【社労士監修】男女雇用機会均等法とは?違反の罰則や禁止事項や改正をわかりやすく解説
目次
「男女雇用機会均等法」は、男女間の差別を禁止し、公正な雇用機会の確保を目的とした法律です。
企業は、採用や昇進などの選考において、性別に基づく差別をしてはならず、男女の能力や適性に応じて公平に評価する必要があります。
また、近年の改正により、出産や育児に関わるハラスメント対策が強化され、企業は適切な措置を講じることが義務付けられました。
本記事では、男女雇用機会均等法の内容や違反による罰則、禁止事項をわかりやすく解説します。
男女雇用機会均等法とは
男女雇用機会均等法とは、職場における男女の均等な機会と待遇の確保を規定した法律です。
この法律では、採用や配置、教育訓練などの雇用管理において、性別を理由とする差別や不利益な取り扱いを禁止しています。
また、男女雇用機会均等法は、セクシュアルハラスメント(セクシャルハラスメント、セクハラともいう)や妊娠・出産に関するハラスメントを防止するための措置も義務付けており、企業は適切な措置を講じなければいけません。
このように男女雇用機会均等法では、さまざまな取り組みにより、職場での性別に基づく不平等やハラスメントをなくし、男女の平等な働き方の実現を目指しています。
男女雇用機会均等法で禁止されている差別
男女雇用機会均等法では、職場での性別による差別を禁止しています。[※1]
具体的に禁止している主な事項は以下の4つです。
- 性別を理由とした差別
- 間接差別
- 婚姻、妊娠・出産等を理由とした差別
- ハラスメント
それぞれの事項について、詳しく解説します。
(1)性別を理由とした差別
男女雇用機会均等法では、性別を理由として、採用や昇進、労働条件などの取り扱いの差別を禁止しています。
たとえば、採用の対象から男女のいずれかを排除する行為などが、この事項に該当します。
そのため、性別に関わらず個々の能力や実績を評価し、公平な待遇と機会を提供することが求められています。
(2)間接差別
性別によって、ある一定の要件をクリアするのが難しい場合、その要件自体が間接的に差別となる場合は、この禁止事項に該当します。
たとえば、身長制限を設けた採用条件がある場合、女性の方が平均的に男性よりも身長が低いため、女性にとってハードルが高くなる場合などです。
(3)婚姻、妊娠・出産等を理由とした差別
女性従業員の結婚・妊娠・出産を理由とする解雇や降格、その他不利益な取り扱いを禁止しています。
また、女性従業員の妊娠中や産後1年以内での解雇は、妊娠を理由とする解雇でないことを証明しない限り無効になります。
(4)ハラスメント
職場でおこなわれるセクシュアルハラスメントや妊娠・出産を理由に不利益な取り扱いをすることは禁止されています。
たとえば、上司が日頃から女性従業員に対して性的な話題を公然と発言しており、それに抗議したために、その従業員を降格させた場合などがあげられます。
>【社労士監修】ハラスメントの定義とは?に関する記事はこちら
男女雇用機会均等法の改正とは
男女雇用機会均等法は、施行以降、頻繁に改正がおこなわれています。
次に挙げる4つの改正について、主な改正内容を時系列で紹介します。
- 1997年の改正
- 2006年の改正
- 2017年の改正
- 2020年の改正
1997年の改正:セクシュアルハラスメントの配慮義務
1997年の改正では、それまで努力義務であった採用・昇進・教育訓練における女性差別が禁止されるなど、大幅な改正がおこなわれました。[※2]
また、セクシュアルハラスメント防止に向けた企業の雇用管理上の配慮も、この年に義務化されています。
くわえて、母性健康管理措置の義務が規定化されました。
2006年の改正:差別禁止事項の拡大・強化
2006年には、差別禁止の範囲拡大として、「女性差別禁止」から「性差別禁止」へ拡大し、男性も差別の禁止対象になりました。[※2]
また、セクシュアルハラスメント対策の強化が、すべての事業所に義務化されたとともに、セクシュアルハラスメント防止が男性や同性間も対象として拡大しました。
くわえて、間接差別の禁止や妊娠・出産を理由とする不利益取り扱いの禁止も、2006年の改正で設けられました。
2017年の改正
2017年の改正では、企業に防止措置の導入が義務化されました。
主な改正点は以下のとおりです。[※3]
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
