時間外労働の上限規制とは?上限超えの罰則や36協定の基本をわかりやすく解説

公開日: 更新日:
働き方改革
  • facebookシェアボタン
  • Xシェアボタン
  • はてなブックマークボタン
  • pocketボタン
時間外労働の上限規制とは?上限超えの罰則や36協定の基本をわかりやすく解説

目次

2019年4月から(中小企業は2020年4月から)施行された労働基準法の改正により、時間外労働の上限規制が設けられました。

時間外労働の上限規制は、労働者の過労や健康障害を防ぎ、過度な長時間労働を抑制することを目的としています。

本記事では、残業時間の上限規制の概要や上限を超えた場合の罰則、36協定の基本についてわかりやすく解説します。

時間外労働の上限規制とは

時間外労働の上限規制は、労働者の過重労働を防ぐために設けられた法的な制限です。

労働基準法では、法定労働時間を超える労働を行わせる場合、労使間で「36(サブロク)協定」を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。

36協定は特別条項を設けることで上限なく時間外労働を⾏わせることが可能となっていましたが、2019年の法改正により、罰則付きの上限が法律に規定され、特別な事情がある場合にも上回ることのできない上限が設けられました。

時間外労働の定義

時間外労働とは、労働基準法で定められた法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えておこなわれる労働のことです。

ここでいう時間外労働は、企業が独自に設定する所定労働時間を超える労働(所定外労働)とは異なります。

所定労働時間が法定労働時間内で設定されている場合は、所定労働時間を超えても法定労働時間内であれば時間外労働には該当しません。

たとえば、所定労働時間が1日7時間と設定されている企業で、1時間の残業をおこなった場合、法定労働時間の8時間を超えていないため、時間外労働には該当しません。

時間外労働の上限規制の対象となる時間は、法定労働時間の8時間または週40時間を超えた時間となります。[注1]

上限規制の適用猶予とは

建設業、自動車運転業務、医師などの業種に対して、時間外労働の上限規制の適用が2024年3月末まで猶予されていましたが、2024年4月以降は上限が適用されるようになりました。[注2]

建設業、自動車運転業務、医師に適用される時間外労働の上限は以下のとおりです。

事業・業務 猶予後の取扱い(2024年4月1日以降)
建設事業
  • 災害の復旧・復興の事業を除き、上限規制がすべて適用
  • 災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休日労働の月合計100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制は適用されない
  • 自動車運転業務
  • 特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間
  • 時間外労働と休日労働の月合計100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制は適用されない
  • 時間外労働が45時間を超える月が年6か月までとする規制は適用されない
  • 医師
  • 特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働・休日労働の上限が最大1860時間
  • 時間外労働と休日労働の月合計100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制は適用されない
  • 時間外労働が45時間を超える月が年6か月までとする規制は適用されない
  • 医療機関により適用される上限が異なる
  • 建設業では、月45時間、年間360時間という原則の上限が適用されます。

    ただし、災害時の復旧・復興事業に従事する場合には、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制は適用されません。

    自動車運転業務は、特別条項付き36協定を締結する場合に年間の時間外労働は960時間まで認められます。

    また、時間外労働と休日労働の合計が100時間未満、2〜6か月平均80時間以内、45時間を超える月が年6か月までとする規制は適用されません。

    医業に従事する医師は、特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働・休日労働の上限が最大1860時間となります。

    その他の規制は自動車運転業務同様に適用されません。

    なお、医師の時間外労働の上限は医療機関により適用される上限が異なります。

    詳しくは、厚生労働省の委託に基づき、日本医師会が運営している「医師の働き方改革C-2審査・申請ナビ」でご確認ください。[注3]

    時間外労働の上限規制の改正内容とは

    2019年4月(中小企業は2020年4月)から適用された上限規制の改正では、以下の上限を超える時間外労働が規制されました。[注1]

    原則の上限
  • 時間外労働(休日労働を含まず)月45時間、年間360時間以内
  • 特別条項付きの36協定を締結した場合(臨時的な特別の事情がある場合の上限)
  • 年間720時間以内
  • 単月で100時間未満(休日労働を含む)
  • 2~6か月平均で月80時間以内(休日労働を含む)
  • 45時間(休日労働を含まず)を超える月が年間6か月以内
  • 上限規制を超えた場合の罰則

