【社労士監修】医療DXとは?取り組むメリットや課題を事例付きで解説
目次
「医療DX」は、長時間労働が常態化している医療業界で推進されている取り組みです。
DXとは「Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)」の略称で、デジタル技術によってビジネスや社会、生活の形・スタイルを変えることをいいます。
近年ではさまざまな分野でDX化が進められており、医療分野も例外ではありません。
本記事では、働き方改革が急務とされる医療分野のDX化について解説します。
医療業界が抱える課題とは
少子高齢化が進む日本では、今まで以上に医療が重要になることは明白です。
しかし、医療業界は人材不足や長時間労働などのさまざまな課題があり、働き方を改革しなければ供給が追い付かない恐れがあります。
医療業界が抱える課題には、以下のようなものが挙げられます。
- 少子高齢化による人材不足
- アナログ業務の残存
- 長時間労働
- 医療機関の経営難
それぞれの課題について、詳しく解説します。
少子高齢化による人材不足
少子高齢化により医療の需要が増加する一方で、医療を提供する医師や看護師などの人材は不足しているのが現状です。
医療が必要な人たちと、医療を提供する人たちの需要と供給のバランスを整えることは日本の医療を支えるために必要不可欠となります。
また、人手不足が続くと、医師や看護師の1人当たりの負担が増えて過重労働になり、退職者の増加につながる恐れがあります。
アナログ業務の残存
医療機関では、カルテや問診票、処方箋などを紙で管理している所が多く、いまだにアナログ業務が残存している状態になっています。
業務をデジタル化する方法もありますが、システムを導入するための時間や教育に時間がかかることから、やり方を変えずにアナログで運用している医療機関も少なくありません。
長時間労働
医療業界は、人材不足や医療需要の増加から長時間労働が常態化しているのが現状です。
しかし、医療業界は人命に関わる仕事であるため、患者の病状によってやむをえず長時間労働を強いられる場合があります。
なお、2024年4月からは医師に対して時間外労働の制限が課されるため、長時間労働の改善が急務となっています。[※1]
医療機関の経営難
厚生労働省が公表している「令和3年度医療施設経営安定化推進事業病院経営管理指標及び医療施設における未収金実態に関する調査研究」によると、医業損益が黒字となった病院の比率は令和元年度から令和2年度にかけて、以下のように減少傾向にあります。[※2]
令和元年度 | 令和2年度 | |
---|---|---|
医療法人立病院 | 53.8% | 52.0% |
自治体立病院 | 8.4% | 5.8% |
社会保険関係団体立病院 | 53.3% | 26.7% |
その他公的立病院 | 43.4% | 38.3% |
また、昨今の新型コロナウイルス感染拡大の影響で患者が減少し、閉鎖を余儀なくされる医療機関が増加することが懸念されています。
医療DXとは
医療DXとは、保健・医療・介護の各段階で発生する情報をシステムやデータに置き換え、効率よく管理・活用することで医療を促進させることです。
医療DXの推進により適切で迅速な医療を提供するとともに、業務が効率化され、医療業界の働き方改革に活用できるとされています。
また、医療データの活用によって創薬や治療法の開発が加速化され、関係する分野の産業振興につながることも期待されています。
医療DXの具体的な取り組み
医療DXの具体的な取り組みとして以下のものが挙げられます。
- オンライン予約
- オンライン診療・問診
- 電子カルテ
- ビッグデータの活用
これらの取り組みによって、どのような変化があるのか解説していきます。
オンライン予約
病院を予約する際に、パソコンやスマートフォンで予約ができるオンライン予約も医療DXのひとつです。
予約をオンラインで行うことにより、電話対応をする従業員の人的コストが削減でき、予約の状況を簡単に把握することができます。
オンライン診療・問診
コロナ禍で急速に普及したオンライン診療も医療DXのひとつとして挙げられます。
患者が医療機関に出向くことなく診療が受けられるため、患者が移動する労力とウイルスの感染拡大リスクがなくなります。
また、診察をする医師も感染リスクがなくなり、医療従事者の人材不足にも寄与することができます。
電子カルテ
カルテを電子化することによって、患者の過去の病状をより早く確認することが可能になります。
また、過去のデータを探す時間も削減でき、現場の業務効率化とペーパーレス化によるコスト削減につながります。
ビッグデータの活用
ビッグデータとは、IT技術の発展により、蓄積された膨大なデータのことです。
医療DXが促進されれば、より多くのデータを蓄積でき、そのデータを活用したさまざまな取り組みができるようになります。