項目 | 不利益取り扱い禁止 (均等法第9条3項、育児・介護休業法第10条等) |
左記に加えて防止措置義務を新規に追加 |
禁止・義務の対象 | 事業主 | 事業主 |
改正内容 | 妊娠・出産・育児休業・介護休業等を理由とす る不利益取り扱いをしてはならない。 ※就業環境を害する行為を含む |
上司・同僚などが職場において、妊娠・出産・育児休業・介護休業等を理由とする就業環境を害する行為をすることがないよう防止措置を講じなければならない。 ※労働者への周知・啓発、相談体制の整備等の内容 を想定、指針で規定 |
2020年の改正:マタニティハラスメント(マタハラ)の防止措置義務の設置
2020年の改正では、マタニティハラスメントに対する相談や苦情に応じるとともに、適切に対応するために、必要な体制の整備が義務付けられました。
ハラスメントに対する相談窓口の設置のほか、職場におけるマタニティハラスメントへの迅速かつ適切な対応が求められています。
>【社労士監修】マタニティハラスメント(マタハラ)とは?に関する記事はこちら
ポジティブ・アクションとは
ポジティブ・アクションとは、社会的な不平等や差別を解消するためにおこなわれる政策や措置のことです。
通常、社会的な不平等や差別は、過去の歴史的な偏見や差別的な制度、構造的な問題によって引き起こされますが、ポジティブ・アクションは、これらの不平等を矯正し、社会的な均衡を実現するための措置をとることを意味します。
日本では、ほかの先進諸国と比べて女性の管理職や政治参加が低く、女性社会進出は世界的にみて低い水準に位置しています。
そのため、女性が働きやすい制度の整備や女性の管理職登用など、必要な範囲においてポジティブ・アクションを進めていくことが必要とされています。
男女雇用機会均等法で事業主が講ずべき措置
男女雇用機会均等法では、企業に以下の措置を講じるよう義務付けています。[※1]
- 職場におけるセクシュアルハラスメント対策
- 職場における妊娠・出産等に関するハラスメント対策
- 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置
- 派遣先に対する男女雇用機会均等法の適用
- 深夜業に従事する女性労働者に対する措置
それぞれの措置について、詳しく解説します。
職場におけるセクシュアルハラスメント対策
企業は、職場においておこなわれる性的な言動によって、従業員が不利益をうけ、就業環境が害されることのないよう、適切な対応と体制の整備などの措置を義務付けています。
具体的には、相談窓口の設置や研修の実施など、企業として職場におけるセクシュアルハラスメント対策などです。
職場における妊娠・出産等に関するハラスメント対策
2017年1月より、企業には妊娠・出産に関するハラスメントを防止するための措置を講じる義務が課されています。
企業は、妊娠・出産に対して否定的な環境や制度の利用がしづらい職場の風土を改善し、男女ともに産休や育休を取得しやすい環境を整えなければいけません。
妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置
男女雇用機会均等法では、妊娠中または出産後の女性従業員が健康診断の際に医師から指導をうけた場合は、勤務時間の変更や業務の軽減などの措置を講じなければならないとしています。
もし女性従業員が指導をうけた場合には、時差勤務や休憩時間の延長、作業の制限など、母性の健康管理を優先とした処置をおこなわなければいけません。
>【社労士監修】産休(産前産後休業)とは?に関する記事はこちら
派遣先に対する男女雇用機会均等法の適用
労働者派遣法第47条の2により、派遣社員に対しても男女雇用機会均等法の以下3点が適用されます。
- セクシュアルハラスメント対策(均等法第11条第1項)
- 妊娠・出産等を理由とする不利益取り扱いの禁止(均等法第9条第3項)
- 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置
そのため派遣先企業は、派遣社員も含めて男女雇用機会均等法の措置を講じる必要があります。
深夜業に従事する女性労働者に対する措置
女性従業員が深夜業に従事するにあたり、夜間通勤や人気のない職場で業務を遂行しなければならない状況になることも考えられます。
そのため、企業は、送迎バスの運行や公共交通機関の運行時間に配慮した勤務時間の設定など、安全を確保するよう努めることとされています。