    法改正により、時間外労働の上限が罰則付きで法律に規定されました。

    時間外労働の上限を超えた場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があるため注意が必要です。

    時間外労働の上限規制が強化される理由

    時間外労働の上限規制強化は、労働者の健康保護とワークライフバランスの推進を主な目的として実施されました。

    法改正以前の日本では、時間外労働に上限は存在したものの、罰則規定がなかったために、長時間労働が常態化している企業が少なくありませんでした。

    そのため、過労死やメンタルヘルスの問題が起こり、適正な労働時間管理の必要性が強く認識されるようになりました。

    また、長時間労働が常態化している職場では、育児や介護など家庭の事情を抱える人や高齢者、女性、障害を持つ人々が働きづらい状況にあります。

    少子高齢化が深刻な社会問題となっている日本においては、多様な人材の労働参加を促進することが課題となっています。

    このような背景から、より多くの人が働きやすい環境を整えるため、時間外労働の上限規制が強化されました。

    >過重労働がもたらす悪影響に関する記事はこちら

    36協定と時間外労働の関係とは

    36協定(サブロク協定)とは、労働基準法第36条に基づき、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える時間外労働や、法定休日における休日労働をおこなわせる場合に、事前に労使間で締結する必要がある労使協定です。

    36協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出ることで、企業は労働者に時間外労働や休日労働を命じることが法的に認められます。

    36協定を締結せずに時間外労働や休日労働をおこなわせることは、労働基準法違反となり、罰則の対象となります。

    なお、36協定には時間外労働や休日労働の上限が定められており、これらの上限を超える労働をおこなわせることはできません。

    より詳しく36協定について知りたい方は、下記の記事をあわせてご確認ください。[注1]

    >36協定の特別条項とは?に関する記事はこちら

    36協定で時間外労働について定める際の留意点

    時間外労働の上限規制の強化にともない、36協定で上限規制を定める際には、以下の6つの点に留意する必要があります。

    • 留意点(1):時間外労働は必要最小限にとどめる
    • 留意点(2):労働者に対する安全配慮義務を負う
    • 留意点(3):業務区分の細分化・範囲の明確化をする
    • 留意点(4):限度時間を超える場合は原則の限度時間に近づける
    • 留意点(5):労働者の健康・福祉を確保する

    詳しく確認していきましょう。

    留意点(1):時間外労働は必要最小限にとどめる

    法律上認められる範囲の労働時間であっても、過剰な時間外労働は、疲労やストレスの蓄積を招き、生産性の低下や健康被害の原因となり得ます。

    従業員が健康的に生き生きと働くためには、36協定で定められた上限を守ることはもちろんですが、業務の効率化や適切な人員配置を実施し、時間外労働を最小限に抑えることが重要です。

    留意点(2):労働者に対する安全配慮義務を負う

    36協定で時間外労働を定める際には、企業が労働者に対して負う「安全配慮義務」を常に念頭に置くことが重要です。

    安全配慮義務とは、労働契約法第5条で定められた企業側に対する義務で、労働者の生命や健康を守るために必要な配慮をおこなう責任のことです。

    また安全配慮義務は、企業の社会的責任として労働者の働く環境を守るという側面もあります。

    そのため、36協定を締結したとしても、企業には労働者の安全と健康を最優先に考えた労務管理が求められます。[注3]

    >安全配慮義務とは?に関する記事はこちら

    留意点(3):業務区分の細分化・範囲の明確化をする

    36協定には「業務の種類」という項目があり、その業務にかかる時間外労働時間を記載する必要があります。

    業務の種類を記載する際は、「営業」や「事務」などの大まかな区分ではなく、できるだけ細分化して必要な労働時間を明確にする必要があります。

    厚生労働省の案内でも、時間外労働の対象となる業務の範囲を細分化して明確にすることが求められています。[注4]

