勤務時間や勤務する場所などを問わず、従業員が成果を発揮できるよう、デジタルツールを導入するなどして、社内体制を整えることが大切です。
ビジネスチャット「Chatwork」では、チャット機能だけでなく、タスク管理機能やファイル共有機能など、業務効率化に役立つ機能が搭載されています。
柔軟な働き方の実現にむけて、業務効率化に役立つビジネスチャット「Chatwork」をぜひご活用ください。
Chatwork(チャットワーク)は多くの企業に導入いただいているビジネスチャットです。あらゆる業種・職種で働く方のコミュニケーション円滑化・業務の効率化をご支援しています。
[注]出典:育児休業特設サイト|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/ikuji/point02.html
※本記事は、2024年11月時点の情報をもとに作成しています。
記事監修者:村井真子
村井社会保険労務士事務所 代表。社会保険労務士/キャリアコンサルタント/経営学修士(MBA)、LGBTQ+アライ。行政協力業務を経験し、あいち産業振興機構外部専門家を務める。ハラスメント対応や人事評価制度構築などに強み。著作に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)、『御社のトリセツ』(角川書店)。監訳に『経営心理学』など2冊。