たとえば、診察に来た患者の症状を過去のデータから分析すれば、治療方法の検討しやすくなったり、新たな治療方法やリスクの検証ができたりなどの取り組みができるようになるでしょう。
医療DXに取り組むメリット
まだまだアナログ文化の残る医療現場において、DXを推進するにあたり、スタッフの同意や協力は不可欠です。
しっかりとDX化のメリットを伝え、院内全体で取り組んでいく必要があります。
医療DXに取り組むメリットは以下のとおりです。
- 医療事務の効率化
- 医療体験の質向上
- BCPの強化
- スタッフ間の情報共有活性化
それぞれのメリットを詳しく解説します。
医療事務の効率化
医療DXによって、医療事務の効率化ができるようになります。
医療事務は、予約の受付やレセプト業務など多くの業務をこなさなければなりません。
情報を電子化することにより、データをより素早く正確に引き出し、業務時間の削減や人的ミス防止につながります。
医療DXに取り組むことにより、事務担当者の負担は軽減できるとともに、医療機関の働き方改革ができるメリットがあります。
医療体験の質向上
医療DXが推進されることにより、患者の医療体験が向上します。
たとえば、医師が患者の診断時に、性別や年齢、病歴などの共通する部分が多い過去のデータを参照できれば、多くの治療の提案ができるようになります。
また、オンライン診療が可能になれば、患者が遠隔地から受診ができるようになることもメリットのひとつです。
BCPの強化
BCPとは、災害などの緊急事態における企業や団体の事業継続計画(Business Continuity Planning)のことです。
情報を紙や自社のサーバーのみで管理していると、災害で消失した場合に復旧ができなくなる可能性があります。
クラウドサービスなどを活用して外部にデータを持っていれば、災害時でもデータが残っているため、医療DXはBCP強化において大切な取り組みです。
スタッフ間の情報共有活性化
情報共有ツールなどを導入すれば、スタッフ間の情報をより迅速に共有することが可能になります。
職場内にいる医療従事者だけでなく、遠隔地の医療従事者ともコミュニケーションが可能です。
情報共有が活性化すれば、より迅速な判断ができたり、新しい医療体験の提案ができたりなど、業務改善ができるようになるでしょう。
医療DXのデメリット・注意点
医療DXには、前述したようなメリットがありますが、DX化によるデメリットや注意点も存在します。
医療DXのデメリットや注意点は以下のとおりです。
- デジタル格差が生まれる可能性がある
- セキュリティリスクが発生する
- 導入コストがかかる
それぞれのデメリットを解説します。
デジタル格差が生まれる可能性がある
医療DXを取り入れるためには、ある程度のITリテラシーが必要となります。
デジタル化された情報を適切に検索する能力やシステムを操作する能力などが求められ、これらに明るくない人とデジタル格差が生まれる可能性があります。
また小さな診療所では、導入に時間やコストがかかってしまい、システム化が難しい場合もあります。
セキュリティリスクが発生する
医療DXに取り組むことにより、情報が迅速に引き出せる半面、ハッキングや情報漏洩などのリスクが発生します。
そのため、サーバーのセキュリティ強化や、情報セキュリティの教育を行うなどの対策は必須です。
医療分野における情報は、個人の病歴などプライバシーに関わる重大な情報であるため、できるだけセキュリティを強化する必要があります。
導入コストがかかる
医療DXに取り組むにあたって、システム導入コストがかかってしまいます。
またシステム導入時には、本来の医療の業務に加えて、システムの研修・教育時間が必要となるため、一時的に労働時間が増え、人的コストが増加する可能性があります。
医療DXに関する政府の取り組み
政府は「医療DX令和ビジョン2030」を提言し、医療のDX化・医療情報の有効利用を推進しています。[※3]
医療DXに関する政府の取り組みには、以下のようなものがあります。
- 「全国医療情報プラットフォーム」の創設
- 電子カルテ情報の標準化
- 診療報酬改定DX
どのような取り組みなのか、それぞれ紹介します。
「全国医療情報プラットフォーム」の創設
「全国医療情報プラットフォーム」とは、医療機関や薬局、自治体など医療に関わる機関が患者の医療情報を共有できるプラットフォームです。
現在では、医療機関と薬局などで情報が共有できるプラットフォームがなく、紙や独自で導入したシステムを用いて情報を共有しています。
「全国医療情報プラットフォーム」が創設されれば、医療に関わるすべての機関で情報が共有できるため、患者に対して迅速に適切な処置を施すことができるようになります。
電子カルテ情報の標準化
電子カルテは、医療機関ごとに異なるシステムを利用しているため、異なる医療機関を受診する場合は病状や処方している薬などの情報を患者側から伝えなければいけません。