    留意点(4):限度時間を超える場合は原則の限度時間に近づける

    36協定の特別条項を締結して原則の限度時間を超える場合であっても、可能な限りその時間を原則である月45時間・年360時間に近づける努力が求められます。

    原則の限度時間を超える時間外労働が許されるのは、あくまで「特別な事情」が発生した場合に限定されます。

    特別条項は、緊急時や予測困難な事態への対応として設けられていますが、企業がこれを常態化させることは法の趣旨に反するため注意が必要です。

    留意点(5):労働者の健康・福祉を確保する

    36協定を締結したとしても、労働者の健康・福祉を確保することがなによりも重要です。

    長時間労働は、労働者の心身に大きな負担を与える危険性があります。

    過労による健康被害やストレスの蓄積は、労働者本人の生活の質を低下させるだけでなく、企業にとっても生産性の低下や人材の流出といった課題を招きます。

    そのため、企業は労働時間の管理を徹底し、時間外労働が必要最小限に抑えられるよう努める必要があります。

    時間外労働の上限規制を遵守するための取り組み

    時間外労働の上限規制を超えないためには、企業側が様々な対策を講じる必要があります。

    ここでは、時間外労働の上限規制を遵守するために企業に求められる取り組みを3つ紹介します。

    • 労働時間の正確な把握
    • 時間外労働の原因の把握
    • 労働時間の管理体制整備

    時間外労働の削減を目指す企業の方は、ぜひ3つの取り組みを確認し、実践してみてください。

    労働時間の正確な把握

    労働時間を正確に把握することができると、時間外労働が上限に近づいている従業員を早期に発見し、必要な対策を講じることが可能となります。

    また、蓄積されたデータを分析することで、業務の効率化や人員配置の最適化といった、働き方改革にもつなげることができます。

    労働時間を正確に把握するためには、従業員が勤務時間を自己申告するだけでなく、企業側が確実に管理・監視する体制を整える必要があります。

    勤怠管理システムの導入やICカード・PCのログ記録などの客観的な記録方法を導入し、労働時間の正確な把握に努めましょう。

    >出退勤管理システムの導入メリットに関する記事はこちら

    時間外労働の原因の把握

    時間外労働が発生する原因を把握し、分析することで、業務効率化や改善策を講じることができるようになります。

    時間外労働が起こる例として、業務量の偏りや人員不足、非効率な業務プロセスが原因に挙げられます。

    これらの要因を特定し、適切な対策を実施することで、時間外労働の削減につなげることができるでしょう。

    労働時間の管理体制整備

    労働時間を適切に管理するためには、管理責任者を明確にし、人事部門と連携して全社的な管理体制を整備することが大切です。

    管理責任者(管理監督者など)は、労働基準法に関する知識だけではなく、部下の働き方を改善するためのマネジメントスキルも求められます。

    管理責任者が従業員を適切にマネジメントするためにも、社内で定期的に研修等を実施することを検討しましょう。

    また、人事部門では定期的に労働時間の分析をおこない、従業員からの意見・要望を収集する仕組みを構築し、時間外労働を必要最小限にとどめる対策を講じることが求められます。

    労働時間の管理にも「Chatwork」

    時間外労働の上限規制は、労働者の健康を守り、働き方改革を推進するための制度です。

    時間外労働の上限を超えた場合は罰則が科される可能性もあるため、企業の担当者は、時間外労働が上限を超えないように労働時間の管理に努めましょう。

    労働時間の正確な把握や業務効率化をサポートするツールとして、ビジネス専用のコミュニケーションツール「Chatwork」の導入が効果的です。

    「Chatwork」は、コミュニケーションをスムーズにするだけでなく、タスク管理や情報共有を一元化することで、業務効率の改善に効果を発揮します。

    また、「Chatwork」は、「kincone」「jinjer勤怠」「Focus U タイムレコーダー」などの勤怠管理システムとの連携ができ、打刻システムとしての活用も可能です。

    労働環境の改善と従業員の働きやすさの向上に、ぜひ「Chatwork」をご活用ください。

      今すぐChatworkを始める(無料)

    Chatwork(チャットワーク)は多くの企業に導入いただいているビジネスチャットです。あらゆる業種・職種で働く方のコミュニケーション円滑化・業務の効率化をご支援しています。

    Chatwork新規登録

    [注1]出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制わかりやすい解説
    https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf
    [注2]出典:出典:厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制 (旧時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務)」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html
    [注3]出典:日本医師会「医師の働き方改革C-2審査・申請ナビ」
    https://c2-shinsasoshiki.mhlw.go.jp/
    [注4]出典:厚生労働省「労働契約法のあらまし」
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/dl/13.pdf
    [注5]出典:厚生労働省「知っておきたい36協定届」
    https://jsite.mhlw.go.jp/yamaguchi-roudoukyoku/content/contents/000816765.pdf

    ※本記事は、2025年1月時点の情報をもとに作成しています。


    企業の労務担当者におすすめの資料
    企業資産を守る「労務管理」のIT活用
    ダウンロード
    Chatwork

    Chatwork

    Chatworkのお役立ちコラム編集部です。 ワークスタイルの変化にともなう、働き方の変化や組織のあり方をはじめ、ビジネスコミュニケーションの方法や業務効率化の手段について発信していきます。


    >お役立ちコラムのコンテンツポリシーはこちら

    記事監修者:北 光太郎(きた こうたろう)

    きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。

    • facebookシェアボタン
    • Xシェアボタン
    • はてなブックマークボタン
    • pocketボタン

    働き方改革の関連記事