また、子どもの養育をしている従業員から請求があった場合には、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、深夜業に従事させることは認められていません。
男女雇用機会均等法に違反した場合の罰則
男女雇用機会均等法への違反が疑われる場合は、厚生労働大臣から報告が求められ、違反が確認された場合は、助言や指導、勧告をうけることになります。
その際、報告を無視したり、虚偽の報告をしたりなど、行政指導に従わない場合は最大20万円の過料が科される可能性があります。[※1]
さらに、勧告に従わなかった場合は企業名が公表されるため、指摘事項は必ず是正しなければなりません。[※1]
また、セクシュアルハラスメントやマタニティハラスメントなどのハラスメント行為は、民事責任が問われる可能性もあります。
そのため、企業は男女雇用機会均等法で義務付けられている措置を適切におこない、日ごろから従業員に周知・啓発することが大切です。
男女雇用機会均等法で紛争が生じた場合の救済措置
男女雇用機会均等法では紛争が生じた場合の救済措置として、以下の措置が求められています。[※1]
- 苦情の自主的解決
- 紛争の解決の促進に関する特例
- 労働局長による紛争解決の援助
- 機会均等調停会議による調停
それぞれの救済措置について、詳しく解説します。
(1)苦情の自主的解決
男女雇用機会均等法では、従業員から苦情の申し出をうけた場合、自主的な解決を図るように努めなければならないとしています。
たとえば、企業内の苦情処理機関の活用や人事労務担当者による相談などです。
しかし、当事者の合意に至らなかった場合は、裁判所などの外部機関によって対処する場合もあります。
(2)紛争の解決の促進に関する特例
「セクシュアルハラスメントの防止措置」や「妊娠・出産を理由とする不利益取り扱い」、「母性健康管理措置」などによる紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律のあっせん対象とはなりません。
男女雇用機会均等法に基づいて、労働局長による紛争解決の援助と、機会均等調停会議による調停の対象となります。
(3)労働局長による紛争解決の援助
男女雇用機会均等法に関係する紛争については、労働局長による紛争解決の援助の対象となります。
労働局長は、援助を求められた場合には、当事者から事情を聴取し、必要なときは調査をおこなったうえで、指導または勧告をして紛争解決の援助をおこないます。
なお、従業員が、労働局長に紛争解決の援助を求めたことを理由として、解雇その他不利益な取り扱いは禁止されています。
(4)機会均等調停会議による調停
調停は、紛争調整委員会の委員のうちから会長が指名する3人の調停委員によっておこなわれ、この調停をおこなうための会議を「機会均等調停会議」といいます。
調停申請は、関係当事者の一方からの申請でも可能で、従業員が調停の申請をしたことを理由として、解雇その他不利益取り扱いをしてはならないとしています。
制度の社内周知には「Chatwork」
男女雇用機会均等法は、男女の雇用機会の不平等を是正し、性別による差別をなくすために制定された重要な法律です。
時代の変化にあわせて、男女雇用機会均等法は改正され、社会全体の活力と多様性の向上が期待されています。
男女雇用機会均等法のもとで、性別による差別をなくし、公正な雇用環境を築きましょう。
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[※1]厚生労働省「男女雇用機会均等法のあらまし」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000839060.pdf
[※2]厚生労働省「男女雇用機会均等法の歩み」
http://www.jfu.or.jp/sinchaku/data/gakusyuukaishiryou_2019.pdf
[※3]厚生労働省「改正育児・介護休業法及び改正男女雇用機会均等法の概要」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000132033.pdf
記事監修者:北 光太郎
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。