電子カルテ情報の標準化ができれば、どの医療機関でもカルテ情報が共有できるようになり、患者の必要な情報を速やかに閲覧できるようになります。
診療報酬改定DX
診療報酬改定は、毎年4月の改定に向けて各ベンダーが大幅な人員を割いて作業をしなければなりません。
改定作業が必要な原因は、レセコン(レセプトコンピューター)の設定が医療機関によって異なるため、システムごとにマスターの設定が必要になるためです。
そこで国が主体となって共通の電子プログラムを導入し、各医療機関がそのプログラムに独自機能を追加する形で運用することが発表されています。
共通の算定モジュールを実装したレセコンや電子カルテの導入により、医療機関のシステムが抜本的に改革され、ベンダーへの委託料などの間接コスト削減が期待されています。
医療業界の取り組み事例
病院の規模や診療科目によっても、DXの推進具合はさまざまです。
実際に各医療機関では医療DXとしてどのような取り組みをおこなっているのでしょうか。
医療業界におけるDX化の取り組み事例を2つ紹介します。
電子処方箋の導入
あるクリニックでは、医療DXの未来を見据え、率先して電子処方箋を導入しました。
電子処方箋を導入することで、薬の情報をデータとして正確に管理でき、余計な事務作業がなくなります。
削減した時間は、患者さんと向き合うことに時間の増加につながっています。
電子処方箋を導入するためにかかった費用は、HPKIカードの申請費用とHPKIカード読み取り用のICカードリーダーの購入費用のみです。
オンライン資格確認システムを導入した時よりも、安く簡単に導入でき、電子処方箋の使い方もシステム業者から共有されたマニュアルを見ればすぐできるようになりました。
電子処方箋システムを導入さえすれば、紙で発行した薬の情報は蓄積され、医療従事者間で患者の情報を共有することができることもメリットとしています。
医療DXによる新型コロナウイルス感染制御
ある大学病院では、新型コロナ軽症者宿泊療養施設において、レントゲン・採血・心電図などの検査連携システムを内製開発し、同施設内の医療機能を強化しました。
また患者管理を電子化し、業務効率化を図ることにより、感染拡大時の病床逼迫軽減に貢献できました。
さらに、ワクチン接種センターの職域接種における予約システムを短期間で内製開発し、教育機関約5万人以上に対する早期のワクチン接種に貢献した実績を残しています。
この大学病院は、医療現場のDX化により多くの命が守られた実績と、安全・安心な医療体制の提供に貢献したことが高く評価され、「日本DX大賞・支援機関部門」の大賞を受賞しました。
医療業界のDXにも「Chatwork」
医療DXは、医療従事者の業務効率化や情報共有活性化を促進するとともに、患者の利便性向上につながる取り組みです。
2024年4月からは、医師の働き方改革として時間外労働が制限されるため、医療業界の業務効率化は急務となっています。
ビジネスチャット「Chatwork」は、簡単にかつ迅速に情報共有ができるチャットツールです。
ファイル共有やビデオ通話機能も搭載しているため、より迅速で密な情報を共有することができます。
実際の医療現場で、「Chatwork」を活用したDX化の導入事例も多くあります。
医療DX化の第一歩に、ぜひChatworkの導入をご検討ください。
Chatwork(チャットワーク)は多くの企業に導入いただいているビジネスチャットです。あらゆる業種・職種で働く方のコミュニケーション円滑化・業務の効率化をご支援しています。
[※1]出典:厚生労働省「医師の働き方改革」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/ishi-hatarakikata_34355.html
[※2]出典:厚生労働省「令和3年度 医療施設経営安定化推進事業病院経営管理指標及び医療施設における未収金の実態に関する調査研究」
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/r3_shihyou.pdf
[※3]出典:「医療DXについて」
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000992373.pdf
※本記事は、2024年4月時点の情報をもとに作成しています。
記事監修者:北 光太郎
きた社労士事務所 代表。大学卒業後、エンジニアとして携帯アプリケーション開発に従事。その後、社会保険労務士として不動産業界や大手飲料メーカーなどで労務を担当。労務部門のリーダーとしてチームマネジメントやシステム導入、業務改善など様々な取り組みを行う。2021年に社会保険労務士として独立。労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人向けメディアの記事執筆・監修のほか、一般向けのブログメディアで労働法や社会保険の情報を提供している。